●リプレイ本文
(「うわっ‥‥。まさかあれが藁の家!?」)
藁の家に火をつけるため一郎の家までやって来たのだが、藁の家があまりにもお粗末だったため、アーク・ウイング(ea3055)が困った様子で汗を流す。
豚鬼戦士の棲む家は風で藁が飛んでしまっている事もあり、一郎が申し訳なさそうな表情を浮かべながら体育座りで家の中に座っている。
(「‥‥物凄くこっちを見ているし‥‥」)
最初はブレスセンサーを使って一郎の位置を確認するつもりでいたのだが、既に一郎と目が合っているため気まずい様子で油を隠す。
(「‥‥やっぱりふたりずつで行動した方が良かったのかな?」)
いまさら引き返す事も出来ないため、アークがジリジリと藁の家に近づいていく。
それと同時に一郎が両手に藁を持ち、隙間からアークを睨みつける。
(「あれじゃ、顔しか隠れてないよ。ど、どうしよう。みんな作戦を開始している頃だしなぁ‥‥」)
わざと一郎が見えていないフリをしながら、アークが藁の家に油を撒いていく。
一郎はアークが気づいていないと思ったため、怪しくニヤリと口元を歪ませる。
(「うわっ‥‥、まだ見てる。だ、大丈夫かなぁ‥‥)。
ようやく油を撒き終わり、アークが額に浮かんだ汗を拭う。
一郎は両手に藁を持ったまま、ずっとアークを睨んでいる。
(「ど、どうしよう。木の家はここから離れているしなぁ‥‥」)
作戦が失敗した事を実感し、アークが乾いた笑いを響かせた。
とても気まずい空気に包まれながら‥‥。
‥‥同時刻。
(「ここが次郎の家か。随分と頑張ったようだね」)
斜めに傾いている次郎の家に辿り着き、ファラ・ルシェイメア(ea4112)が溜息をつく。
次郎の家は適当に木を打ちつけただけのため、今にも崩れ落ちそうな雰囲気である。
(「このまま火をつけても、まったく問題なさそうだな」)
次郎の家を一回りして辺りの状況を確認し、ファラが風向きなどから村に被害が及ばないか調査した。
幸いな事に次郎の家は村から少し離れている事もあり、風向きが大幅に変わらない限り村に被害が出る事はないようだ。
「ぶひっ‥‥」
家の周りで足音がしたため、豚鬼戦士がヒョッコリと顔を出す。
「や、やぁ‥‥」
次郎とバッチリ顔が合い、ファラがボソリと呟いた。
最初は次郎も胡散臭そうにファラの顔を見つめていたが、何かを思い出した様子で掌をポンと叩き、慌てて家の中へと入っていく。
「‥‥風よ」
次郎が武器を取りに行ったと思ったため、ファラがすぐさまストームを発動させる。
次の瞬間、次郎の家は舞い上がり、バラバラと木の破片が降り注ぐ。
「ぶひっ‥‥」
両手に木を持ったまま、次郎が大粒の涙を流す。
よほど家が壊れた事がショックなのか、巨大な槌を握り締め身体をプルプルと震わせている。
「‥‥凍りつけ。あ、あれ‥‥?」
アイスコフィンを覚えていなかったため、ファラが魔法を使用する事が出来ず、次郎の振り下ろした槌をかわす。
「何とか時間を稼がないと‥‥。最悪な事態になる前に‥‥」
そしてファラは次郎の事を睨みつけ、ライトニングを使用した。
一方、その頃‥‥。
「また面倒な依頼だな‥‥。まっ、せいぜい憂さ晴らしさせてもらうかね}
村人達の避難を終えて三郎の家に辿り着き、アーウィン・ラグレス(ea0780)が仲間達と一緒にまわりを囲む。
「‥‥たくっ。こんな朝っぱらから、豚の相手かよ‥‥女っ気ゼロだな、おい‥‥」
あまりにも女っ気がないため、夜神十夜(ea2160)が疲れた様子で溜息をつく。
三郎の家は土壁で作られており、意外と丈夫そうである。
「何だか壊すのも悪い気がしますね。かなり苦労して作ったようですし‥‥」
苦笑いを浮かべながら、三笠明信(ea1628)が大粒の汗を流す。
土壁を見ているだけでも三郎の苦労が分かるため、だんだん壊そうと思う気持ちが薄れていく。
「‥‥仕方ないさ。このまま豚鬼戦士に居座られても困るしな。ここで私情を挟むとやりづらくなるぞ」
