●リプレイ本文
「人質がいるからかなり油断しているようだよ。たまに女の子にちょっかいを出しているけど、宝石が手に入るまでは我慢しているみたい」
山賊の指定した場所まで偵察にむかい、アオイ・ミコ(ea1462)が報告のため仲間達の所まで戻ってくる。
山賊達は娘が逃げないように監視はしているものの、宴の最中だったため見張りなどは立てていない。
「婦女子を誘拐して、金品をせびろうとは見下げ果てた話であるな。心が腐っておるから、そのような発想が出てくるのだ。心身ともに鍛え上げれば、そのような発想、出てこよう筈もない。そう、この我輩の様にな!」
怒りに満ちた表情を浮かべて拳を握り、ゴルドワ・バルバリオン(ea3582)が腹の底から地響きするほどの雄たけびをあげる。
「無事に娘さんを助けだせるように頑張らないとね」
ゴルドワの声があまりに大きかったため、六道寺鋼丸(ea2794)が両手で耳を塞いでニコリと笑う。
しばらく耳鳴りしているが、ゴルドワはまったく気にしていない。
「私利私欲のために一つの家族を不幸にするとは絶対に許せない‥‥」
山賊達に怒りすら感じ、十六夜桜花(ea4173)が拳を震わせる。
例え人質の命が無事だとしても、山賊達のしている事は決して許される事ではないからだ。
「平和な家庭が崩れるのは、見たく無いな、何としても助けだす」
捕まった娘の気持ちを考えながら、山王牙(ea1774)が彼女の救出を心に誓う。
「愛する者を奪われた父の哀しみ‥‥。これを救わずば神聖騎士の名に恥じる事になる。セーラ様‥‥皆に何卒ご加護を‥‥」
しばしの祈りを捧げ、ニライ・カナイ(ea2775)が森を睨む。
娘の無事は確認されたが、いつ山賊達が間違いを起こすとも限らない。
そのため娘を救出するのは、なるべく早めの方がいいだろう。
「まったく‥‥。何故こんな事をしたのか、理由を知りたいものだ」
山賊達の対する怒りが収まらぬまま、牙が米俵のひとつに身を隠す。
他の米俵と似せているが、山賊達に気づかれないという保障はない。
「一応、依頼主から娘の身体的な特徴を聞いておいたぞ。それりほど目立つ特徴がなかったが、人質がひとりしかいないのだから見間違う事はないな」
山賊のアジトのある方向を眺め、ゴルドワが力強い足取りで歩く。
アジトまでの道のりはそれほど険しくないものの、似たような場所があるため途中で迷ってしまいそうになる。
「念のため娘の似顔絵を描いてみたが、なんだかうまくいかないな。きっと‥‥紙の質が悪いのが原因だ‥‥」
紙が貴重であるため質の悪い紙しか手に入れる事が出来ず、ニライが不満げに自分の描いた似顔絵を睨む。
なるべく似せて描いたつもりだが、紙が悪いせいかカエル似だ。
「それでも参考くらいにはなるはずだ。どれどれ‥‥ん‥‥んんっ?」
思わず倒れそうになりながら、天螺月律吏(ea0085)が気まずく視線を逸らす。
「何かマズイところでもあったか?」
不思議そうに律吏を見つめ、ニライが首を傾げて呟いた。
「い、いや‥‥、目にゴミが入っただけだ」
うまい誤魔化し方が浮かばず、律吏が困った様子で首を振る。
「そろそろこの辺りで別れるか。俺は敵の逃走経路を探して潰す。それじゃあな」
そして伊達正和(ea0489)は律吏達に別れを告げ、険しい森の中を突き進むのであった。
「主に頼まれたものを持ってまいりました」
依頼主から借りた使用人の服を身に纏い、律吏が確認にやってきた山賊にむかって頭を下げる。
「それじゃ、荷物を確かめさせてもらう‥‥」
律吏の身体をジロジロ見つめ、山賊が軽くボディをチェックした。
「うっ‥‥クッ‥‥」
恥ずかしさをグッとて堪え、律吏が唇を噛み締める。
