●リプレイ本文
●絶倫兎
「むふふふふ〜、覇羅乃万闘〜(パラのマント)」
『4次元』と大書してあるバックパックの中から、暮空銅鑼衛門(ea1467)が謎の効果音に合わせて新入荷秘滅道愚(ひめつどうぐ)を取り出した。
「久々の古褌屋以外の依頼でござる。張り切って行くでござるよ〜」
満面の笑みを浮かべてマントを配り、銅鑼衛門が拳をギュッと握り締める。
「ところで絶倫って、どういう事ですか?」
銅鑼衛門の袖を引き、大宗院鳴(ea1569)が首を傾げて呟いた。
絶倫の意味が分からず、少し困っているらしい。
「分かりやすく言えば‥‥モゴモゴ‥‥」
「とても元気がいいって意味よ」
慌てて銅鑼衛門の口を塞ぎ、陣内風音(ea0853)が代わりに答えを返す。
そのため鳴は暫く考えた後、手の平をポンと叩いてニコリと笑う。
「えーっと、つまり子孫繁栄のための本能が強いと云う意味ですね。わたくしのお父様も、よく女性の方に声をかけているのは、子孫繁栄、末は大宗院家繁栄のためなのかも‥‥」
今まで集めた情報を頭の中で整理し終え、鳴が納得した様子で頷いた。
「まぁ、そんな所だな。絶倫とはいえ所詮はウサギ。自分がいかに卑小な存在であるかを思い知らせてやらねばなるまい」
険しい表情を浮かべて腕を組み、デュラン・ハイアット(ea0042)がリトルフライを使って飛び上がる。
「年中発情期のウサギかぁ‥‥。しかも退治した所で兎ハンターだろ。イマイチカッコ良くないな」
あまり乗り気ではないのか、龍深城我斬(ea0031)が不満そうに愚痴をこぼす。
昨日は徹夜でウサギを入れておくための檻を作っていたため、眠気とストレスで少しいらいらしているらしい。
「もともと兎は性欲が強く、特に雄の成獣は死ぬまで発情しっぱなしだと言われている。だが、交尾をひたすら続けると肝心な物が使えなくなるから、流石に自身の休憩を設けるだろう。捕獲の機会があるとしたら、その間しかないな」
デュランの後を追いかけながら、凪里麟太朗(ea2406)がウサギを探す。
ウサギが逃げてから、かなりの時間が経っているため、森の何処かで増え続けている可能性が高い。
「ね、狙った獲物は百発百中の絶倫兎さん‥‥ですか‥‥。このままだと大変な事になりますね‥‥」
恥ずかしそうに頬を染め、ラティエル・ノースフィールド(ea3810)が汗を流す。
色々とえっちな話を聞いたため、恥ずかしくて仕方がない。
「しかも‥‥絶倫‥‥ですか‥‥」
ラティエルの一緒に頬を染め、プリュイ・ネージュ・ヤン(eb1420)が視線をそらす。
仮にウサギ達を見つけたとしても、とんでもない光景が広がっている可能性が高いため、色々な意味で緊張しているようである。
「ウサギさんに悪気はないと思います。ただ正直に生きただけなのですから‥‥」
何処か悲しげな表情を浮かべ、レヴィン・グリーン(eb0939)がボソリと呟いた。
一応、ウサギを食べても大丈夫だと許可は出ているが、レヴィンのいる所では流石にそれも難しそうだ。
「‥‥そうだな。出来るだけ生きたまま捕獲しよう。発情中の兎なら、メスに惹かれてやってくるだろうしな。‥‥頑張ってくれよ」
依頼主から借りてきたメスのウサギを見つめながら、阿武隈森(ea2657)が願いを込めて頭を撫でる。
