●リプレイ本文
「五平殿‥‥いかに効果があったと言え、雷電うなぎで風呂などと‥‥危険過ぎるぞ」
雷電ウナギの捕獲に同行した五平にむかって声をかけ、ルミリア・ザナックス(ea5298)が大粒の汗を流す。
雷電ウナギの電撃は冒険者にとっても危険なため、五平達のような一般人では命の危険すらあるだろう。
「大丈夫だ! 雷電風呂が安全なのは、おらが身を持って保障する!」
自分の胸をポンと叩き、五平がランランと瞳を輝かせる。
冒険者が来ると聞いて安心したのか、村人達は全く手伝いに来ていない。
「いや、それが一番心配なんだって! おまえマゾなんだろ」
ジト目で五平を睨みつけ、巴渓(ea0167)がボソリと呟いた。
「何を言ってるだ! おら、マゾじゃない!」
驚いた様子で巴を見つめ、五平が慌てて身体を隠す。
「つーか、コレはなんだ?」
肩に残った縄の跡を睨みつけ、鷹波穂狼(ea4141)が鋭いツッコミを入れた。
「こ、これは仕事の‥‥夜の仕事の跡だべ」
あからさまに動揺し、五平が困った様子で首を振る。
「夜の仕事って‥‥随分とハードなようですね」
うまい言葉が見つからず、夜枝月奏(ea4319)が疲れた様子で視線を逸らす。
「まぁ、五平殿の本職にはこの際、触れないでおこう。今は雷電ウナギを捕まえる事を考えないといけないしな」
だんだん嫌な空気が漂ってきたため、ルミリアがさらりと話題を変える。
「一応、防寒対策はしておけよ。俺は常日頃、寒風の中で漁を手伝っているから慣れているけど、あんたらは違うだろ。とりあえずこれを着ておけよ」
仲間達に防寒具と酒を手渡し、穂狼が凍えた両手を暖める。
「最低でも一匹は捕まえておかないとな。村人達に危険を訴えるためにも‥‥」
雷電ウナギの棲む湖を見つめ、ルミリアが大きな溜息をついた。
取り過ぎた場合は蒲焼にするつもりらしく、調理道具一式の湖の傍に置いておく。
「さすがに相手が水の中じゃ、蹴りや拳は届かんな。さて、どうするか」
湖の中を覗き込み、巴が困った様子で腕を組む。
「だからと言って潜って獲るわけには行かないだろ?」
竹は電気を通さないため、ルミリアが竹を使ってウナギを運ぶ道具を作る。
念のため竹槍も作っておき、ひとつは巴に渡しておく。
「うっし、気合をいれるぜ!」
褌とさらしで寒風に身を曝し、穂狼が気合を入れて湖を睨む。
湖の中には雷電ウナギがいるはずだが、湖面に現れそうな気配はない。
「試しにこれも沈めておきますね」
たくさんの葉がついた枝をたくさん集めてロープで纏め、奏が湖まで持って行きなるべく音を立てないように沈めていく。
この罠で雷電ウナギが引っ掛かるかどうかは不明だが、保険の意味も込めて沈めておくらしい。
「それじゃ、そろそろ始めるか」
思いっきり大槌を振り上げバーストアタックEX+スマッシュEXで水面に打ち込み、ルミリアがその衝撃で雷電ウナギを浮かび上がらそうと試みる。
それと同時に無数の魚が浮かび上がり、雷電ウナギ達が驚き湖全体に雷撃を放つ。
「皆さん、あれをみてください」
湖面に雷電ウナギが見えたため、奏が素早く指差した。
「よし、一気に追い込むぜ!」
湖面にむかってオーラショットを叩き込み、巴が雷電ウナギの逃げ道を塞ぐ。
「そこだっ!」
それと同時に巴が瞳をキラリと輝かせ、すぐさま竹槍を投げ飛ばす。
「まずはいっぴきだな。‥‥ん? 生きてるか?」
湖面に落ちた雷電ウナギを網ですくい、ルミリアが慌てた様子で竹槍を抜く。
残念ながら竹槍の一撃によって雷電ウナギは死んでしまったが、湖の中には何匹も居るためまだまだチャンスはあるようだ。
「急所を外したつもりなんだけどなぁ。ひょっとして大当たりってヤツか?」
グッタリとしている雷電ウナギの顔をジッと見つめ、巴が大粒の汗を浮かべて溜息をつく。
死んでしまった雷電ウナギは蒲焼にすればいいのだが、頑張って捕まえたものなのでショックはかなり大きいようだ。
「ウナギはやっぱ食べるのが一番だぜ! 健康の為にもな!」
巴の肩をポンポンと叩き、穂狼が豪快に笑う。
