●リプレイ本文
「流星が早まった行動を取る前に、何とかして見つけてやらんとな」
ブレスセンサーを発動させ、デュラン・ハイアット(ea0042)がランタンを照らして流星を探す。
流星が山に入ってからしばらく経っている事もあり、最悪の場合は何処かでのたれ死んでいる可能性が高い。
「‥‥何があっても手を出してはならないと言われたが、流星は猟犬として鍛えられているだけだ。熊犬相手では少々不安が残る‥‥」
飼い主の形見となった弓を握り締め、丙鞘継(ea2495)が険しい山を登っていく。
山の空気はとても冷たく、鞘継の吐く息も白い。
「犬はな‥‥忠誠心、厚すぎんだよ。ったく‥‥」
子供の頃に飼っていた犬に死なれて以来、犬は嫌いだと言っている事もあり、里見夏沙(ea2700)が視線を逸らして溜息をつく。
流星の気持ちは痛いほど分かるのだが、勝ち目がないと分かっている戦いをさせるわけにはいかないようだ。
「主の復讐を為さんとする忠犬だ。みすみす見殺しには出来んな」
夏沙の気持ちを察したため、デュランが優しく肩を叩く。
流星は空腹である可能性が高いため、背負い袋の中から生肉を取り出し辺りを探す。
「只、流星が命と引換にしてでも仇を討たないか‥‥それだけが心配だ」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、鞘継が拳をギュッと握り締める。
「本当は酒でも酌み交わせれば良いのだがな」
流星の飼い主が良く飲んでいた酒を黙って見つめ、デュランがクスリと笑って何かに気づく。
「あれは‥‥流星!?」
大木の下で蹲っている流星を見つけ、夏沙が急いで傍まで駆け寄った。
流星は食事を全く口にしていなかったため、空ろな瞳で月を眺め今にも息絶えそうな雰囲気だ。
「こんな所でのたれ死んだら元も子もないだろう‥‥。ほら、水だ‥‥」
持参した水をゆっくりと飲ませ、鞘継がデュランから保存食を受け取り流星の前に置く。
流星は飢えたハイエナの如く、目の前の保存食に喰らいつく。
「そんなにがっつくな。喉に詰まって死んだらシャレにならんしな」
ガツガツと保存食を喰らう流星に驚き、デュランが優しく頭を撫でた。
「ウゥゥゥゥゥゥ!」
満腹になった事もあり、流星が唸り声をあげながら、ジリジリと後ろに下がる。
「‥‥安心しろ。俺達は敵じゃない」
自分達が味方である事を証明するため、夏沙が形見の弓を地面に置く。
流星はかなり警戒していたようだが、クンクンと弓の匂いを嗅ぐと、何かを悟った様子で歩き出す。
「邪魔さえしなければ、ついて来てもいいって言っているのかもな」
そしてデュランは流星の後を追い、険しい山道を進むのであった。
「また、またなのか‥‥何故女ッ気のない依頼ばかり‥‥ギルドの苛めか‥‥」
クロガネの匂いを追って山道を駆け抜ける流星を追いかけ、夜神十夜(ea2160)が疲れた様子で溜息をつく。
本当なら順番ごとに野営の見張りをしようと思っていたのだが、流星が自らの遅れを取り戻すべく全速力で走っているため、何とか追いつこうと必死なようだ。
「野生動物は自分よりでかい奴には結構恐れを抱くからな‥‥。今回は気楽にやれそうにないなぁ‥‥まあ、手抜かり無くやるか‥‥」
辺りから熊の鳴き声が聞こえてきたため、風月皇鬼(ea0023)が大粒の汗を流す。
鳴き声はあちこちから聞こえており、みんな気が立っているようだ。
「熊避けの鈴を持ってきておいて正解だったな。こんな状況で熊の群れと遭遇したら、殺さざるを得なくなる‥‥」
地面に横たわっている大木を飛び越え、本所銕三郎(ea0567)が汗を拭う。
熊よけの鈴は心地いい音を響かせ、暗闇の中で優しく響く。
「‥‥マズイ事になったな。この先に熊がいる!」
インフラビジョンとファイヤーバードを使ってこの辺りを偵察し、夏沙が険しい表情を浮かべて拳を握る。
