●リプレイ本文
●村の様子
「‥‥不動に襲われた村にしちゃヤケに静かだな」
物陰に隠れて様子を窺いながら、灰原鬼流(ea6945)がボソリと呟いた。
ざっと見た限り村が荒らされている様子も無い。
「今までのやり方を考えると罠かも知れませんね」
不動の手下が村人の中に紛れ込んでいないか見極めるため、十六夜桜花(ea4173)が背の高い草むらへと移動する。
村は不動の監視下に置かれているのか、村人達の表情は暗く会話は無い。
「卑怯な手を使って村人達を支配下に置いているのかも知れませんね」
京都のギルドで聞いた話を思い出しながら、綿津零湖(ea9276)が警戒した様子で村を睨む。
どんよりとした空気と‥‥ただならぬ緊張感‥‥。
不動の支配下にあるのは間違いない。
「だとしたら何処かに村人達の家族が囚われているという訳だな。どうせ奴の事だ。俺達が来るのも計算済みってわけだな」
自分が医者である事を不動の手下に気づかれないようにするため、白翼寺涼哉(ea9502)が念のため旅人の格好に着替えておく。
不動は毒を使った罠を仕掛ける事が多いため、途中で気づかれてしまうと面倒な事になる。
「弟がクズならば兄もクズのようじゃのう。クズはクズらしい末路を辿るが良かろう。クズはクズでも燃えないゴミじゃったかのう?」
苦笑いを浮かべながら、架神ひじり(ea7278)が薬を一気に飲み干した。
今回の依頼で必要な費用はすべてギルドから支給されるため、ひじり達の懐は痛まず不動との戦いに専念できる。
「今度こそ不動を倒さなければ‥‥」
自分自身に言い聞かせ、黒畑緑太郎(eb1822)が村にむかって歩き出す。
村人達は緑太郎の姿に気づき、満面の笑みを浮かべて歓迎する。
「おやおや‥‥、こんな田舎の村に旅人とは‥‥。何もありませんが、ゆっくりしていってくださいませ」
揉み手をしながら冒険者達の傍に近づき、村の代表らしき男が深々と頭を下げる。
この時点では本当に村人なのか、不動の手下なのか分からない。
「ささっ、こちらへ」
そして冒険者達は村で一番大きな屋敷に案内された。
●追跡
「不動に襲われた、という話の割には‥‥村の様子がおかしいな‥‥。やはりこの辺にアジトがあるのか‥‥」
冒険者達が屋敷に案内された事を確認し、高町恭也(eb0356)がしばらく様子を見るため草むらの中に姿を隠す。
村人達は屋敷を囲むようにして集まり、なにやらコソコソと話をすると、その中の数人が山にむかって走っていく。
「まさか‥‥家族を人質にとられて脅されているのか?」
険しい表情を浮かべながら、ミハイル・ベルベイン(ea6216)が村人達をジロリと睨む。
村人達はやけにソワソワとしているため、何か弱みを握られている事は間違いない。
「‥‥許せんな。村人を人質にとるとは‥‥」
怒りに拳を震わせながら、氷雨鳳(ea1057)がボソリと呟いた。
村人達は薬で眠って冒険者を荷車に積み、辺りを警戒した様子で山道を登っていく。
「このまま不動のアジトにむかうつもりだな」
ある程度の距離を保ち、雪守明(ea8428)が村人達の後を追う。
村人達はやけにコソコソとしており、何度も辺りを見回している。
「今度こそ奴を止めねば‥‥」
注意深く辺りを見回し、橘蒼司(ea8526)が草を掻き分け進んでいく。
不動を野放しにしておけば、被害者は増えていく一方のため、なんとしても今回の作戦は成功させなければならない。
「‥‥あれがアジトか。随分と薄汚い場所だな。まぁ、あの外道には相応しいかも知れないが‥‥」
浮動の手下に気づかれないようにするため、鷹見沢桐(eb1484)が草むらに隠れてアジトを睨む。
アジトは洞窟の中にあるらしく、不動の手下が見張っている。
