●リプレイ本文
●酒場にて
「許せない‥‥許せそうに無い、絶対に無宿を倒す!! 金なんて要らない!! お姉さんも沢山いるんだ‥‥皆、頑張ろう」
仲間達と一緒に酒場で水を飲みながら、ザレス・フレーム(eb1488)が愚痴をこぼす。
無宿達によって村が襲われてから暫く経っているため、村人達の安否が心配な上に無傷であるとは考えにくい。
「何とも腐った下郎じゃな。このような下郎は確実に成敗せねばなるまい」
酒を口に含んだ後、架神ひじり(ea7278)が溜息をつく。
今回の依頼は報酬を当てにする事は出来ないが、ひとりの人間として失敗は許されない。
「まぁいい、じぃっくり可愛がってやる。‥‥泣いたり笑ったり出来ないようにな」
不機嫌そうな表情を浮かべ、ウィルマ・ハートマン(ea8545)が陰鬱に笑う。
少し眠くなっているようだが、眼だけはギラギラと光っている。
「違う事に力を用いれば、この様な事にはならなかった物を、力に溺れた者の末路と言った所か‥‥そうならぬ様に心したい物だ」
何処か寂しげな表情を浮かべ、橘蒼司(ea8526)が酒を飲む。
一歩間違えば誰でも陥る事なので、まるで自分自身に言い聞かせるようにして目を閉じる。
「真っ当に生きる事が出来ねぇのなら、せめて堅気の人間に手を出さねぇのが、人の道と言うモンでござんしょう。その道を踏み外した以上は、人じゃあねぇんで。見過ごす訳にはいきやせん」
テーブルの上に小銭を置き、千手寿王丸(ea8979)がクールな表情を浮かべて立ち上がる。
「‥‥相手の数が勝っているので、かなり厳しい戦いになると思うが、頭を潰せば相手の士気は下がるはず‥‥。私はそう信じています」
詳しい情報を村人から聞き終え、蒼司が厳しい表情を浮かべて呟いた。
村人は無宿から受けた拷問の傷が痛むのか、ほとんど食事を口にしていない。
「どちらにしても面倒な事になりやしたね。依頼人の話じゃ、村の状況は分からないと言うし、こちらが来るのも分かっていやしょう」
困った様子で腕を組み、寿王丸が溜息をつく。
無宿が無能でもない限り、待ち構えている可能性が高い。
「とにかくやるしかないだろう。ここで村人達の救出を諦める訳にはいかないしな」
そう言って灰原鬼流(ea6945)が短刀を握って酒場を出る。
村を占拠している無宿一味を倒すため‥‥。
●無宿に支配された村
「出て来い無宿!! 村の人達を解放するんだ!!」
辺りが暗くなった頃、ザレスが無宿のいる村に辿り着く。
無宿達が暴れている事もあり、村の入り口には死体の山が出来ており、大量の蛆虫が湧き辺りに異臭を放っている。
「なんだ、てめぇはっ! ここを無宿様の村と知っての事か!」
不機嫌な表情を浮かべ、男が見張り台から顔を出す。
暗闇のため顔までは見えないが、雰囲気からして無宿の手下である可能性が高い。
「‥‥気をつけろ。他にも敵がいるようだ。弓を構えた男が少なくても、ふたり‥‥」
警戒した様子で日本刀に手を掛け、アレクサンドル・リュース(eb1600)が手下を睨む。
手下は指笛を使って仲間達に合図を送り、見張り小屋からリュース達に弓をむける。
「村人達を壁にして、わしらを取り囲むつもりか。‥‥敵も考えたな」
手下と一緒に現れた村人達の顔を見つめ、ひじりがジリジリと後ろに下がっていく。
村人達は無宿に脅されているためか、クワを握り締めたまま身体を小刻みに震わせ涙を流す。
「うっ‥‥、うわわぁ!」
雄たけびを上げながらクワを振り上げ、村人のひとりがバーク・ダンロック(ea7871)にむかって襲い掛かる。
「‥‥外道が!」
オーラボディを使ってクワを受け止め、バークが素早く当て身を食らわせ辺りを睨む。
村人達は手下に脅されているためか、怯えた表情を浮かべたまま次々と襲い掛かってくる。
「‥‥何だか妙だな。村人達がここまで必死になるなんて‥‥」
