●リプレイ本文
「瀕死の身の上で良くここまで来れたね。‥‥それだけ村の事を背負ってた。酷い有様って事だね。‥‥依頼は受けたよ。亡骸も一緒に村で埋葬するからね」
物言わぬ村人の死に顔を眺めながら、草薙北斗(ea5414)が両手を合わす。
村人の亡骸は綺麗な着物を着せられ、桶のような棺の中に収められている。
「これも御仏の思し召し……後は、わたくし達にお任せ下さい……」
命懸けでギルドまでやって来た村人の気持ちを考えながら、シャクティ・シッダールタ(ea5989)が荷車まで桶を運んでいく。
亡骸には死化粧が施されているため安らかな表情を浮かべているが、ギルドで息絶えた時には物凄い形相を浮かべていたため、村でとても恐ろしい体験をした事が容易に想像できる。
「誰か‥‥生きていてくれるといいんだけど‥‥」
仲間達と交代で荷車を引きながら、北斗が山鬼戦士の襲撃があった村を目指す。
既に日が暮れ始めているため、埋葬中は死人憑きの奇襲に気をつけねばならない。
「‥‥祈りましょう。結果がどうであれ、今だけは‥‥」
どこか悲しげな表情を浮かべ、三笠明信(ea1628)が北斗と交代して荷車を引く。
村人達が生き残っている可能性は限りなくゼロに近いため、明信の気持ちもどんよりと暗く沈んだままである。
それからしばらく街道を歩き、冒険者達が村の墓場に辿り着く。
この辺りは土葬が主流になっているため、ルーラス・エルミナスが予定していた火葬を取りやめ、スコップを使って穴を掘る。
「‥‥村の方から血の臭いが漂っていますね。この様子では、もう既に‥‥」
険しい表情を浮かべながら、明信が落ち込んだ様子で視線を逸らす。
血の臭いを嗅いだだけでも、村人達の苦しむ姿が浮かぶため、だんだん辛い気持ちになってくる。
「ある程度、覚悟はしていましたが‥‥辛いですね」
亡骸の入った桶が入るだけの穴を掘り、ルーラスが寂しそうな表情を浮かべて溜息をつく。
村の状況が予想する事が出来るため、なるべく考えないようにして桶を運ぶ。
「みんなの分もお墓を作ってあげなきゃね。‥‥考えたくない事だけど」
溢れ出る涙を止める事さえ出来ないまま、北斗が墓地の中をゆっくりと歩いていく。
墓地のある場所は村から離れた場所にあるため、村人全員を埋めるだけのスペースはありそうである。
「やはり村人達の亡骸は火葬すべきではないでしょうか? ギルドで噂されていた不死者‥‥。きっと、壊滅した村人達の成れの果てだと思われます‥‥。依頼主に於いても、無念を抱いたままの憤死。現世に情を残せば‥‥幽魔として黄泉帰りましょう。無体とは思いますが‥‥安心して黄泉路に旅立ってもらうため‥‥」
村人の亡骸を弔い終え、シャクティがボソリと呟いた。
「わたくしもあなたの意見には賛成です。本来ならそうすべきだと思いますし‥‥。ですが、この辺りの風習を破ってまで火葬する事は良くないかも知れません」
桶の中に入った亡骸を見つめ、明信が悲しそうな表情を浮かべる。
簡単に結論を出す事が出来ないため、どちらが正しいとは言い切れない。
「‥‥仇はきっと取ります。迷わず成仏して下さい」
うまい言葉が見つからず、ルーラスが黙って両手を合わす。
村人達が現世に未練を持ったまま死人憑きにならないようにするためにも、元凶となっている山鬼線士達を倒さねばならない。
「‥‥分かりました。色々と心配な事はありますが、村人達の亡骸は土葬する事にしておきましょう」
