●リプレイ本文
「京都での前途を占うよー!」
京都行きの船に乗った旅人達を相手に、レベッカ・オルガノン(eb0451)が占いをし始めた。
占いの中には悪い結果も出ていたが、なるべく本人が傷つかないように言葉を選んで答えていく。
「それなら私は自分の背が縮むかどうか占ってもらえますか? 出来ればどんな方法で縮むのかも」
自分の順番になったため、ノンジャ・ムカリ(ea5273)が真剣な表情を浮かべて占いを頼む。
占ってもらう内容ではないかも知れないが、彼女にとっては深刻な問題である。
「えっと‥‥、無理かな。どう頑張っても。ご、ごめんね!」
申し訳なさそうな表情を浮かべ、オルガノンが困った様子で汗を流す。
「‥‥やっぱり駄目ですか。京都に行けば何とかなると思っていたんですが‥‥。トホホ、残念です」
ションボリとした表情を浮かべ、ムカリが大きな溜息をつく。
よほどショックだったのか、シクシクと涙を流して自棄酒を煽る。
「ところで拙者達のむかう京都とは、どのような所なのでしょうか? 噂では飛鳥京で不死の魔物が現れたとか‥‥」
船乗り達の間で妙な噂が広まっていたため、伊達龍平(eb1128)が険しい表情を浮かべて口を開く。
詳しい話はよく分からないが、そのせいで飛鳥京が大変らしい。
「自分の目で確かめてみるといい。私も神皇様の刀となるべく京都へむかう。何かあったら迷わず動くさ」
クールな表情を浮かべながら、鷹見沢桐(eb1484)が京都のある方角を睨む。
京都が近づくに連れ、心が騒ぎ始めている。
「ちょっと不謹慎かも知れないけど儲け時って訳だね。私達、冒険者にとっては‥‥」
旅人達の占いを追え、レベッカが水を飲む。
「ううっ‥‥、私の背は縮みませんかね」
物陰からヒョッコリと顔を出し、ムカリが瞳をウルウルさせる。
「う〜んと、無理‥‥かな‥‥」
色々と考えを巡らせ、レベッカが寂しそうに溜息をつく。
なるべくムカリを傷つけないようにしたいのだが、なかなかうまい言葉が見つからない。
「‥‥運命とはなんて残酷なのでしょう」
魂の抜けた表情を浮かべ、ムカリが再びヤケ酒を煽る。
「そんな時こそ稽古をしましょう! 雑念を払えば不可能な事など何もありません。拙者のように剣を振るって、己の中に眠っている可能性の種を芽吹かせましょう!」
拳を高々と掲げながら、龍平がニコリと笑う。
「そ、そうですね。こんな所でヤケ酒するよりはマシかも知れません‥‥」
フラつきながら立ち上がり、ムカリが日本刀を握って龍平を睨む。
「‥‥お手柔らかにお願いしますね」
爽やかな笑みを浮かべ、龍平が刀を抜いて間合いを取る。
「あまり派手にやるなよ。騒ぎになったら困るからな」
監視の目を光らせながら、桐が刀を立てかけ腕を組む。
「そこまで酔っちゃいませんよ。一応、お仕事中ですから‥‥」
日本刀を構えた瞬間キリリッとした表情を浮かべ、ムカリが龍平を睨みつけたまま返事を返す。
「くれぐれも無茶はするな。‥‥後始末が面倒だ」
無理やり止める事はせず、霧が小さくコクンと頷いた。
「新陰流の極意‥‥とくとお見せしましょう」
それと同時に龍平が走る。
‥‥一瞬の光。
甲板に突き刺さる日本刀。
「あ、相打ちですか。刀を弾いた所までは良かったんですが‥‥」
喉元に当てられた十手を見つめ、龍平が苦笑いを浮かべて呟いた。
「刀を失った時点で私の負けです。十手を出したのも偶然ですから‥‥」
倒れた龍平を引っ張り上げ、ムカリが残念そうに十手をしまう。
