●リプレイ本文
●鉄板焼き
「もし良ければ一緒に酒でも飲まないか。これは西洋の酒でな。この辺りじゃ珍しいものだぞ」
盗賊達を油断させるため、ルミリア・ザナックス(ea5298)が西洋の酒を振舞いにいく。
「西洋の酒だと‥‥? 確かに珍しいな。だが、毒でも入っているんじゃないのか?」
胡散臭そうに酒を受け取り、サポート役の盗賊がジト目で睨む。
よほど冒険者達に騙されてきたのか、まったくルミリアのことを信じていない。
「そこまでして我ら冒険者に一泡吹かせたいものなのか‥‥」
何処か納得の行かない表情を浮かべ、ルミリアが愚痴をこぼして戻ってくる。
盗賊達は正々堂々と勝負がしたいのか、試合が始まる前からトレーニングを欠かしていない。
「村人を盾にした我慢比べ‥‥という時点で、最初からフェアに行かないとは思うのですが、それでも村人が救出されるまで頑張ってみようかと思います」
落ち込むルミリアを慰め、三笠明信(ea1628)が褌一丁になって鉄板の前に立つ。
鉄板はしっかりと固定されており、かなりの温度に達している。
「念のため仕掛けがないか調べておこう」
妙な仕掛けがないのか調べるため、サイラス・ビントゥ(ea6044)が裸足で鉄板の上を歩いていく。
盗賊達の出した条件の中に代表者はひとりだけとあったため、サイラスは鉄板の熱さが同じかどうか確かめた。
「む〜心頭滅却すれば〜! だ、駄目だ〜!! 信明殿、後は頼んだぞ」
あまりの熱さに飛び上がり、サイラスが茹蛸のような顔になってざぶんと川に飛び込み、そのまま川下へと流れていく。
「それじゃ、試合を始めるか。村人達の命を懸けて‥‥」
不敵な笑みを浮かべながら、盗賊側の代表である鉄牛が鉄板の上に乗る。
何度も訓練をしているためか、それほど熱さは感じていない。
「ひとつルールを追加しても構いませんか?」
頭から水を被って足には油を塗りたくり、明信が安全性を考えルールの追加を要求した。
「勘違いしないでもらおうか。こっちには村人という人質がいるんだ。ルールの決定権はこちらにある」
含みのある笑みを浮かべ、鉄牛が静かに首を横に振る。
やはり冒険者達を信用していないのか、明信の言葉にも全く耳を傾けない。
「‥‥やはりそういう事ですか」
納得した様子で鉄牛を見つめ、明信が焼けた鉄板の上で腕を組む。
鉄板は物凄く熱いため、体中から脂汗が溢れ出る。
「ふ、代表者一人などと小賢しい。まとめて相手するゆえ何人でも来るが良い!」
わざと鉄牛を挑発し、ルミリアが赤勾玉を明信に渡す。
幸い鉄牛は気づいておらず、明信もコクンと頷き赤勾玉をしまい込む。
「それじゃ、面白くないだろ。お前達には苦しんでもらわないとな」
鉄板の熱さと激痛に耐えながら、鉄牛がポタポタと汗を流してニヤリと笑う。
「‥‥いいだろう。だったら、こういう事がお望みかな」
持参したワインを鉄板の上に振り撒き、ルミリアが真っ赤な炎を生み出し頭に被る。
「どうだ‥‥! き、貴様らに出来るか!」
険しい表情を浮かべながら、ルミリアが鉄牛の顔を激しく睨む。
一瞬とは言え炎は熱く、浴びた部分がヒリヒリする。
「止めてください。傷つくのは私だけで構いません。あなたは綺麗なままで‥‥いてください‥‥」
途中まで言って頬を染め、明信が恥ずかしそうに頬を染める。
「わ、分かった」
ルミリアも明信につられて頬を染め、気まずい様子で視線を逸らす。
「それ以上、その男に触れるな。偶然を装ってお前が不正を働くかも知れないからな」
わざと咳払いをしながら、鉄牛がルミリア達を睨みつける。
そろそろ限界が来ているため、早く勝負をつけたいようだ。