「村人が困っているので、申し訳ないですが、協力してくださいね」
ぺこりとウサギに頭を下げ、鳴が丁寧な口調でお願いした。
メスのウサギはうっふんとした表情を浮かべ、鳴達にむかって可愛らしくウインクする。
「とにかく問題になっているウサギだけでも捕獲しないとな。増えすぎた兎が田畑を荒らし、被害を拡大させる可能性も高いだろ」
食料を求めて絶倫ウサギが村を襲撃した場合の事を考え、我斬がメスの兎を村の中心に集めて罠を張る。
「ウサギ大の大きさの反応が多数か‥‥。む、このやたらと呼吸が荒いのが絶倫だな。間違いあるまい」
ブレスセンサーを使った瞬間、妙な反応があちこちでボコボコと出たため、デュランがダラリとて汗を流して着地する。
「‥‥ぺっとは飼い主に似るといいますけど‥‥まさかね‥‥」
依頼主に意味が分からないように異国の言葉で呟きながら、プリュイが苦笑いを浮かべて汗を拭う。
どうやら依頼主の家も子沢山らしいため、絶倫である可能性は非常に高い。
「食べたら物凄く精が出そうよね」
じゅるりと涎を流しながら、風音が怪しくニヤリと笑う。
捕まえたウサギは滋養強壮のお土産として売るため、他の者達と比べて何だかウキウキしているようだ。
「そんな事はさせませんよ。ウサギは私が保護します。この命にかけて‥‥」
拳をギュッと握り締め、レヴィンがその場で誓いを立てる。
円らな瞳の潤ませているウサギ達を見つめながら‥‥。
●捕獲
「あ、あれは‥‥。間違いない、ヤツだ!」
見晴らしのいい場所に立って絶倫ウサギを発見し、麟太朗が大声を上げて仲間達に報告した。
絶倫ウサギは息子達を連れて村に攻め入り、興奮気味にフンカフンカと鼻を鳴らす。
「むむ〜、相手構わず孕ませるとは、真の愛を知らぬ可愛そうな兎でござる。仁義友愛誠心誠意をもってすれば、種族を超えて体と体で語り合い、きゃつに真の大和男児(やまとおのこ)としてのあり方を教授できると信じるでござる!」
結社の社訓その1326『自由平等博愛』の理念に従い、銅鑼衛門がメス兎の格好になって待ち構える。
「ぬおっ‥‥、そんな所に入るとは‥‥。や、やるな! ま、待て待て、そこは大人の領域でござる。うううっ‥‥」
ウサギ達の絶倫テクに戸惑いながら、銅鑼衛門が身に纏っていた着ぐるみを脱ぎ捨て逃げ出した。
「こっちだ!」
銅鑼衛門が逃げる時間を稼ぐため、麟太朗が風呂敷を持ち上げ人参の山をウサギに見せる。
雄兎達は目にハートマークを浮かばせながら、麟太朗の仕掛けた山積みの人参に群がった。
「かかったな!」
次の瞬間、麟太朗が松明の炎をファイヤーコントロールで操り、ウサギ達の周囲をまるで大蛇が這うようにして囲んで逃げ道を塞ぐ。
「おや‥‥、あれは黒皇‥‥」
自分の飼っている雄馬が炎を飛び越え、人参の山に飛び込んで来たため麟太朗が驚いた様子で汗を流す。
しかし、ウサギは地面に穴を掘って逃亡を図り、蜘蛛の子を散らすようにして逃げていく。
「マ、マズイ‥‥!」
炎の中でぽつねんと立つ黒皇に気づき、麟太朗が再びファイヤーコントロールを使って炎の形を変化させた。
「きゃっ、きゃあ! この兎‥‥スカートの中に‥‥」
恥ずかしそうにスカートを押さえ、ラティエルが嫌々と首を横に振る。
ラティエルの胸当てと腰巻に雌兎の皮を使っているため、雄兎が鼻息を荒くしながら彼女の身体に飛びついた。
