●リプレイ本文
「オス! 自分、『フトシたん』こと太丹っす。男と絡む以外は何でもやるっす!」
上半身だけ服を脱ぎ捨て、太丹(eb0334)が薔薇を咥えてニコリと笑う。
清十郎は少し残念そうにしていたが、太が疲れないように楽なポーズにさせておく。
「やれやれ‥‥仕方が無い。俺もモデルをやるか‥‥一応俺も筋肉には自信はある。持久力にもな‥‥。鋼の肉体には一応条件は満たしている」
清十郎の前でゆっくりと服を脱ぎ捨て、風月皇鬼(ea0023)がポーズを決める。
皇鬼の裸体に満足したのか、清十郎が嬉しそうに彼の身体を撫で回す。
「一体何処を触ってる!」
恥かしそうに頬を染め、皇鬼が清十郎の頭を殴る。
「い、いや、素晴らしい肉体だと思ってな。惚れ惚れしていた所さ」
苦笑いを浮かべながら、清十郎が気まずい様子で視線を逸らす。
「まさか‥‥おまえ! ‥‥いや、聞かないでおこう」
嫌な予感が脳裏を行進してきたため、皇鬼が大粒の汗を浮かべて口をつぐむ。
「やっぱり兄ちゃん達はサマになるな。俺も頑張らなくっちゃ。えっと‥‥こうかな」
しょたこん・ふぇろもんを撒き散らし、狼蒼華(ea2034)が妙に艶っぽくポーズを決める。
清十郎もこれには驚いたのか、咥えていたキセルをポトリと落とす。
「イイ感じっすね! 清十郎殿も満足そうっす」
感動した様子で蒼華を見つめ、太がニコリと微笑んだ。
「それじゃ、始めるぜ。別に喋っていても構わないぞ。重要なのは身体だからな!」
筆を片手にモデル達の身体を見つめ、清十郎が紙に絵を描いていく。
紙の値段が高い事もあり、かなり気合が入っている。
「‥‥なんか引っかかるな」
清十郎の顔をマジマジと見つめ、皇鬼がダラリと汗を流す。
ずっと嫌な予感はしているが、聞いたら必ず後悔しそうである。
「ところで清十郎兄ちゃんの絵は、ジャパンの伝統のウキヨエなのか? ウキヨエって言うと‥‥色っぽい女の人や、男と女の情事なんかを描いてあるんだろ? 火消しの兄ちゃん達が喜んで見てたぜっ!」
清十郎の描く絵を勘違いしたまま、蒼華が首を傾げて呟いた。
「ちと、違うな。これを見てくれ」
保管してあった絵を取り出し、清十郎が嬉しそうに見せていく。
その絵は何処か艶っぽく、肉体美がメインのようだ。
「ひょっとして清十郎殿は売れっ子の絵師さんですか!?」
尊敬の眼差しを浮かべ、太が清十郎に話を聞く。
「ようやく分かってくれたか。おっと動かないでくれよ」
再び筆を走らせさらさらと絵を描き、清十郎が蒼華の事を注意した。
「い、いや‥‥、ごめん。はははっ‥‥」
清十郎の絵を見つめて青ざめた表情を浮かべ、蒼華が乾いた笑いを響かせる。
(「耐えてみせるさ。何としても‥‥。信じてるぞ、御屋形」)
そして皇鬼は鉄の心でゆっくりと目を閉じ、清十郎の気を散らないようにするのであった。
早くこの苦痛から開放されるため‥‥。
「男の身体なんて何が面白いんだか‥‥どっかいい女でもいないかねぇ‥‥寒っ!」
つまらなそうな表情を浮かべ、夜神十夜(ea2160)が溜息をつく。
先程までデュラン・ハイアット(ea0042)と一緒に外で焚き火に当たっていたのだが、あまりの寒さに身体が凍え毛布を被って囲炉裏に当たる。
「ははは、外はかなり寒いだろう。ここはオンボロ屋敷だが、モデルのために火は絶やさないようにしてあるからな。あっちと比べたら極楽じゃ!」
十夜の姿を見つめてクスリと笑い、清十郎が温かい雑煮を手渡した。
「わ、笑い事じゃないぞ! こっちはこんな思いをしてまで、おまえの警護に当たっているのに!」