納得した様子で頷きながら、シャクティが墓に近づき両手を合わす。
村人の魂が安らかに眠れる事を強く願い‥‥。
「‥‥この様子だと、生存者はいないようですね」
辺りに転がる村人達の亡骸を見つめ、美芳野ひなた(ea1856)が汗を流す。
村の中は血の臭いで充満しており、息をするのも辛いほどだ。
「落ち着いたら彼らの亡骸も埋葬しなければなりませんね。こんな場所に野ざらしじゃ、彼らだって浮かばれません」
玉藻復活時の那須藩での惨状と、傷ついた人々を救えなかった自分の不甲斐無さを思い出し、風御凪(ea3546)が山鬼戦士に対して怒りで肩を震わせ、ブレスセンサーを使って辺りを睨む。
山鬼線士達の気配は貯蔵庫のある方から感じられ、凪がひなたに合図を送り警戒した様子で近づいていく。
「村の食料を漁っているようですね。あっ‥‥、何処かに行くみたいです」
忍び歩きを使ってコッソリと貯蔵庫の傍まで近づき、ひなたがコッソリと中を覗き込んで山鬼達の動きを視線で追う。
山鬼線士達は両手いっぱいに食料を抱え、貯蔵庫を出て森のある方角へと歩いていく。
「いっそ、この場で‥‥」
激しく湧き上がった怒りを抑える事が出来ないまま、凪が太刀に手を掛けいきなり走り出そうとする。
「わわっ、我慢してください。ここで山鬼戦士を倒したら、奴らの棲み処が分からなくなりますから‥‥」
驚いた様子で凪に抱きつき、ひなたが困った様子で汗を流す。
「‥‥我慢? こんな酷い事をした相手を見逃せって言うんですか? 女子供だって容赦なく殺されて‥‥‥‥」
拳をブルブルと震わせながら、凪がひなたを激しく睨む。
「わ、分かっています。私だってみんなの仇を討ちたいんですよ。こんな事をした山鬼戦士を許すわけには行きません。だからこそ奴らの棲み処を見つけ出さなくちゃならないんです。これ以上、悲しむ人達が増えないように‥‥」
ションボリとした表情を浮かべ、ひなたが寂しそうに呟いた。
「す、すみません! ひなたさんは何も悪くはないのに‥‥。追いかけましょう。山鬼戦士の棲み処を見つけるため‥‥」
ひなたの言葉を聞いて何とか冷静になったため、凪が申し訳なさそうな表情を浮かべて鬼を追う。
まずは山鬼戦士の棲み処を見つける方が先である。
それからでも山鬼戦士に怒りをぶつけるのは遅くない。
「あーあ‥‥見事に荒らされちまってやがるな、まったく‥‥」
山鬼戦士によって荒らされた村を眺め、巴渓(ea0167)が疲れた様子で溜息をつく。
既に辺りは暗闇に包まれているため、松明を掲げて村の惨状を自らの目で確認する。
「冒険者家業もそれなりに長いから、村人全員が殺されたといった話はよく聞くけど、やっぱり気分のいい話じゃないよね」
辺りに転がった村人達の亡骸を見つめ、アーク・ウイング(ea3055)が悲しげな表情を浮かべて両手を合わす。
村人達はかなり苦しんで死んだのか、目を見開いたまま苦悶の表情を浮かべている。
「‥‥ようやく帰ってきたようだな。山鬼戦士の棲処はあっちか」
屋根の上から凪達の明かりを確認し、氷川玲(ea2988)が梯子を下りていく。
山鬼戦士の棲み処までは分かりやすく目印がつけられているため、それを辿っていけば途中で迷う事はない。
「山鬼戦士か。‥‥相手にとって不足はねえな。依頼人の仇も討ってやらんといかんし‥‥」
先頭を歩いていった玲の後を追い、龍深城我斬(ea0031)が松明を掲げる。
