●リプレイ本文
「皆さん、どうしてこちらばかり見ているんでしょうね? ここは混浴ですし何もおかしな事はないはずですが‥‥」
男性陣の視線を一身に浴び、十六夜桜花(ea4173)が一糸纏わぬ姿で温泉に浸かる。
この温泉は混浴であるのだが、女性はみんな肌を隠しているため、男達の視線が桜花に集中しているようだ。
「せめて胸だけでも隠したらどうだ? さすがに目立つし、怪しまれる」
気まずい様子で視線を逸らし、田島泰二(ea0866)が大きな溜息をつく。
温泉の管理人から詳しい話を聞いたのだが、誰かが温泉の水を汲んでいた事は知らなかったらしく、これといった情報は得られなかった。
「は、恥ずかしいですが、父様の教えは絶対なのです」
ほんのりと頬を染め、桜花が自分自身を納得させる。
恥ずかしい事は確かだが、ここで父の教えを破るわけにはいかないようだ。
「オッス、オイラ、ゆーりぃ! 愛と勇気と三味線だけが友達なのだ。悪い奴らはオイラが月に代わってお仕置きしちゃうのだ★」
男性客に手を振りながら、ユーリィ・アウスレーゼ(ea3547)がザブンと温泉に浸かる。
ユーリィは温泉に使っているにも関わらず、少し変わった格好をしているため、他の客から怪しい人物として認識されているらしい。
「調査‥‥がんばるっ!」
拳をぎゅっと握り締め、紅月将(ea3577)が闘志を燃やす。
少しだけ桜花の裸体が気になるが、いまは調査が優先だ。
「それにしても随分と客がいるなぁ。これじゃ誰が怪しいのか見当すらつかないぜ」
辺りをキョロキョロと見回しながら、泰二が怪しい人物を探す。
怪しさだけなら自分の仲間達も負けてはいないのだが、さすがに仲間達を犯人に仕立て上げるわけにはいかない。
「僕が住んでたとこはね、温泉ってなかったのーoo(><)oo」
感動した様子で温泉を見つめ、将がバシャバシャと泳ぐ。
「負けないのだー!」
将に続いてバシャバシャ泳ぎ、ユーリィが怖いお兄さんの背中に当たる。
「お兄さん、すごい‥‥‥‥」
たくましい漢の背中をじーっと見つめ、将がしばらくウットリした。
「なんだ、お前は?」
険しい表情を浮かべながら、男達がユーリィを睨む。
「わ、悪いな。ふたりとも温泉が珍しくて‥‥」
男達にむかって頭を下げ、泰二がふたりを捕まえる。
「おにーさん、何してるの? ここのお水って飲んでもそれほど効能なさそーだよ?」
男達の持っていた小さな樽に気づき、将が不思議そうに覗き込む。
すると男達は気まずい様子で視線を逸らし、慌てて小さな樽を後ろに隠す。
「さっきまで温泉に、ムキムキマッチョなおにぃさんの集団が入っていたのだー! きっと漢くさい汁がたっくさん含まれていると思うのだ〜〜! 漢汁を、不老長寿の水と偽るなんて駄目なのだ!」
男達の持っている樽を指差し、ユーリィが腹の底から大声を上げる。
「ば、馬鹿っ! 大声を出すんじゃねぇ! バレたらどうする気だっ!」
慌てた様子でユーリィの口を塞ぎながら、男達がしぃーっと指を立てた。
「まさか‥‥この人達が‥‥」
途端に男達を警戒し、桜花がジリジリと間合いを詰める。
「‥‥敵か」
男達が逃げないように殺気を放ち、泰二がゴクリと唾を飲み込んだ。
「バレちゃ仕方ねぇ! ここにいる奴らもまとめて、ぶっ殺してやるっ!」
ユーリィを人質にして辺りを睨み、男達が隠し持っていた刀を抜く。
「こんな場所で刀を振り回したら、あっという間に錆びちまうぞ‥‥」
大きな溜息をつきながら、泰二が拳を握り締める。
相手の数が多いためこちらに勝ち目はないのだが、このまま他の客まで巻き込むわけにはいかない。
「皆さん随分とストレスがたまっているようですね。もしよろしければ‥‥私と‥‥そのぉ‥‥」
上目遣いで男達の顔を見つめ、桜花が身体をモジモジさせる。
「‥‥分かっているじゃねえか」
いやらしい笑みを浮かべ、男達が桜花の事を取り囲む。
「その前に物騒なモノはしまってください‥‥。そんなものがなくても抵抗したりしませんから‥‥」
恥ずかしさのあまり表情に出そうになりながら、桜花が男達の持っている刀をそっと指差した。
「そりゃ、そうだな。それじゃ、楽しませてもらうとするか」
納得した様子で刀を置き、男達がいやらしい笑みを浮かべて桜花に迫る。
「えいっo(><)o!」
背後から男達の股間を蹴り、将が桜花にむかって頷いた。
「てめー、騙したな」
