玉鋼

■ショートシナリオ


担当:ゆうきつかさ

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月05日〜07月11日

リプレイ公開日:2004年07月09日

●オープニング

「‥‥貴様らに頼みたい事がある」
 不機嫌そうにキセルをふかし、年配の男が煙を吐く。
 男の名は塵。
 この辺りの村で刀鍛冶をしている男だが、大変な偏屈として知られており、誰にも心を開かない。
 彼は自分の気に入った相手だけに刀を打つのだが、材料となる玉鋼がないため困り果てているようだ。
「俺がもっと若けりゃ、自分で取りに行ったんだが‥‥」
 不満げに溜息を漏らしながら、塵が冒険者達の顔を睨む。
 ‥‥本当にコイツらで大丈夫なのか?
 そんな言葉が聞こえてきそうな雰囲気だ。
「いつも玉鋼を運んでいる奴が数日ほど前から行方不明になっている。最近、この辺りに小鬼が出没していたらしいから、きっとそいつにやられたんだろう。急ぎの用があるっていうのに運が悪い‥‥。そこでお前達に玉鋼を持ってきて欲しいんだ。それ以外の事は無視しろ。早く刀を仕上げなくちゃならねぇからな」
 そう言って塵が不敵な笑みを浮かべて酒を呑む。
(「さて‥‥お手並み拝見といくか」)

●今回の参加者

 ea0270 風羽 真(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0276 鷹城 空魔(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0541 風守 嵐(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea1381 大桐 秋獅郎(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1405 鳳明 美輝(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea1497 佐々木 慶子(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea2011 浦部 椿(34歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2657 阿武隈 森(46歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3266 氷室 明(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4039 宗像 透徹(35歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「チッ!! あんのジジイ、舐め腐った態度しやがって!! 何だぁ? あの目は? あれが人にモノを頼む奴の態度か!? ‥‥気にいらねぇ。仕事の腕は刀で決まるもんじゃねぇ。運と、実力だって事を分からせてやらぁ。昨夜の博打の憂さ晴らしも兼ねてな‥‥」
 不満げに愚痴をこぼしながら、秋村朱漸(ea3513)が不機嫌そうに街道を歩く。
 玉鋼を運んでいた男は街道を通ったはずなのだが、途中で通行人に話をかけても男を知る者はいない。
「‥‥やれやれ、どうしてこう職人って奴ァ揃って偏屈なのかねぇ? ま、その内世話になるかもしれんから、顔を売っておくのも悪くはないが‥‥」
