●リプレイ本文
●月光
「『満月の晩に人を襲う鬼』か‥‥。そう言うのは狼男だけにしてもらいたいな」
酒場に行って『月光を倒した時は真っ先に呼んでやる』という条件をつけ、ウェス・コラド(ea2331)が『冒険者が月光退治を開始した事』、『女性や子供連れで満月の晩に出歩く予定がある者は外出を控える事』、『どうしてもと言うのならギルドにいる担当者(私)へ言えば見回りを手配するという事』の3点を条件にして情報屋から関連性のある情報を得る。
「これで月光退治が失敗したら大恥をかく事になるが、それは絶対に『あり得ない』。‥‥いや、考える必要もないな」
絶対に月光を倒す事と心に誓い、ウェスが身なりを整え歩き出す。
今日は月光の現れる満月の晩。
ここで仕留めなければ、新たな犠牲者が出てしまう。
「この辺りじゃ、意外とその手の事件が多いらしい。月光のやり方を模した猟奇殺人者まで現れている始末だしな」
街で集めた情報を話しながら、アーウィン・ラグレス(ea0780)が疲れた様子で溜息をつく。
中でも月光の仕業に見せかけた事件が多く、今までにも何度か猟奇殺人鬼が捕まっているらしい。
「『月光』の名を語る猟奇殺人鬼と言うわけですか‥‥。それじゃ、今回の事件も月光の仕業ではない可能性がありますね」
事件の裏で暗躍している猟奇殺人鬼がいる事に気づいたため、神楽聖歌(ea5062)が一から情報を整理し直し、関連性のなくなった事件を頭の中から消していく。
「いや、こう言う考え方も出来るんじゃないか。月夜の晩に殺人を犯す者全てが月光であると‥‥」
月光に関する事件を取り扱った情報を思い出し、天津蒼穹(ea6749)が険しい表情を浮かべて口を開く。
どの事件も目を覆いたくなるような事件のため、何度か時間を置いて自分の得た情報を纏める。
「‥‥月明かりを浴びて凶暴化する者達か。本当に狼男だな。心の中に獣を飼っているんじゃないか」
フライングブルームを握り締め、アーウィンが空から怪しい人影を探す。
だんだん暗くなってきた事もあり、アーウィンは月明かりを頼りにして飛び回る。
「彼らにとっては『儀式』のような感覚なのだろう。あくまで『個人的な推測』だがね」
比較的女性の多い場所に重点を置き、ウェスが色町のある方角に向かって歩いていく。
色町は月光の事件など関係ないのか、全く仕事に影響している気配がない。
「みんな‥‥命が惜しくないんでしょうか?」
驚いた様子で遊女を見つめ、聖歌がボソリと呟いた。
「生きるためには仕方がないさ。働かなければ家族を養う事が出来ないからな」
何処か寂しげな表情を浮かべ、ウェスが大きな溜息をつく。
「!!!!」
次の瞬間、呼子笛の音色が響き渡り、アーウィンが仲間達に向かって合図を送る。
「‥‥月光か!?」
すぐさま空を見上げてアーウィンの姿を確認し、ウェスがランタンを掲げて走り出す。
その間にアーウィンは月光が襲っていた遊女を守り、挟み撃ちにするためウェス達のいる方向に追い詰めていく。
「うわぁぁぁ!」
短刀をめちゃくちゃに振り回し、月光らしき男が聖歌に向かって飛び掛る。
「私はそう簡単にやられませんよ」
オーラボディを発動させ、聖歌が月光の攻撃を受け流す。
「この世は力が全てと言うのなら‥‥力無き者に変わり、我が正義を示そうぞ! 悪を切り裂く正義の刃! 天津蒼穹、いざ参る!!」
それと同時に蒼穹が槍を構えて走り出し、月光らしき男を吹っ飛ばした。
「こ、この野郎っ!」
月光は地面に落ちた短刀を拾い、雄たけびを上げて蒼穹を狙う。
「行雲流水‥‥! 為・虎・添・翼!!」
そのため蒼穹は助走をつけて飛び上がり、自分と武器の重さをのせて長槍を力任せに振り下ろした。
「ぐはっ‥‥」
頭からダラダラと血を流し、月光が前のめりに倒れこむ。
「やれやれ、人騒がせな奴だな」
フライングブルームから飛び降り、アーウィンが疲れた様子で溜息をつく。
見た目の雰囲気からして月光の名を語る小物のようだ。
「‥‥とにかく役所に連れて行くか。月光ではなかったが、女を襲っていたのは間違いないからな」
男の胸倉を掴み上げ、ウェスがクールな表情を浮かべる。
‥‥この様子ではいくつか余罪がありそうだ。
●月光と呼ばれた鬼
「ただでさえ人を襲う鬼は許せないが、今回はその上女子供ばかり襲う鬼か。なおさら許せないな」
怒りに拳を震わせながら、カイ・ローン(ea3054)が月光を探して街を歩く。
カイが巡回している通りの道はほとんど人影もなく、虫の鳴き声だけが辺りに空しく響いている。
「へ‥‥、月光なんざ、ただの人食い鬼にゃ過ぎた二つ名だな!」
月光が油断しやすくするため夜の花を売る女性に扮し、巴渓(ea0167)が色町に向かって歩き出す。
空を見上げればフライングブルームに乗るアーウィンの姿があるため、彼らも色町を中心にして辺りを巡回しているようだ。
「だったら俺達はこっちを調べる事にするか。同じ場所を探しても月光が見つかるとは限らないしな」
色町とは反対側の方角を向き、緋邑嵐天丸(ea0861)が辺りを睨む。