「そこまで私達を信じていないのですか」
驚いた様子で鉄牛を見つめ、明信がボソリと呟いた。
「‥‥お前達だけじゃない。冒険者を信用する事が出来ないだけだ」
不機嫌そうに腕を組み、鉄牛が必死で鉄板の暑さに耐える。
「そろそろ‥‥降参したら‥‥どうですか?」
流れ出る汗が鉄板に落ちて湯気に包まれ、明信が薄れ行く意識の中でニヤリと笑う。
「ば、馬鹿を言え! 死んでも降参するものか!」
激しく首を横に振り、鉄牛が瞳をカッと見開いた。
「そこまでだっ!」
次の瞬間、何者かの声が響き、村人達の視線が集中する。
「素敵に無敵! そして怪しさグゥレィト!! グゥレィト僧侶仮面、国を越えて、ただいま見参!!」
グレートマスカレードにエチゴヤマントを身に纏い、サイラスがグゥレィト僧侶仮面として死の淵から生還した。
「なんだ、サイラスか」
グゥレィト僧侶仮面が朱の僧侶服を纏っていたため、ルミリアがすぐさま正体を見破り溜息をつく。
「むう、私、いや我が輩の名は『グゥレィト僧侶仮面』だと言っているのだが。似ているからといって決め付けるのではない! これ以上やったら死者が出る! この勝負、引き分けだ!」
そう言ってサイラスがふたりの間に割って入り、勝負の引き分けを宣言するのであった。
鉄板の熱さで妙なダンスを踊りながら‥‥。
●釜茹で
「勝負に勝てば村人達を解放するのか。なかなか変わったルールだな」
試合で使用する大釜を見つめ、九十九嵐童(ea3220)がボソリと呟いた。
大釜の中には冷たい水が入っており、徐々に温まっていく仕組みになっている。
「俺達はお前らの困った顔が見たいだけだ。別に村人達を傷つけるつもりはない」
クールな表情を浮かべて鍋に浸かり、盗賊側の代表である釜次郎が答えを返す。
もともと興味があるのは冒険者だけらしく、村人達をどうにかしようとしている訳ではないらしい。
「ほほう、なんとも面白い条件だな。無論、村人の命がかかっている訳だから、笑ってばかりもいられぬが‥‥」
真剣な表情を浮かべながら、天螺月律吏(ea0085)が大釜に仕掛けがないか調べておく。
大釜は盗賊用と冒険者用の2種類あり、特に怪しい仕掛けはないようだ。
「村人の命がかかっているとなれば、こちらも覚悟を決めなければ‥‥。そして義侠塾生を名乗った以上、敗北は許されん。盗賊ごときに負けて村人の命を散らせたとあったら戻っても切腹必至。なればこの鍋を我が死に場所と定めるまで!」
気合を入れて大釜を睨み、菊川響(ea0639)が大声で叫ぶ。
「‥‥気に入った。正々堂々と戦おう」
満足した様子で笑みを浮かべ、釜次郎が自分の大釜に浸かる。
「くれぐれも無茶はしないようにな」
死に装束とも思える白装束を纏った響を見つめ、律吏が覚悟の程を示すため仰々しく見送った。
「これを‥‥頼む‥‥」
懐の中から遺言状を取り出し律吏に手渡し、響が白装束を脱ぎ捨て必勝鉢巻を締めて大釜に浸かる。
「あれ? ふたりだけで戦うの?」
挑発的なポーズをとり、設楽葵(ea3823)が着物を途中まで脱いだ。
「ルールはルールだからな」
あからさまに動揺し、釜次郎が恥ずかしそうに頬を染める。
「それは残念だなぁ。せっかく参加しようと思ったのにぃ〜」
もう少しで見えそうな部分で脱ぐのをやめ、葵がとても残念そうに溜息をつく。
「いや、特別に許可しよう。ううっ‥‥、許せ、同志達よ。俺は‥‥我慢する事が出来ないっ!」
葵の魅力的な身体に心を奪われ、釜次郎がボロボロと涙を流す。
他の仲間達と一緒にかわした約束は、ここで見事に破られた。
「自分でルールを破るとは‥‥」
