●リプレイ本文
「今度の相手は山賊か。‥‥今まで相手取ってきたような街のゴロツキや怪物どもと比べて、かなりやりづらい相手だな。さすがに今回ばかりは『命を奪わずに』という事は出来ないだろう。力なき人々を救うため、覚悟を決めてかからねばな‥‥」
エチゴヤで木盾が売り切れていたため、変わりに大き目の板に穴を開けて即席の盾を作り、雷山晃司朗(ea6402)が水で湿らせた布を張る。
「それじゃ、少し懲らしめる程度と言う考えは捨てるべきなんですね。人を斬る‥‥のは初めてですが、重圧に潰されないように頑張ります」
ゴクリと唾を飲み込みながら、ラティール・エラティス(ea6463)が覚悟を決めた。
「そんなに緊張する事はない。もしもの場合は‥‥私がやるさ」
ラティールの肩を優しく叩き、晃司朗がコクンと頷き微笑んだ。
「頼りにしてますよ、晃ちゃ‥‥いえ、晃司朗さん」
晃司朗の作った盾を受け取り、ラティールが照れた様子で頬を染める。
色々と心配な事はあるようだが、晃司朗を頼りにして作戦に参加するつもりでいるらしい。
「みんな頑張ろな! 奴らにウチの気軽さ。とくと見せたろやないか!」
拳をギュッと握り締め、音羽でり子(ea3914)が微妙な言い間違いをした。
砦の見張り台には数人の山賊が待機しているのが分かるが、遠すぎてそれ以上の事は分からない。
「よし、これで準備は出来たな。でも、これじゃパッと見エセ侍ってカンジか?」
自分の格好を気にしながら、孫陸(ea2391)が苦笑いを浮かべて呟いた。
飛来する矢から身を守るため、今回初めて武者鎧と武者兜を被ってみたのだが、着慣れていないせいもあり、何となく胡散臭く見えている。
「まぁ、その方が目立つやろ。ウチらの目的は囮やからな」
武者鎧をペチペチと叩き、でり子がニコリと微笑んだ。
「それもそうだな。それじゃ、そろそろ山賊達を引き付けておくか」
そう言って陸がオーラエリベイションを使って仲間達の士気を高め、砦にむかって雄叫びを上げながら弓矢を構えて突っ込んでいく。
山賊達は陸達の姿に気づくと、明かり代わりに光の矢(火矢)を放ち、タイミングをずらして夜の矢(漆黒の矢)を撃ち込んだ。
「なんや鬱陶しいな。火矢はともかく、真っ黒な矢なんて反則やで!」
夜の矢が頬を掠ったため、でり子が大粒の汗を浮かべてツッコミを入れる。
「顔に突き刺さらなかっただけでも、良かったと思った方がいいんじゃないか? だから盾を用意しておいたんだから‥‥」
でり子にむかって自作した盾を投げ、晃司朗がジリジリと見張り台まで近づいた。
「本気で私達を殺すつもりでいるようですね。きゃあ!?」
自作した盾に光の矢が突き刺さり炎に包まれたため、ラティールが驚いた様子で悲鳴を上げて尻餅をつく。
「伏せろ!」
それと同時に山賊達の狙いがラティールに集中したため、晃司朗が彼女に飛びつき身代わりになって矢を受ける。
「だ、大丈夫ですか!?」
晃司朗の身体に突き刺さった矢を見つめ、ラティールが青ざめた表情を浮かべて涙を流す。
「私の事は気にするな。この程度の傷は‥‥かすり傷みたいなものさ」
苦痛に表情を歪ませながら、晃司朗が力任せに矢を引き抜く。
「今ならまだ罪も重くならずにすみます。どうか奉行所や火付け盗賊改め方が動く前にお考えを改めてください!」
悲しげな表情を浮かべ、ラティールが山賊達に声をかける。
「そんな誘いに俺達に乗ると思うか? 死ねぇ!」
ラティールの心臓に狙いを定め、山賊達が一斉に矢を放つ。