出来るだけ村人達が傷つかないように手加減しながら、黒畑緑太郎(eb1822)が険しい表情を浮かべて汗を流す。
何度かテレパシーを使って村人達に『死んだフリをしてくれ』と頼んでみたが、こちらの話は全く聞かず狂ったようにクワを振り回して雄たけびを上げる。
「‥‥話が通じる相手じゃないな。何か理由があるのかも知れないが‥‥」
ロングソードを使ってクワを弾き、ザレスが疲れた様子で溜息をつく。
村人達は何度もザレス達に襲い掛かってきたが、実力に差があり過ぎるため全く攻撃が当たらない。
「理由って、まさか‥‥。家族が人質にとられているとか‥‥」
エリアル・ホワイト(ea9867)の言葉に村人達が反応する。
「つまりこう言う事か。俺達の首を取れば、家族の命は助けると‥‥」
無宿の手下を睨みつけ、リュースが怒りで拳を震わせた。
手下達は卑下た笑みを浮かべると、村人達の背中を乱暴に蹴る。
「クッ‥‥、卑怯な真似をっ!」
村人達の攻撃を何度も受け止め、バークが無宿の手下をジロリと睨む。
無宿の手下はまるでバーク達の怒りを楽しむかのようにしながら、村人達の背中を蹴って下品な笑みを浮かべている。
「だからと言って奴らの好きにさせてたまるか!」
すぐさまムーンフィールドを発動させ、緑太郎が村人達を守るための結界を作り出す。
驚く無宿の手下達。
その間にエリアルがコアギュレイトを放ち、手下の動きを封じ込めた。
「や、やりやがったな!」
指笛を使って仲間達に合図を送り、手下の見張り役が弓を構えて素早く放つ。
「‥‥悪いが眠っていてくれ」
いきなり抱きついてきた村人にスタンアタックを放ち、リュースが見張りの放った弓矢を避ける。
見張り役はチィッと舌打ちすると、再びリュースにむかって弓矢を放つ。
「本当にしつこい奴じゃのう」
呆れた様子で溜息をつきながら、ひじりが見張り台めがけてファイヤーボムをぶちかます。
見張り役はバランスを崩して放り出され、宙を仰ぐようにして地面に落ちる。
「こんな日にはぁ、命を落とす奴が多いぃ」
弓手が弓矢を構えたため、ウィルマがニヤリと笑って狙撃した。
「ほら怯んだぞ、行け! 行け! 行け!」
騒ぎを聞きつけやって来た無宿の手下に狙いを定め、ウィルマがクイックシューティングを放つ。
その間にバークが村の中に入っていき、手下達をギリギリまで引き付けてから、オーラアルファーを発動させる。
出来るだけ敵の注意を自分達にむけるため‥‥。
●迂回路から村へ
「随分と騒がしくなってきましたね」
明かりをつけずに草むらを進み、シャスール・サリア(ea9852)が辺りを睨む。
村の入り口と比べて手下の数は少ないが、数人の手下が交代で辺りを見張っている。
「‥‥最優先して狙うのは無宿の首。他の奴らはどうでもいい」
思っていたよりも見張りの数が多かったため、鷹見沢桐(eb1484)が物陰に隠れて時期を待つ。
「この様子じゃ、自分の手下すら信用していないのかも知れないな」
草むらを這うようにして移動しながら、蒼司が見張りの手薄な場所へと移動した。
手下の中には酒を飲んで見張りをサボッている者もいるため、うまく行けばほとんど戦わずに無宿の所まで行ける。
「さて、どうしやすか? このまま隠れていても埒が明きやせんぜ」
依頼主から借りた服を身に纏い、寿王丸が草むらからゆっくりと顔を出す。
「それじゃ、行くか。‥‥遅れるなよっ!」
韋駄天の草履を履いて一気に走り、鬼流がオフシストを駆使して無宿の手下を倒していく。
手下はすぐに指笛で危険を報告しようとしたが、サリアのミドルボウが放った一撃を喰らい悲鳴を上げて絶命した。
「や、野郎っ!」
飲んでいた酒を叩きつけ、無宿の手下が刀を握る。
「‥‥気づくのが遅かったな」
手下の首を跳ね飛ばし、霧が刀についた血を払う。
「なるべく無宿に気づかれないようにしないとな。せっかくの作戦が無駄になる」
