●リプレイ本文
●嵐の前の静けさ
「‥‥久しぶりの大仕事になりそうだな」
韋駄天の草履で機動力と忍び足を駆使し、天城烈閃(ea0629)が仲間達からやや先行して死人憑きの群れを確認する。
死人憑きの群れは予想以上に数が多く、烈閃達だけで対応出来るレベルではない。
「ざっと見ただけでも、かなりの数がいそうだね。真っ暗でほとんど何も見えないけど‥‥」
リトルフライとレビテーションを駆使し、レイ・コルレオーネ(ea4442)が上空から陰陽村のある方角を睨む。
真夜中のためハッキリと確認する事は出来ないが、とても危険な状況である事には変わりない。
「‥‥となると無理は禁物と言うわけか。よほど覚悟がない限り、陰陽村まで辿り着く事は難しそうだな」
12人で何とか成功する事の出来る依頼を半分の人数でこなさなければならないため、烈閃達の肩に凄まじいプレッシャーが圧し掛かる。
「まぁ、やるだけの事はやってみるか‥‥」
……その言葉には何処か戸惑いが感じられた。
「その様子じゃ、あまり芳しくないな」
しばらくして戻ってきた烈閃達を見つめ、デュランダル・アウローラ(ea8820)が陰陽村の状況を理解する。
「‥‥死人憑きの数が予想以上に多いな。それと奇妙な奴らも‥‥」
険しい表情を浮かべながら、烈閃がデュランダルに対して答えを返す。
‥‥暗闇の中に浮かぶ死人憑きの群れ。
肉眼で確認できただけでもかなりの数がいたため、実際はその倍‥‥いや、それ以上はいるだろう。
「奇妙な奴ら‥‥?」
最後の言葉が気になったため、デュランダルが烈閃を睨む。
烈閃はしばらく悩んだ後、自分の記憶を辿るようにして語りだす。
「ああ、死人憑きとは違う‥‥、不死なる者だ。身の毛がよだつほどの気配を放つ白骨の死人‥‥。多分、俺達が戦ったとしても勝ち目はない」
‥‥死人達の身体から発せられる気配。
それは今まで感じた事がないほど強大で恐ろしいものだった。
「とにかく村に行ってみよう。最も期待されている俺達がここで逃げてしまったら、他の依頼に参加している冒険者達にまで影響があるからな」
そう言ってデュランダルが陰陽村を目指して歩き出す。
ただならぬ気配を感じながら‥‥。
●死人憑きの群れ
陰陽村まではデュランダルとレイが先頭に立って進む事になった。
後衛には烈閃、シャクティ・シッダールタ(ea5989)、八幡伊佐治(ea2614)の3人が続き、月詠葵(ea0020)が遊撃手として敵の奇襲を警戒する。
「‥‥やけに静かだね」
バックパックを放り投げ、レイがフレイムエリベイションで気合を入れ、槍に<バーニングソード>をかけておく。
暗闇の中で蠢く何か‥‥。
それはレイ達の姿に気づいてムックリと起き上がる。
「囲まれているようですよ」
ダラリと汗を流しながら、葵が小太刀を構えて辺りを睨む。
死人憑きの群れはフラフラと身体を揺らし、葵達を取り囲むようにして襲ってくる。
「う、後ろからも!」
すぐさま梓弓で死人憑きの群れを狙い撃ち、烈閃がチィッと舌打ちしたあと走り出す。
死人憑きの群れは攻撃を喰らっても歩みを止める事なく、大きく口を開けて烈閃達にむかって襲い掛かる。
「今まで蚊帳の外だったが、ようやく京の混乱解決に協力出来る。しかし、ここまで死人憑きの群れが多いと陰陽村の住民は全滅だろうな」
ピュアリファイを放って死人憑きを浄化し、伊佐治が疲れた様子で溜息をつく。
辺りにはむせ返るような臭いが漂っており、その場にいるだけで吐き気と眩暈が襲ってくる。
「‥‥決死行の準備は出来ましたわね、皆様? 此度は、幽魔の群れを抜け、陰陽村の調査と参りましょう!」
