●リプレイ本文
「やはり『おーぷにんぐ』は華々しく飾らないとな!」
江戸でも評判の染め物屋に依頼し、ごるびーとミンメイの似顔絵が入った横断幕を完成させ、天螺月律吏(ea0085)がえっへんと胸を張る。
今回の競技はミンメイのバックについたスポンサーが大物(?)のため、チームごとにリーダーの似顔絵入りのガウンが配られており、ミンメイチームは赤、ごるびーチームは白で統一しているらしい。
ちなみにチームのリーダーは判別しやすいように同じ色の鉢巻を巻いている。
「ミンメーイ! 明けましておめでと〜うぉ〜〜!! こ、こら、すにーくすたぁ! 何処に行くの!?」
驢馬のすにーくすたぁに乗って氷上に豪快に滑ってバランスを崩し、如月あおい(ea0697)が悲鳴を上げて転がり落ちた。
「アイタタタ‥‥。ここって物凄く滑るわね。しかし、『肉球真拳』に続き『数競闘』なんて、ミンメイも格闘技好きだねぇ。ひょっとして年越しも『芸腕(ゲイワン)』観賞?」
大粒の涙を浮かべて自分のお尻を撫でながら、あおいが何とかすにーくすたぁにしがみつく。
「年越しはずっと資料を纏めていたアル。新年の朝日が涙に染みたアルよ‥‥」
休む暇もなく作業をしていた事もあり、ミンメイが何処か遠くを見つめて涙を流す。
「元気を出さなきゃ! そんな顔をしていたら、みんなに笑われちゃうわよ」
苦笑いを浮かべながら、あおいがミンメイを励ました。
「それもそうアルね。頑張るアルよ!」
ミンメイも試合前に士気を下げるつもりはないため、満面の笑みを浮かべて拳を握る。
「なあなあ、ミンメイ姉ちゃ〜ん。どっちの褌が俺に似合う♪」
六尺褌とレースの褌を握り締め、狼蒼華(ea2034)が首を傾げて呟いた。
どちらも悪くないのだが、自分で決める事が出来ないようだ。
「こっちの褌がイイアル♪」
全く迷った様子もなく、ミンメイはレースの褌を手に取った。
「よし! それじゃ、着替えてくるな!」
満面の笑みを浮かべながら、蒼華が草叢に隠れて褌を締める。
「どおっ‥‥俺、結構いい身体してるだろ‥‥?」
甘え上手な子猫のような表情を浮かべながら、蒼華が脱ぎかけの火消し半纏から覗く、汗が滲んだ褐色の肌と鍛え抜かれた身体を披露し、応援に来ていた女性達の心を奪う。
「なんだか危険な香りがするアルね。途中で押し倒されないようにするアルよ」
辺りから妙な視線を感じたため、ミンメイが乾いた笑いを響かせる。
「そういや何だか寒気がするな。これが数競闘の空気ってヤツか?」
身体をブルブルと震わせながら、蒼華が警戒した様子で辺りを睨む。
「‥‥それにしても数競闘か。まさか再びその場に立つ事になるとはな。伊藤、佐藤、お前達とは果たせなかった伝説の大技、今ここで成し遂げてみせる。だから、見ててくれ‥‥」
伝説の大技を完成させる事が出来ないまま散っていった仲間達を思い浮かべ、岩峰君影(ea7675)が滝のような涙を流し夜空を行く明けの明星に誓いを立てる。
実際に試合が行われる時間は昼間のため、ミンメイが持参した絵を高々と掲げてフォローした。
「数競闘。‥‥あの恐ろしい競技か」
驚いた様子で口を開き、紫上久遠(ea2841)がダラリと汗を流す。
「な、何か知っているアルか?」
久遠の態度があまりにも意味深だったため、ミンメイがドキドキとしながらゴクリと唾を飲み込んだ。
「いや‥‥‥‥‥‥‥‥何も知らん」
ミンメイの顔をマジマジと見つめ、久遠が気まずい様子で視線を逸らす。
「‥‥その間がとっても恐いアル」
何だか恐くなったため、ミンメイが大粒の涙を浮かべてツッコミを入れる。
