●リプレイ本文
●村の様子
「それにしても何で連絡が取れなくなってしまったのかしら??」
音信不通になった村の入り口まで辿り着き、藤浦圭織(ea0269)が警戒した様子で辺りを睨む。
何者かによって村が襲撃された可能性もあるため、注意深く辺りを見ながら進んでいく。
「こ、これは‥‥!?」
無数に転がる死体に気づき、エリアル・ホワイト(ea9867)が汗を流す。
死体の顔はどす黒く変色しており、全身に掻き毟った跡が残っていた。
「酷いな‥‥これは‥‥。ん‥‥、魚が‥‥死んでる?」
あちこちに転がった死体を見て歩き、高町恭也(eb0356)が川を睨んで立ち止まる。
川の水は生活用水として使われていたようだが、大量の魚が死んでいるため途中で水が塞き止められているようだ。
「‥‥毒か、伝染病の類だな」
魚の状態からある程度の事を判断し、鷹見沢桐(eb1484)がボソリと呟いた。
専門的な知識がないため、それ以上の事は不明だが、村で何かあった事は間違いない。
「‥‥と言う事は川上か」
険しい表情を浮かべながら、灰原鬼流(ea6945)が川上を睨む。
川の先には山があり、険しい森が広がっている。
「そう言えば最近この辺りに逃げ込んだ罪人がいるらしい。‥‥男の名は不動。毒の知識に長けており、卑劣な手段を好む奴と聞いている。つい先日も弟の無宿が冒険者に倒され、しばらく荒れていたようだしな」
死体の状況を確認した後ハッとなり、雪守明(ea8428)がギルドで聞いた賞金首の話を思い出す。
今回の事件とも共通点が多いため、不動の犯行である可能性が高い。
「‥‥ひでぇ事しやがるな」
亡くなった子供を抱きしめ、バーク・ダンロック(ea7871)が拳を震わせる。
犠牲者の中には餓死した子供も含まれており、絶望の中で亡くなった者が少なくない。
「それじゃ、生き残っている人は‥‥」
まるごと猫かぶりを纏った柴犬『三月』の身体にしがみつき、ベェリー・ルルー(ea3610)が今にも泣き出しそうな表情を浮かべて呟いた。
「‥‥駄目だ。みんな死んでる‥‥」
残念そうに首を振り、橘蒼司(ea8526)が大きな溜息をつく。
「誰も‥‥助けられなかった‥‥」
悔しそうな表情を浮かべ、日比岐鼓太郎(eb1277)が拳を壁に叩きつける。
村に毒を流した後、食料庫などが荒らされた形跡があるため、生き残った者達はアジトに連れて行かれた可能性が高い。
「‥‥本当に許せませんね。こんな酷い事をするなんて‥‥」
亡くなった村人達に両手を合わせ、神有鳥春歌(ea1257)がゆっくりと立ち上がる。
村の状況から考えると不動のアジトが山頂付近にある可能性が高い。
「‥‥安らかに眠れ」
静かに怒りを感じながら、桐が村人の目を閉じさせる。
「行こう‥‥。村人達の仇を討つために‥‥」
あえて多くは語らず、近藤継之介(ea8411)が川上にむかって歩き出す。
怒りのすべてを自らの刀に集約し‥‥。
●敵か味方か
「‥‥この辺は足場が悪いから気をつけろよ」
川伝いに山を登っていき、バークが途中でロープを垂らす。
山頂までは足場の悪い道を通らなくてはならないため、途中で仲間達が足を滑らせて落ちないように命綱をつけておく。
「アジトがあったよ、山頂にっ!」
山頂の偵察から戻り、ルルーがバークのまわりを飛び回る。
アジトの前には数名の見張りが立っており、危うく見つかりそうになったらしい。
「とにかく気をつけて登るしかないみたいね」
いつでも戦えるようにするため、圭織が日本刀を引き抜き辺りを睨む。
不動の手下が待ち伏せしている事も考え、鳴子等の罠がないか確かめながら進んでいく。
「‥‥何か嫌な予感がするな」
草むらの中から複数の殺気を感じ取り、鬼流が険しい表情を浮かべて合図を送る。
不動の手下は草むらを草むらに隠れ、黒塗りの短刀を構えて時期を待つ。
「いるんだろ。殺気で居場所が丸分かりだ」
