●リプレイ本文
「皆さんに大切な話があります!」
家の扉を叩いてまわり、リュカ・リィズ(ea0957)が村人達を広場に呼ぶ。
村人達は何もやる気が無いのか、空ろな表情を浮かべてリュカを見る。
「一人で落ち込んでいたら良くないです。みんなで色々な事を話し合えば、気が楽になるのかも知れないです」
拳をギュッと握り締め、リュカが瞳を潤ませた。
「わしらもそれは分かっているが、どうしていいのか分からないんだ」
寂しそうな表情を浮かべ、村人達が溜息をつく。
仕事をしている最中も亡くなった若者達の顔が浮かぶため、落ち込んで全く仕事にならないらしい。
「悲しい事があってもそれを乗り越えて、また元気になって欲しいのです〜」
村人達があまり語ろうとしないため、月詠葵(ea0020)が真剣な表情を浮かべて口を開く。
大半の村人達はリュカの言葉を理解しているが、それをうまく言葉にする事が出来ないようだ。
「しばらく時間をくれないか。何もやる気がしないんだ」
ションボリとした表情を浮かべ、村人達が疲れた様子で肩を落とす。
よほどショックが大きいためか、あまり反応もよくないようだ。
「こんなにみんなに愛されていた人達がいなくなってしまったのは悲しい事です。でも、いつまでも悲しんでいたら、死んでしまった人達が草葉の陰で困ってしまうのではないですか? 皆さんが悲しみに明け暮れて何もしなかったら、死んだ方達が本当に死んでしまうと思うのです」
「死んだ人達だって、貴方達の幸せを願って戦いに行ったのだから、何時までも悲しんでたら彼等の気持ちが無駄になっちゃいますのですよ。‥‥だから、元気を出してくださいね?」
落ち込む村人達を前にして、葵が諦める事なく語りかける。
「何だか気を使ってもらってすまないな。わしらも頑張るよ。死んだ者達に笑われんようにな」
葵の肩を優しく叩き、村人のひとりがコクンと頷いた。
「それじゃ、村の復興をするのです♪」
次第に元気を取り戻してきた村人達に声をかけ、リュカが畑にむかって飛んでいく。
村人達も、ひとり‥‥またひとりと、リュカの後に続いて農具を握る。
「僕もお手伝いしますです〜」
そして葵はたくさんの農具を抱え、リュカの後を追いかけた。
「働き手である若者達が多く殺されてしまっては、残された村人達も荒らされた畑を整えるところじゃないんだろうな。短い期間ではあるが村人達が立ち直った後に少しでも楽に作業が出来るように頑張るか」
豚鬼戦士によって荒らされた畑を見つめ、孫陸(ea2391)が疲れた様子で汗を拭う。
村人達は熱心に畑仕事をしているが、体力が無いためそれほど作業は進んでいない。
「それでも農作業だけなら村人達の方が慣れている。俺達は壊れた柵や罠を片付けるか。村人達が怪我をされては困るからな」
畑に散らばっている残骸を拾い、菊川響(ea0639)が荷車に積んで愛馬ふたえごに運ばせる。
ふたえごに対する指示はオーラテレパスを使うため、大きなトラブルもなく作業が進んでいるようだ。
「その後は畑を耕すか。食い物が作れんのでは生きて行けんからな。豚鬼を潰しても、飢え死にしたのでは話にならん」
目立った残骸を片付け終わり、殊未那乖杜(ea0076)が農具を担いで村人達と合流する。
何をしていいのかサッパリ分からないため、村人達からアドバイスを貰いながら農作業を進めていく。
村人達はひさしぶりに農作業を教える事もあってか、何処か生き生きとしている様子である。
「なんだかみんな楽しそうだな」
次第に村人達の表情に活気が溢れてきたため、陸がホッとした様子で溜息をつく。
「ああ、さっきまで沈んでいたのが嘘のようだ」
畑作業が一段落着いたため、響が家畜小屋の修理にむかう。
ほとんどの家畜が襲われてしまったためしばらく使われる事は無いが、自分達がいる間に直しておけば村人達も喜ぶはずだ。
「兎に角、報酬の分くらいは働いてみせんとな」
太陽を見上げて汗を拭い、乖杜が再びクワを振り下ろす。
乖杜達のおかげで半分の畑は耕し終わったが、すべての作業を終わる頃には日が暮れてしまうだろう。
「そろそろ休憩しようって言ってるな。少しあっちで休んでおくか。まだまだ先は長いしな」
村人達の用意したおにぎりとお茶を貰い、響が縁側に座って仲間達を手招きした。
ふたえごにもご馳走が与えられたため、嬉しそうにヒヒヒィ〜ンと鳴いている。
「ちょうど腹が減っていたところなんだ。‥‥ご馳走になるよ」
そして陸は農具を置き、村人達にむかって微笑んだ。
「洞窟の中には豚鬼戦士が5匹だけ。みんな昼寝をしているから、襲撃するなら今がチャンスかもね」