「‥‥どちらも見事な太刀筋だ。このまま修行を積んでいけば、いずれ剣豪と呼ばれる事だろう。とてもいい試合だったぞ。本当に美味い酒はこういう時に飲むものだ」
観客達の拍手に包まれたふたりを見つめ、桐が杯を渡して酒を注ぐ。
「せっかくだからみんなで飲もう♪」
満面の笑みを浮かべながら、レベッカが楽しそうにダンスを踊る。
「しかし清河八郎という男は何だか胡散臭い気がします。京都に着いたら新しい隊でもつくりましょうか」
桐から杯を受け取りクイッと飲み、龍平がほろ酔い加減で呟いた。
「何事も起こらないのが一番だ。私達の存在が抑止力となれば、それで良い」
その場ですぐに答えは返さず、桐がゆっくりと立ち上がる。
懐かしの京都。
そこで待っているモノとは何か‥‥。
その事すらまだハッキリとは分かっていない。
「ねーねー、見て見て! あれって綺麗な山だねー」
ボンヤリと浮かぶ富士山を眺め、レベッカが嬉しそうに手を振った。
レベッカはエジプト出身だったため、富士山を見るのは初めてらしい。
「そう言えば海外には、こんな言い伝えがあるのを知っています?船の舳先で女性が男性に支えてもらって両手を広げると、あら不思議! どんな船でも驚くほど簡単に事故で沈むそうですよ。人呼んで『鯛太肉の伝説』とか。面白そうですし、一度試してみましょうか?」
だいぶ酔っ払ってきたのか、ムカリがフラフラとしながら穂先にむかう。
慌てて止めに行った仲間達のツッコミを喰らうまで‥‥。
「けけけっ、何も知らずに眠ってやがる!」
‥‥真夜中。
コッソリと加藤武政(ea0914)の寝室に忍び込み、猛省鬼姫(ea1765)が瞳をギラリと輝かせる。
武政はまったく気配に気づいていないのか、暢気に高イビキをかいて寝返りを打つ。
「けけけ‥‥加藤の野郎、目に物見せてやるぜ‥‥。加藤‥‥覚悟!」
邪悪な笑みを浮かべながら、鬼姫が武政を布団ごと運んで海に落とそうとする。
「一体、何をやっている‥‥?」
鬼姫の腕をムンズと掴み、武政が彼女をジト目で睨む。
「か、加藤っ! 眠っていたんじゃないのか!?」
仰け反るようにして後ずさり、鬼姫が驚いた拍子に腰を抜かす。
「わっはっはっはっは! 馬鹿め! お前の行動などお見通しだぁー! そうだ。お前に選択肢をやろう。一番、怖い話、二番、もっと怖い話、三番、更に怖い話、選択肢は段々減っていくのでどれをとっても怖いのは保証済みだ」
鬼姫を壁際まで追い詰め、武政が怪しくニヤリと笑う。
この日にむけて船に関する怪談話を集めてきたため、鬼姫を絶対に恐がらせる自信がある。
「そ、そんな話でこの俺がびびるとでも‥‥い‥‥嫌―! ‥‥近寄るなー!」
ぶんぶんと拳を振り回し、鬼姫が武政の股間にパンチする。
「うっ‥‥」
武政はあまりの激痛で前のめりに倒れ込み、まるで念仏のようにして恐い話を語りだす。
「お、おのれ加藤! そこまでして‥‥ひぃぃぃ」
恐怖のあまり武政に抱きつき、鬼姫が悲鳴を上げて気絶した。
「一体、何があったんですか〜? ‥‥あれ?」
驚いた様子で武政の部屋に入り、大隈えれーな(ea2929)が恥かしそうに頬を染める。
「どうやら邪魔をしたようだな」
気まずい様子で咳をしながら、紅闇幻朧(ea6415)がえれーなの肩をぽふりと叩く。
「仲が悪いって聞いていたんですが‥‥一体、何があったのでしょうか?」
後から駆けつけたジャン・グレンテ(ea8799)も唖然とした様子で汗を流す。