必死で股間を押さえ、男のひとりが将を睨む。
「もう最低なのだーっ! 悪い奴をぎゃふんと言わせるのだ〜!」
他の客と一緒に男達の股間を蹴り、ユーリィが不満げにぷんすか怒る。
「それじゃ、詳しい事を聞かせてもらおうか」
そして泰二はニコリと笑い、男達に股間をグリグリと踏みつけた。
「老人騙して金儲けなんざ、とんでもねー野郎だな‥‥仏罰当たるぞ。当たらなくても当ててやる」
不老長寿の水を売りに来た商人の話を聞くため、六道伯焔(ea0215)が老人に変装し後ろの方で話を聞く。
老人達は金の詰まった袋を握り、憑り依かれたように商人の話を聞いている。
「まままあ、抑えて‥‥。こんな所でバレたらシャレにならないよ」
伯焔の孫として横に座り、大宗院鳴(ea1569)が小声で囁いた。
商人は手下の男達に辺りを見張らせ、老人達が途中で他の場所に行かないように監視する。
「でもよぉ‥‥あんまりだと思わねえか? 何も知らねえ年寄りを騙すなんてさ」
不満げに商人の顔を見つめ、伯焔が拳を震わせた。
その間も何も知らない老人達は、商人の掛け声に合わせて『安い! 安い!』と何度も叫ぶ。
「そこのおふたりさん! 何か気になる事でもあるのかな? 分からない事があったら、いつでも質問していいんだよ」
伯焔達がコソコソと話していたため、商人が満面の笑みを浮かべて口を開く。
「おじいさまがそのお薬の効能を疑っているようですの‥‥。みんなこのお薬を飲んで健康でいられるのに‥‥」
悲しげな表情を浮かべ、鳴が商人にむかって話しかける。
商人は一瞬だけ困った顔をしたが、不老長寿の水を持ち伯焔の傍まで歩いていく。
「本当は駄目なんだが、お前さんには特別だ。この水を飲むといい。それで信用してもらえるかな?」
不老長寿の水を杯に注ぎ、商人が小さくコクンと頷いた。
「すまないねぇ‥‥。トシのせいか体のあちこちが痛くて‥‥、色々と試してみたんじゃが‥‥、どれも眉唾物でねえ‥‥、疑り深くなっているんじゃよ‥‥。うご‥‥うごが‥‥」
商人から渡された水を一気に飲み干し、伯焔が少し間をおいてから、大袈裟に悲鳴を上げて倒れこむ。
「どうしてですの。どうしてお爺様が倒れるのですか。温泉の水でも大量に飲まない限り、お医者様は大丈夫だとおっしゃっていたのに‥‥」
慌てた様子で伯焔の事を抱き起こし、鳴が商人を見つめて悲壮感を漂わす。
「何を言っているんだ。きっと刺激が強すぎたのだろう。この薬はよく効くからな」
気まずい様子で後ろに下がり、商人が手下にむかって合図を送る。
「そいつら逃げるつもりだよっ! やっぱり薬はインチキなんじゃ!」
ここぞとばかりに商人達を指差し、柊小桃(ea3511)が老婆の姿で大袈裟に騒ぐ。
「何を馬鹿な事を‥‥。私達は善意で薬を売っているんだぞ」
ジリジリと後ろに下がり、商人がチィと舌打ちする。
「だったらどうしてこのジイさんが倒れたのじゃっ! それが動かぬ証拠じゃ!」
商人達を激しく睨み、小桃が老人達の不安を誘う。
「それは‥‥運が悪かっただけだ。いままでそんな事は一度もないっ! ここにいる人達が証人だっ! お前達こそグルなんじゃないのか?」
逃げる準備を整うまで、商人がなるべく時間を稼ぐ。
老人達も次第に怪しみ始めているが、どちらも胡散臭いためどちらも信用していない。
「随分と往生際の悪い人デスネ。この水が温泉水である事は、あなた達の手下が保障してくれますョ。なんなら私の持ってきた水と比べてみますか?」
そう言ってクロウ・ブラッキーノ(ea0176)が温泉で捕まえた商人達の手下を転がし、小さな樽に入った温泉水を放り投げた。
「クッ‥‥、そこまで知られていたのかっ!」
気まずい様子で樽を握り、商人がサクラ役の老人に合図を送る。
「みんな騙されちゃイカン! コイツらはグルじゃ! わしらを騙して不老長寿の水を独占するつもりじゃ!」
大声を上げながら、サクラ役の老人がクロウを睨む。
「残念ですが、こんなものはいりません。まったく興味もありませんし‥‥。欲しいのでしたら、皆さんにお配りしますョ」
荷台に積んであった小さな樽を手に取り、クロウが老人達にむかって放り投げる。
すると老人達は我先にとばかりに手を伸ばし、あっという間にクロウを囲む。
「本当に貰っていいんじゃな?」
両手から溢れるほどの樽を抱え、老人が瞳を輝かす。