何処か割り切った表情を浮かべ、十夜が明信の肩を叩いて首を振る。
「それもそうですね。わざわざ村人達の領域を侵してまで、ここに家を建てたという事は豚鬼戦士達にも、それなりの覚悟があるはずですし‥‥」
ようやく決心がついたため、明信が気合を入れて三郎の家を睨む。
これだけ冒険者の数が多いと、三郎の方も気づいているかもしれないが、未だに家の中から出てこない。
「家の丈夫さを確かめるため、こちらの攻撃を待っているのかも知れませんね。‥‥やりましょう」
ウォーターボムで土壁の強度を落とし、山本建一(ea3891)が仲間達に向かって頷いた。
「ちわーっす。解体屋でーすっ! 豚小屋の解体に来ましたーっと」
肩に槌を担ぎながら、十夜が三郎に向かって声をかける。
三郎は既に気づいているらしく、家の中から『ぶひっ?』と可愛く返事をした。
「さて、準備は出来たか? ‥‥んじゃ、行くぜ!!」
大斧を構えてスマッシュを放ち、アーウィンが入り口の扉をふっ飛ばす。
三郎はキョトンとした表情を浮かべ、アーウィンの顔をマジマジと見つめている。
「少し眠っていてくださいね」
反撃されないように三郎の顔を槌で殴り、明信が家の中から土壁の家を壊していく。
三郎は鼻血を辺りに撒き散らし、グルグルと目を回しながら気絶する。
「このまま一気にぶっ潰すぞ! 早く逃げろ!」
四隅の柱を攻撃し、十夜が明信を外に出す。
それと同時に三郎の家が崩れ落ち、グシャリと嫌な音が辺りに響く。
「あ、あれは‥‥」
何かの異変に気づいたため、健一が馬に駆け寄り金棒を握る。
「ご、ごめんなさぁ〜い。やっぱりひとりじゃ、無理だよぉ〜!」
一郎から必死で逃げながら、アークが健一の後ろに隠れて汗を流す。
何とかひとりで一郎を倒そうと思っていたのだが、予想以上に相手の実力が上だったため仕方なく逃げてきたらしい。
「‥‥そっちもか」
次郎にライトニングを放って後ろに下がり、ファラがチィッと舌打ちした。
一郎と次郎は三郎が家に下敷きになった事を知り、怒りに満ちた表情を浮かべて槌を握る。
「それじゃ、戦闘開始と行こうじゃねえか!」
サイドスイング(チャージング+スマッシュ)を放って次郎を殴り、アーウィンがニヤリと笑って血を払う。
次郎はバランスを崩して血反吐を吐き、恨めしそうな表情を浮かべてアーウィンを睨む。
「‥‥マズイ事になりましたね」
険しい表情を浮かべながら、明信が一郎の頭を槌で殴る。
一郎は頭をフラフラとさせているが、怒りのためか気絶する様子は全くない。
「マ、マジかよ‥‥。シャレにならねぇな」
次郎の一撃を槌で受け止め、十夜が大粒の汗を流す。
彼らは連携攻撃を得意としているらしく、一郎と次郎の動きに無駄はない。
「油断しないでいきましょう」
バーストアタックを使って次郎の槌を弾き飛ばし、健一がフラつきながら汗を拭う。
武器を失った事で次郎は険しい表情を浮かべ、健一を威嚇するようにして『ぶひっ!』と鳴く。
「このまま焼き豚になれ!」
近距離から次郎にライトニングサンダーボルトを叩き込み、アークがホッとした様子で溜息をつく。
次郎はこんがりと狐色に焼け、ジューシーな香りを漂わせる。
「ぶ、ぶひっ」
それと同時に一郎が槌を放り投げ、悲鳴を上げて逃げていく。
「雷よ‥‥貫け!」
一郎の背後からライトニングを放ち、ファラがすぐさま後を追う。
「やめておけ。あの森は魔物の巣窟だ。迂闊に深追いしたら、返り討ちに遭うのはこっちだぞ」
ファラの肩を素早く掴み、アーウィンが黙って首を横に振る。
このまま追う事も可能だが、森の中に罠を張っている可能性もあるため、ここで油断は禁物だ。
「とりあえず残った家を壊しましょう。依頼の目的を果たすため‥‥」
主を失った家を見つめ、明信が松明を握り締める。
すべてを無に帰するため‥‥。
‥‥明信は残った家に火をつける。