流星は一直線に気の立った熊のいる方向を目指しており、途中で進路を変えて別の道を進むつもりはないらしい。
「こっちには熊鈴があるから大丈夫‥‥じゃねぇな」
熊鈴があるため安心していたのだが、目の前に大きな川があったため、十夜がチィッと舌打ちする。
鈴の音は川の音にかき消され、まったく意味を成していない。
「流星を静かにさせろ! 熊達を刺激するんじゃない!」
暗闇の中で怪しく輝く瞳に気づき、銕三郎が仲間達にむかって声をかけた。
「やはり戦うしかないようですね」
熊達の間を通り抜けていった流星を見つめ、御蔵忠司(ea0901)が短槍を中段に構えて間合いを取る。
「冬眠前で気が立っているとはいえ、好んで人を襲う事はない。‥‥殺さずに追い払うか」
なるべく熊達を傷つけないようにするため、銕三郎が日本刀を使わず鞭を振り下ろす。
「寝ていた所を起こして悪かったが‥‥また眠りに戻って貰おうか。鬼道が一騎、夜神十夜‥‥推して参る」
熊達が流星を追わないようにするため、十夜がゆっくりと小太刀を抜く。
「これで熊を倒してしまえば、熊殺しか‥‥。まあ、誇れんがな‥‥」
熊より身を低くして、皇鬼が飛び掛ってきた熊の攻撃をかわす。
熊達は非常に気が立っているためか、ダラダラと涎をたらし皇鬼の事を激しく睨む。
「本当なら殺したくはありませんが‥‥コチラとて余裕がある訳では無いので、真剣にヤらせて頂きます」
峰打ちで倒す事が難しくなってきたため、忠司が熊の急所を狙って短槍を突く。
「ストライクで痛い目を見せてやるしかないな‥‥。これで人間を襲うようにならん事を祈るしかないか‥‥」
苦笑を浮かべながら、皇鬼がストライクを叩き込む。
熊達の中にはようやく我に返るものもいたが、またまだ戦うつもりがあるようだ。
「頼む‥‥退いてくれ‥‥」
祈るような気持ちで熊達を見つめ、銕三郎が鞭で地面を叩いて威嚇する。
「そろそろ俺達も退くとするか。別に熊退治に来たわけじゃないからな」
ポイントアタックで間接を狙い、十夜が次々と熊を倒していく。
「それもそうですね。いったん後ろに下がりましょう」
熊の眉間を短槍で突いてトドメをさし、忠司がライトニングトラップの仕掛けた場所まで下がる。
「よし! かかった! これでしばらく安心だな」
そして十夜はホッと胸を撫で下ろし、電撃で気絶した熊を見つめるのであった。
「どうやら熊鬼が近くにいるようだね。‥‥流星の目つきが変わったよ」
流星が次第にスピードを上げたため、ファラ・ルシェイメア(ea4112)が後を追う。
片身の弓を持っていた事もあり、ファラ達に戦いを見届けて欲しいらしい。
「なんだか嫌な予感がするな。馬鹿な真似をしないといいが‥‥」
足場がだんだん悪くなってきたため、貴藤緋狩(ea2319)が疲れた様子で溜息をつく。
途中で流星を見失うわけには行かないため、緋狩も必死になって追いかける。
「少しはペースを落としてくればいいんだけど‥‥。この様子じゃ、僕達の言葉は届いていないのかもね」
何とか流星を見失わないようにするため、ファラがランタンを照らして山を登っていく。
「‥‥命懸けの仇討ち、か。依頼主は『流星を連れ戻す事は出来ん』という言葉を何気なく発した辺り、生還して貰いたいと思っているんだろうな。犬が一匹で熊鬼と戦うのは分が悪い勝負に見える。依頼主もそう思っている事だろう。それでも流星の意志を尊重し、確実にクロガネと戦える場を整えようとする心意気のためにも。流星の潔く勇ましい姿‥‥見届けたい」
依頼主の言葉を思い出し、緋狩が寂しげな表情を浮かべる。
どんなに猟犬としてレベルの高い流星でも、熊犬を相手にして勝ち目があるわけはない。
「命を落とした主の仇討ちのために、熊鬼に挑むか! 犬とはいえ立派な漢であるな! このゴルドワも協力は惜しまぬぞ!」