「もちろんですョ。そんなものより私が本当の奇跡の水を格安で売って差し上げます。これは俺様崇拝教の奇跡の教祖であるクロウ・ブラッキーノが朝一番に作った(!)魔法の水‥‥。これで男性はビンビン間違いナシです。‥‥ウフッ」
凶悪な笑みを浮かべながら、クロウが黄金に輝く液体の入った樽を見せる。
「‥‥本当にそんなものが効くのか?」
胡散臭そうに樽を見つめ、老人がボソリと呟いた。
「嘘だと思うならお飲みになって御覧なさい。ホラ、燃えてきたでショウ?」
試飲にやってきた老人に樽を手渡し、クロウが爽やかな笑みを浮かべて液体を勧める。
「んじゃ、試しに‥‥。んぐ‥‥んぐぐ‥‥」
一瞬吐き出し移送になりながら、老人が険しい表情を浮かべてクロウを睨む。
「ほ〜ら、効いてきたでしょう?」
言葉巧みに老人を騙し、クロウが邪悪な笑みを浮かべて返事を待つ。
「味は悪いが‥‥確かに効果はありそうだな‥‥うぷ‥‥」
今にも倒れそうな表情を浮かべ、老人が謎の液体を絶賛する。
「おい、あれって‥‥」
液体の正体が何だか分かり、伯焔がしばらく言葉を失った。
「さすがに詐欺行為を見逃すわけには行かないよね。今度はあたし達が捕まっちゃう‥‥」
クロウから液体の入った樽を奪い、小桃が大きな溜息をつく。
その隙に商人達は逃亡を図り、慌てて馬に飛び乗った。
「小桃は怒ってるんだよ!! 大人しくしないと酷い目に遭わすからね!!」
すぐさま変装を解き、小桃が口笛を吹いて馬を呼ぶ。
「しゃあねえな。‥‥少し下がっていろ!」
老人達に被害が及ばないようにするため、伯焔が変装を解くと老人達を避難させる。
「‥‥逃がしませんわ」
そして鳴は勢いよく馬に飛び乗り、商人達の足止めをするため、ライトニングサンダーボルトを放つのだった。
「今回の仕事‥‥商人も商人だけど、騙される老人達もしっかりして欲しいよね。お陰であたい達に仕事が来るんだから、ここで文句も言うもんじゃないかも知んないけど‥‥、あんまり手間かけさせないで欲しいわ〜」
街道の途中で商人達が来るのを待ちながら、御藤美衣(ea1151)が疲れた様子で溜息をつく。
クロウ達が村に行ってからしばらく時間が経っているが、未だに商人達が現れる気配はないようだ。
本当なら馬の手綱に細工する予定だったのだが、手下の者達が見張っていたため、ここで待ち伏せして退路を断つらしい。
「まんざら嘘とも限りませんよ。俺は江戸で医者の真似事をして生計を立てているのだが、あるとき、診察先の老婆から不老長寿の水の噂を聞かされた‥‥。その老婆の話を聞く限り、不老長寿の水が紛い物とは思えませんし‥‥」
老婆の顔を思い出し、風御凪(ea3546)が拳を握る。
例え不老長寿の水が偽りだったとしても、老人達の笑顔は本物なのだから、真実を知った時の落ち込みようを考えると、胸がズキンと痛んでしまう。
「何時の世も年寄りの食い物にする外道はいるものだな‥‥。無論きっちりと灸を据えてやらんとな」
凪の肩にポンを叩き、龍深城我斬(ea0031)が何かに気づく。
「‥‥敵は全部で5人。先頭にいるのが親玉です」
ブレスセンサーを使って敵の数を特定し、凪が愛馬に乗って物陰で待機する。
「みんな‥‥用意はいい?」
日本刀に手を掛け、美衣が辺りを警戒した。
しかし商人達は逃げるのに必死で、美衣達には全く気づいていない。
「頼むぞ、我導丸」
日本刀を構えて商人達と対峙し、我斬が迷う事なく突っ込んだ。
「なんだ、テメェらはっ!」
慌てて手綱を引きながら、商人が興奮した馬をなだめる。
それでは我斬は立ち止まる事なく、商人達にむかって手裏剣を飛ばす。
「うわあっ!」
手裏剣は全く見当違いな方向に飛んだが、商人達が驚き馬から勢いよく転げ落ちる。
「降参した方がいいんじゃない?ま、降参しなきゃ殺しちゃうだけだけど〜」
日本刀をチラつかせ、美衣が商人達に警告した。
「わ、分かった。だから勘弁してくれっ!」
怯えた様子で両手を合わせ、商人達がボロボロと涙を流す。
「老人達から奪ったお金を返してもらえますか」
商人の腰袋を奪い取り、凪がロープを使って彼らを縛る。
「‥‥これしか残ってないのか。本当なら老人から奪った金をすべて取り返したかったが‥‥。あとは牢獄の中で償ってもらうしかないようだな‥‥」
そして我斬は奪われた金を老人達に返すため、馬に乗って老人達の待つ村へとむかうのだった。
その後、悪徳商人達は役所に突き出され、自らの罪を償う事となる。