 予め塵から行方不明になった男の人相と風体を聞いておき、風羽真(ea0270)がそれらしき人物を探してみる。
 男の死が確認されてない以上、何らかの事故によって怪我を負い、積荷を運ぶのが遅れている可能性もあるからだ。
「街道筋にまで小鬼が出るとはな。‥‥物騒な事だ。連中を此の侭のさばらせておけば、味を占めてまた旅人を襲いかねん。今の内に退治するなり街道に近づかない様にしておくべきか」
 馬の手綱を引きながら、浦部椿(ea2011)が辺りを睨む。
 街道を行き来している商人達に変化はなく、まるで小鬼に現れた事など気にしていない。
「依頼主の話が本当ならこの辺りの街道を通ったはずなんですが、小鬼が出没しているような雰囲気はありませんね」
 塵から聞いた情報を元にして、氷室明(ea3266)が街道沿いを歩いていく。
 街道を行き来している商人達の様子から考えると、それほど小鬼が現れている場所ではないようだ。
「とにかく、玉鋼‥‥だっけか? それを何とかすりゃいいんだろ? やっぱ小鬼はぶっ飛ばすしかねぇよな? もしかすっとあいつらが持ってるかもしれねぇし‥‥。なんにしても手がかりはアイツらしかいねえ」
 小鬼がよく出没している場所を特定し、鷹城空魔(ea0276)が辺りをゆっくりと見回した。
 街道は見慣れた光景ばかりだが、何か手がかりがあるはずだ。
「玉鋼以外は無視しろって? いやぁ、俺、仏門に籍を置く身だからさぁ、そんな事できんのよ。一応は御仏の慈悲を売り物にしてるから」
 大きな溜息をつきながら、宗像透徹(ea4039)が六尺棒を肩に担ぐ。
「本来の仕事は輸送だけだが‥‥。別に雑用しても構わないだろう」
 のんびりと街道を歩きながら、鋼蒼牙(ea3167)が大きな溜息をつく。
 色々と面倒な条件を出されたが、出来るだけの事はしておきたい。
「‥‥だが‥‥玉鋼の輸送が最優先。‥‥使いの者の安否は問わぬ、と言っていたはずだ。‥‥何時も輸送を頼んでいたのなら相応の面識はあったろうに。野晒のまま朽ちていくのでは使いの者が余に不憫。縁も所縁も無い者なれど、供養ぐらいはしてやらねばな」
 何処か寂しげな表情を浮かべ、椿が街道をゆっくりと歩いていく。
「依頼の完遂を第一に、後は小鬼を蹴散らせばよかろう。どうも胡散臭い依頼ではあるがな」
 妙な気配を感じ取り、佐々木慶子(ea1497)が興奮気味の馬をなだめる。
 近くに小鬼でもいるのか、馬の様子がおかしいようだ。
「ところで塵はいつから酒が呑めるようになったのだ? 噂に聞いていた風貌と合致するが、酒に対しては下戸だったはず‥‥。ひょっとして偽物じゃないのか?」
 塵に対して不信感すら感じながら、風守嵐(ea0541)が辺りを警戒した。
 最悪の場合この依頼自体が塵の仕組んだ罠である可能性もある。
「残念ながら、あの方が本物の塵さんですよ。きっと噂の方が間違っているのでしょう。玉鋼を優先させているのは、依頼主との約束を守るためです。玉鋼の到着が遅れて、ほとんど時間がありませんからね‥‥」
 ノンビリとした様子で街道を歩き、大桐秋獅郎(ea1381)がニコリと微笑んだ。
「それほど重要な相手と取引しているという事でしょうか? もしそうなら早めに回収しなければなりませんね」
 森の中で蠢く何かの気配に気づき、鳳明美輝(ea1405)が馬から下りる。
「‥‥囲まれているな」
 そして阿武隈森(ea2657)は六尺棒をゆっくりと構え、森の中へと走り出すのであった。
 
