●リプレイ本文
「温泉美人の座はあたしが貰う!」
更衣室に入るなり高々と宣言し、鷹波穂狼(ea4141)が気合を入れて拳を握る。
「いい度胸をしているじゃない! それはわたくしに対する挑戦ね!」
それと同時に殺気に満ちた視線が浴びせられ、奥から妙に高飛車な女性が現れ穂狼の事を指差した。
「そりゃ、悪かったな。あまりに地味だったんで気がつかなくてさ」
見下すようにして女性を見つめ、穂狼が怪しく口元を歪ませる。
「まぁ〜、失礼ね! わたくしを今大会の優勝候補である彩香と知っての挑発かしら?」
拳をブルブルと震わせながら、彩香が殺気に満ちた視線を放つ。
「あたしが何も知らないとでも思っているのかい? 卑怯なマネは許さないよ。後でどうなるか分かってるだろうね? 正々堂々と戦おうじゃないか」
背の高さを利用して睨みを利かせ、穂狼が腕の筋肉を自慢げに見せる。
「な、な、な、何を証拠にそんな事を言っているの!? それじゃ、わたくしがまるで何かしているみたいじゃない」
ギョッと目を見開き、彩香が気まずく視線を逸らす。
「モロバレなんだが‥‥」
あまりに彩香の演技が胡散臭かったため、穂狼がボソリとツッコミを入れる。
「チャンプを決める闘いに八百長はいけないわ。死合中ならともかく、その前の卑怯な手段は闘士の崇高さを貶めるもの。厳しい罰があるのは当然よ」
彩香の逃げ道を塞ぐようにしながら、アミー・ノーミス(ea7798)が警告まじりに呟いた。
「やはりチェックをしておいた方がいいかも知れませんねぇ〜。とりあえず‥‥脱いでくれますか?」
マジマジと彩香の身体を見つめ、大曽根浅葱(ea5164)がニコリと笑う。
浴衣の中に詰め物をしている場合もあるため、念のため全裸になってもらうらしい。
「何の権利があってそんな事をしているの!?」
恥かしそうに胸を隠し、彩香が顔を真っ赤に染める。
「これも仕事ですからぁ〜」
まったく動揺した様子もなく、浅葱が彼女の服をするりと脱がす。
「わ、こ、これは誤解よ! きっとわたくしの取り巻きの仕業だわ」
浴衣の中から大量の暗器が落下し、彩香が青ざめた表情を浮かべて首を振る。
取り巻きの少女達も慌てた様子で彩香を睨む。
「つーか、他の奴らもバッチリ暗器を持っているんだが‥‥」
ボディチェックをした参加者から次々と暗器が見つかったため、三上由希(ea8313)が呆れた表情を浮かべて溜息をつく。
「さすが『魂出崇闘』‥‥ジャパンの温泉美人を決める催しはなかなか過激みたいね」
大粒の汗を浮かべながら、アミーが暗器を回収する。
「仕方ないから見逃してやるよ。このままあんたらを失格にしたら、せっかくの大会が盛り上がらないからね。その代わり今度妙な真似をしたら許さないからね」
拳を握って参加者達を睨みつけ、穂狼が不機嫌な様子で大声を出す。
参加者達の中には不満そうな表情を浮かべる者もいたが、妙な真似をしないようにするため警告まじりに睨みを利かす。
「だからわざと大きく胸を見せたり、他の参加者達の着る服に切り込みを入れたりしたら駄目ですよ〜」
苦笑いを浮かべながら、浅葱が穂狼の言葉を付け足した。
一瞬ビクンとする参加者達。
‥‥どうやらみんなやっていたらしい。
「そこまでしてみんな優勝したいのね。‥‥呆れたわ」
妙にドロドロとしたものを感じたため、アミーが大粒の汗を浮かべて溜息をつく。
「やっぱり審査員に報告した方がいいのかな?」
参加者達をジト目で見つめ、由希がボソリと呟いた。
「そ、それは駄目よっ! この日のためにわたくしは頑張ってきたのよ!」
納得の行かない様子で由希を見つめ、彩香が激しく首を横に振る。
「頑張るところが違うと思うんだが‥‥」
拳をブルブルと震わせながら、穂狼が呆れた様子で彩香を睨む。
「仕方ないでしょ! これ以上、弟達にひもじい思いをさせられないわ!」
わざとらしく涙を浮かべ、彩香が情に訴えかける。
「‥‥おや。ここには妹がいると書かれてますが?」
依頼主から預かった参加者リストを確認し、浅葱が不思議そうに首を傾げて呟いた。