「まずは取り上げられた武器を探すか。‥‥仲間の救出はその後だ」
そう言って恭也がゆっくりと歩き出す。
見張りに気づかれる前に、目にも止まらぬ一撃を放ち‥‥。
●嫌な予感
「ううっ‥‥、まだ眩暈がする‥‥。みんな‥‥大丈夫か‥‥」
朦朧とする意識の中、鬼流が仲間達の安否を確認した。
村人達の差し出した料理の中に毒性の高いキノコが複数入っていたらしく、未だに夢を見ているような感覚である。
「薬も‥‥ほとんど効果がなかった様子ですね。まさか不動がここまで毒の知識に長けているとは‥‥」
絞られた状態のまま起き上がり、桜花がゆっくりと辺りを見回した。
桜花達の囚われている場所は何処かの洞窟らしく、反対側の牢には村の女が囚われている。
「やれやれ‥‥、身に着けていたものは、ほとんど没収されたようじゃのう」
大きな溜息をつきながら、ひじりが反対側の牢を確認した。
村の女は何か毒でも飲まされているらしく、顔色がどす黒くピクリとも動かない。
「いえ、そんな事もありませんよ」
着物の帯に隠してあった短刀を使い、零湖が仲間達の縄を切っていく。
幸い牢屋番は眠っているため、逃げるのはそれほど難しい事ではない。
「用意がいいな。‥‥ここから出ようっ!」
牢屋の脆い部分を何度か蹴り、緑太郎が何とか外に出る。
「んぁ‥‥。き、貴様らっ!」
異変に気づいて目を覚まし、牢屋番が慌てた様子で笛を鳴らす。
それと同時に通路に不動の手下が溢れ、緑太郎の逃げ道を塞ぐ。
「ようやく本気で戦える。たっぷりとこのイライラ感を解消させてもらうぞ。わしの怒りを味わうが良い」
不動の手下を睨みつけ、ひじりがファイアーボムを撃ち込んだ。
まだ体に毒が残っているため、激しく動くと身体が痛む。
「気休めかもしれないが、これを一気に飲んでおけ。せっかくギルドから貰った物だしな。使わなければ意味が無い」
薬の入った壷を投げ、涼哉が反対側の牢を開けに行く。
村の女達が入っている牢はそれほど頑丈ではないため、何度か体当たりをすれば壊れるが、不動の手下がいるため容易ではなさそうだ。
「なんだ、このネットリとしたものは‥‥。何だか気分の悪くなる味じゃのう」
青ざめた表情を浮かべ、ひじりが不満げに愚痴をこぼす。
薬の味はとても不味く、虫の体臭に似た臭いがする。
「‥‥愚痴るな。それが一番、毒に効く」
苦笑いを浮かべながら、涼哉も薬を飲み干した。
「なるべくこっちで騒いでおくか。その方が仲間のためにもなるしな」
手首に仕込んだナイフを投げ、鬼流が不動の手下を倒していく。
不動の手下は協調性がほとんどなく、でたらめに攻撃を仕掛けているようだ。
「牢屋に囚われている人達の安否が気になります。あまり顔色も良くないようですし‥‥」
心配した表情を浮かべ、桜花が隣の牢を見る。
牢屋は涼哉が担当しているが、不動の手下が邪魔をするため、しばらく開きそうにない。
「‥‥何か嫌な予感がします。ひょっとして、もう彼女達は‥‥」
アイスチャクラムを投げ飛ばし、零湖が険しい表情を浮かべて呟いた。
「その可能性は高いだろうな。さっきは気づかなかったが、この臭い‥‥間違いなく死んだ人間の臭いだ‥‥」
激しい吐き気に襲われながら、緑太郎がシャドウボムを発動させた。
不動の手下は派手に吹っ飛び、尖った岩に突き刺さる。
「だからと言って、このまま死体を放置しておくわけには行かないだろう。不動のやり方を考えれば、予想のついていた事だ‥‥」
何度か体当たりを浴びせ、涼哉が牢屋の中に入っていく。
不動の手下が騒いでいるが、いまの涼哉には単なる雑音である。
「‥‥やはり駄目だったか」
女達の死体から視線を逸らし、鬼流が寂しそうに溜息をつく。
その間も不動の手下が襲ってくるが、それほど苦戦する相手ではない。