「どけえええええっ!」
 物陰に潜んで様子を窺っていた小鬼を日本刀でぶった切り、朱漸が雄たけびをあげながら小鬼の群れへと突っ込んでいく。
 小鬼達は朱漸の気迫に圧倒され、必要以上に間合いを取る。
「逃げても無駄だ!」
 なるべく小鬼達を引き連れ、椿がソードボンバーを放つ。
 その勢いで小鬼達は吹っ飛び、怯えた様子で椿を睨む。
「お前達に死の制裁を‥‥」
 飛び掛ってきた小鬼にダブルアタックを放ち、蒼牙が日本刀についた血を払う。
「これだけ森が険しいと、僕の『江戸八丁堀一号』もお手上げですね」
 森の入口で馬を止め、秋獅郎が小さく溜息をつく。
 無理をすれば馬でも森には入れるが、やけに障害物が多いため戦いを有利に進める事は難しい。
「‥‥この小鬼達が運び屋様を襲った者なのでしょうか?」
 小鬼の放つ弓矢をかわし、美輝が素早く日本刀を振り下ろす。
 そのため小鬼達は怯えた様子で武器を捨て、森の奥へと一目散に逃げていく。
「さあな! そんな事、俺には関係ねえよっ!」
 逃げる小鬼の背後から六尺棒を振り下ろし、阿武隈が全身に返り血を浴びながら、小鬼達を追いかける。
「‥‥間違っても殺すなよ。これからアジトまで案内してもらわねばならぬからな」
 木の上を渡って小鬼を追いかけ、嵐が阿武隈に対して警告した。
「そんなの1匹だけ残しておけば充分だろ!」
 鬱陶しそうに嵐を睨み、阿武隈が怪しくニヤリと笑う。
「依頼としてこの仕事を受けた以上、私は依頼主の意向を最優先に行動させてもらいます。受けた仕事を放り出して別の事を行うというのは、依頼主への背信に当たりそうですからね」
 最後の小鬼が殺されないように警戒しながら、明が小鬼を追いかけ先頭を走る。
「分かってるよ、そんな事」
 不満げに視線を逸らし、阿武隈がそのまま小鬼を追う。
「まぁ、そんなにふて腐れるな。ただでさえ玉鋼についての情報が少ないんだからさ」
 苦笑いを浮かべながら、透徹が阿武隈を慰める。
「‥‥あそこが小鬼達の巣か‥‥」
 小鬼のねぐらを発見し、蒼牙が物陰に身を隠した。
 幸い見張りの小鬼はいないらしく、点々とした血の跡が巣穴の奥まで続いている。
「‥‥みんな油断するなよ」
 巣穴の奥に提灯を照らし、朱漸が忍び足で歩いていく。
 巣穴は洞窟のようにジメジメしたところで、妙にすえた匂いが漂っている。
「‥‥随分と広いねぐらだな。とりあえずギルドに報告しておくか。あとは使いの男だが‥‥街道筋で襲われたのなら、その付近で打ち捨てられている可能性があるようだな‥‥」
 入口に捨てられていた獣の死体を念入りに調べ、椿が険しい表情を浮かべて溜息をつく。
 なるべくなら遺体を回収して遺族に渡したいとは思っているが、肝心の死体が見つからなければ弔う事すら出来ないからだ。
「‥‥困ったな。せめて玉鋼だけでも見つかれば何とかなるが‥‥」
 小鬼の残した血痕を辿り、慶子が少し開けた場所に出た。
「遊びに来たぜ‥‥クソども。今日はなぁ、えらく機嫌が悪ぃんだ‥‥付き合えや」
 口元に引き攣った笑いを浮かべ、朱漸が気だるそうに首を回して刀を握る。
 そこには玉鋼が御神体のように奉っており、小鬼の親子が身を縮めて震えている。
「無駄な抵抗はしないでくれ」
 分身の術を使って小鬼達を追い詰め、空魔が忍者刀を相手にむけた。
「玉鋼さえ返してくれれば、無闇な殺生は致しません」
 小鬼達を警戒させないために朱漸をなだめ、明が玉鋼を何度か指差し両手を開く。
 すると小鬼は怪訝そうに明を睨み、しばらく考えた後に他の小鬼達と一緒に玉鋼を運ぶ。
「間違いない。‥‥玉鋼だ」
 予め依頼人から玉鋼の特徴を聞いていたため、嵐が小鬼から渡されたものを確認すると迷う事なく頷いた。
「それじゃ、帰りますか。運び屋さんの遺体は見つかりませんでしたが‥‥多分いまごろは‥‥」
 玉鋼にこびりついた大量の血痕に気づき、秋獅郎が寂しげな表情を浮かべて溜息を漏らす。
 きっと小鬼達も運び屋の男が玉鋼を命懸けで守っていたため、何か貴重なものであると思い込み、彼を殺害した上で奪い取ってしまったのだろう。
 その証拠に玉鋼の表面には何度も鈍器で叩いた跡が残っている。
「後でこの辺りを捜索してもらおう。それよりも俺達の役目は玉鋼を運ぶ事だ。依頼主の雷が落ちる前に、持って帰ってやらんとな」
 そして真は玉鋼をもって街道まで戻り、依頼主の所まで馬を走らせるのであった。
 その後、何人かの冒険者が塵に刀の依頼をしたが、破格の値段を要求され仕方なく諦める事にしたらしい。