大釜の中に浸かったまま、響が呆れた様子で溜息をつく。
「‥‥俺だって裸は見たい‥‥」
本能丸出しの表情を浮かべ、釜次郎が鼻息を荒くした。
「それじゃ、ちょっとサービスしちゃおうかな」
わざとじらすようにして服を脱ぎ、葵が予備で置いてあった大釜に浸かる。
葵の入った大釜は釜次郎の煩悩が反映されているためか、水の温度が適温に保たれているためそれほど熱くはない。
「おっ、おお‥‥」
葵に下心でもあるのか、釜次郎がニンマリと笑う。
「感動している時にすまないが、我慢比べと言えばやはりお茶だ。コレを飲んで少し落ち着くといい」
大釜に野菜を入れた後、律吏が特製のお茶を配っていく。
「んあ? そ、そうか。そうだったな」
惚けた表情を浮かべながら、釜次郎がお茶を流し込む。
「!?」
次の瞬間、響と釜次郎が悲鳴を上げ、危うく大釜から上がりそうになる。
「あ、あの‥‥、これって何が入っているの?」
律吏の事を手招きし、葵が青ざめた表情を浮かべて汗を流す。
「‥‥普通の茶だが? みんな大袈裟だな」
キョトンとした表情を浮かべ、律吏が倒れたふたりの顔を見る。
ふたりと律吏がお茶で意識が吹っ飛び、うわ言の様にならやらブツブツと呟く。
「試合中に居眠りとは情けない。‥‥どれ。ちょっと驚かせてみるか」
薬草やどぶろくを流し込んだ後、嵐童が火遁の術を使って大釜の温度を一気に上げる。
「うわちっ!」
更なる地獄を味わいながら、響が大声を上げて目を覚ます。
「ま、負けるかぁ!」
自分に勝機が見えたため、釜次郎が気合を入れて腕を組む。
「このままじゃ、危ないかも‥‥」
釜次郎の注意を逸らすため、葵が胸を寄せ上げ肩まで浸かる。
「‥‥このままじゃ見えない。た、立たなければ‥‥」
勝負と煩悩の狭間で悩み、釜次郎が身体を上下させた。
「‥‥こうなれば最後から3つ目の手段‥‥色気で茹蛸にするか‥‥」
人遁の術を使って胸元の大きな女性に化けた後、嵐童が声色を変えて色っぽい仕草で釜次郎の前に立つ。
釜次郎は煩悩の比率が上昇し、いまにも釜から上がりそうになっている。
「もう‥‥ダメかも‥‥お願い、助けてぇっ‥‥」
悩ましそうな声を上げて立ち上がり、葵が一瞬だけ釜次郎に全裸を披露し、再び鍋の中へと沈んでいく。
「ぬおおおおっ!」
それと同時に釜次郎が雄たけびを上げて釜から上がり、そのまま嵐童に抱きつき葵の裸を拝みにいく。
「‥‥勝負あったな」
すぐさま釜次郎の股間を蹴り上げ、嵐童が疲れた様子で溜息をつく。
釜次郎は股間をギュッと押さえたまま、ブクブクと泡を吐いて気絶した。
何処か幸せそうな表情を浮かべながら‥‥。
●蟲壷
「この勝負に勝つ事が出来れば、約束どおり村人達を解放してください。こちらからの条件はそれだけです‥‥」
ウサギの着ぐるみ姿でエチゴヤ手拭いを肩にかけ、ルーラス・エルミナス(ea0282)が虫寄せの袋を持って壷を睨む。
壷の中には大量の虫が蠢いており、独特な臭いが辺りにもわんと漂っている。
「‥‥当然だ。少し納得のいかない所もあるが、約束は約束だからな」
勝負をフェアにするためルーラスから虫袋を受け取り、盗賊側の代表である宇和虫が壷の中に入っていく。
虫達は宇和虫の持った袋の臭いに誘われ、隙間から服の中に入っていき宇和虫の身体を這い回る。
「必ず捕まえて役所に突き出してやる」
激しい怒りを抑え込み、伊達正和(ea0489)が警告まじりに呟いた。
「ふふっ‥‥、分かってないな。もしも俺達が本当の盗賊ではなく、お前達を試していたら‥‥どうする?」
虫まみれになりながら、宇和虫が正和達を挑発する。
「ど、どういう意味じゃ!」
