●リプレイ本文
●攻め鬼
「久々の依頼ねー。ここの所、暇でしょうがなかったのよ」
京都で暴れている変態鬼を退治するため、玖珂麗奈(ea0250)が久しぶりに依頼を受けた。
「二ヶ月ぶりの依頼だな。腕が落ちていなければいいが‥‥」
何処かにいるはずの攻め鬼を探すため、結城利彦(ea0247)が物影に隠れて変態鬼の姿を探す。
変態鬼は二匹で仲良く肩を組み、何やら愛を囁き合っている。
「うわっ‥‥、いきなり妙なものを見ちゃったわね。ああいう他人に迷惑をかける変態は存在しちゃいけません。不能になる薬盛っちゃうよー」
物凄く濃厚なシーンを目撃したため、麗奈が青ざめた表情を浮かべて溜息をつく。
「‥‥変態鬼二人組みか。正直相手にしたくないが、まあ仕方ないな‥‥」
気まずい空気の漂う中、利彦が呆れた様子で太刀を抜く。
それと同時に攻め鬼の金棒(3本目)がビクンと反応。
‥‥利彦の心に殺意が芽生えた。
「3本の金棒を持った鬼とは‥‥本能的に危険を感じるでござる」
背後を妙に気にしながら、香山宗光(eb1599)がダラリと汗を流す。
強敵に対する緊張感が闘争本能をかきたて、貞操の危険を感じて警戒心が強くなる。
「また物騒な鬼がいるモンだな。まわりに倒れているのは、襲われた男達か?」
妙な格好のまま倒れている男達を見つめ、篠原桜鬼(ea4383)がニコリと笑う。
よほどショックな事があったのか、男達は何も語ろうとしない。
「とても‥‥恐ろしい‥‥鬼だと‥‥聞いていましたが‥‥。こ、こういう意味だったんですね」
滝のような汗を流し、水葉さくら(ea5480)がジリジリと後ろに下がる。
攻め鬼が別の意味で恐ろしい事を理解したため、必要以上に近寄りたくはないらしい。
「今度の相手は変態鬼かい。掘ったり掘られたりし合うのは、線香くさいハゲ親父で十分だっての」
何処か遠くを見つめながら、白翼寺涼哉(ea9502)が嫌な予感に襲われる。
攻め鬼を騙すためパッと見長身の美人尼僧に化けているのだが、攻め鬼の攻撃力が半端ではないため油断は出来ない。
「‥‥親父でも嫌ですよ、この状況は‥‥」
荒々しく息を吐いている攻め鬼を警戒し、イレイズ・アーレイノース(ea5934)が必要以上に距離をとる。
いきなり押し倒される事はないと思うが、何故かイレイズの危険センサーが鳴り止まない。
「あ、あの‥‥、こっちをずっと睨んでますよ。まさか妄想の中で‥‥」
攻め鬼の挙動が不審になってきたため、さくらが涼哉に鬼毒酒を渡して後ろに下がる。
「コレも仕事のうち、菩薩の救済のために一肌脱ぐかね」
途中でバレないように頭巾を深々と被り、涼哉が俯き加減で攻め鬼のところまで歩いていく。
攻め鬼はとても興奮しているためか、3本目の金棒をブンブンと揺らす。
「今宵はわたくし達と共に般若湯でもお飲みになりません? 青物ばかり召し上がっては舌が肥えませんわよ」
法衣の裾から褌をチラつかせ、涼哉が鬼毒酒を攻め鬼の前に置く。
「よぅ、兄さん強そうだね。どうだい? 一つ、俺と勝負をしてみねぇか? 鬼ってのは酒にも強いんだろ?」
受け鬼から攻め鬼を遠ざけるため、桜鬼がわざと挑発的な態度を取る。
攻め鬼はダラダラと涎を流し、酒ではなく桜鬼に手を伸ばす。
「おいおい、俺じゃねぇよ。‥‥って、まさか言葉が通じねぇのか!?」