「すけいとう? 酢系統‥‥初めて聞く言葉ですね。何か酸っぱい物なのでしょうか‥‥?」
数競闘の意味が全く分からず、大空昴(ea0555)が首を傾げて呟いた。
言葉の響きだけでは酢系統と聞こえてしまうため、余計に意味が分からなくなっているらしい。
「ち、違うアル。数競闘は氷上の格闘技アル!」
大粒の汗を浮かべながら、ミンメイがブンブンと首を振る。
一瞬、酸っぱい物をひたすら食べ続ける罰ゲームのような競技が浮かんだが、さすがに新年からそんな辛い思いはしたくない。
「‥‥は? 豹上の格闘技? ‥‥ますます分かりませんね」
どんな競技かまったく想像する事も出来なかったため、昴が大きなハテナマークをピコピコさせる。
「一応、これが資料アル」
言葉で説明しても分かりにくいと思ったため、ミンメイが懐の中から資料を取り出し差し出した。
「ええと、兎に角これを履いて相手チームをぶっ飛ばせば良いんですよね? そう言う事なら任せてください。蹴り技は得意です!」
自信に満ちた表情を浮かべ、昴が拳を握り締める。
ミンメイも少しホッとしたのか、苦笑いを浮かべて汗を拭う。
「それにしても歩きにくい靴ですね‥‥。これじゃ、うまく‥‥わああああ!」
うまくバランスが取れないため、昴が何度もコテンと転ぶ。
「こんな事もあろうかと今回は対ごるびーチーム用に秘策を考えてきたわ!」
お気に入りのバックパックをガサゴソと漁り、あおいが瞳をキラリと輝かせ素早く着ぐるみを身に纏う。
「め、雌のカワウソ‥‥アルか?」
キョトンとした表情を浮かべ、ミンメイが大粒の汗を流す。
あおいの用意した着ぐるみは雌のカワウソを模しており、とってもお色気ムンムンだ。
「きゅ‥‥きゅきゅ!」
ごるびーもしばらく魅入ってしまうほどの出来栄えであったが、イタチのそれんにこっぴどく叱られ、慌てた様子で首を振り着ぐるみの誘惑から逃れる。
「ごるびーって意外と尻に叱れるタイプあるな」
そしてミンメイは苦笑いを浮かべながら、ごるびーのちょっぴり同情するのであった。
「まさかごるびーチームは4人だけ!?」
参加メンバーを確認し、設楽葵(ea3823)が困った様子で汗を流す。
本来なら5対5で行われるはずなのだが、ミンメイチームに参加者が集中してしまったため、ごるびーも心配した様子で葵の顔を見つめている。
「大丈夫ですよ〜。リーダーを落とせば勝ちですし〜」
ほんわかとした表情を浮かべ、槙原愛(ea6158)がごるびーを優しく抱き上げた。
「みんなで団結すれば勝てますよ♪」
白いビキニのように見せるため、幅の広い布を巻いて胸元にリボンをつけ、大宗院鳴(ea1569)がごるびーを見つめて微笑んだ。
ごるびーもホッとしたのか、小さくきゅきゅっと頷いた。
「狙いはミンメイ‥‥ただひとり」
クールな表情を浮かべ、レイナス・フォルスティン(ea9885)が数競闘の靴を履く。
「あの穴に落とせばいいんですね?」
氷の上に降り立ち、鳴が湖の端にある穴を指差した。
「‥‥気をつけろ。あの穴に落ちたら‥‥命はない」
まるで戦場を駆ける狼のような表情を浮かべ、レイナスが険しい表情を浮かべて口を開く。
「ごるびーも無茶をしちゃ駄目だよ」
苦笑いを浮かべながら、葵がごるびーの頭を撫でる。
ごるびーは妙に頭を気にしており、今にも泣きそうな雰囲気だ。
「ところでごるびーさんの頭ってカツラなのですか〜‥‥?」
ごるびーの頭をじーっと見つめ、愛がコッソリと手を伸ばす。
「きゅきゅきゅ!」
怯えた様子で愛を睨み、ごるびーが頭を押さえて後ろに下がる。