不機嫌な表情を浮かべ、枡楓(ea0696)が胸倉を掴むほどの勢いで宇和虫を睨む。
「本物の盗賊がこんな真似をするか、という事さ。俺達に隠れて村人達を解放しようとしているようだが、そんな真似をしたら逆効果だという事を分かって欲しい」
口の中に入った虫を吐き出し、宇和虫がニヤリと笑って目を閉じる。
大量の虫が顔の傍まで来ているため、会話をしている余裕がなくなって来たらしい。
「‥‥何か引っかかりますね。まさか本当に私達が試されていると言う事でしょうか」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、ネフェリム・ヒム(ea2815)がダラリと汗を流す。
宇和虫の言っている事がまったく嘘とも言えないため、ネフェリムが警戒した様子で辺りの様子を窺っている。
「間に、おう‥‥た?」
ようやく村に辿り着き、柊鴇輪(ea5897)が大きな麻袋をロバから降ろす。
「みんな‥‥死んだか?」
いまいち状況が掴めず、鴇輪がネフェリムの袖を引く。
「気にしないでください。色々と‥‥あったん‥‥です‥‥」
詳しい説明しようとして大量の虫が口に入り、ルーラスがゲホゲホと咳き込み口をつぐむ。
一応、オーラエリベイションをかけているため、抵抗力は高まっているはずだが精神的にかなりツライ。
「‥‥負けるなよ」
蟲壷から溢れ出した虫をブチッと踏み潰し、正和が険しい表情を浮かべて拳を握る。
本当ならすぐにでも助けに行きたいが、ここでルールを破る事は出来ないため、唇を噛み締め我慢した。
「さっきの言葉が気になって迂闊な事は出来んのじゃ。まさかと思うが、村人の中にも奴らの手下が‥‥」
頭の中で疑惑の種がムクムクと目を出し、楓が大きな溜息をついて腕を組む。
わざわざ危険な橋を渡る訳には行かないため、内通者がいない事が分かるまで迂闊な行動は出来ない。
「‥‥気をつけてください。虫の中に毒を持った奴がいるようです‥‥」
虫から仲間達を守るため、ネフェリムがクリエイトハンドで作ったものをバラ撒いた。
「それ‥‥いま‥‥いれた」
キョトンとした表情を浮かべ、鴇輪が麻袋の中に入った虫を壷に放り込む。
「だ、大丈夫ですかね‥‥」
何度か毒虫に身体を刺され、ルーラスがグルグルと目をまわす。
徐々に毒が回っているため、顔が土気色になっていく。
「こうなったら、この俺がっ!」
勢いよく上着を放り投げ、正和がルーラスの傍まで駆け寄った。
「‥‥問題ありません。もしもの場合はアンチドートを使います」
毒のない虫を鷹のオヤツにしながら、ネフェリムが正和の肩をムンズと掴む。
「もう少しの我慢じゃ。盗賊の方はだいぶ参っているようじゃしな」
手当たり次第に虫を踏み、楓が宇和虫を見つめてニヤリと笑う。
宇和虫は何度も毒虫に刺され、口からブクブクと泡を吐いている。
「こんなに‥‥うまいのに‥‥変な奴‥‥」
大量の虫をムシャムシャと食べながら、鴇輪が信じられない様子でボソリと呟いた。
「アイツ‥‥虫を食べて‥‥うっぷ‥‥」
鴇輪と目が合った瞬間、凄まじい吐き気に襲われ、宇和虫が壷の中から飛び出し川にむかう。
よほど気分が悪かったのか、宇和虫はしばらく川に行ったまま、なかなか戻ってこようとしない。
「これで‥‥村人達を‥‥解放してくれますね‥‥。約束ですよ‥‥」
ネフェリムにアンチドートをかけてもらい、ルーラスがフラフラしながら転がるようにして壷を出る。
その後、村人達は解放され、盗賊達は捕まる事になるのだが、最後まで盗賊達の目的が分からぬまま、冒険者達は村を去る事になった。
宇和虫の言葉が真実であるかを確かめる事すら出来ないまま‥‥。