すべては復讐のため

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月31日〜04月05日

リプレイ公開日:2005年04月06日

●オープニング

●忌々しい記憶
 黒闇の中を走る影。
 燃え盛る炎。
 男達の悲鳴。
 驚愕の表情を浮かべたまま、血溜まりの中で息絶えた男。
 あの者は子供を抱きかかえたまま命を落とし‥‥。
 そして、またある者は刀を振るう事なく亡くなった。
 一匹の熊鬼闘士が原因で‥‥。

「グルルルルルゥ‥‥」
 熊鬼闘士は死体に突き刺さった刀を引き抜き、夜空に向かって咆哮を上げる。
 辺りに転がる冒険者の死体。
 京都で成功する事を夢見た者達の末路。
 月明かりに照らされ、キラキラと輝く血溜まり。
 最後に生き残った冒険者が雄たけびを上げて、熊鬼戦士に攻撃を仕掛ける。
 勝つ見込みがない事が分かっていても‥‥。
 ‥‥このまま逃げるわけには行かないからだっ!

 足がガタガタと震えている。
 なかなか狙いが定まらない。
 それでも戦わなければ‥‥。
 初めて京都で一緒に組んだ‥‥仲間達の仇を討つため‥‥。

「‥‥頼む‥‥」
 祈るようにして目を閉じる。
 脳裏に浮かぶのは、仲間達の笑顔ばかり‥‥。
 すべてを奪って山鬼闘士にせめて一撃でも与えられれば‥‥。
 こんな事にはならなかったのかも知れない。

 気がつくと男は布団の中にいた。
 全身には包帯が巻かれ、少し動いただけでも身体が痛む。
「夢じゃ‥‥ないのか‥‥」
 ‥‥忌々しい記憶。
 次々と倒れる仲間達。
「うっ‥‥ああっ‥‥」
 悪夢の出来事から逃れようとして、男が腹の底から大声で叫ぶ。
 激しい痛みと共に、今までに感じた事のない違和感。
 ‥‥男の身体はボロボロだった。

 ギルドに届いた男の依頼。
 それは自分の人生を狂わせた山鬼闘士の復讐だった。

●今回の参加者

 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1470 涼 妙玲(26歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6354 小坂部 太吾(41歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6356 海上 飛沫(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6357 郷地 馬子(21歳・♀・志士・ジャイアント・ジャパン)
 ea6358 凪風 風小生(21歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb1067 哉生 孤丈(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb1484 鷹見沢 桐(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1528 山本 佳澄(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1537 キク・アイレポーク(31歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb1605 津上 雪路(37歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●誓い
「しばらく見ないうちに京の都も随分と‥‥ふぅ。小姫が見たらなんて思うやろか」
 残念そうな表情を浮かべ、涼妙玲(ea1470)が疲れた様子で溜息をつく。
 山鬼闘士が暴れているせいか、辺りに人の気配は全くない。
「‥‥見つけたぞ。まるで警戒なんかしちゃいねぇ、王様気取りか。胸糞の悪い野郎だ」
 猟師の経験を生かして山鬼闘士の足跡を辿り、ウィルマ・ハートマン(ea8545)が物影に隠れて気配を殺す。
 山鬼闘士は冒険者達の死体にドシンと座り、上機嫌な様子で酒をゴクゴクと飲んでいる。
「依頼主の話では山鬼闘士と言うのは、山鬼の上位種らしい‥‥。まったく無防備に見えても、わしらを引きつける罠かも知れん。‥‥心して掛からねばな」
 辺りに漂う死臭にやられ、小坂部太吾(ea6354)が険しい表情を浮かべて口元を覆う。
 死体の山は大量の蛆虫が湧いており、地面が腐汁で汚れている。
「そんなにアイツって強いのか? 見た目だけじゃ山鬼って判断できないものだなぁ‥‥」
 驚いた様子で山鬼闘士の顔を見つめ、凪風風小生(ea6358)がボソリと呟いた。
 山鬼闘士がまったく警戒していないため、それほど強い相手とは思えない。
「志半ばで亡くなった冒険者達のためにも、早く苦しみの中から解放してあげませんとね。このままだと死人憑きになっても、おかしな話じゃありませんし‥‥」
 目を背けたくなる状況の中、海上飛沫(ea6356)がクールな表情を浮かべて山鬼闘士を睨みつける。
 このままでは被害が拡大する一方のため、ここで躊躇っている時間はない。
「‥‥依頼主は無念だったべな。全く太刀打ち出来なかったんだから‥‥」
 寝床で苦しむ依頼主の横顔を思い出し、郷地馬子(ea6357)が表情を強張らせる。
 奇跡的に一命を取り留めた依頼主も、実力的には相当なものだったらしい。
「強い敵に遇えば奮いもするし、強すぎる敵に遭えば竦みもする。冒険者といえど、つまりは多少腕に覚えのある一般人に過ぎん。しかし、だからこそ‥‥立たなきゃならない時もあるんだろうさ」
 物影に隠れて山鬼闘士を睨みつけ、津上雪路(eb1605)が日本刀に手を掛ける。
 山鬼闘士については色々と依頼主から特徴を聞いていたのだが、ほとんど参考になる事が聞けなかったため、かなり警戒しているらしい。
「復讐は愚かか、それに手を貸す我らも愚かか‥‥、それは解らない‥‥。だが賢者足り得ればこの試練も乗り越えられよう。願わくば奇跡を奇跡と信じ、錯覚して侮らぬ事を‥‥。そして我らが賢者足り得る事を祈ろう‥‥いざ」
 戦いの前に祈りを捧げ、キク・アイレポーク(eb1537)が気合いを入れた。
 例え山鬼闘士が強いとしても、戦う覚悟は出来ている。
「‥‥復讐はあまり良い事ではないが、相手は鬼だし、仕方ないかねぃ」
 面倒臭そうな表情を浮かべ、哉生孤丈(eb1067)が疲れた様子で溜息をつく。
「ここで失敗したら、同じ事が繰り返される‥‥それだけは防がないと」
 金属拳を握り締め、妙玲がゴクリと唾を飲み込んだ。
「‥‥良いか、全員が無事で帰るぞ。今の自分に出来る事を、全身全霊、一切の慢心も気負いも無く、ただ誠実に確実にな」
 それと同時に鷹見沢桐(eb1484)が合図を送る。
 山鬼闘士を倒すため‥‥。
 ‥‥鳴弦の弓を構えて。