慌てた様子で後ろに下がり、桜鬼が攻め鬼を警戒する。
「あらあら、気が早いのね。‥‥って聞きやがれ、この野郎!」
あまりにも攻め鬼が自分の興味を示さなかったため、涼哉が不機嫌そうな表情を浮かべて拳を放つ。
その拳を自慢の金棒で受け止める攻め鬼。
‥‥涼哉の右手が一瞬で穢れた。
「しばらくトラウマになりそうだな。‥‥同情する」
急いで右手を洗いに行った涼哉を見つめ、鷲落大光(eb1513)が哀れみの表情を浮かべて両手を合わす。
「ありゃ‥‥、俺でもヘコむなぁ。直に触っちまったから‥‥」
何度も抱きつこうとして飛びついてきた攻め鬼の攻撃をかわし、桜鬼が疲れた様子で鬼毒酒を懐にしまう。
攻め鬼は酒よりも桜鬼を選んだようである。
「しかし、酒が効かないとなると困るでござるな」
なかなか攻め鬼に近づく事が出来ないまま、宗光が日本刀にオーラパワーを付与して汗を流す。
攻め鬼は興奮気味に金棒を握り締め、桜鬼を心のハニーにするべくジリジリと迫っていく。
「わわわわわ、あり得ません! 3本目が‥‥3本目が‥‥!」
小動物のような目になり、さくらがプルプルと首を振る。
「攻め鬼が酔い潰れるまで待っていようと思ったが、どうやらそういう状況でもないようだな。つーか、3本目の金棒は怪我してたんじゃねぇのか!? 鬼の回復力って半端じゃねぇな」
桜鬼が逃げ出す時間を稼ぐため、猛省鬼姫(ea1765)が攻め鬼めがけて桶を投げた。
攻め鬼は3本目の金棒で桶を弾き、不敵な笑みを浮かべて飛び上がる。
「どうやら受け鬼の方も動き出したようだな。やっぱり両方の鬼を相手にする事は不可能か」
仲間達にバーニングソードを付与し終え、利彦が受け鬼の入る方角を睨む。
受け鬼の口から悦びの声が聞こえているため、冒険者達との間に何かあった事は間違いない。
「そんな事を気にしている余裕はないんじゃない? いつ攻め鬼が襲ってくるかも分からないんだし‥‥」
利彦の背後に隠れ、麗奈が冗談交じりに微笑んだ。
「か、勘弁してくれよ。ただでさえ背筋がゾッとしているんだから!」
青ざめた表情を浮かべ、利彦が麗奈を叱り付ける。
少し身の危険を感じているのか、あまり攻め鬼のいる場所には近づかない。
「やっぱり‥‥私達も‥‥戦わなきゃ‥‥駄目のようですね‥‥。このままじゃ、桜鬼様が‥‥大変な事に‥‥」
攻め鬼の攻撃によって桜鬼が逃げ道を失ったため、さくらが仕込み杖を振り下ろしライトニングサンダーボルトで援護する。
「さぁ、いまのうちに!」
鳴弦の弓をかき鳴らし、イレイズが桜鬼の逃げる時間を稼ぐ。
「す、すまねぇな。あの野郎‥‥、本気で俺を襲う気でいたな」
右肩を押さえて攻め鬼を睨み、桜鬼が表情を強張らせる。
攻め鬼に何度も攻撃を喰らったため、右腕が痺れて動かない。
「何とか生きているようだな。後は俺に任せておけ!」
攻め鬼のナニを金属拳でブン殴り、鬼姫がニヤリと笑って間合いを取る。
それでも攻め鬼の金棒は威力を増すばかりで、一向に衰えそうにない。
「こ、こ、来ないで〜‥‥」
とうとう許容範囲を超えたため、さくらが悲鳴を上げてライトニングサンダーボルトを撃ちまくる。
「随分と暴れているじゃねぇか、この変態鬼が‥‥。くせぇモン触らせやがって‥‥。それ事へし折ってやる!」
ようやく右手を洗い終え、涼哉が不機嫌そうに攻め鬼を睨む。