次の瞬間、蒼司が霞刀を引き抜き、草むらめがけて振り下ろす。
「ぐわぁ!」
蒼司の放った一撃によって血飛沫を撒き散らせ、緑色の服を着ていた不動の手下が前のめりに倒れこむ。
それと同時に次々と草むらから不動の手下が現れ、蒼司達にむかって何度も刀を振り下ろす。
「動きに無駄があり過ぎて話にならん」
まるで稽古をつけるかのように刀を弾き、蒼司がクールな表情を浮かべて斬撃を放つ。
「気をつけてください。‥‥サポートします」
コアギュレイトを使って手下の動きを封じ込め、エリアルが後ろに下がって仲間のサポートに回る。
しかし、不動の手下はいやらしい笑みを浮かべながら、エリアルの逃げ道を塞ぐようにして走り出す。
「気に入らないな。‥‥そう言うの」
全く躊躇する事なく、継之介がソニックブームを放つ。
「うぎゃああああああああああああああ!!」
不動の手下は継之介の放った衝撃波を喰らい、仲間達を巻き込み坂を転がっていく。
「それにしても、いつからここに隠れていたんだ? 私達を待ち過ぎて戦い方を忘れたんじゃないのか?」
素早い身のこなしで相手の攻撃を軽々とかわし、明が回り込むようにして日本刀を振り下ろす。
不動の手下は情けない格好で倒れ、顔面を打って鼻血を流して気絶する。
「‥‥俺達の邪魔をしないで貰おうか」
不動の手下に小太刀をむけ、恭也が警告まじりに呟いた。
「‥‥罠だっ! 伏せろ!」
恭也にむかって飛び掛り、鼓太郎がそのまま身を伏せる。
次の瞬間、あちこちから弓矢が撃ち出され、不動の手下が命を落とす。
「仲間であっても容赦なしか。‥‥やるしかないな」
インフラビジョンを使って隠れている敵の居場所を特定し、桐が日本刀を構えて草むらに飛び込み斬撃を放つ。
「面倒だ、まとめてかかってきな」
左腕に突き刺さった弓矢を引き抜き、バークが不機嫌な表情を浮かべてオーラアルファーを発動させる。
それでも不動の手下は諦めず、意地でもバーク達を足止めしようと弓矢を放つ。
「‥‥仕方ないわね。戦うしか‥‥」
フェイントアタックを使って攻撃をかわし、圭織が草むらに隠れていた不動の手下にトドメをさす。
「それだけ不動って奴が怖いんだろう。手ぶらで帰ったら、それこそ命を落とすほど‥‥」
手下達の表情から不動の正確を導き出し、鬼流が日本刀の鞘を構えてスタンアタックを叩き込む。
不動について少しでも多くの情報を聞き出すため‥‥。
「皆さん、怪我はありませんか?」
不動の手下がすべて倒された事を確認し、春歌が心配した様子で物陰から顔を出す。
「‥‥私達は、な。だが、何処か引っかかる。本当に、こいつらは不動の手下だったのか‥‥」
嫌な予感が脳裏を過ぎり、明がボソリと呟いた。
不動の手下と思われた者達。
その中に手下でなかった者がいた可能性は捨てきれない。
無宿の兄なら、それも十分にあり得る事だ。
●無宿のアジト
「‥‥ご苦労だったな。騒ぐんじゃねえぞ。お前だって死にたくはないだろ」
手下の喉元に忍者刀を押し当て、鬼流がドスの利いた声で威圧する。
不動の手下は青ざめた表情を浮かべ、鬼流を見つめて何度も頷いた。
「‥‥今回の敵である不動。弟の事はよく知らないから、力の比べようがないんだけど‥‥。正面からむかった所であっさりと倒れる相手じゃない事は確かでしょうね」
苦笑いを浮かべながら、圭織がアジトの入り口に立っている見張りの数を確認する。
不動に叱られる事が怖いのか、見張りは神経を尖らせ辺りを睨む。
「‥‥無宿の兄なら人質を取っているかも知れませんね‥‥」
先ほど倒した男達の事を思い出し、エリアルがボソリと呟いた。
もしもアジトに妻や子供が捕われていた場合、村人が脅されて戦っていた可能性が高い。
「あり得る事だが、考えたくはないな」
険しい表情を浮かべながら、蒼司が大きな溜息をつく。