「それじゃ、まさか‥‥。何も知らない村人達は‥‥」
ハッとした表情を浮かべ、桜花が最悪の事態を想像する。
「早く村人達に真実を伝えるのじゃ! これ以上、事態を悪化させないために‥‥」
そして、ひじりは走り出す。
村人達を止めるため‥‥。
ファイヤーバードを使って敵を倒し‥‥。
●村人達
「勘違いするな‥‥。俺達は敵じゃないっ!」
洞窟の途中で村人達に遭遇し、恭也が霞小太刀を使って攻撃を弾く。
村人達は何かに怯え、必死になってクワを振るう。
「やはり‥‥、何か弱みを握られているようだな。‥‥仕方ない。少々、手荒だが眠ってもらうか」
襲い掛かってきた村人達に当て身を食らわせ、ミハイルが洞窟の中へと入っていく。
後ろからは村人達が追いかけてくるが、いまは相手にしている暇がない。
「‥‥悪いな。今回の依頼‥‥、しくじるわけにはいかないんだ」
村人のクワを霞刀で受け止め、鳳が険しい表情を浮かべて呟いた。
「た、頼む‥‥、死んでくれ。‥‥でないと、わしの娘が‥‥」
身体をガタガタと震わせながら、村人のひとりがボロボロと涙を流す。
「人質を取られているのか。馬鹿野郎っ! そんな事だから不動に利用されちまうんだよっ!」
村人達の相手をいっぺんにしながら、明が呆れた様子で溜息をつく。
それでも村人達はクワを振り上げ、明達の足止めをするため襲ってくる。
「‥‥不動の嘲笑う声が聞こえてきそうだな」
洞窟の中を見回しながら、蒼司が不動のいる部屋を探す。
通路が入り組んでいるせいもあり、目印が無ければあっという間に迷ってしまう。
「これで‥‥全部だ。‥‥不動の手下はいないのか?」
襲い掛かってきた村人をすべて倒し、桐がインフラビジョンを使って辺りを睨む。
本当ならこの辺りで不動の手下が襲ってきてもおかしくは無いのだが、何かトラブルが遭ったのか全く襲ってきそうな気配が無い。
「‥‥待て、ここだ。‥‥間違いない」
やけに豪華な扉を見つけ、ミハイルがボソリと呟いた。
‥‥この奥に不動がいる。
すべての元凶であるモノが‥‥。
●不動
「ようやく来たか。待ちくたびれたぞ」
下品な笑みを浮かべながら、不動が豪華な椅子に座ってニヤリと笑う。
不動の部屋は無駄に豪華で、大量の食料が置かれている。
「なぁに、言ってやがるっ! 遅れたのは、てめぇがくだらねぇ事ばっかしているからだ」
不機嫌そうな表情を浮かべ、明がオーラエリベイションを発動させた。
「ひょっひょっひょっ、面白い事を言う奴だな。俺には何の事だか分からんが‥‥」
金棒を杖代わりにしてゆっくりと立ち上がり、不動が下品な笑みを浮かべ明を睨む。
「やるってわけか。‥‥後悔するぞ」
霞刀を握り締め、明が不動と対峙する。
「死に急ぐか。まぁ、いい。お前達がその気なら‥‥」
勝ち誇った様子でニヤリと笑い、不動が力任せに金棒を振るう。
「ぐはっ‥‥、なんて奴だ」
不動の攻撃を受け止め後ろに吹っ飛び、明が血反吐を吐いて立ち上がる。
「‥‥今回は逃げられないな」
扉の前に立って逃げ道を塞ぎ、ミハイルが不動を睨む。
「それは‥‥どうかな‥‥」
次の瞬間、不動がミハイルを巻き込み、扉にむかって体当たりを食らわせた。
「‥‥終わりだ、不動」
自らを囮にしてカウンターアタックを放ち、ミハイルが青ざめた表情を浮かべて口を開く。
不動の身体には鳳達の刀が刺さっており、身体をブルブルと震わせている。
「ば、馬鹿な。この俺が止められるなんて‥‥」
驚いた様子で鳳の刀を握り締め、不動は大量の血を吐いた。
「雑魚が格好をつけるからだ。‥‥あの世で無宿が待ってるぞ」
深々と日本刀を突き刺し、桐が疲れた様子で溜息をつく。
‥‥戦いは終わった。
しかし、桐達の中には空しさだけが残っていた。