攻め鬼は3本目の金棒をユラユラ揺らし、涼哉の事を必要以上に挑発する。
「少し落ち着いた方がいい。次の標的は間違いなく、おぬしだからな」
攻め鬼の趣味をある程度理解したのか、大光が真剣な表情を浮かべて肩を叩く。
「認めたくないが‥‥そのようだな。だが、ここで退く事は俺のプライドが許さねぇ!」
未だに違和感の残る右手を気にしながら、涼哉が攻め鬼に対して攻撃を仕掛けた。
攻め鬼は涼哉の攻撃を金棒で弾き、溢れんばかりの涎を流す。
「やはり一番危なそうなものを最初に潰しておくでござる」
オフシフトを使って攻め鬼に近づき、宗光が素早く弓を射る。
「グガァァァァ」
宗光の放った弓矢は3本目の金棒の途中で止まり、攻め鬼の心と身体に凄まじいほどのダメージ与えた。
「‥‥意外と効くモンだな。どす黒い血が噴水のように出ているぜ!」
苦笑いを浮かべながらオーラパワーを発動させ、鬼姫が3本目の金棒に突き刺さっていた弓矢を抜く。
「ガァァァァァァァァァァァア」
攻め鬼は激痛のあまりのた打ち回り、持っていた二本の金棒を放り投げる。
「何だか近寄りたくないな。血の出ている部分が部分だし‥‥」
攻め鬼の返り血を浴びたくないため、利彦が戦う事を躊躇した。
「右に同じ。服についたら、臭いが取れない気がするし‥‥」
辺りに漂うイカ臭いニオイに嫌気が差し、麗奈が攻め鬼から少しずつ離れていく。
「もう何も‥‥見たく‥‥ありません」
さくらも黒い帯で目隠しすると、物影に隠れて身体をカタカタと震わせる。
「ここまでやれば十分だろ。‥‥後は俺達が始末する」
ムックリと立ち上がった攻め鬼を見つめ、鬼姫が金属拳を握りなおす。
攻め鬼はガチガチと歯を鳴らし、恨めしそうに鬼姫を睨む。
「おらっ、もう終わりかっ! かかってこいよ!」
攻め鬼の怒りを増幅させるため、桜鬼がわざと血のついた弓矢をチラつかす。
「グボォォォォォォォォオ!」
次の瞬間、攻め鬼が涎を垂らし、凄まじい勢いで走ってくる。
「皆さん、下がって!」
それと同時にイレイズがブラックホーリーを放ち、ミミクリーで伸ばした手でメタポリズムを掛け、弱ったところで攻め鬼にデスをかけた。
攻め鬼は糸の切れた人形のようにして膝をつき、口からどす黒い血を吐きながら命を落とす。
「金棒を失ったら急に弱くなったな。ひょっとして3本目の金棒が本体だったのか」
大粒の汗を流しながら、大光が三本目の金棒を睨む。
「そんなモノどっちでもいいや。なんか攻め鬼の返り血を浴びたら、臭いが取れなくなったんだが‥‥。なんだ、この臭い‥‥」
戦いが終わって冷静になったため、鬼姫が服の臭いを嗅いでしばらくヘコむ。
何だか妙な臭いがついたため、色々な意味でショックらしい。
「念のため金棒は回収しておくでござる。いや、3本目ではなく他の二本を‥‥でござるよ」
妙な誤解をされたため、宗光がブンブンと首を横に振る。
純粋に刀鍛冶として2本の金棒に興味があるため、回収して溶かしたものを刀として鍛え直すつもりでいるようだ。
「さて、そろそろ帰るか。そろそろ桜もいい頃だし、このまま花見酒にしゃれ込むのも悪かねぇ。‥‥コイツを鬼なんぞに飲ませちまうのはもったいないしな」
鬼毒酒を高々と掲げ、桜鬼がクスリと笑う。
攻め鬼が倒れた事にホッとしながら‥‥。
●受け鬼