「ただ単にお部屋を間違っただけかも知れませんよ。確か鬼姫様の部屋って隣でしたから‥‥」
泣き疲れてスヤスヤと眠る鬼姫を見つめ、えれーなが苦笑いを浮かべて呟いた。
その間に武政がボソボソと怪談話を続けている。
「まぁ、事件じゃないから問題ないな。そろそろ警備に戻るとしよう」
甲板から酔っ払いの笑い声を聞こえてきたため、幻朧が疲れた様子で溜息をつく。
酔っ払いは放っておくと、喧嘩をし始める事が多いため、素早い対処が必要だ。
「悪質な酔っ払いにはスタンアタックですねw」
瞳をメラメラと燃やし、えれーなが使命に燃える。
「それじゃ、僕もお仕事に戻ろうかな」
給仕の途中だった事を思い出し、ジャンがお酒の置かれたお盆を持つ。
「ところでおまえ‥‥、何で女装をしているんだ?」
どうしてもジャンの格好が気になったため、幻朧が汗を流してツッコミを入れる。
「‥‥あれ? ジャパンの方はこのような衣装で、お茶を運んでいるんじゃないんですか!?」
そしてジャンはキョトンとした表情を浮かべると、不思議そうに首を傾げて呟いた。
「海はいいよな。俺も毎日海に出てっけど、流石にこれだけ大きな船には滅多に乗れねぇから、楽しみだぜ」
昇り始めた太陽の光りを浴びながら、荒波巌雄(eb0788)が大きく息を吸い込んだ。
辺りが明るくなるにつれ、次第に闇が晴れていく。
「わたくし、京都は初めてですわ」
ウキウキとした表情を浮かべ、大宗院鳴(ea1569)が巌雄の横に立つ。
うっすらと京都の景色が見え始めてきた事もあり、ランランとした瞳で海を眺めて鼻歌を歌う。
「私もすっごく興奮して前日は全然眠れませんでした‥‥」
何もかもが初めてのためか、藍居蘇羅(eb1127)が胸をワクワクさせる。
船に乗っている間にそれほど大きな事件も起こらなかったため、蘇羅もまったりとした表情を浮かべて日の出を拝む。
「これでお金が貰えちゃうなんて楽な仕事ですよね〜」
依頼主に心から感謝しながら、鳴がなむなむと両手を合わす。
この手の依頼では破格と言える金額だったため、ある意味お小遣いを貰ったようなものである。
「まったくだな! おかげでのんびりと釣りが出来たぜ!」
大量に釣った魚を自慢し、巌雄が満足した様子でニカッと笑う。
食べきれない分の魚はお裾分けしたため、船に乗った旅人達とも友好を深める事が出来たらしい。
「依頼を引き受けた時はどうなるかと思っていましたが、そんなに悪い人達もいませんでしたからね〜。昨日もみんなとお酒を飲んじゃいました」
てへっと恥かしそうに舌を出し、蘇羅が自分の頭を優しく撫でた。
旅人達の殆どは朝方まで飲んでいたためか、甲板の上でグウグウと寝息を立てている。
「あら、風邪を引きますよ」
とたとたと甲板の上を走り、鳴が毛布をとりにいく。
「本当に気持ち良さそうに寝ているな。たくっ、散らかしたままで‥‥」
疲れた様子で溜息をつきながら、巌雄が甲板に転がるゴミを拾う。
さすがに散らかしたまま船を降りるわけには行かないため、仲間達と一緒にゴミを集めて袋に詰める。
「あっ、港が見えてきましたよ♪」
大量の毛布を抱きかかえ、鳴がニコリと微笑んだ。
「それじゃ、ここでお別れだな。えっと‥‥、毛布はしまっとけ」
苦笑いを浮かべながら、巌雄が船を降りて行く。
「ここでお別れするのは残念ですが、京都で会う事があったら宜しくお願いしますね」
そして蘇羅は仲間達に別れを告げる。
それぞれの道にむかって歩くため‥‥。