●山鬼闘士
「‥‥まだ山鬼闘士は動いてないね」
 ブレスセンサーを使って山鬼闘士の位置を確認しながら、風小生が忍び足で物陰から物陰へと移動した。
 仲間達は山鬼闘士を囲むようにしてその場で待機し、合図が出るまで気配を消して待っている。
「だからって下手に動いて、みんなの足を引っ張るのは嫌だなぁ」
 しみじみとした表情を浮かべ、妙玲が物影に隠れて山鬼闘士の様子を窺った。
 山鬼闘士は冒険者達の気配に気づいたのか、怪しく瞳をギラリと輝かせる。
「やっぱり気づかれちゃったか。鬼さん此方、手のなる方へってとこだねぃ」
 攻撃が当たるギリギリの場所まで移動し、孤丈がわざと挑発的な態度で山鬼闘士をからかった。
 それと同時に山鬼闘士が走り出し、孤丈の目の前で棍棒を凪ぐ。
「うわっ! こんなに速いの!?」
 慌てた様子でその場にしゃがみ、孤丈がダラリと汗を流す。
 何とか攻撃を避ける事は出来たが、圧倒的な強さの前に腰が抜けそうになっている。
「にゅぅ〜、ケガしない程度にガンバろ」
 狐丈にむかって声をかけ、風小生が山鬼闘士の背後からウインドスラッシュを叩き込む。
「‥‥なんや、コイツ。バケモノか!?」
 山鬼闘士の攻撃に驚き、妙玲がフェイントアタックを放つ。
 その隙に山鬼戦士が棍棒で狐丈をふっ飛ばし、不敵な笑みを浮かべて酒を飲む。
「このままじゃ負けちゃうかも知れないねぃ」
 棍棒の一撃を喰らって脇腹を押さえ、孤丈が雪路の所まで逃げていく。
「よくやったな。あとは一気に叩くだけだ!」
 オーラパワーを付与するため、雪路が狐丈に駆け寄りた。
「もう少し簡単に片付くと思ったが、なかなか手強い相手じゃの」
 様子見で放った矢がすべて弾かれてしまったため、太吾がファイヤーバードで体当たりを仕掛ける。
 山鬼闘士はバランスを崩して膝をつき、恨めしそうに太吾を睨む。
「‥‥回り込むぞ。見晴らしの悪い場所じゃ戦いにくい」
 見晴らしのいい高台まで移動し、ウィルマが山鬼闘士めがけて弓矢を放つ。
「は、弾いたべ!? なんかむっちゃ強い鬼だべな」
 山鬼闘士が怪しくニヤリと笑ったため、馬子がストーンアーマーを発動させる。
「驚いている暇はないぞ。敵は待っちゃくれないからな」
 後ろに飛んで棍棒をかわし、桐が素早く弓矢を放つ。
 山鬼闘士は咆哮を上げ、不機嫌そうに棍棒を振るう。
「仇討ちなどと感傷的な事に興味はありませんが‥‥。『あれ』は殲滅せねばならないでしょうね」
 風小生に合図を送って左右に別れ、飛沫が山鬼闘士と間合いを取る。
「なるべく怪我のないようにね」
 苦笑いを浮かべながら、風小生が飛沫とは反対側の方向にむかって走り出す。
「大いなる父よ。祝福されぬ愚かな鬼を漆黒の光を持って、今此処で滅せ」