それと同時に晃司朗が自作の盾を拾い上げ、彼女を守るようにして草叢に逃げる。
「依頼主からヒーリングポーションを貰っておいて正解だったな。‥‥コレを使え!」
晃司朗にむかってヒーリングポーションを放り投げ、陸が山賊達の的になり彼らの事を援護した。
「とにかくウチらで時間を稼がん事には始まらんからな。みんな気合を入れて頑張るで!」
そして、でり子は岩陰から飛び出すと、山賊の攻撃が一点に集中しないようにするため、なるべくバラけて行動するのであった。
「見張りは表に気を取られているようやわ」
暗闇の中でも目立たないようにするため、西園寺更紗(ea4734)が全身黒の衣服に統一し、息を殺して村の中へと忍び込む。
村の中は異様に静まり返っており、山賊達の笑い声だけが聞こえている。
「今のうちに村人達を助けてあげよう。その後に民に危害を加える輩は神皇様に代わってお仕置きしないとね」
見張り台から見えづらい位置を選び、楠木麻(ea8087)がウォールホールを使ってトンネルを掘る場所を決めておく。
「これで逃げ道は確保したな。後は人質となっている村人達の解放か」
村人達の囚われている納屋の傍まで近づき、九十九嵐童(ea3220)が物陰から様子を窺った。
納屋の前には見張りがふたりいるらしく、騒がれると非常に厄介そうだ。
「しかし‥‥山鬼を恐れるあまり、山賊を招き入れたんじゃどうしようもないな」
物陰から物陰へと移動し、月代憐慈(ea2630)が苦笑いを浮かべて呟いた。
表が騒がしくなってきた事もあり、納屋で見張りをしている山賊達も気になり始めているらしい。
「まさか山賊が依頼を引き受けに来るとは思わなかったんじゃないのかな? 山鬼の相手をするので一生懸命だったようだし‥‥」
苦笑いを浮かべながら、白井鈴(ea4026)が村人達に同情する。
状況だけならコントのような話だが、被害を受けた村人達からにすればシャレにならない状況だ。
「とにかく見張りを何とかしないとね」
敵の数が少なければグラビティーキャノンで纏めてぶっ放すつもりでいたが、予想以上に山賊達がいたため麻が短弓を構えて物影に隠れる。
「依頼人の話が正しければ、後ろから回りこめるな。呼子を吹かれた場合、こちらの不利になるが、なるべく悪い事は考えないようにしておくか」
ブレスセンサーを使って見張りの人数を改めて確認し、憐慈が納屋まで忍び歩きで近づいていく。
「それにしても合図がないね。‥‥作戦が失敗したのかな?」
別行動をしている仲間達からの連絡がないため、鈴が心配した様子で汗を流す。
「その可能性が高いかも‥‥」
あちこちで山賊の姿を見かけたため、麻が嫌な予感に襲われ納屋を睨む。
どうやら何かトラブルがあったらしく、山賊達が妙に警戒しているようだ。
「‥‥仕方ない。俺達で村人達を助け出そう」
最悪の結果を想定し、嵐童が見張りの背後まで近づき、スタンアタックを叩き込む。
それと同時に憐慈がもうひとりの見張りをホールドで締め上げ、地面に落ちた呼子を拾ってポケットにしまう。
「‥‥みんな大丈夫か?」
納屋の中に囚われていた村人に声をかけ、嵐童が警戒した様子で辺りを睨む。
「助かった。早くココから出してくれ」
大粒の涙を流しながら、村人達がすがりつく。
「慌てず騒がす、落着いて行動しておくれやす」
村人達の声が大き過ぎたため、更紗が人差し指をピンと立てる。
「皆さん、僕の後をついてきてください。出来るだけ物音を立てずに‥‥」
なるべく人気のない場所を選び、麻が村人達を連れて脱出路にむかう。