「まだ時間もありますしね。‥‥あ」
そして奏は湖の中で恍惚とした表情を浮かべる五平を見つけ、その場で凍りつくのであった。
「‥‥ようやく帰ってきたようだな」
仲間達が帰ってくるまで馬に乗って十文字槍で案山子を真っ二つにする芸を見せ、マグナ・アドミラル(ea4868)がホッとした様子で溜息をつく。
捕獲するまでかなり時間がかかったらしく、たくさんのお土産を持って帰って来た。
「風呂を世話して貰ってオマケにウナギまで馳走してくれるたぁ、何とも美味しい仕事だよな」
勘違いしたまま依頼に参加し、平島仁風(ea0984)が豪快に笑う。
「あ、あの‥‥。確か生贄って聞きましたよ」
仁風の袖をチョイチョイと引っ張り、カリン・シュナウザー(ea8809)がツッコミを入れる。
「い、生贄って何だ‥‥?」
一瞬、聞きなれない言葉が鼓膜を刺激したため、仁風の動きがピタリと止まって汗を流す。
「ひょっとして‥‥何も知らなかったんですか?」
落ち込む仁風の肩を叩き、カリンが苦笑いを浮かべて呟いた。
「し、知らなかった‥‥」
ガックリと肩を落とし、仁風が脳味噌をフル回転させる。
その事を踏まえて考えると、何とも損な役回りだ。
「それにしても生贄っていうけど、お風呂に入れば良いだけなんだよね。何で生贄なんだろう? 喪ちゃんにぐるぐる巻きにされて庭先に吊されるのとどっちが辛いかなぁ」
いまいち内容を理解していないため、白井鈴(ea4026)が首を傾げて考える。
少しマゾな所があるため、雷電風呂をあまり危険視していない。
「さて‥‥。それじゃ、一番風呂はわしが戴くとするか」
節分に因んで赤鬼の格好に扮し、マグナが手拭いを担いで風呂に入る準備をする。
「いや、先に入るのは俺だ! 冬場になるってぇと背中の古傷がチリチリ疼くんでよぅ。物は試しに五平ちゃん おススメのウナギ風呂にでも漬かってみるか」
右肩後ろから左腰にかけてザックリとある古傷を強調し、仁風が景気づけに一杯飲むと最初に雷電風呂を試してみた。
「何にも反応がないようだね。ひょっとして眠っているのかな?」
仁風に続いて風呂に浸かり、鈴が不思議そうにウナギの様子を確認する。
大半のウナギは弱っていた事もあり、ほとんど動く事はない。
「は、はうっ!(なんか私見られてる‥‥? も、もしかして私がハーフだからですかっ!? だから変な目で見られちゃってるんですかっ!?)」
肌を出すのが恥かしいため、湯浴着を着て風呂に入っていたのだが、村人達の視線を一身に浴びたため、カリンが混乱しそうになる。
「なんだ、それほど‥‥おおおおおおおおおおおおおお!!?」
それと同時に雷電ウナギが電撃を放ち、骨が見えるほどの勢いで仁風の身体が痺れていく。
「ど、ど、ど、どうやら‥‥ウナギが‥‥目を‥‥さ、さ、さ、覚ましたみたいだね」
目の前にお星様が出るほどビリビリ痺れ、鈴が嬉しそうな表情を浮かべて笑みを漏らす。
「きゃああああ‥‥、か、身体が‥‥」
強化しそうになった途端に電撃が走り、カリンが身体を震わせバタリと倒れる。
「ぐおぉぉぉぉ‥‥」
激痛のあまり顔を歪めて鬼のような形相を浮かべ、マグナが村人達に手を伸ばし雷電温泉の危険性を訴えかけた。
「ひ、ひびれる‥‥。もとい、痺れるぜ。‥‥ウナギだけあって、フグとは違うのだよ、フグとは…グフっ」
命からがら風呂から飛び出し、手足をピクピクと痙攣させながら、仁風が最後の力を振り絞りシャレを言って気絶する。
村人達は唖然とした表情を浮かべ、五平のまわりから離れていく。
「そんなに危険かなぁ? とっても気持ちいいと思うけど‥‥」
天にも昇るような気持ちになったため、鈴がひとりで雷電風呂を絶賛する。
「き、危険です! 絶対に!」
ようやく意識を取り戻し、カリンがグルグルと目をまわす。
「この風呂だけは‥‥やめておけ」
そしてマグナはブクブクと泡を吹きながら、空にむかって右手を伸ばしパタリと意識を失った。
まるで天に助けを求めるかのようにして‥‥。