どうやら触れてはいけない領域らしい。
「頑張れ、ごるびー君」
カツラのずれたごるびーを見つめ、レイナスがうっすらと涙を浮かべて励ました。
「よほど気にしているんだね。‥‥頭の事」
予想以上にハゲが進行している事を悟り、葵がごるびーの頭を見つめて同情する。
「これ以上、ごるびーさんのハゲを悪化させないためにも必ず勝利を勝ち取りましょう」
そして鳴はカツラを押さえるごるびーの頭を撫でながら、仲間達と共に団結を深めていくのであった。
「この時期にこの格好は流石にちょっと寒いですね〜。早く運動をして温まらないと〜風邪引いてしまいそうです〜」
何か遭ってからでは遅いため、愛がメンバーを集めて準備体操をし始める。
湖の中に落ちたらポックリと逝ってしまう可能性も高いため、準備体操をしているメンバーも全く手を抜いていない。
「一番、大空昴、行きますっ! うぉりゃー!! あ、あ、あーっ!」
刃物のついた靴を履き、昴が始めの一歩で豪快に転ぶ。
転んだ拍子に顔面をモロに打ちつけ、そのままつーっと滑って湖に落ちる。
「な、何も見てないアルよ。ほ、本当アル」
湖から飛び出してきた昴を見つめ、ミンメイが困った様子で汗を流す。
「さ、さぁ‥‥。れ、練習はこれくらいで良いでしょう」
仲間達の冷たい視線を浴びながら、昴があまりの寒さに身体をガタガタと身体を震わせる。
辺りには物凄く嫌な空気が漂っているが、昴は何事もなかったかのように取り繕う。
「それじゃ、次は本番だよ。ギャグで落ちても失格だからね」
ずぶ濡れのまま試合に参加した昴にむかってタオルを投げ、葵が苦笑いを浮かべて位置につく。
「‥‥蜜よ、俺の勇姿を見ていてくれ」
応援にやって来た妹のいる方向を見つめ、久遠が褌の紐をギュッと締めて気合を入れた。
「この空気、この肌触りこそ数競闘よ!」
試合開始の合図と共にミンメイのサラシをムンズと掴み、君影が悪代官のような笑みを浮かべて思いっきりサラシを引っ張り回転させる。
「ワタシは味方アルよ〜!」
サラシが取れてしまったため、ミンメイが恥かしそうに胸を隠す。
「勘違いするのは、まだ早い‥‥。見よ褌を‥‥、そしてサラシをっ! 冷気に晒され凍りついた布の揺らめきが日の光を受け、氷面に乱反射しとても美しいじゃないか」
まったく悪びれた様子もなく、君影が爽やかな笑みを浮かべて両手を開く。
「く、悔しいアル〜」
いつもなら誰か守ってくれるため、ミンメイが大粒の涙を浮かべて赤面した。
「‥‥そう泣くな。残念だがこれも伝説の大技への布石に過ぎん。これより先は皆の協力が必要だ、力を貸して欲しい!」
伝説の大技を完成させるため、君影が拳を握って熱く語る。
「お、お断りアルよ。これ以上、男性陣にサービスする必要はないアル!」
激しく首を横に振り、ミンメイがジト目で睨む。
よほどサラシが奪われた事がショックだったのか、少し不機嫌そうな様子である。
「ほう‥‥。ならば女性陣にもサービスするか」
含みのある笑みを浮かべ、君影が瞳をキラリと輝かす。
「ま、まさか‥‥あんた。俺の褌を奪うつもりなのか?」
身の危険を感じたため、久遠が君影を激しく睨む。
「歴史がそれを望むのなら‥‥」
女性陣の期待を拳にこめて握り締め、君影が久遠の褌に手を伸ばす。
それと同時に久遠が素早く横に飛び、気合と根性で自らの褌を守り抜く。
「まあいい。チャンスはいくらでもあるからな」
怪しく指を蠢かせ、君影がクスリと笑う。
「先程は油断した。まさか仲間が襲ってくるとは予想もしていなかったからな。だが、これ以上ヤツの好きにはさせん。女性を庇うのは紳士の務めだからな」