村人達を身を屈め、口を押さえて後に続く。
「結果的に山賊達に村を明け渡す事になったな」
麻の作ったウォールホールを通って村から抜け出し、憐慈が寂しそうな表情を浮かべて村を見る。
村人達を助け出す事には成功したが、決して手放しで喜ぶ事の出来ない状況なのは確かなようだ。
「みんな大丈夫やろか?」
仲間達の安否が気になり、更紗がボソリと呟いた。
「武士道とは仲間達を信じる事だと僕は思う。だから今は信じよう」
何処か寂しげな表情を浮かべながら、麻が村人達を連れて次第に村から遠ざかる。
仲間達の安否を確認する事は出来ないが、今は信じるしかないだろう。
「‥‥そうだね。信じよう」
そして鈴は祈るような思いで村を見つめ、仲間達の無事を願うのだった。
「山賊退治は僕達だけのようですね。途中で何が起こるか分かりません。気を引き締めていきましょう」
人質を解放にむかって仲間達の後に続き、月詠葵(ea0020)が警戒した様子で辺りを睨む。
山賊達は焚き火を囲んで酒盛りをしているが、かなり数が多いため全員を相手にするのは無理がある。
「呼子を鳴らして引き付けるのは無理そうだな。2対20じゃ、あまりにも分が悪い」
身体が冷えないようにどぶろくを口に含み、加藤武政(ea0914)が諦めた様子で溜息をつく。
相手が山賊とは言えその数が多いため、失敗すれば確実に命を落とす事だろう。
「まさに命懸けと言うわけですね。せめて村人達が逃げるまでの時間は稼いでおきたいと思いますが‥‥」
村の入り口で監視役の山賊達が騒いでいたため、葵が物影に隠れてしばらく様子を窺った。
山賊達の中には表にむかった者もいたが、大半は宴の場から移動せず暢気に酒を飲んでいる。
「困ったな。これじゃ、村娘を助ける事は不可能だ。さすがに手ぶらで帰るわけにも行かないしな」
寒さで冷えた指を暖め、武政が険しい表情を浮かべて呟いた。
「せめて彼女達だけでも助けてあげたいものですね」
山賊のボスの両脇にいる村娘に気づき、葵がゆっくりと小太刀を抜いて物陰に潜む。
「命をかけられる自信はあるか」
日本刀を握り締め、武政が葵に確認する。
状況的には逃げた方が得策だが、村娘を放っておけるほど冷酷になる事は出来ない。
「‥‥もちろん。覚悟は出来ています」
屈辱に耐え切れず村娘が逃げたため、葵が一気に駆け出し山賊達を斬りつける。
「決して後ろを振り向くな! 迷わず村の外に行け!」
まわりにいる山賊達を斬りつけ、武政が大声を上げて村娘を逃がす。
「言い度胸をしているな。俺達に歯向かうとは‥‥」
血まみれの斧を掴み取り、山賊のボスがゆっくりと立ち上がる。
「それは覚悟の上だっ!」
相打ちを覚悟で山賊のボスにポイントアタックを放ち、武政がわき腹に強烈な一撃を喰らって血反吐を吐く。
「や、やるな」
激痛のあまり膝をつき、武政がニヤリと笑って血を拭う。
「お前‥‥も‥‥な‥‥」
喉から溢れる血を押さえ、山賊のボスが白目を剥いて絶命する。
「よくもお頭をっ!」
それと同時に山賊達が怒り狂い、敵討ちとばかりに武政達の逃げ道を塞ぐ。
「マズイ事になりましたね。‥‥歩けますか?」
フラつく武政に肩を貸し、葵が辺りを睨みつける。
「‥‥大丈夫だ。何とか急所は外れている。まだお迎えは来てないさ」
わき腹から流れる血を押さえ、武政が冗談まじりに微笑んだ。
「それじゃ、全速力で逃げますよ。遅れずついてきてくださいね」
そして葵は小太刀をギュッと握り締め、村の外を目指して山賊達を斬りつけた。
死神達の囁く声を振り払い‥‥。