「まぁ、相性の良し悪しはあるようだが、いかにも効きそうな感じがするだろ?」
雷電風呂に入った冒険者達を後ろに隠し、五平が満面の笑みを浮かべて村人達を説得する。
村人達の大半は不安そうな表情を浮かべ、あまり五平の言葉は信じていない。
「はっきり言わせてもらいます。雷電うなぎを医療に使う‥‥着眼点は悪くないですが、危険性が高過ぎますよ」
村人達が答えに困っているため、風御凪(ea3546)がキッパリと答える。
「‥‥危険性? これを見ていっているのか?」
一番元気な鈴の手を引っ張り、五平が凪に対して反論した。
「本気で言っているのか? ‥‥信じられん」
五平を睨みつけながら、ウェントス・ヴェルサージュ(ea3207)が大きな溜息をつく。
素直に納得してくれるとは思っていなかったが、ここまで気づいていないとは驚きだ。
「俺は五平さんの腰痛・神経痛・肩こりなどの治療に電撃を使うという考え方は実際効果があるわけだし否定するつもりはありません。しかし、雷電うなぎを使う治療法は発せられる電力も強く加減が効かず危険だから、考え直す必要があると思いますよ」
五平の事を説得するため、凪が問題点を指摘する。
「そんな馬鹿な! 俺は大丈夫だったぞ!」
信じられないといった表情を浮かべ、五平が凪を睨んで文句を言う。
「あんたが耐えられた治療とはいえ、他の者達に効くとは限らない。仮に効いたとしても、相手は電撃を持っている。それが人体に及ぼす影響はやはり危険だと思うんだ。そこまで言えばあんただって分かるだろ?」
五平が納得していないため、壬生天矢(ea0841)が念を押す。
「それでも分かってくれないのなら身体で‥‥。あっ‥‥、五平さんはマゾでしたね。悦ばせてしまっては、意味がありませんか‥‥」
爽やかな笑みを浮かべながら、瀬戸喪(ea0443)が五平の肩を優しく叩く。
喪の右手には既に鞭が握られているため、五平もゾクゾクしているらしい。
「ほら、あそこの者達を見てみなよ。どんな表情だ? 癒されてる表情をしてるかい?」
未だにグッタリとしている仲間達を指差し、天矢が苦笑いを浮かべて呟いた。
「分かっただろ? 冒険者達でさえこんな状況なんだぞ。村人達を殺す気か?」
青ざめた表情を浮かべる五平を見つめ、ウェントスがキツイ言葉で叱りつける。
五平もようやく自分の間違いに気づいたのか、ショボンとした様子で肩を落とす。
「約束してくれますか? 雷電風呂は諦めると‥‥。もちろん、嫌ならそれで構いませんよ。身体に教え込むだけですから‥‥」
五平の身体に指を這わせ、喪がサディスティックな笑みを浮かべる。
「ま、迷うなぁ‥‥」
背中をゾクゾクとさせながら、五平が真剣な表情を浮かべて腕を組む。
「正気か? 呆れたな」
五平が馬鹿な事を言ったため、ウェントスがしばらく言葉を失った。
「雷電風呂さえ止めてくれれば、あとはお望みのままに‥‥」
五平の耳元で囁くようにして、喪がクスリと笑って遠ざかる。
「そっちは交渉成立だな。あとは千兵衛じいさんか」
小刻みにリズムを取っている千兵衛じいさんの顔を見つめ、天矢が雷電風呂の前に立ち両手を開いて道を塞ぐ。
「爺さん‥‥。もう若くないんだ、そう張切るなよ。それに年寄りにさら湯は毒って言うじゃないか」
千兵衛じいさんが次々と服を脱ぎながら近づいてきたため、天矢が疲れた様子で溜息をつくと何とか説得しようと試みる。
「どうやら聞こえていないようですね。‥‥分かりました。作戦を変えましょう」
そう言って凪が千兵衛さんの背後に回りこみ、医療針を使ってツボを刺激し腰痛の痛みを和らげた。
「お‥‥ああ‥‥」
いつの間にか腰の痛みが取れたため、千兵衛じいさんが驚いた様子で凪を見る。
「これ一本あれば雷電風呂に入る必要なんてないんですよ」
医療針をキラリと輝かせ、凪が小さくコクンと頷いた。
千兵衛じいさんは凪の言葉に納得したのか、後ろ向きになると次から次へと服を着始める。
「まるで何かの人形みたいですね」
そして喪はホッとした様子で溜息をつくと、五平と一緒に何処かへと姿を消すのであった。