豚鬼婦人

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月15日〜05月20日

リプレイ公開日:2005年05月17日

●オープニング

「これ以上は無理ですだっ!」
「何を言っているのかしら。お米が無ければ、お菓子を食べればいいじゃない」
「そ、そんな! わしらにはお菓子を買う金も無いのに‥‥」
「本当に愚かな人達ね。お菓子は買うものじゃないわ。‥‥お家で作るものよ」
「わしらはもう‥‥限界ですだ‥‥。わしらの米を真珠と交換するために使うなんて‥‥」
「‥‥限界? この程度の事で? あなた達って本当に役立たずなのね。真珠はいくらあっても足りないのよ。あたしが美しくなるためには‥‥」

 それから数日後‥‥。
 ‥‥豚鬼婦人は誘拐された。
 数匹の豚鬼達の手によって‥‥。

「頼む、わしの娘を助けてくれ」
 豚鬼(トンキ)婦人が連れ去られてから数時間後。
 ギルドには父親である長老の姿があった。
 長老の村では代々村長が作った掟を守る事になっているのだが、豚鬼婦人の代になってから取り立てが厳しくなり村人達の間で不満が爆発しそうになっていた矢先の事件。
 それが豚鬼婦人の誘拐であった。
 その名の通り豚鬼婦人はでっぷりとした身体の美しい女性なのだが、成人した後も独身を貫き、村を守り続けてきた心優しき女性である。
 少なくとも父親である長老が見る限り‥‥。
「娘を助けてくれたら、お前達の誰かを婿として迎えてもいい!」
 破壊力抜群の言葉に冒険者達が視線をそらす。
 ‥‥婿はカンベン。
 ある意味、それは地獄である。
「おお、引き受けてくれるのか! それでこそわしの見込んだ者達だ!」
 冒険者達の気持ちを都合のいいように解釈し、長老が満面の笑みを浮かべて彼らと握手を交わしていく。
 今回の目的はただひとつ。
 ‥‥豚鬼婦人の救出だ。
 しかし、彼女を助け出す事は村の破滅を意味している。
 果たして冒険者達の出した決断とは‥‥。