不満げな表情を浮かべ、十夜が一気に雑煮を啜る。
「おら、開けんかい、ゴラッ!」
それと同時に外からドスの聞いた声が聞こえ、清十郎は恐怖のあまり飛び上がり、慌てて布団の中へと潜り込む。
「俺にそっちの趣味はないからな」
すぐさま清十郎を蹴り飛ばし、十夜が疲れた様子で立ち上がる。
「‥‥ったく、面倒だな。元はと言えばお前が蒔いた種だろ」
清十郎の表情から取り立て屋が複数いる事を悟り、十夜が呆れた表情を浮かべて溜息をつき、仲間達を連れて取り立て屋達の所へむかう。
「それじゃ後は任せてくれ。本当なら俺様の美しい肉を見せてやりたがったがなぁ‥‥。後で面倒な事になったら洒落にならん。ここは涙を呑んで諦めるか」
ハーフエルフである事がバレないようにするため、アグリット・バンデス(ea9789)が悩みに悩んだ挙句モデルを諦め屋敷を出る。
少し未練があるため悔しそうにしているが、仲間達を巻き込む訳にも行かないため、ここは我慢するしかないだろう。
「なんで、テメェは?」
不機嫌そうな表情を浮かべ、取り立て屋がアグリットのまわりを囲む。
「悪い事は言わねぇ、さっさと帰れ。まだ向かってこようってんなら‥‥わかるよな?」
取り立て屋達を睨みつけ、十夜が指の関節をポキポキ鳴らす。
「相手は一般人だから怪我させんのはさすがにまじぃよなぁ‥‥。俺ぁ殴りあいが好きなんだが‥‥」
相手が一般人だった事もあり、アグリットが拳を振り上げ躊躇する。
このまま殴ってしまうのは簡単だが、相手があの世に行く可能性が高い。
「なんだ、臆したか?」
下品な笑みを浮かべながら、取り立て屋達がアグリットの顔を睨む。
「今、金は無い! 明後日には絵が完成する、それから出直して来い。それまでココを通す訳にはいかん!」
鋭い目つきで取り立て屋達を睨みつけ、不動金剛斎(ea5999)が大きく口を開けてキッパリと断言すると、仁王立ちになって彼らの前に立ち塞がる。
「だったら力ずくでも通してもらう!」
鼻息を荒くしながら袖をまくり、取り立て屋が啖呵を切ってドスを抜く。
「ほお‥‥。貴様、この状況で刀を抜くと云う事が、どういう事か分かっているのであろうなぁ!?」
235cmの巨体を生かして取り立て屋を見下ろし、金剛斎がクリスタルソードを詠唱すると男にむかって警告した。
「まあまあ、ふたりとも。こんな所で喧嘩をしても得する事はないだろう」
取り立て屋達の中から姿を現し、デュランがふたりの間に割って入る。
「何故、奴らの中に‥‥」
驚いた様子でデュランを見つめ、金剛斎が汗を流す。
デュランはしばらく間をおき、腕を組んで考える。
「私の仕事は借金の取り立てをする事だったかな。‥‥違う、取り立てに来る連中を妨害する事だ。‥‥そうか。危うく間違える所だった。危ない、危ない」
依頼の内容を思い出し、デュランが金剛斎の横に並ぶ。
どうやらデュランは外で焚き火をしている最中に、取り立て屋が同業者と勘違いして酒を差し入れてきたため、自然な流れで取り立て屋と行動を共にしていたらしい。
「一体どういう事だ?」
訳も分からずデュランを見つめ、取り立て屋達が真相を確かめる。
「フハハハハ‥‥、借金の取り立てぐらいしか仕事が無く、暇で暇でしょうがない下々の諸君。ごきげんよう、私がデュランだ! 恐ろしい目に合う前に尻尾を巻いて逃げ帰る事をお薦めしよう。私の寛大さに感謝するがいい」
するとデュランはリトルフライを使ってふよふよと飛び上がり、高笑いを上げながら偉そうな態度で取り立て屋を睨む。
「俺達を裏切るつもりか!?」
あからさまに驚いた表情を浮かべ、取り立て屋達が汗を流す。