 ゆっくりと小面を被り、キクがディストロイの詠唱をする。
 山鬼闘士はキクの異様な気配に気づき、すぐに攻撃を止めようとしたのだが、時すでに遅しキクのディストロイが放たれた。
 音を立て弾け飛ぶ棍棒っ!
 ‥‥山鬼闘士は動揺した。
「それにしても、アイレポークさん、エルフなだけあって綺麗だべなぁ‥‥。まんるで、光源氏様みたいだべなぁ‥‥」
 キクの戦う姿にウットリし、馬子の乙女モードがONになる。
「これで山鬼闘士に勝てる確率が一気に増えましたね」
 アイスチャクラでチャクラムを出現させ、飛沫が山鬼闘士にむかって走り出す。
「グガァァァァァァァァァ!」
 大地を引き裂くほどの雄叫びとともに、山鬼闘士の拳が勢いよく放たれる。
「よ、避けきれない!?」
 予想外の一撃を喰らい飛沫が後ろに飛ばされ地面をザザァーッと滑っていく。
「‥‥このまま退くのも癪だよね」
 山鬼闘士の背後まで移動し、風小生が高速詠唱を使ってウインドスラッシュを放つ。
「うわっ‥‥、こっちに来たでっ!」
 驚いた様子で声を上げ、妙玲が金属拳で山鬼闘士の顔を殴る。
「半端じゃない強さじゃな。これなら依頼主が苦戦した理由もよく分かる‥‥」
 ファイヤーバードを使って山鬼闘士に体当たりを浴びせ、太吾が妙玲を連れて迷う事なく走り出す。
「たくっ‥‥、ムナクソ悪いヤツだな。こんだけ攻撃を喰らってもケロッとしてやがる」
 不機嫌そうな表情を浮かべ、ウィルマが山鬼闘士の前に立つ。
 それと同時に山鬼闘士が雄たけびを上げ、ウィルマめがけて拳を勢いよく振り下ろす。
「かかったな! アホが!」
 山鬼闘士の顔面を狙い、ウィルマがクイックシューティングで弓矢を連続して放つ。
「グガァァァァァ」
 ウィルマの弓矢が首と右目に突き刺さり、山鬼闘士が怒り狂って彼女を殴る。
「ぐはっ‥‥、折れたかも」
 山鬼闘士の攻撃をモロに喰らい、ウィルマがそのまま意識を失った。
「‥‥マズイ事になりましたね。まさかここまで強いとは‥‥」
 すぐさま山鬼闘士にディストロイを放ち、キクがウィルマを抱きかかえて逃げていく。
 山鬼闘士は首に突き刺さった弓矢を引き抜き、険しい表情を浮かべて胸を押さえる。
「今の一撃はかなり効いたようだべ。ひょっとしてアイレポークさんが、うちの『光源氏様』だべか。何だか胸がドキドキするべ」
 キクの横顔を眺めてウットリしながら、馬子が頬を押さえてトキメいた。
「何をボヤっとしているんだ! 山鬼闘士が逃げていくぞ!」
 馬子の事を叱りつけ、雪路が山鬼闘士を追いかける。
 山鬼闘士は右目に刺さった矢を引き抜き、雪路の事をブン殴り京の都から逃げていく。
 ‥‥戦いは終わった。
 だが、冒険者達にとって納得の行く勝利ではない。
 山鬼闘士はまだ倒されていないのだから‥‥。