●今回の参加者

 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3318 阿阪 慎之介(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 eb0938 ヘリオス・ブラックマン(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●豚に真珠
「‥‥豚‥‥か。‥‥人より傲慢な豚は家畜にもならんな‥‥。いや、人として生きるのなら別だが‥‥」
 幸せの絶頂にいる村人達を眺めながら、鋼蒼牙(ea3167)が険しい表情を浮かべて腕を組む。
 豚鬼婦人(本名:富士子)が連れ去られてからと言うもの、村には活気が溢れており誰ひとりとして彼女を助けようと言い出さない。
 それどころか豚鬼婦人がこの村にいた痕跡すら消し去ろうとしているようだ。
「この様子では村人達の説得は難しそうでござるな。まぁ、自業自得と言えば、そうなのでござるが‥‥」
 苦笑いを浮かべながら、阿阪慎之介(ea3318)が汗を流す。
 ここまで村が平和だと逆に豚鬼婦人の話題を出す事すら難しい。
「それ以上に問題なのは、豚鬼婦人を助けた者を婿にすると言う依頼主の言葉だろ。悪いがそんな事を言われて、ヤル気になるヤツがいたらこの目で見てみたいものだな」
 念入りに女装してから村に入り、リフィーティア・レリス(ea4927)が辺りを睨む。
 噂ではレリスのような男性が豚鬼婦人のタイプらしい。
 ある意味、それは死刑宣告に近い言葉である。
「とにかく婦人の機嫌を損なわず、豚鬼を倒して村まで送り届けなければならないんだろ。このまま放っておいたら、婦人が豚鬼を引き連れて村を襲撃してくる可能性だってあるんだから、何とかして村人達を説得しておかないと‥‥」
 最悪の事態を想像しながら、ヘリオス・ブラックマン(eb0938)がボソリと呟いた。
 色々な意味で危険な依頼ではあるが、引き受けた以上ここで逃げるわけには行かないようだ。
「村人達の話じゃ、豚鬼達の棲む洞窟はそれほど遠くないらしい。助けに行くのは簡単だが‥‥覚悟はいいな」
 大きく深呼吸してから、蒼牙が仲間達の顔を見る。
「‥‥」
 視線をそらす仲間達。
 暫くの間、気まずい空気が支配する。
「‥‥ひとついいかな。我々だけでも豚鬼を退治し、婦人の身柄を解放する事は出来るが、それでは村人と婦人の関係は変えられない。まずは村人達の説得をする事が先だと拙者は思うでござる」
 その沈黙を破ったのは、慎之介の言葉であった。
 慎之介は村人と婦人の関係修復を第一と考え、村人達に対して婦人の救出を提案しようとしているらしい。
「少し難しい気もするが、やるしかないな」
 覚悟を決めて村人達を睨みつけ、ヘリオスが力強い足取りで彼らの所まで歩いていく。
「‥‥断る」
 ヘリオスが口を開いた瞬間、村人達が一斉に首を横に振る。
 よほど豚鬼婦人を嫌っているのか、ヘリオスの口から『ぶ』と言う言葉が出た時点で村人達がジト目で睨む。
「そ、速攻だな」
 村人達の意思が揺るぎないものだと理解し、蒼牙が苦笑いを浮かべて汗を拭う。
 確かに予想はしていた答えだが、ここまでキッパリ言われると正直ヘコむ。
「婦人を助けたら、村に着くまでに何とかして改心させます。不安でしょうが、どうか私達を信じてください」
 真剣な表情を浮かべて村人達の前に立ち、ヘリオスが一生懸命になって訴えかける。
 村人達は気まずく視線をそらしていたが、覚悟を決めてようやく重い口を開く。
「お前達は分かっていないっ! あの女が我々にどんな酷い事をして来たのかを‥‥」
 その言葉と同時に身体に刻まれた忌まわしい記憶が蘇る。
 途端に漂う、どんよりオーラ。
「‥‥何だか物凄い事をされたらしいな。死んでも聞くつもりは無いけど‥‥」
 村人達の表情から何があったのかを察し、レリスが視線をそらして溜息をつく。
 ある程度の想像がつく上、脳裏にポカンと浮かぶため、それ以上その手の話題には触れない。
「どちらにしても、我々はこれから婦人を助けにむかう。そうなった場合、困るのはそっちでござる。‥‥ここで婦人に恩を売っておけば、自分達の利益になると思うのでござるが‥‥」
 言葉に含みを持たせながら、慎之介が村人達をジロリと睨む。
 妙にざわつく村人達。
「た、確かにそうだが‥‥、本当に信用していいんだな」
 なかなか踏ん切りがつかないのか、村人達が心配そうな表情を浮かべ汗を流す。
「もちろんです。昔から言うでしょ。信じるものは救われるって‥‥」
 そう言ってヘリオスが村人達の肩を叩き、優しくニコリと微笑んだ。