「君達と一緒にしてもらっては困るな。それに君達では私に指1本触れる事さえ出来ないだろう。フハハハハ!」
大きくマントを翻したのと同時に高速詠唱でストリュームフィールドを展開し、デュランが笑い声を響かせながら取り立て屋達を挑発した。
「よくも俺達の純情を! やっちまえ!」
デュランが完全に仲間だと思っていた事もあり、取り立て屋達が殺意の波動を撒き散らせ、ドスを構えて襲ってくる。
「だから大人しくしろって! 頼むから仕事を増やすなよ」
取り立て屋の頭をハリセンでどつき、十夜が起きれた様子で溜息をつく。
「あーんまりしつけぇと、俺だって我慢の限界ってやつがあっからなぁ。‥‥どうなるか分かんねぇぞぉ‥‥?」
先頭にいた取り立て屋を掴み上げ、アグリットがニヤリと笑う。
随分と手加減はしてあるが、それでは取り立て屋達には効果があった。
「‥‥あまりの恐ろしさに声も出ないか。分かったら荷物を纏めて帰るんだな。借りた金は必ず返す。‥‥安心しろ」
取り立て屋の男を引っ張り起こし、金剛斎がアグリットと並んで仁王立ちになる。
それはまるで目の前に頑丈な門が出来たような感覚だ。
「お、覚えていろ!」
傷ついた仲間に肩を貸し、取り立て屋達が捨て台詞を残して逃げていく。
よほど悔しかったのかデュランに渡した酒を持ち帰り、見えなくなるまでひたすら文句を言い続けた。
まるで悔しい気持ちを吐き捨てるようにして‥‥。
「仕事の最中に逃げ出したくなる‥‥か。まぁ、気持ちは分かるが‥‥」
見張りの交代時間になったため、天城烈閃(ea0629)が清十郎と話をする。
清十郎は絵を描くのに疲れたらしく、早く休憩したいらしい。
「だ、だろ! んじゃ、そういう事で!」
烈閃が納得してくれたと思い込み、清十郎が外に出るため立ち上がる。
「だが、はいそうですかと逃がしてやっては、それこそお前のためにならないからな。しっかり見張ってやるから覚悟しろよ」
清十郎の肩をぽふりと叩き、烈閃が穏やかな笑みを浮かべて襟首を掴む。
「やっぱり駄目か」
ガックリと肩を落とし、清十郎がトボトボと部屋に戻っていく。
何処かで飲み明かすつもりだったのか、なけなしの金を持って外に出ようとしていたらしい。
「ところでおまえは休憩しないのか?」
烈閃が休憩する気配がなかったため、リフィーティア・レリス(ea4927)が不思議そうに首を傾げる。
「いや、こんな状況で休む訳にもいかないだろ」
借りてきた猫のような状態になっている清十郎を指差し、烈閃が苦笑いを浮かべて呟いた。
「それじゃ、俺はこれで!」
まるで他人事のように右手を上げ、清十郎が嬉しそうに出口にむかう。
「一体、何処に行くつもりだ?」
六角棒を片手に出入り口の前で胡坐を組み、阿武隈森(ea2657)が清十郎に激しく睨む。
「ちょっと厠に行ってくる。なぁ、頼むよ」
身体をプルプルと震わせながら、清十郎が涙を浮かべて両手を合わす。
「だったら、ここですればいいだろう」
全く清十郎を信じていないため、森が軽く聞き流し立て掛けてあった桶を置く。
「そんな事をしたら‥‥惚れるかも知れないぞ」
森の右手をギュッと掴み、清十郎が瞳をウルウルさせる。
「どうすれば、そういう話になるんだ。‥‥分かったから行って来い」
これ以上、一緒にいたら何をされるか分からないため、森が頭を抱えて清十郎を外に出す。
清十郎は嬉しそうに手を振ると、少し離れた場所にある厠にむかって歩いていく。
「何だか様子がおかしいな。‥‥まさか」
険しい表情を浮かべ立ち上がり、烈閃が慌てて清十郎の後を追う。