あまりにも山賊の触り方がいやらしいため、いまにも拳が出そうになってはいるが、ここで作戦を台無しにするわけにはいかない。
「積荷に怪しい所はない。よし、交渉成立だな」
律吏を一斉に取り囲み、山賊達が不気味に笑って刀を抜く。
「‥‥何の真似かな?」
鋭い視線で山賊達を威嚇しながら、ゴルドワが律吏からの指示を待つ。
「おっと無駄な抵抗はするなよ。この娘の命が惜しいのなら‥‥」
人質にとっていた娘を突き出し、山賊のボスがニヤリと笑う。
「状況的に僕らの勝ち目はないね。ここは素直に山賊さんの言うとおりにした方がいいかも‥‥」
律吏の耳元で囁きながら、鋼丸が黙って両手をあげる。
「‥‥確かにそのようね。ここは素直に‥‥戦うしかないようだな!」
近くにいた山賊の腕を掴んで力任せに放り投げ、律吏が人質となった娘めがけて走り出し、そのまま彼女にむかって飛びついた。
「すまんな。‥‥怪我はないか」
オーラソードを出現させ、律吏が娘を守って後ろに下がる。
娘は律吏の背中にしがみつき、怯えた様子で何度も何度も頷いた。
「テメーらタダモノじゃねえな! ぶっ殺してやるっ! ぐぼあっ!」
鋼丸を人質にしようと手を伸ばし、山賊がゴルドワから鉄拳制裁を喰らう。
「‥‥すぐに終わるからね」
怯える娘にむかって声をかけ、鋼丸が山賊にむかってホーリーを放つ。
「ぐわっはっはっ! ‥‥弱いな! 山に篭ってばかりで鍛錬を忘れたか!」
鬼神の如く勢いで高笑いを上げながら、ゴルドワが全く躊躇する事なく山賊の事をブン殴る。
「相手はたったの3人だっ! 俺達が本気を出せば苦戦するような相手じゃないっ!」
倒れた山賊に肩を貸し、山賊のひとりが舌打ちした。
「‥‥残念ね。ここにもうひとりいるわよ♪」
俵を勢いよく突き破り、大宗院鳴(ea1569)がライトニングサンダーボルトを炸裂させる。
山賊は鳴の一撃を喰らって目を回し、ビクビクと痙攣しながら気絶した。
「交渉決裂か。なかなかうまくいかないな」
忍び歩きで山賊達の背後を取り、牙がウインドスラッシュを放つ。
「うわっ! なんだ、ありゃ!?」
牙の手から真空の刃に驚き、山賊のひとりがその場にしゃがむ。
「ひょっとして冒険者と戦った事がないのかな?」
ふわふわと飛びながら仲間達の戦いを見守り、ミコが不思議そうに首を傾げる。
ミコの傍には弓を持った山賊がいるが、牙がウインドスラッシュを使った事で腰を抜かしているようだ。
「その方が好都合なんじゃない? あんまり抵抗すると私だって手加減は出来ないからね。捕まえるつもりが勢いあまって‥‥という事もあるから」
逃げ出そうとしていた山賊の逃げ道を塞ぎ、ライゼン・フュラー(ea4095)が素早く当て身を食らわせる。
逃走経路を予想して先回りしていた事もあり、山賊達も驚き動揺しているようだ。
「まずは弓矢を持った山賊からだ」
大きな木の後ろに身を隠し、ライゼンがイリュージョンを唱える。
それと同時に山賊のひとりがパニックに陥り、その場でジタバタと空を掻く。
「悪いね‥‥、これも仕事でね」
山賊から弓矢を取り上げ、ライゼンが当て身を食らわせる。
「大人しく捕まってくださいね♪」
馬に乗って微笑みながら、桜花が日本刀を引き抜いた。
「ぶっ殺してやるっ!」
動揺した様子で矢を番え、山賊のひとりが律吏を狙う。
「やっぱり暴力はいけないよね」
自ら律吏の盾となり、鋼丸がニコリと微笑んだ。
「無茶な真似を‥‥。これが毒矢だったら死んでいたぞ」
鋼丸の肩に突き刺さった弓矢を引き抜き、律吏がほっとした様子で溜息をつく。
「僕にできるのはこれくらいだからね‥‥。平気だよ、頑丈なのが取り柄だし」
リカバーを使って傷を癒し、鋼丸がゆっくりと立ち上がる。
