●リプレイ本文
「ふむ‥‥普段こんな所まで入れんからちと興味があるな」
外側から錠のかけられた部屋に案内され、巽弥生(ea0028)がゆっくりと辺りを見回した。
部屋の中には何人もの踊り子が舞台衣装に着替えており、弥生達の姿に気づくと警戒した様子で後ろに下がる。
「わてらは味方や‥‥。無害無害‥‥」
やけに踊り子達が怯えたため、柊鴇輪(ea5897)がボソリと呟いた。
しばらく屋根裏や床下を調べていたのだが、用心棒達から気が散ると怒られてしまったため、仕方なく部屋の中を調べる事にしたらしい。
「‥‥味方なの?」
胡散臭そうに鴇輪を見つめ、踊り子のひとりが問い返す。
「何か話したい事があるようね」
踊り子達の表情を読み取り、弥生が小声で再び問いかける。
「実は‥‥」
それと同時に用心棒達がジロリと睨み、無言の圧力で踊り子達を黙らせた。
「野郎どもはあっちや‥‥はうす‥‥」
踊り子達の気持ちを察し、鴇輪が用心棒達を外に出そうと試みる。
「そりゃあ、できねぇ、相談だな」
卑下た笑みを浮かべながら、用心棒のひとりが鴇輪の腕をムンズと掴む。
心に何か心にやましい事があるのか、鴇輪達を残して部屋を出るつもりはないらしい。
(「‥‥それにしても嫌な予感がするな。この様な姿、義妹には見せれぬが‥‥調査の為だ。致し方あるまい‥‥」)
用心棒達に怪しまれないようにするため、丙鞘子と名乗って仲間達に同行し、丙鞘継(ea2495)が黙って辺りの様子を窺った。
控え室に男を入れないように用心棒が股間掴んで確かめるため、鞘継も内心ヒヤヒヤとしながら内股気味で端に座る。
「そういや、お前。タマなしか? まだ調べていなかったよなぁ?」
いやらしい目つきで鞘継を見つめ、用心棒のひとりがヨダレを流す。
「や、やめろ!」
脳裏に危険な光景が何度も過ぎり、鞘継がお尻を押さえて首を振る。
「ば、化け物だぁ!」
自分達の横を大きなネズミが横切ったため、用心棒達が悲鳴を上げて木刀を振り下ろす。
「ぐあっ!」
木刀の一撃が効いたため、瑠焔龍(ea1300)がミミクリーを解除し膝をつく。
ミミクリーの術は身体の形を変化させるだけで、大きさを変化させる事は出来ないため、用心棒達に怪しまれ、賊が侵入したのと勘違いされてしまったらしい。
「逃がすな! 追え!」
呼び笛を吹き鳴らして仲間を呼び、用心棒達が焔龍の後を追いかける。
焔龍は鳥に変身して逃げようとしたが、変身したのが部屋の中だった事もあり、なかなか逃げる事が出来ないようだ。
「‥‥これで義兄の威厳を守れたな」
ズカズカと用心棒達が出て行ったため、鞘継がホッとした様子で溜息をつく。
危うく正体がバレそうだった事もあり、焔龍にはとても感謝をしているらしい。
「おぬしの犠牲は決して無駄にはせぬぞ‥‥」
用心棒達の注意が焔龍にむけられている隙に、弥生が踊り子達に頷き話を聞く。
「実は私達‥‥騙されて売られてきたんです」
踊り子達はしばらく話す事を躊躇していたが、弥生が信用できる人物だと分かったため、ようやく真実を語り出す。
彼女達の話では割のいい給仕の仕事があると言われて、この仕事を紹介されていたらしい。
「だから妙な道具が多いんやな‥‥にへらへら‥‥」
裸興行で使用するらしい金魚や吹き矢をマジマジと見つめ、鴇輪が納得した様子でコクコクと頷いた。
これらの道具を興行中にどうやって使うかは不明だが、普通の使い方をしない事だけは確かだろう。