●豚鬼洞窟
「‥‥ここに婦人が捕らわれているのでござるな」
 農具を構えた村人達に案内され、慎之介達が豚鬼の棲む洞窟へと辿り着く。
 洞窟の入り口は蔦で覆われており、奥の方から豚鬼達の鳴き声が聞こえている。
「お、俺達はどうすればいいんだ?」
 持っていた農具を握り締め、村人達がゴクリと唾を飲み込んだ。
「洞窟の外で待っているだけで構わないでござる。これだけでも豚鬼にとっては充分な威嚇になる‥‥」
 オーラエリベイションとオーラシールドをかけておき、慎之介が日本刀を引き抜き洞窟の奥に進んでいく。
 洞窟の中はジメジメとしており、足元が妙にネチャついている。
「おっ、さっそく豚鬼達がお出迎えか」
 サンレーザーを放つため、レリスが豚鬼達を引きつけていく。
 豚鬼達は棍棒を振り上げ、唸り声を上げてレリスを襲う。
「喰らえっ! 豚の丸焼き一丁あがりっ!」
 すぐさまサンレーザーを放ち、レリスが豚鬼を踏み台にして他の豚鬼を攻撃する。
「豚鬼達!! 邪魔をすると許しませんよ!!」
 ロングソードを握り締め、ヘリオスが豚鬼達を斬りつけ婦人を探す。
 洞窟の中は蟻の巣状に入り組んでいるため、なかなか婦人が見つからない。
「くそ! 味方が少ないと厳しいものがあるな‥‥!」
 オーラエリベイションを自分でかけ、蒼牙が仲間達にオーラパワーを付与していく。
 豚鬼達は蒼牙にむかって棍棒を振り下ろし、痰の混じった涎を辺りに撒き散らす。
「うわっ‥‥、汚ねぇな!」
 慌てて後ろに下がった後、蒼牙がオーラショットを叩き込む。
「‥‥物凄い匂いがしますね。御婦人が無事だといいんですが‥‥」
 あまりの臭さに鼻をつまみ、ヘリオスが奥の部屋へと進んでいく。
「あ、あれは‥‥」
 奥の部屋で怯える婦人に気づき、慎之介が豚鬼を倒して大声を上げる。
「大丈夫だったか?」
 すぐさま婦人の傍に駆け寄り、蒼牙が彼女の安全を確認した。
 婦人は恐怖のあまり身体を震わせ、瞳には大粒の涙が溢れている。
「わたし‥‥助かったの‥‥」
 ウルウルと瞳を潤ませ、婦人が蒼牙の腕をガシィッと掴む。
「あっ、ああ‥‥」
 村人達の話していた婦人とは印象が違っていたため、蒼牙が驚いた様子で何度もコクコクと頷いた。
「‥‥気をつけろよ。ああいう女っていうのは、どういう状況にあっても、あんまり変わらないような気がするからさ。何を言っても聞き入れず、自分のやりたいようにやって謝りもしないんだから‥‥」
 蒼牙の耳元でボソリと呟き、レリスが婦人を睨んで後ろに下がる。
「ご安心ください。彼女の説得は、この私が‥‥」
 ニコリと笑って剣を収め、ヘリオスが婦人の前で跪く。
「あなたの今の美しさが、このような悲しい事件を起こしてしまいました。今の貴方の美しい身体と性格に、あろう事か豚鬼が魅了されてしまったのです‥‥。もう二度と誘拐されないようにお痩せになってはどうですか? 明るく朗らかで元気なその性格を、静かで落ち着きがある、お淑やかな性格に変える事が出来れば、このような事件に巻き込まれる事もないでしょう」
 婦人と見つめ合いながら、ヘリオスが優しく語り掛ける。
「豚鬼の嗜好というのはだな‥‥。なんというか‥‥。着飾った女性を好むのだよ。奴らはなんというか見た目が華美なのが好きだから‥‥。だから、あなたがそのように着飾るのなら、また同じような事が起きるかも知れないから、着飾る事は抑えた方がいいだろう。それから。多くの男性は、見た目が綺麗な人よりも、周りに優しい人の方を好む。‥‥意中の男性が出来た場合の事とかも考えて、周りから良い評価を貰える様にした方がいいぞ?」
 ヘリオスの言葉を付け加えるようにして、蒼牙が苦笑いを浮かべて汗を流す。
「‥‥素敵☆」
 途端に婦人は恋に落ちた。
 優しい言葉をかけた、ふたりに対し‥‥。
「む、村人達も‥‥あなたを心配して‥‥そ、外に‥‥」
 滝のような汗を流しながら、ヘリオスが慌てた様子で立ち上がる。
「ズ、ズルイぞ! 死ぬ時は一緒だっ!」
 貞操の危険を感じたため、蒼牙が青ざめた表情を浮かべて後を追う。
「い、いずこへっ! ま、まだお名前が‥‥」
 少女のような表情を浮かべ、婦人がふたりに手を伸ばす。
「に、逃げるぞっ!」
 次の瞬間、ふたりが慌てて逃げ出した。
 決して後ろは振りむかず、両手で耳を塞ぎながら‥‥。