「ひ、ひもじい思いをしている妹達がいるのよっ!」
気まずい様子で訂正し、彩香が素早く視線を逸らす。
「いまさら遅いと思うんだけど‥‥。残念だけど失格ね」
あからさまにバレる嘘をついたため、アミーが肩を叩いて首を振る。
「ちょっと待って! お金ならあげるわよ! だからわたくしの話を聞いてぇぇぇぇ」
そして彩香は冒険者達に連れられ、控え室の外へと放り出されるのであった。
「‥‥ったく、ズルまでして勝ちてェってか? 武道家の俺にゃあ理解出来んぜ。どんな時でも真っ向勝負! 拳と拳、魂をぶつけ合うのがファイトってもんだ! ズルや手抜きは相手への侮辱だぜ!!」
ションボリとした様子で会場を去る彩香を見つめ、巴渓(ea0167)が呆れた様子で溜息をつく。
彩香が失格になる事とは誰も予想もしていなかったらしく、参加者達の間に妙な緊張が走っている。
「他の者達はそれほど美人というわけでもなさそうじゃのう。これなら柚那でも簡単に優勝が狙えるかも知れんな」
動物用の温泉に浸かって悦に浸るぽるしぇを残し、緋月柚那(ea6601)が冗談まじりに微笑んだ。
優勝候補だった彩香が失格になってしまった事で、他の参加者が優勝できるチャンスがグンと上がっているらしい。
「あんまりヘンな事は考えるなよ。ただでさえ助平な親父を相手にするんだから‥‥」
心配した様子で柚那を見つめ、渓が警告まじりに呟いた。
「‥‥分かっておる。何か破廉恥な事をされたら、大声を上げて叫ぶから安心せい」
苦笑いを浮かべながら、柚那が渓にむかって返事をする。
「それにしても胡散臭い審査員ばかりですねぇ〜。この様子では問題になっている審査員以外にも、袖の下を貰っている人がいるような気がします‥‥」
審査員達の行動を逐一監視しながら、世羅美鈴(ea3472)が疲れた様子で溜息をつく。
彩香がいなくなった辺りから審査員達がソワソワとし始めたため、美鈴が険しい表情を浮かべて審査員達に探りを入れる。
何人かの審査員達は彩香から賄賂を貰っていたらしく、事件の発覚を恐れて生きた心地がしていないようだ。
「どうせだから全員とっ捕まえるか? 今後のためにさ」
控え室の入り口に陣取り、渓が審査員達を見つめてニヤリと笑う。
審査員達は自分の不正がバレたと思い、早々に荷物を纏めて逃げ出した。
「逃がすか、ボケェ! 例え地獄の閻魔が許しても、この熊殺し渓様が許さねェ!」
先頭を走る審査員の首根っこを掴み上げ、渓が不機嫌な様子でまわりを睨む。
「どうして皆さん逃げるんですかぁ〜? ひょっとして何かやましい事でもあるんですかぁ〜?」
何も知らないフリをして、美鈴が不思議そうに首を傾げる。
審査員達も心にやましい事があるため、うまい言葉が見つからない。
「‥‥そう言えば銭蝦蟇の姿がないのぉ? 確か最も怪しい人物だったはずじゃが‥‥」
銭蝦蟇の姿が無かったため、柚那が辺りを見回した。
「あれぇ〜? あっちにヘンな人がいますよぉ〜」
わざと大きな声を出し、美鈴が銭蝦蟇の前に回りこむ。
銭蝦蟇は審査員である事をバレないようにするため、ほっかむりをして逃げようとしていたのだが、それが逆に怪しさを強調させてしまったため、美鈴に見つかってしまったらしい。
「おぬしの顔‥‥何処かで見た事があるのぉ〜? おお、あの有名な銭蝦蟇殿か!」
胡散臭そうに銭蝦蟇の顔を見つめ、柚那が無邪気に笑う。
「き、き、気のせいや! わ、わしはちゃうでぇ!」
ブンブンと首を横に振り、銭蝦蟇が気まずい様子で首を振る。
「おかしいのぉ? 何処からどう見ても銭蝦蟇殿ソックリなんじゃが‥‥。他の者を呼んで確かめてみるかのぉ」
満面の笑みを浮かべ、柚那が後ろを振り向いた。
「やめろろろろろろろろろ! お、お小遣いをあげるから、な!」
柚那の言葉に動揺し、銭蝦蟇が慌てて口を塞ぐ。
「それじゃ、認めるのじゃな。銭蝦蟇であるという事を‥‥」
含みのある笑みを浮かべ、柚那が銭蝦蟇に確認した。
「ああ、認める! だから見逃してくれ!」
観念した様子で両手を合わせ、銭蝦蟇がペコリと頭を下げる。