「何とかしてここから助け出す必要があるな」
踊り子達の状況を察し、弥生が困った様子で腕を組む。
彼女達を助けたいのは山々だが、それには色々と問題がある。
「こうなったら最後の手段だぁ!」
用心棒達から逃れるため、焔龍が鞘継に飛びつき帯を引く。
「うわっ‥‥、マズイ!?」
用心棒達にいかがわしい事をされる自分自身の姿が過ぎり、鞘継が胸を押さえてしゃがみ込む。
「お前‥‥やっぱり男だったのか。ぐへへ‥‥、こりゃあ、都合がいい」
妙なモノをぶらんと取り出し、用心棒がジリジリと鞘継に迫っていく。
「まさかそっちのケがある奴だったのか!?」
踊り子達を後ろに下がらせ、弥生が警戒した様子でふたりを睨む。
用心棒の男は辛抱できなくなったのか、鼻息を荒くしながら自分の服を脱いでいく。
「ま、待て。俺にそっちの趣味はない」
用心棒のソレが戦闘モードに移行したため、鞘継が何か武器になる物を探す。
「ノンケだって構わんぜ。‥‥男なら!」
いやらしい笑みを浮かべながら、用心棒が鞘継の事を押し倒す。
「男と男のらぶげーむ‥‥?」
薔薇と菊の咲き乱れる光景を思い浮かべ、鴇輪が両手を合わせて目を閉じる。
「その辺にしておけ。依頼主に報告されたくなかったらな」
おぞましい光景が繰り広げられる事を阻止するため、弥生が用心棒を睨みつけ警告まじりに呟いた。
「ちぇ‥‥、仕方ねぇな。あっちでするか。てめぇらも手伝ってくれ」
不機嫌そうに弥生を見つめ、用心棒達が鞘継を連れて部屋を出る。
「臆病神より怖いかも‥‥なむなむ‥‥」
ダッシュで逃げだした鞘継に同情しながら、鴇輪が部屋の襖をパタンと閉めた。
「いまのうちに‥‥逃がしてもらえますか?」
潤んだ瞳でふたりをみつめ、踊り子達が涙を流す。
「さすがに今は難しいな。後で奉行所と掛け合ってみよう。ここで不正な事が行われているなら町奉行も黙っていない」
険しい表情を浮かべながら、弥生が踊り子達に頷いた。
必ず助けにくると約束し‥‥。
「焔龍、鞘維‥‥安心して用心棒の兄貴達と逝って来い」
彼らの悲鳴が聞こえたような気がしたため、巴渓(ea0167)がじんわりと目頭を熱くする。
実際にふたりがどんな目に遭っているか分からないが、とても危険な状況である事は確からしい。
「何だか緊張してきましたね‥‥。一体、どうしたんでしょうか‥‥。ひょっとして臆病神がそばにいるとか‥‥」
緊張した様子で胸を押さえ、大曽根浅葱(ea5164)が頬を染める。
観客達に裸を見せるという事もあり、舞台に上がる前からとても緊張しているらしい。
「大丈夫だよ♪ 私がリードしてあげるから。お客さんが喜ぶような踊り方をすればいいんだよ」
浅葱の耳元で優しく囁き、設楽葵(ea3823)がニコリと笑う。
何か妙な気配がするが、それが臆病神のものかは分からない。
「それじゃ、舞台に立ちましょうか。皆さんがわたくし達の事を待ってますよ」
舞台用の衣装に着替え終え、勝呂花篝(ea6000)が仲間達にむかって声をかける。
今回の舞台は天岩戸神話をモチーフにした興行で、その中のうち『天宇受賣命が服を脱ぎながら踊り、神々はその様子に笑い声をあげます。笑い声に惹かれた天照大御神が天岩戸から少し顔を覗かせた所を、天手力男神が岩戸をこじ開け、天照大御神が姿を現す』というシーンだけを抜き取り褌興行として再構成したものだ。