キリリッとした表情を浮かべ、律吏がミンメイの肩を叩く。
「き、期待しているアル。これは乙女のピンチアル」
律吏を見つめて両手を合わせ、ミンメイが瞳をウルウルさせる。
「この履物についてる刃は、とても切れ味が良さそうですね〜」
爽やかな笑みを浮かべながら、愛がミンメイに狙いを定めて蹴りを放つ。
「またワタシが狙われているアルか〜?」
身の危険を感じたため、ミンメイが慌てた様子で逃げ道を探す。
「‥‥すまん、久遠。これも勝利を勝ち取るためだ!」
愛の攻撃からミンメイを守るため、律吏が久遠の襟首を掴んで盾にする。
「ば、馬鹿!」
何とか愛の足を掴んだものの、久遠がバランスを崩して豪快に転ぶ。
「‥‥危ないところだったわね」
久遠が穴の前で止まったため、あおいがホッとした様子で溜息をつく。
「チャンス!」
まるで舞を踊るようにして滑り、鳴がライトニングアーマーを発動するとダブルアタックを試みた。
「私は勝負に拘る女‥‥容赦はせんぞ」
攻撃を放った鳴の拳を掴み取り、律吏が彼女を見つめてニヤリと笑う。
「蝶のように舞い蜂のように刺すなーんてな♪」
律吏と連携をとりながらごるびーチームを翻弄し、久遠が真っ赤な褌をはためかせ、鳴にむかって体当たりを食らわせる。
「きゃ!」
久遠の一撃をモロに喰らい、鳴が派手に尻餅をつく。
「ごるびー兄ちゃん♪ ‥‥覚悟せぇやっ!」
オーラパワーを使って全身に闘気を漲らせ、蒼華が回転を交えた蹴り技の連撃でごるびーの事を追い詰める。
(「ごるびー兄ちゃん、堪忍やっ! けどな、真の武道家は戦いの中で新しい技をひらめくっ! だから兄ちゃんも‥‥ひらめくんやっ! 新しい技をっ!」)。
心の中でごるびーに謝りながら、蒼華が再び凄まじい一撃を放つ。
「さらば、ごるびー。地獄に落ちろ!」
『毛生え薬』と書かれた札を胸元から取り出し、律吏がごるびーめがけて投げつけた。
「きゅっきゅっきゅーっ」
札を強引に掴み取り、ごるびーが危うく穴に落ちかける。
「いっただきぃ!」
小梅ちゃん扇子を使ってごるびーの頭を狙い、あおいがフルスイングがカツラを飛ばす。
「きゅ、きゅ〜!!」
華麗に舞った自分のカツラに手を伸ばし、ごるびーがまるで我が子を奪われたかのような悲しみに包まれる。
カツラは高速回転しながらポトリと落ち、凍るように冷たい湖の底へと沈んでいく。
「きゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
それと同時にごるびーの表情が凍りつき、真っ白に燃え尽き崩れ落ちた。
「チャンスある! いまのうちにごるびーを倒すアルよ!」
仲間達にむかって合図を送り、ミンメイが自ら攻撃に出る。
「‥‥マズイな。これじゃ、俺達に勝ち目はない」
ごるびーチームの敗北が濃厚になったため、レイナスがちぃっと舌打ちした。
「ミンメイさんも道連れです! 必殺ごるびーあたっく〜、です〜」
そう言って愛がごるびーの足をムンズと掴み、ミンメイに狙いを定めて力任せに投げ飛ばす。
「きゅ〜〜!」
滝のような涙を流し、ごるびーが弾丸の如く飛んでいく。
「ミンメイちゃん、危ないっ!」
小梅ちゃん団扇を素早く構え、あおいがごるびーを空高く吹っ飛ばす。
「勝負ありましたね♪」
嬉しそうに飛び上がり、昴が自分達の勝利を確信した。
「‥‥空しい戦いだったな」
青空に散ったごるびーを思い浮かべ、レイナスが悲しげな表情を浮かべる。
「あっ‥‥、流れ星☆」
そして鳴は湖に落下してきたごるびーを眺めながら、願い事を呟き両手を合わすのであった。