なるべく手加減したつもりだが、村人を相手にしていたとしたら、あまり気持ちのいい事ではない。
「念のため私は裏口で待機しておこう。不動が逃げ出す可能性もあるからな」
見張りに気づかれないようにするため、明が遠回りして裏口まで歩いていく。
次の瞬間、入り口のドアが開き、両脇の若い娘を抱えた不動が現れる。
「随分と外が騒がしいと思ったら、でっかいネズミがいたようだな」
冒険者達の顔を一通り見た後、不動が下品な笑みを浮かべて涎を拭う。
「ほぉ、てめぇがここの頭か。この前倒した無宿って奴は、大口を叩いた割に俺にかすり傷さえ付ける事は出来なかったぜ。おめぇは俺に傷の一つも付ける事が出来るかな?」
わざと不動を挑発し、バークがオーラボディを掛けなおす。
それと同時に不動が雄たけびを上げて飛び上がり、若い娘を武器代わりにしてバークの身体をふっ飛ばした。
「ぐはっ‥‥、なんて野郎だ。化け物か‥‥」
左腕を押さえて立ち上がり、バークがフラリと立ち上がる。
「お前のせいで人質が死んだじゃないか。まったくヒデェ事をしやがる」
命を落とした若い娘を捨て、不動がゲラゲラと笑う。
「‥‥手前が無宿の兄貴かい。やる事成す事そっくりだと思ったぜ。毒に待ち伏罠と来た、随分汚い真似が好きだな?」
不動の表情を窺いながら、鬼流が拳を握り締める。
いますぐ不動を殴りたい気分だが、人質がいるため迂闊な行動は出来ない。
「貴様が‥‥弟を‥‥!」
それと同時に不動の表情が一変し、怒りに満ちた表情を浮かべて鬼流を睨む。
「あの者にも血縁者がいたのか‥‥」
驚いた様子で不動を見つめ、蒼司が霞刀を握り締める。
不動は怒りのあまり我を忘れ、左側にいた娘の首を絞めていく。
「‥‥皆殺しだ。ひとり残らず殺してしまえ!」
人質となった若い娘を高々と掲げ、不動が手下にむかって合図を出す。
「汚い真似を‥‥」
迂闊に攻撃を仕掛ける事が出来ないため、蒼司が悔しそうな表情を浮かべて呟いた。
「‥‥あの弟にして、この兄ありですね‥‥。そんな事をして恥ずかしくないんですか」
遠回りをして裏口に辿り着いた明に気づき、エリアルが浮動に気づかれないように時間を稼ぐ。
「‥‥そんなわけないだろ、俺は紳士だっ!」
自信に満ちた表情を浮かべ、不動がキッパリと答えを返す。
「本当に紳士だって言うなら、卑怯な真似はするんじゃねえよ」
ジリジリと間合いを取りながら、鼓太郎が不動の隙を見て合図を送る。
それに合わせて明が人質になっていた若い娘に飛びつき、そのまま草むらの中を滑っていく。
「早く不動にトドメをっ!」
アジトの中にいた人質を始末使用としていた不動の手下達をスリープで寝かせ、ルルーが不動の注意を逸らすようにしてまわりをグルグルと飛び回る。
それと同時にエリアルがコアギュレイトを放ち、不動の動きを封じ込めようとした。
「効かぬっ! 効かぬわっ!」
雄たけびを上げながらエリアルに体当たりを浴びせ、不動が涎を撒き散らし何とか逃亡しようと試みる。
「‥‥外道が。弟が恋しいならば会わせてやろう‥‥地獄でな」
不動の前に立ち塞がり、桐が日本の刀を振り下ろす。
しかし、不動は大量の血を流しながら桐の体をふっ飛ばし、そのままゴロゴロと転がるようにして山を下りていく。
「途中で戦う事を放棄したか。‥‥最悪な奴だったな」
悔しそうな表情を浮かべ、恭也が霞小太刀を鞘に納める。
このまま不動を追う事も出来るが、人質となった娘達の疲労が激しいため、深追いせずに放っておく。
「‥‥また現れるさ。本当に弟の敵を討つ気があるのなら‥‥」
恭也の肩を優しく叩き、継之介がコクンと頷いた。
手下を全員捕縛する事が出来たため、不動の居場所を調べる事もそれほど難しい事ではない。
それよりも今は亡くなった人質となっていた者達を村に帰し、亡くなった村人達を埋葬し冥福を祈りたいのが本音である。
不動の残した傷跡は癒さなければ、大きく広がっていくだけなのだから‥‥。