「しかし、あの格好‥‥。本当に大丈夫なのか?」
ウサギ達に胸当てを奪われた彼女を見つめ、我斬が呆れた様子で溜息をつく。
ラティエルの服はウサギ達に奪われ、身体を隠すために必要な布切れだけになっている。
「だ、大丈夫ですか!? きゃあああ、このウサギ‥‥何か変ですよぉ‥‥」
慌てた様子でラティエルの助けに入り、プリュイが悲鳴を上げてその場にしゃがむ。
「悪いが、それ以上その雌を渡すわけにはいかん。‥‥絶倫、俺と勝負だ!」
木刀を後ろ手に隠して構え、我斬が絶倫兎と対峙する。
すると絶倫兎はいきなりピューッと走り出し、我斬の足元をするりと抜けていく。
「ウサギさんは近距離の物に対して目が悪いですから引っかかるはずです」
マジカルミラージュのスクロールを広げ、レヴィンが雌兎の蜃気楼を出現させ匂い袋をバラ撒いた。
匂い袋の中には雌兎の抜け毛が入っているため、幻に騙された雄ウサギ達がレヴィンの仕掛けた罠にはまる。
「もう怖くありませんよ。私と一緒に行きましょう」
ホッとした様子で溜息をつきながら、レヴィンが雄兎を優しく抱き上げ囁いた。
未だに雄兎が興奮している事もあり、落ち着かせるため檻の中に入れておく。
「おい、絶倫がそっちへ行ったぞ!」
異変に気づいて逃げ出した絶倫を指差し、デュランがチィッと舌打ちする。
「大人しくしてくださいね〜」
兎の着ぐるみ姿のままでライトニングアーマーを身に纏い、鳴がライトニングサンダーボルトを放って絶倫兎を威嚇する。
「左の拳は心を折り、右の拳は魂を打ち砕く。さあ、美味しそうなうさぎちゃん、あたしの拳を受けて‥‥串焼き〜♪ 煮込み〜♪ から揚げ〜♪」
瞳をランランと輝かせ、風音がじゅるりと流れた涎を拭う。
絶倫兎はぴょこぽんと飛び上がり、慌てた様子で風音から逃げていく。
「喝っ! そこへ直るでござる! こらぁぁぁ!」
逃げ道を塞ぐようにして両手を開き、銅鑼衛門が大声で叫んで木刀をブンブンと振り回す。
それでも絶倫兎は逃げようとしたが、麟太朗と黒皇の挟み撃ちに遭い、逃げ道を塞がれ穴を掘る。
「ゲームオーバーだ、絶倫君!」
絶倫兎の背中を掴み、デュランが力任せに放り投げた。
「捕まえたぞ! いや‥‥本気ですまん。だからそんな顔で俺を見るな。ウサ公」
投網を使って絶倫兎を捕獲し、森が苦笑いを浮かべて汗を流す。
「もう大丈夫ですかね‥‥」
破れた布で身体を隠し、ラティエルが顔を真っ赤にする。
「何か悪さをしそうになったら、コアギュレイトをかけておく。それでも暴れたら‥‥やるしかないな」
絶倫兎の身体見つめ、森がボソリと呟いた。
「‥‥去勢しちゃいますか?」
恥ずかしそうに頬を染め、プリュイが気まずく視線をそらす。
「それは名案ね♪ 何か悪さをしたら、チョッキンしちゃお。何だか妙に栄養がありそうだし‥‥」
瞳をギラリと輝かせ、風音が絶倫兎に囁きかける。
「佼徒死して走狗煮らる‥‥これも生き物のサガでござるか」
含みのある笑みを浮かべ、銅鑼衛門が豪快に笑う。
そのため絶倫兎は汗を流し、円らな瞳を潤ませ小さくコクンと頷いた。
「まぁ、暫くは監視しておくべきだろう。こいつが残した絶倫の血が新たな問題を起こさぬとも限らないのだがな」
苦笑いを浮かべながら、デュランが絶倫兎を檻の中に閉じ込める。
新たな災いが引き起こされないように願いつつ‥‥。