目の前を走る流星を追い越す勢いで走りながら、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が豪快に笑う。
流星は段差のある岩場を飛び越え、草叢の中を走り抜けていく。
(「‥‥仇を討ちたいと思うなら命は捨てるな。主人の為にも強く生きろ‥‥」)
忍び寄る死神の気配に気づき、鞘継が黙って目を閉じる。
流星の周りに漂う死の香りは仇に近づくにつれ、次第に強くなり始めているようだ。
「熊鬼ってのはどんなヤツ等なのかねぇ‥‥」
熊鬼達の不意打ちを警戒し、壬生天矢(ea0841)が辺りを見回した。
途中で一服したい気分だが、そんな状況ではないため、松明を掲げて後を追う。
「‥‥アイツか!」
満月をバックに現れたクロガネに気づき、緋狩が素早く日本刀を抜く。
クロガネは倒した熊の死体を椅子代わりにして座り、巨大な棍棒を握り締め緋狩達を睨んでいる。
「見つけたぞ! さあ流星、復讐の時間だ!! クロガネはお前が倒せ。私達はお前を手伝う」
ランタンを片手にリトルフライを使い、デュランが空中から明かりを照らす。
流星の飼い主を殺した仇であるクロガネの他に、何匹かの熊鬼が辺りをウロついており棍棒を振り上げデュランを睨む。
「‥‥例え犬であれ、主人を想う気持ちに敬意をもって対応したい。手出し無用と流星が言うのであればそのように‥‥」
流星が安心して戦えるようにするため、鞘継が他の熊鬼達の相手をする。
熊鬼達は瞳をギラリと輝かせ、棍棒を勢いよく振り下ろす。
「おまえの主も見守っているぞ」
流星の飼い主が使っていた弓矢を使い、天城烈閃(ea0629)が熊鬼達を攻撃する。
「本当にこんな奴らを相手にして流星は勝てるのか!?」
熊鬼めがけてダブルアタックを放ち、緋狩が流星の事を心配した。
クロガネの攻撃に何度も当たりそうになっていたが、身軽さを活かして攻撃をかわし少しずつダメージを与えていく。
「邪魔な連中は俺達が引き受けてやる。さあ、思う存分に戦って来い、流星!」
熊鬼達が流星の一騎打ちを邪魔しようとしたため、烈閃が形見の弓を番えて素早く射った。
「負けるな、流星! 我輩達もついているぞ!」
流星を襲おうとしていた熊鬼の顔面をヒートハンドで掴み取り、ゴルドワが豪快に笑って力任せに放り投げる。
「強いヤツとやるとゾクゾクするねぇ‥‥」
大振りはせずに日本刀を下段に構え、天矢がすくい上げからスマッシュEXの振り下し二段攻撃を放つ。
「流星は苦戦しているようだね。やはり猟犬じゃ熊鬼には勝てないか」
流星が崖まで追い詰められてしまったため、ファラがまわりの熊鬼をライトニングサンダーボルトで倒す。
手出しは無用という事もあり、このまま静観するしかないようだ。
「このまま倒せなかったら‥‥俺達の手で‥‥」
ポイントアタックEXで熊鬼の首を刎ね、緋狩が転がった頭を踏みつける。
流星はクロガネの攻撃をかわすのがやっとで、なかなか反撃する事ができない。
「まさか‥‥アイツ。クロガネを道連れにするつもりか」
最後に残った熊鬼にトドメをさし、天矢が流星のいる方向を睨む。
流星は最後の力を振り絞り、クロガネの喉元に噛み付くと、そのまま谷底へと転がり落ちた。
「お前のやりたかった事って‥‥こんな事なのか。馬鹿野郎っ! ‥‥そんなの誰も望んじゃいねぇ‥‥」
悔しそうに拳を握り締め、夏沙が近くにあった大木を殴る。
ある程度の予想はしていたのだが、馬鹿らしくて涙が止まらない。
「俺達にできる事はただひとつ。主人の墓のすぐ側に流星の墓を作ってやる事だ」
決して涙を見せる事はなく、烈閃が形見となった弓を握る。
「流星‥‥貴殿の生き様は我輩の瞳にしっかりと焼き付けたっ!」
そしてゴルドワは流星の消えた谷底を見つめ、悲しみの雄叫びを上げるのであった。