次々と襲い掛かってきた死人憑きの攻撃をかわし、シャクティがリカバーを使って仲間達の傷を癒す。
「魔法戦士、レイ・コルレオーネ‥‥ただいま見参です!」
相手の攻撃を槍で受け止め、レイがいったん後ろに下がって槍を突く。
死人憑きの群れシャクティを集中的に狙い、彼女の身体に鋭い牙を突き立てる。
「‥‥僧侶狙いか。死人らしいな!」
シャクティを守るようにして死人憑きに体当たりを浴びせ、デュランダルが偃月刀を振り下ろす。
次の瞬間、死人憑きの右腕が宙を舞い、大量の腐汁を大量に浴びる。
「うわっ‥‥、物凄い臭いだね。何だか気分が悪くなりそうだよ……」
顔についた腐汁を払い、レイが大きな溜息をつく。
腐汁は少し粘り気があり、こびりつくとなかなか取れない。
「倒しても倒してもキリがありませんね〜」
大粒の汗を浮かべながら、葵が死人憑きの群れを倒していく。
「このままじゃ袋叩きにされるだけだな。やはり人数が少な過ぎたか‥‥」
両手に装備した鬼神ノ小柄で死人憑きを切り刻み、烈閃が荒く息を吐き捨て汗を拭う。
死人憑きの群れは疲れる事を知らないため、どんどん烈閃達のまわりを取り囲む。
「頼むから‥‥成仏してくれよ‥‥」
肩から流れる血を押さえ、伊佐治が死人憑きの顔面をムンズと掴み、ピュアリファイを発動させる。
死人憑きは虚空を見つめた口を開け、ボロボロと崩れ去っていく。
「あ、あれは‥‥!?」
驚愕の表情を浮かべ、シャクティがダラリと汗を流す。
その視線の先には、深紅の鎧を纏ったミイラの姿があるのだった‥‥。
●深紅の鎧を纏ったミイラ
「‥‥先発の冒険者が壊滅した事から、アレがアンデッドの上位種がいる可能性が高い。レイ殿、すまないがバーニングソードをかけてくれないか」
そう言ってデュランダルがレイに声をかけた瞬間、深紅の鎧を纏ったミイラが動き出す。
「何っ!?」
凄まじい一撃を喰らい、デュランダルが体勢を立て直す事が出来ないまま尻餅をつき、持っていた偃月刀がクルクルと回転しながら、地面に深々と突き刺さる。
「うぐっ……」
すぐにレイが援護に入ろうとしたが、深紅の鎧を纏ったミイラの上げた咆哮によって全く身動きが取れない。
「一体、どうなっているの!?」
自分達に何が起こっているのかも理解できぬまま、葵が死人憑きの群れに襲われる。
必死に抵抗しようと思っても、身体がまったく言う事を聞かない。
「まさかここまで強いとは‥‥ぐはっ!」
頭に被っていたヘビーヘルムが吹っ飛ばされ、烈閃がバランスを崩して血反吐を吐く。
死人憑きの群れは容赦なく烈閃に襲い掛かり、鋭い牙や爪を突き立てる。
「ここはいったん退くしかないな。まだ‥‥身体が‥‥動けるうちに‥‥」
険しい表情を浮かべて膝をつき、伊佐治が荒々しく息を吐く。
何とか身体が動くようにはなったのだが、死人憑きの群れから受けたダメージが大きく、反撃に転ずる事が難しい。
その間も深紅の鎧を纏ったミイラが攻撃を仕掛けてくるため、伊佐治達にとっては分の悪い戦いになっている。
「本望ではありませんが、そうするしかないようですね」
悔しそうに拳を握り締めながら、シャクティが脇腹を押さえて深紅の鎧を纏ったミイラを睨む。
シャクティ達が動くよりも早く敵が攻撃を仕掛けてくる上、通常の武器では全くと言っていいほど歯が立たず、ようやくダメージを与えられたと思ってもすぐに再生してしまうため、このままマトモに戦ったとしても勝ち目はない。
命を捨てる覚悟で戦うつもりがない限り‥‥。
「‥‥退くぞ」
消え去りそうな声でデュランダルが叫ぶ。
‥‥それが精一杯だった。