豚鬼戦士達に気づかれないようにコッソリと洞窟の中に忍び込み、高村綺羅(ea5694)が中の様子を偵察し仲間達の所まで戻ってくる。
「洞窟の中には、かなり異臭が漂っているな。‥‥食い物が腐っている」
手拭いを使って口元を覆い、九十九嵐童(ea3220)が溜息をつく。
洞窟の中は吐き気がするほどの異臭が漂っており、中では戦闘は困難を極める可能性が非常に高い。
「随分と裕福な暮らしをしているようですね。これからどんな事が起こるのかも知らずに‥‥」
愛用の鞭を握り締め、瀬戸喪(ea0443)が爽やかな笑みを浮かべて呟いた。
どちらにしても豚鬼戦士を逃がすつもりは無いため、手加減なしで血祭りにあげるつもりでいるらしい。
「くっ、こいつら好き勝手やりやがって‥‥絶対許せねえ!!」
怒りに打ち震えながら、西中島導仁(ea2741)が洞窟を睨む。
村の惨状を知っている事もあり、怒りがフツフツと湧き上がる。
「とにかく洞窟の中に入りましょう。なるべく音を立てないように‥‥」
完全に足音を殺す事は出来ないため、島津影虎(ea3210)が慎重に洞窟の中を進んでいく。
洞窟の中からは豚鬼戦士の大イビキが聞こえており、こちらの気配に気づいている様子はまったくない。
「ムフフフフ、ブタどもが。この俺が来たからにはてめーらの調子ブッこいてる時間は終わりだという事を教えてくれるぜ」
高笑いをあげながら霞刀を振り下ろし、ヴァラス・ロフキシモ(ea2538)が豚鬼戦士にトドメをさす。
豚鬼戦士達は寝起きと言う事もあり、みんなパニックに陥っているようだ。
「‥‥目立ち過ぎだよ」
ヴァラスが次々と豚鬼戦士に斬りかかっていったため、綺羅が忍者刀を構えてツッコミを入れる。
「当ためぇだろっ! こいつらには依頼主殿が味わった苦しみの10倍‥‥いや、100倍くらい味わってもらわねえとな」
豚鬼戦士の首を刎ね落とし、ヴァラスが刀についた血を払う。
「‥‥そのわりには楽しんでますね」
逃げ出そうとした豚鬼戦士の首を鞭で絞り、喪がニコリと微笑みトドメをさした。
「とにかく早く外に出よう。こう臭くては鼻がおかしくなりそうだ」
あまりのニオイに眩暈すら感じ、導仁が豚鬼戦士を誘き寄せながら洞窟の外まで下がっていく。
「おらおら、チンタラしていると、その首フッとばすぞ! 九十九のにいちゃんよ。後はまかせな、ムヒヒ」
霞刀をブンブンと振り回し、ヴァラスがゲラゲラと笑う。
豚鬼戦士はヴァラス達から逃れるようにして、次々と洞窟の中から飛び出した。
「意外と臆病だったんですね。まぁ、それで村人達を困らせた罪が消えるわけではありませんが‥‥」
側面から豚鬼戦士に攻撃を放ち、影虎が返り血を浴びて溜息をつく。
「ズババズバズバズバズバとォオオオオッ、はらわたかっさばいてくれるぜェ――――ッ!!」
先頭の豚鬼戦士が倒れた事で次々と転倒したため、ヴァラスがズンバラリンと豚鬼戦士を切り刻む。
「‥‥離れろ」
倒れた豚鬼めがけてどぶろくを叩きつけ、嵐童が火遁の術を使用し火に包む。
豚鬼達は悲鳴を上げて辺りを走り回ったが、あまりの熱さに耐え切れず舌をだらりと出して絶命する。
「おやおや、もう倒れてしまったんですか。もう少し楽しめるかと思ったんですが‥‥」
残念そうに豚鬼戦士の顔を見つめ、喪が大きな溜息をつく。
「まったくだぜ。これじゃ、準備運動にもならないな」
豚鬼戦士の腹を踏み、ヴァラスがニヤリと笑う。
「証拠として首を落としておくね。何か証拠があった方がいいと思うから」
香ばしいニオイを漂わせている豚鬼戦士の首を刎ね、綺羅が運びやすく呂敷の中に包んでおく。
「せっかくだから洞窟の中にある食料を持ち帰っておくか。元はと言えば村人達のものだったからな」
洞窟の中から食料を持ち帰り、導仁が食べられそうなものだけ分けておく。
中には豚鬼戦士が口をつけたものがあったため、ひとつずつ丁寧に調べて風呂敷に包む。
「敵が寝起きで助かりましたね。普通ならもっと苦戦していたと思いますし‥‥」
豚鬼戦士の死体を埋めるため、影虎が地面に大きな穴を掘る。
後で村人が確認する可能性もあるため、近くに目立つ花のある場所を選ぶ。
「それじゃ、村に帰るとするか。みんな首を長くして待っているだろうからな」
そして嵐童は苦笑いを浮かべながら、豚鬼戦士の首を持って村に戻るのであった。
その後、村人達は洞窟の中から若者達の亡骸を発見し、村の中心に慰霊碑を建てて供養したらしい。
豚鬼戦士に食われた若者達の魂を癒すため‥‥。