明かりになるものを持ってこなかったため、月明かりを頼りにしながら辺りを何度も見回した。
「それじゃ、オレは空から月光を探してみる。何かあったらこれを吹くから、すぐに駆けつけてくれよ」
アーウィンから借りた空飛ぶ箒を握り締め、氷川玲(ea2988)が仲間達に別れを告げて大空へと飛び上がる。
「それにしても江戸の街中にこれほどの鬼が出るとは、何か悪い事の前触れでないといいのだが‥‥」
険しい表情を浮かべながら、カイが心配した様子で溜息をつく。
この事件が何かのキッカケであるような気がしてならないため、朝から妙に胸騒ぎがしているらしい。
「気のせいじゃねえか? まぁ、用心に越した事はないけどな」
カイの緊張を解き解すため、渓が豪快な笑みを浮かべて肩を叩く。
「だといいんだが‥‥」
何処かシックリ来ないのか、カイが提灯を照らして先に進む。
「‥‥ん? なんだ、ありゃ」
誰よりも早く異変に気づき、嵐天丸(ea0861)が日本刀に手を掛ける。
「お、鬼かっ!?」
それと同時に呼子笛の音色が響き、玲が急降下して月光らしき鬼を追う。
月光は玲達に姿に気づくとグチャグチャに引きちぎった女を放り投げ、興奮気味に鼻息を荒くさせながら全速力で逃げていく。
「青き守護者カイ・ローン、参る」
自らにグッドラックを掛けておき、カイが月光の逃げ道を塞ぐようにして前に立ちはだかる。
「さて‥‥、壊すとするか。てめぇに恨みがあるわけじゃねぇ、これも仕事だ」
渓にオーラパワーを付与してもらい、玲が気合を入れてスタッキングで月光の懐へと潜り込む。
月光は雄たけびを上げながら、玲にカウンターパンチを放つ。
「ぐっ‥‥、やるな。いまのは効いたぜ」
眩暈で頭をフラフラさせ、玲が血の混じった唾を吐く。
その間に月光は方向を変え、慌てた様子で逃げ出した。
「逃がすかよっ!」
腹の底から声を出し、渓が月光の後を追う。
「止まらなければ撃つぞ!」
月光に対して警告しながら、嵐天丸がソニックブームを叩き込む。
「やったか!?」
断末魔の咆哮を上げ、月光がグッタリと倒れる。
「随分と呆気なかったな。‥‥俺達が強すぎたか?」
月光の死体を確認し、渓が軽く冗談を言う。
「いや、そうじゃない。コイツは事件をカモフラージュするために利用されたのかも知れん。どうやらこの事件‥‥裏で操っている奴がいるかもな」
‥‥カイの言葉に仲間達がゴクリと唾を飲み込んだ。
●そして‥‥
「野郎の端くれとしちゃあ、若いオネェちゃんを狙う気持ちは分からねぇでも無ぇんだが、肝を喰らうってのは頂けないねぃ。‥‥ま、いっちょやったるか」
真鉄の煙管を口に咥え、平島仁風(ea0984)が夜道を歩く。
辺りには酔っ払いが倒れており、酒樽を抱き締めスヤスヤと寝息を立てている。
「零くん、刀也くん頑張りましょうね〜」
後ろからふたりの首をギュッと抱き、槙原愛(ea6158)がニコリと笑う。
少し力を入れ過ぎたため、ふたりともゲホゲホと咳をしているが、愛はそれほど気にしていない。
「それじゃ‥‥、行ってくる」
嵐天丸から借りた大凧を使い、雪切刀也(ea6228)が上空から月光を探す事にした。
この辺りはそれほど人が多くないため、目を凝らしてひとりひとり確認する。
「そう言えば月光が複数いるのではないかと言う噂があるようですね。全てが鬼の仕業ではなく、月光の名を語り犯行を企てている者達がいると‥‥。まぁ、噂でしかありませんが、何らかの組織と言うわけではなさそうです‥‥」
念のため自分の得た情報を思い出し、雨宮零(ea9527)が月光の現れそうな場所に目星をつけた。
何度か遠くの方から呼子笛が鳴ったため、場合によっては退治されているかも知れないと思いつつ‥‥。
「本当に鬼なんて現れるのかねぇ? こんなに巡回している奴らがいるんだから、月光も人を襲いにくいんじゃねえか?」
苦笑いを浮かべながら、仁風が大きなアクビをする。
「そればっかりは分かりませんね。月光にしか‥‥」
そこまで言うと零が警戒した様子で日本刀を引き抜いた。
「夜歩きは危ねぇぜ、フラフラしてっと怖〜い鬼さんに頭っからバリバリ喰われちまうぞー」
目の前にいたのが遊女と分かり、仁風が苦笑いを浮かべて声を掛ける。
遊女は妙な姿勢で座ったまま、首がポトリと転がり落ちた。
「きゃあ!?」
突然の事に悲鳴を上げ、愛が両手で顔を覆う。
「て、敵か!」
愛の悲鳴に気づいたため、刀也が大凧から降りて月光を探す。
「いや、亡くなってから暫く時間が経っています。彼女を殺した犯人は既に逃亡した後でしょう」
遊女の亡骸に駆け寄り、零がボソリと呟いた。
医学的な知識がないためハッキリとした時間は特定出来ないが、殺されてから暫く経っている事は間違いない。
「‥‥遅かったか」
遊女の亡骸に上着を被せて両手を合わせ、仁風が悔しそうに唇を噛む。
「この様子だと短刀で一撃か。何処かで犯人が捕まっているといいんだが‥‥」
そう言って刀也が満月を見つめて溜息をつく。
月夜の晩は事件が多い。
‥‥それは今も昔も変わらぬ事だ。
そんな空しい思いが、刀也の中で渦巻いていた。
ぐるぐる‥‥ぐるぐる‥‥と。