森の中は暗いため、明かりがなければ進めない。
「それじゃ、鬼退治と行こうじゃねえか」
待ちかねたとばかりに霞刀を握り締め、時雨桜華(ea2366)が玲達の後をついていく。
真夜中のため森の中は真っ暗だが、先頭の明かりを頼りにしてズンズンと突き進む。
「棲み処が近くなったら明かりは消せよ。途中で気づかれるかも知れないからな」
走りながら燃えやすそうな枯れ木を集め、我斬が棲み処の近くで身を隠す。
棲み処となっている洞窟の前には見張りの山鬼戦士が二匹おり、村から奪った食料を頬張り暢気に酒を飲んでいる。
「‥‥他の山鬼戦士は洞窟の中にいるようだね。全部で4〜5匹くらいだね」
ブレスセンサーを使って山鬼戦士の数をある程度特定し、アークが明かりのない暗闇の中で仲間達に結果を報告した。
「見張りの二匹は、すっかりほろ酔い加減だな。あの様子ならあたしらでも、簡単に倒せるかも‥‥」
足音を立てないようにして山鬼戦士の傍に近づき、馬籠瑰琿(ea4352)が鬼神ノ小柄を一気に振り上げ力任せに振り下ろす。
それと同時に玲が小柄を構えてもう一匹の山鬼戦士の首を斬り、全身に返り血を浴びながら小柄についた血を払う。
「チィッ‥‥、騒ぎを聞きつけて鬼が現れたか」
見張りの山鬼戦士が搾り出すようにして悲鳴をあげたため、我斬がチィッと舌打ちすると洞窟の中から現れた山鬼戦士を迎え撃つ。
「これでも喰らえ!」
山鬼戦士の顔面めがけて追儺豆をブチ当て、瑰琿が鬼神ノ小柄を使って斬りつける。
「なるべく討ち漏らすなよっ!」
後方から仲間達を援護しながら、桜華が山鬼戦士の首を跳ね落とす。
山鬼戦士の首は空中で孤を描き、二、三度跳ねて転がった。
「‥‥逃げるなよ。この鬼神はお前らを消去する為のモノだ‥‥」
棍棒の一撃を喰らって表情を強張らせ、瑰琿が鬼神ノ小柄を振り下ろし山鬼戦士の頭を割る。
「なるべく外まで引きつけるんだ。‥‥洞窟の中じゃ戦いにくい」
頭からダラダラと血を流し、我斬が後ろに下がって血を拭う。
洞窟の中では山鬼戦士の方が戦いなれているため、出来るだけ外まで引きつけて戦った方が有利なようだ。
「相手もなかなかやるからな。‥‥了解だ」
山鬼戦士の放った強烈な一撃を小柄で受け止め、玲が痺れる手を払い気まずい様子で後ろに下がる。
「‥‥この夜に、散れ」
ダブルアタック&スマッシュで速攻を掛け、桜華が山鬼戦士に必殺の一撃を放つ。
山鬼戦士は血反吐を吐いて膝をつき、恨めしそうな表情を浮かべて桜華を睨む。
「うわっ‥‥と。俺の巫女装束を汚しやがったな。この野郎っ!」
ナックル装備の徒手空拳で山鬼戦士の顔面をぶん殴り、渓が不機嫌そうな表情を浮かべて溜息をつく。
「悪いけど、生かしておくつもりはないから」
棍棒を投げ捨て逃げようとしていた山鬼戦士の背後に立ち、アークが素早く詠唱を終えライトニングサンダーボルトでトドメをさす。
「‥‥終わったな。意外と強敵だった‥‥」
返り血で深紅に染まった身体を見つめ、我斬が疲れた様子で刀をしまう。
戦闘の途中で何度も攻撃を喰らったため、身体のあちこちがズキズキと痛む。
「那須の大妖魔・九尾玉藻に比べりゃ、屁でもねェぜ!!」
そして渓は何処か寂しげな表情を浮かべて唇を噛み締める。
一度、失った命は戻らない。
しかし、戦わねば浮かばれない魂もある。
例えそれがどんなに空しい事であろうとも‥‥。