「‥‥胸のさらしは外して踊らなくてはいけないんですよね‥‥無いと落ち着かないんですが‥‥」
観客達の視線に恥じらいすら感じつつ、浅葱がゆっくりと服を脱ぎ始める。
その光景を観客達は食い入るように見ているため、服を脱ぐたび恥かしさだけが高まっていく。
「女冒険者がこんだけ集まったのによォ。そろって恥ずかしいだの何だの、若いうちだぜ? ストリップショーでも芸は芸。大道芸人の俺にゃあ、いい芸の修行よ!」
豪快な笑みを浮かべながら、渓が浅葱の肩をぼふっと叩く。
「あ、はい。頑張ります。深呼吸、深呼吸」
コクコクと頷きながら、浅葱が大きく息を吸い込んだ。
「もっと大胆に脱がなきゃ駄目よ♪ お客さんが喜ぶようにね」
緊張のあまり身体を強張らせている浅葱の耳元で囁き、葵が彼女と背中合わせになって回るようにして服を脱ぐ。
「へっへっへ、俺の鍛え上げた腹筋、赤褌も映える大臀筋。女の魅力は柔らかさだけじゃあ無ェぜ?」
自慢の筋肉を美しく魅せつけ、渓が天照の岩戸をこじ開ける。
それと同時に灰色の着物をすっぽり被った花篝が顔だけ少し覗かせ、渓に着物を剥いでもらうとそのままサラシを引っ張ってもらいクルクルと回転しながら裸になった。
「おおっ、いいぞぉ〜」
その演出に観客達が立ち上がり、食い入るようにして花篝の裸を堪能する。
「あ、あの‥‥、ひょっとして‥‥これも‥‥脱ぐんですか‥‥?」
腰布を残して脱ぐ物がなくなったため、浅葱が困った様子でモジモジさせた。
「当然でしょ。新しいお客さんも現れた事だしね♪」
臆病神がコソコソと現れたため、葵が仲間達と一緒に胸を寄せて持ち上げる。
「あ、あの‥‥お客さんの反応が‥‥怖いです‥‥」
観客達が舞台に上がりそうになったため、浅葱が困った様子で汗を流す。
「‥‥仕方ない。これだけはやりたくなかったんだけど‥‥えいっ!」
浅葱の纏っていた腰布を奪い取り、葵が満面の笑みを浮かべながら、観客席にむかって放り投げる。
「ああぁああ! そんな〜」
宙を舞う腰布を視線で追いかけ、浅葱が慌てて手を伸ばす。
「みんな、さーびすだよ〜」
むりやり浅葱の手を引いて舞台の端まで移動し、葵が彼女の身体を持ち上げ観客達にサービスする。
「は、恥かしい‥‥」
観客達の視線を一身に浴び、浅葱が恥かしそうに顔を隠す。
「あ〜あ、野郎どもが鼻の下ァ伸ばしきってやがんな」
苦笑いを浮かべながら、渓が腰に手を当てる。
「まさか会場の中に臆病神がいるとは予想もしていないんでしょうね」
肌を晒して舞を舞い、花篝が観客達を見つめてクスリと笑う。
「野郎ども!! そんなに裸が好きかァーッ!! ならば! 俺のっ! 裸はどうだァッ!!」
そして渓は豪快な笑い声を響かせながら、観客達の前で自慢の筋肉をさらけ出した。
「‥‥あれが臆病神か?」
観客達の最前列に陣取り葵達の合図を確認し、田崎蘭(ea0264)が臆病神の姿を探す。
舞台の袖に臆病神は隠れており、蘭達が動き出したのと同時に慌てた様子で逃げていく。
「せっかくイイトコロなのに邪魔しやがって! 俺はここからテコでも動かん!」
最前列から仲間達の踊りを鑑賞し、伊達正和(ea0489)が不満そうに腕を組む。
このまま臆病神と戦えば一番肝心のシーンを見逃してしまう可能性が高いため戦うつもりはないらしい。
「本当に困った方ですね。私はもう恥ずかしくて見ている事は出来ません」
思った以上に過激なショーだった事もあり、神有鳥春歌(ea1257)が困った様子で視線をそらす。