無宿の手下を始末し終え、蒼司が怯える村人達の前に立つ。
村人達は家族が人質にとられている事を説明し、気まずい様子で無宿のいる小屋を指差した。
「‥‥あそこに無宿がいるのか」
何処か寂しげな表情を浮かべ、蒼司が小屋を目指して歩き出す。
村人達の期待を胸に‥‥。
●無宿の小屋
「‥‥残っているのは無宿だけですね」
村の中にいた無宿の手下をすべて倒し、エリアルが蒼司達と合流した。
無宿のいる小屋には娘達がいるらしく、悲鳴と嗚咽が響いている。
「ようやく来たか。入って来いよ」
下品な笑い声を響かせながら、無宿がエリアル達に声を掛けた。
「‥‥気づいていたか」
無宿の事を睨みつけ、桐が日本刀に手を掛ける。
「俺がこの世でただ一つ我慢出来んのは―――詰まらん奴が詰まらん事を言いながら死ぬ事だ!」
無職の眉間に狙いを定め、ウィルマが迷わず弓矢を放つ。
「おっと、そんな事をしていいのか? こっちには人質がいるんだぜ!」
娘達を抱き寄せニヤリと笑い、無宿がウィルマを挑発した。
ウィルマの放った弓矢は娘の頬をかすり、深々と後ろの壁に突き刺さる。
「‥‥あなたが噂の無宿ですか。変な名前ですね。『やどなし』とでも改名したらどうですかね。その方がお似合いですよ」
冷たい視線を無宿に放ち、サリアがキツイ一言を言い放つ。
「はははっ、こりゃあ、いい。嫌いじゃないぜ、そう言うの」
サリアの身体を品定めするようにして見つめ、無宿がいやらしい笑みを浮かべて答えを返す。
「何でも自分の思い通りになると思ったら大間違いですよ」
無宿に対して嫌悪を感じ、サリアがミドルボウを構えて叫ぶ。
「おっと‥‥、怖い怖い。お手柔らかにしてくれよ」
余裕の態度でサリアを制し、無宿がニヤニヤと笑う。
「‥‥無宿、お前は剣に名前をつけてるんだって? でもお前はもう剣を握る必要は無い!!」
次の瞬間、ザレスが無宿にむかってロングソードを振り下ろす。
「遅いっ!」
すぐさまザレスの口元に刀を突きつけ、無宿が左腕を使って村娘の首を絞める。
「‥‥そこまでだ」
無宿にむかってムーンアローを撃ち込み、緑太郎が厳しい表情を浮かべて無宿を睨む。
「てめぇらがどんな鬼を倒したか知らねぇが、俺様は熊鬼や山鬼に囲まれてかすり傷で済ませた男だぜ。死にたくなかったら刀を捨てな!」
すぐに村娘が助け出せる距離まで近づき、バークが無宿にむかって声を掛ける。
「へぇ‥‥、面白れぇじゃねえか。だが、俺も忙しいんでな。今度、相手にしてやるよ」
前に座っていた村娘を蹴り飛ばし、無宿が女を抱き寄せ怪しく笑う。
「そんな事をしても無駄でやす」
倒れた村娘を抱き起こし、寿王丸が無宿の逃げ道を塞ぐ。
「無駄な抵抗はやめておけ。‥‥死にたいのか」
日本刀を無宿にむけ、桐が最後の警告をする。
「‥‥『死神』か。お前などに使われて、哀れな刀だ。死神の最後の供物は、貴様自身がなればいい、無宿」
無宿の刀を素早く弾き、リュースが村娘を助け出す。
「この世に悪が栄えたためしは無いのじゃ、観念せい」
村娘達を無宿から遠ざけ、ひじりが無宿を捕まえようとする。
「‥‥甘いな。観念するのは、てめぇらだっ!」
しかし、無宿はニヤリと笑い、高笑いをあげて指を鳴らす。
それと同時に娘達がひじりを囲んで短刀をむける。
「俺の手下には女もいるんでな。‥‥あばよ」
そう言って無宿が壁を蹴破り、ひじり達に手を振った。
「‥‥愚かな」
次の瞬間、緑太郎のムーンアローが炸裂し、無宿の脳天を貫き息の根を止めた。
悪党らしいあっけない最後。
倒れながらも空にむかって右手を伸ばし、自らが作り出した血の海へと沈んで行く。
「‥‥無宿は死んだ。お前達も死にたくなかったら武器を捨てろ」
鬼流の言葉に無宿の手下が武器を捨てる。
まるで糸の切れた人形のようにしてその場に崩れ落ちながら‥‥。