「‥‥甘いのぉ。証拠は揃っているのじゃよ! 大人しくお縄につけぇい!」
そして柚那は銭蝦蟇を縄で縛り、仲間達を呼び寄せた。
「うーむ、美人コンテストというのは不正をしてまで、勝ちたいものなのか? 一々他人と比べるまでも無く、己の美しさに絶対の自信を持つ我輩には理解できぬ心理であるな!」
参加者達と審査員の半分が処分を受けてしまったため、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が険しい表情を浮かべて腕を組む。
不正が一掃された事で依頼主としては上機嫌なようだが、ゴルドワにはここまで不正が多かった理由がよく分からない。
「まあな。だが、大会は盛り上がっているようだぞ」
持参したちゃぶ台の上で酒を飲み、三菱扶桑(ea3874)がクスリと笑う。
舞台では穂狼が大柄な花模様が特徴の浴衣姿で堂々と立っており、他の参加者達を威圧している最中だ。
「いい、目の保養になるな。彼女達のためにも大会を無事に終わらせねば‥‥」
マントを浴衣風に羽織ったアミーを見つめ、山下剣清(ea6764)が扶桑と一緒に酒を飲む。
会場には何人かの酔っ払いがフラついており、舞台にむかってなにやらヤジを飛ばしている。
「‥‥全く迷惑な奴らだな。せっかく大会が盛り上がっているというのに‥‥」
酔っ払いが舞台に立っていた由希に絡んでいたため、久留間兵庫(ea8257)が溜息をついて立ち上がる。
「どうやら彩香殿が参加していない事を不満に思っているようだな」
不機嫌そうに立ち上がり、ゴルドワがわざと酔っ払いの方にぶつかり、凄みを利かせて因縁をつけた。
「な、なんだ、この野郎っ!」
焦点の合ってない目でゴルドワを睨み、酔っ払いが酒臭い息を吐き捨てる。
「まわりの客が迷惑しているだろ。‥‥そんな事も気づかないのか?」
素早くちゃぶ台を構え、扶桑が酔っ払いを挑発した。
「いい度胸をしているじゃねぇか。俺が誰だか知っているのか!?」
大声を出しながらドスを抜き、酔っ払いがまわりを睨む。
「悪ふざけがすぎるぞ。それ以上、暴れるつもりなら、俺だって黙っちゃいない」
騒ぎに気づいて客達が静まり返ってしまったため、剣清が刀を抜いて酔っ払いを威嚇する。
「面白れぇ! 斬れるモンなら斬ってみやがれ!」
剣清の実力を知らないため、酔っ払いがゲラゲラと笑う。
「本気で言っているのか? ‥‥後悔するぞ」
酔っ払いの傍から遠ざかり、兵庫が小さくコクンと頷いた。
「かかってきやがれ! それじゃ、蚊でも止まる‥‥ぞ」
馬鹿にした様子で剣清を指差し、酔っ払いの表情が強張った。
「‥‥何か言ったか?」
素早く刀を振り下ろし、剣清が酔っ払いの顔面ギリギリで刀を止める。
「いや、何でもありません‥‥」
観客達の拍手が響く中、酔っ払いが青ざめた表情を浮かべて逃げ出した。
「がっはっはっ、情けない奴だな。我輩が出るまでも無かったな」
豪快な笑みを浮かべながら、ゴルドワが剣清の肩を叩く。
「自分の出る幕も無かったな。もう少し骨のある奴だと思ったが‥‥」
残念そうに持っていたちゃぶ台を下ろし、扶桑が何事もなかったかのように酒を飲む。
「あれで大人しくならなかったら、斬り捨てていたかも知れないからな。よほどのアホでもない限り、あそこで逃げて当然だ」
クールな表情を浮かべて刀をしまい、剣清が舞台に目をむける。
既に大会は終わっているらしく、少し控えめな女性が優勝したようだ。
「くぅ〜、負けたぁ!」
参加賞を握り締めながら、穂狼が悔しそうに溜息をつく。
「みんなで温泉にでも浸かるとするかのぉ。せっかく温泉があるんじゃし、このまま帰ってしまうのは損じゃろ」
温泉で悦に浸っているぽるしぇを見つめ、柚那が悔しそうに拳を震わせた。
「へへへっ、男共も入るんだろ? 他の娘達の裸を覗かれても困るからな。俺が監視してやらねぇとな!」
男達の肩を抱きながら、渓が怪しく目を細める。
「か、勘弁してくれぇい!」
そして兵庫は青ざめた表情を浮かべ、渓から慌てて逃げ出した。