本当なら踊りの勉強をするためジックリと鑑賞したかったのだが、このまま舞台を見ていたら途中で倒れてしまいそうな雰囲気だ。
「それよりも早く臆病神を倒しましょう。焔達の犠牲を無駄にしないためにも‥‥」
危険な状態に陥っていると思われる焔達の事を思い浮かべ、橘月兎(ea1285)が涙を浮かべて両手をあわす。
多分、掘られてはいないと思うのだが、何度か過悲鳴が聞こえたため、ピンチに陥っている事は確かだろう。
「それもそうだな。‥‥そこかっ!」
背後に臆病神の気配がしたため、不破恭華(ea2233)が振り向き際に手裏剣を投げると、縄ひょうを使って臆病神を絡め取る。
「観客達は舞台に釘付けのようだな」
流れ出る鼻血を右手で押さえ、烈牙飛叡(ea6926)が大きな溜息をつく。
「もう一匹はまだ舞台にいるっ! 油断するな!」
臆病神を倒すため蘭が勢いよく上着を脱ぎ捨て、さらし姿で日本刀を振り回す。
「!!!!」
すると臆病神は言霊を使って正和の事を怯えさせ、その隙にその場から逃げようとした。
「まさか‥‥これが臆病神の力なのか!?」
身体をカタカタと震わせながら、正和が悔しそうに唇を噛みしめる。
気分良く舞台を眺めていたのだが、例えようのない恐怖が全身を包み込んだため、このまま逃げ出したくなったらしい。
「逃がしませんよっ!」
臆病神の背後からアイスコフィンを放ち、春歌が全速力で走り出す。
「ご、ごめんなさい」
関係のない観客を巻き込んでしまったため、春歌が慌てた様子で頭を下げる。
「やはり観客達から不満の声が出始めているようですね。‥‥仕方がありません。ここは私が一肌脱ぎましょう」
舞台袖に転がっていた鞭を拾い上げ、月兎が妖しく瞳を輝かせる。
本気で葵達を傷つけるつもりはないようだが、ショーの一環として使うつもりでいるらしい。
「女の裸なんか見ても‥‥見ても‥‥うっ!」
月兎の舞台に釘付けになったまま、恭華がゴクリと唾を飲み込んだ。
臆病神退治を優先するつもりでいたのだが、彼女達の舞台が気になってしまい、全く動く事が出来ないようだ。
「お、俺はもうダメだ‥‥ブハァ‥‥」
大量の鼻血を流しすぎてしまったため、飛叡が限界を超えてぶっ倒れる。
「意外と彫り物があっても動揺しないんだな。むしろ興奮している奴までいるし‥‥」
背中の彫り物を自慢げにさらしながら、蘭が舞台で服を脱いでいく。
最初の脚本とは異なる展開になってしまったが、観客達にはひどくウケがいいらしい。
「畜生! 身体の震えが止まらねぇ! せっかくイイトコロだって言うのに‥‥」
悔しそうに舞台を眺め、正和が拳を震わせた。
本当ならジックリと舞台を鑑賞したいのだが、身体が震えてなかなか集中できないようだ。
「臆病神の事は任せてください。今後こそ捕まえますので!」
なるべく観客達がいない場所を選び、春歌が再び臆病神を狙ってアイスコフィンをお見舞いする。
「やりましたね」
舞台の幕が閉じたため、月兎が駆け寄り春歌を褒めた。
「一時はどうなるかと思ったが‥‥」
満足した様子で笑みを浮かべ、恭華が春歌の肩を優しく叩く。
「これでようやく‥‥安心ですね」
臆病神が退治されたため、浅葱がホッと胸を撫で下ろす。
「まだまだ、ショーはこれから‥‥だよっ☆」
そして葵は浅葱に優しく口づけすると、アンコールとばかりに躍動感のある舞いを舞台で披露した。