「ひっ、ひぃ!」
山賊も鋼丸の強靭さに驚いたのか、身体をブルブルと震わせた。
「なるべく手加減した方がいいかしら?」
ライトニングサンダーボルトを放つフリをして山賊達の動揺を誘い、鳴が素早く懐の中へと潜り込みフェイントアタックで蹴りを放ち山賊のひとりを気絶させる。
「‥‥謀られていたというわけか。お、覚えてやがれっ!」
慌てた様子で森に逃げ、山賊のボスが捨て台詞を吐き捨てる。
「仲間をおいて逃げる気か。随分と薄情な奴だな」
森の中から姿を現し、ニライがホーリーを使って山賊を倒す。
そのため山賊のボスは困った様子で拳を握る。
「‥‥汚い奴め。娘は返したはずだ」
何度も左右を警戒しつつ、山賊のボスが辺りを睨む。
本当ならすぐにでも逃げ出したいのだが、冒険者達に囲まれ逃げ出す事が出来ないらしい。
「悪党が‥‥。貴様に何か語る資格はないっ! うおおおおおおっ!」
雄たけびをあげながらボスの持っていた太刀を蹴り上げ、正和が太刀を抜刀するとソニックブームを叩き込む。
「ぐぼあっ!」
正和の一撃を喰らって後ろに吹き飛び、山賊のボスが血反吐を吐く。
「何をボヤッとしてやがるっ! 早く奴らをブッ倒せ!」
それでも何とか立ち上がり、山賊のボスが怯える手下に命令を下す。
「で、でも御頭! こいつら妙に強いですぜ」
逃亡資金を貰って薔薇色の人生を思い描いていた事もあり、山賊達の戦意はほとんどゼロに近い。
「この役立たずがっ!うむむ‥‥、こうなれば」
いまにも腰を抜かしそうになりながら、山賊のボスが手下を盾にして作戦を練る。
「覚悟するんだな! この手の焔は我輩の怒り! 今! 必殺の!!」
そしてゴルドワはヒートハンドを使ってボスの顔面を素早く掴み、そのままホールドに移って相手を気絶させるのであった。
「大丈夫?」
山賊達の身体を縛り終え、鋼丸が娘にむかって声をかける。
「ええ‥‥」
娘は怯えた様子で鋼丸を見つめ、小さくコクンと頷いた。
「わたくしも誘拐された時の参考にしたいので、誘拐された時の状況を教えていただけませんか」
ぽわぽわとした様子で、鳴が娘にむかって話しかける。
すると娘は口篭り、気まずい様子で視線を逸らす。
「まだ捕まっている時のショックが残っているらしい。そっとしておいてやろう」
鳴の肩をポンと叩き、ニライが静かに首を振る。
「依頼主の所まで送っていこう。帰り道‥‥どんな危険があるかも分からんしな」
山賊達のアジトを調べ終え、牙がそっと手を差し伸べた。
アジトにはこれといっためぼしい物はなく、逃亡資金に困って犯行に及んだ可能性が高い。
「夜も更けてきたしね」
遠くから聞こえる狼の遠吠えを耳にして、ミコが娘のまわりをクルクルと飛び回る。
「その前に着替えなきゃ。新しい服を持って来たよ。あんな不衛生な場所じゃ服も汚れたろ?」
そう言ってライゼンが依頼主に頼んで用意してもらった服を渡す。
すると娘は辺りをキョロキョロと見回し、盗賊のアジトで服を着替えて戻ってくる。
「これで任務完了だな。せっかくだから追加報酬でも要求しておくか。渡すはずだった米を渡さずに済んだのだから‥‥」
山賊のアジトにめぼしいものがなかったため、正和が次の標的を依頼主に選ぶ。
「それは難しいと思いますよ。もともと私達の役目は娘さんを救う事ですし、そのために米や宝石を借りたのですから‥‥」
自分の馬に餌を与え、桜花がニコリと微笑んだ。
正和は力づくでも依頼主から追加報酬を貰うつもりのようだが、そんな事をしたら役所に突き出されるのがオチだろう。
「それじゃ、報酬を貰ってくるか。マサカズ殿が希望するほどたくさんは貰えんが‥‥」
そしてニライは山賊達の縄を引き、山を降りていくのであった。