「ふ〜ん、あなたが、今回下僕なの? でかい図体で邪魔なのよ‥‥何? その表情して欲しかったら、地べたに這い蹲りなさい」
受け鬼の頭を踏みながら、逢須瑠璃(ea6963)が怪しく瞳を輝かせる。
瑠璃を主人と認めたのか、受け鬼が乙女チックな視線で迫っていく。
「よし良く出来たわ‥‥ご褒美あげるよ」
受け鬼の身体をゲシゲシと蹴り、瑠璃が満足した様子でニヤリと笑う。
「こりゃ、攻撃しても悦ばれるだけだな。うわっ‥‥、何だか気分が悪くなってきた」
青ざめた表情を浮かべながら、雪守明(ea8428)が気まずく視線を逸らす。
受け鬼を攻撃する事は簡単だが、それだけで人間として何か大切なものを失ってしまうような気分である。
「まぁ、いいんじゃない? それがお互いのためになるのなら〜」
嬉しそうに筋肉をムキっとさせ、百目鬼女華姫(ea8616)が受け鬼にむかってウインクした。
受け鬼は女華姫のような女性がタイプなのか、瞳にハートマークを浮かべてヨダレを垂らす。
「あーっ、何だか鳥肌が立ってきた! こりゃ、夢に出るなぁ。あんなに幸せそうな顔をしやがって‥‥。存在自体が悪だな、ありゃ」
寒気を感じて身体を擦り、明が怯えた視線を受け鬼に送る。
「そんな事を言ったら可哀想じゃない。見た目のわりにはイイ子みたいよ」
高笑いをあげながら、瑠璃が受け鬼の身体を踏む。
受け鬼は幸せそうに声を上げ、ウットリとした表情を浮かべて溜息をもらす。
「うわああああああああああ‥‥、やっぱり駄目だ。あり得ないって! なんだよ、あの目。変態か!」
全身に寒気がゾクっと走り、明が嫌々と首を振る。
「だから変態なんでしょ〜。こうやって見ると可愛いじゃない。ねぇ〜♪」
受け鬼をムギュッと抱き締め、女華姫がニコリと微笑んだ。
「‥‥」
一瞬の沈黙。
受け鬼が女華姫の顔を見る。
「ん? なぁに?」
不思議そうに首を傾げ、女華姫が優しく受け鬼の頭を撫でた。
「ウホッ‥‥」
衝撃的な一言。
‥‥女華姫の中で何かが壊れた。
「ひょっとしてアナタ‥‥、あたしの事を男だと思っているんでしょ!? 失礼しちゃうわ! これでも女よっ! ねぇ、分かっているの!?」
容赦なく受け鬼を蹴り飛ばし、女華姫が鼻を鳴らして腹を踏む。
受け鬼は嬉しそうに身体をクネらせ、潤んだ瞳で女華姫の顔を見る。
「‥‥駄目だ。気分が悪くなってきた」
長屋の壁に手を置き、明が頭を抱えて溜息をつく。
目を閉じても受け鬼の顔が浮かぶため、しばらく夢に出てきそうな雰囲気である。
「現実から目を背けちゃ駄目よ」
明の顎をしゃくって耳元で囁き、瑠璃が受け鬼を指差した。
「ううっ‥‥」
受け鬼のウルルンとした瞳。
妙になよっとした身体。
‥‥自然と殺意が芽生えてきた。
「何だよ、あの求めるような目は‥‥」
ウルルンとした瞳の受け鬼と見つめ合い、明がこめかみをピクピクさせる。
‥‥それだけで十分だった。
スイッチの切り替わった明は受け鬼に攻撃を仕掛け、相手の反応も見ずにひたすらザクザクと斬りかかる。
「‥‥逝ったわね」
恍惚とした表情を浮かべる受け鬼を見つめ、女華姫が指で摘んで持ち上げた。
受け鬼はすでに事切れており、魂がひょろりと抜けている。
「戦いに勝ったけど、失ったものは大きいわね」
沈んでいく夕日を眺め、瑠璃はふと思うのだった。
女華姫に軽々と持ち上げられた受け鬼を哀れみながら‥‥。