「あっ‥‥」
垣根を越えて逃亡を図ろうとしていた清十郎と目が合い、烈閃が拳を震わせながら梓弓を構えて口を開く。
「おや、何故こんな所に清十郎が‥‥。奴は今、厠のはず‥‥。さては清十郎に化けた妖(あやかし)の類だな。俺の弓で退治してやる」
躊躇する事なく弓を引き、烈閃が怪しく口元を歪ませる。
「ま、待て! 俺は本物だ! ほら、尻尾もないぞ」
狐か狸と間違えられたと思ったため、清十郎が尻をむけて汗を流す。
「‥‥何だ、本物か。今後、勝手な外出は控える事。でなければ、次は本気でお前を射抜いてしまうかもしれないぞ。俺はこう見えてうっかりと失敗をしてしまう事があるからな」
清十郎の足元に弓矢を放ち、烈閃が呆れた様子で溜息をつく。
「何だか騒がしいと思ったら、こういう事か。本当に借金を返すつもりがあるなら仕事しろ」
しばらく仮眠をしていたが、外が騒がしかったため、魅繰屋虹子(ea2851)が目を覚ます。
虹子は清十郎のファンなので、見張りをしている最中ずっと手伝いをしていたのだが、仮眠をした途端にこれなので少し呆れているようだ。
「昼間じゃなくてよかったな。夜じゃなかったらサンレーザーを撃っていた所だ」
清十郎の肩をぽふりと叩き、レリスが屋敷に戻っていく。
「ははははは、それじゃ井戸で顔でも洗ってくるかな」
乾いた笑いを響かせながら、清十郎がクルリと後ろを振りむいた。
「何処に行くつもりですか?」
クーリングで杖代わりにしているスピアを凍らせ、ジャン・グレンテ(ea8799)が清十郎に警告する。
「‥‥モデル達の顔を見ろ。みんな立ったまま眠っているんだぞ」
ずっと放置状態にあったモデル達を指差し、烈閃が清十郎に筆を突きつけた。
「頼むからこれ以上、我侭は止めてくれ。烈閃だって疲れているんだ。それなのにこうして一緒にいるんだぞ。その気持ちを考えてみるんだな」
清十郎の肩を叩き、森が出入り口に黙って座る。
「そうだな。俺は逃げる事ばかり考えていたよ。これからは‥‥いや、今だけは、逃げずに頑張ってみるよ」
自分でも超えられるレベルまで心のハードルを下げ、清十郎がモデルを睨んで熱心に絵を描いていく。
「俺も手伝ってやるよ。目も覚めちまったしな」
苦笑いを浮かべて清十郎の横に座り、虹子が邪魔にならないように完成した絵を退ける。
「惚れるかも知れんが、いいのか?」
虹子の顔をマジマジと見つめ、清十郎が真剣な表情を浮かべて腕を掴む。
「ば、馬鹿言うな! そんな事を言うなら手伝ってやらんぞ!」
耳の先まで真っ赤になり、虹子が恥かしそうに清十郎の頭を叩く。
「ははは、冗談だ。それじゃ、風呂に行ってくる」
虹子の背中をポンポンと叩き、清十郎が手拭いを肩にかけて立ち上がる。
「本当に懲りていませんね。お風呂じゃなくて、三途の川ならご案内しますよ」
再び凍ったスピアを突きつけ、ジャンがニコリと微笑んだ。
「え、遠慮しておくよ。俺も真面目にやりたいんだがな。何だか気分が乗らなくて‥‥」
命の危険を感じたため、清十郎が視線を合わさず気まずく座る。
「‥‥言い訳は後で聞こう。考える時間があるなら、絵を描く時間に使え」
清十郎の背後に座り、レリスがキツイ一言を言い放つ。
「分かったよ。お前達が腰を抜かすほど、いい絵を描いてやる。驚くんじゃねえぞ!」
鼻息荒くモデルを睨み、清十郎が再びスラスラと絵を描いていく。
「やれば出来るじゃないですか。期待してますよ!」
そしてジャックはニコリと笑い、遠くから清十郎を見守った。
その後、清十郎の絵は完成し借金を返済した後、残った収入で今回の報酬が支払われたらしい。