●リプレイ本文
●偵察
「‥‥やはり謁見は無理か」
残念そうな表情を浮かべながら、白河千里(ea0012)が大きな溜息をつく。
千里はここに来る前、自ら京都に救援要請をして来た大和藩主、松永久秀との謁見を申し込んでいたのだが、面会は許されず、門前払いをされた。
「この時期だから、仕方がないかも知れませんね。黄泉人は人間に化けるという噂がありますし‥‥」
ようやく手に入れた地図を広げ、神田雄司(ea6476)が門番達の言葉を思い出す。
門番達は黄泉の兵が城内に入り込む事を恐れ、正式な許可がある者以外は通さないようにしていた。松永が中にいたのかさえ定かではない。
「それじゃ、既に成り代わっている可能性も‥‥」
青ざめた表情を浮かべながら、草薙北斗(ea5414)が身体を震わせる。
「多分、それはないでしょう。きっと黄泉の民を恐れるあまり、誰も信用できなくなっただけだと思いますが‥‥。ひょっとすると既に何かあったのかも‥‥」
悪い考えが脳裏をグルグルと過り、アンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)がダラリと汗を流す。
最近の情勢を見れば、まったくあり得ない事ではない。
「とにかく敵の戦力を調べておくか。これで手柄を上げれば相手の対応も変わるかも知れないし‥‥」
事前に入手した情報を元に、秋月雨雀(ea2517)が黄泉の軍勢を探す。
黄泉将軍は亡者の軍勢を率いているのだから、軍勢を探せば自ずと居所は知れるはずだ。ほどなく、集結する亡者の大部隊を発見した。
「そうですね。もちろん全員の生還が最優先です。皆さんの命はお守りします」
ミミクリーを使って鷹に変身し、ショウゴ・クレナイ(ea8247)が敵陣の偵察に行く。
黄泉将軍の強さが半端ではないという噂があるため、本気で戦えば死者が出るのは確実だ。
「神皇様に代わって、お仕置きです!」
なるべく味方側の被害を減らすため、楠木麻(ea8087)は陽動班として依頼に参加した。
うまく行けば黄泉の軍勢を大幅に減らす事が出来る、麻達の行動が作戦の成否を左右するといっても嘘ではない。
「‥‥あれ‥‥だよね。この数の軍勢の中にあのいでたち‥‥」
木に登って遠くを見つめ、北斗がボソリと呟いた。
黄泉の軍勢は京都に向けて進軍を始めるようだ、多くの亡者を引き連れ休む事なく進んでいる。
「こちらの存在にはまだ気づいていないようだな。‥‥もう少し様子を見てみるか」
敵の戦力を把握するため、千里が物陰に隠れて様子を窺った。
亡者の数が多すぎたが、このまま放っておけば京都の町に被害が出るのは確実だ。
「待ち伏せして叩くのは楽そうですが、これほどの数を相手にしなければならない事を考えると‥‥、かなり厳しい戦いになりそうですね」
険しい表情を浮かべながら、雨雀が黄泉の軍勢を睨む。もとより彼らの目的は偵察で、戦いになる戦力差ではない。
「‥‥気づかれましたね」
黄泉の軍勢が一斉に身体の向きを変えたため、雄司が警戒した様子で太刀を抜く。
亡者達は唸り声をあげながら、雄司達にむかって錆びた刀を振り下ろす。
「うわぁ、気づかれた!?」
ウォールホールを使って地面に穴を作り、麻が亡者の攻撃を避けるとグラビディーキャノンを放つ。
前列の死人憑きが派手に吹っ飛び、雨のようにして肉片がバラバラと降り注ぐ。
「何だか様子がおかしいですね」
亡者達の動きがふたつに分かれたため、雄司が警戒した様子で辺りを睨む。
「少数の兵を残して、本隊は京都にむかっています。‥‥急ぎましょう。このままではすべてが無駄になってしまいます」
ミミクリーを解除し元に戻り、ショウゴが仲間達に向かって声をかける。
一応、上空から黄泉将軍らしき者を確認する事は出来たのだが、亡者達の数が多過ぎて攻撃を仕掛ける事は難しそうだ。
「‥‥退くしかないな」
バーニングソードを付与した刀を振るい、千里が亡者達の攻撃を受け止める。
「‥‥確かに無理は禁物ですね」
他の仲間達と合流するため、ピアーズが撤退を開始した。
本気で相手にすらされなかった。敵の戦力を見誤ったため大成功とは言えないが、黄泉の軍勢を発見して生還できれば、まったく無駄ではないだろう。
「みんなで生きて‥‥帰らないとね」
高速詠唱の微塵隠れを使い、北斗が亡者達の攻撃をかわして呼子を鳴らす。
他の仲間達に危険な状況である事を知らせるため‥‥。
●黄泉の軍勢
「まさかここまで強敵揃いとは‥‥。いったん京都に戻って作戦を練り直す必要がありますね‥‥」
戦闘馬スレイに乗って亡者達の間を通り抜け、ショウゴが疲れた様子で汗を拭う。
亡者達は何度も攻撃を仕掛けてくるが、スレイとのコンビネーションで何とか危機を回避する。
「全く、気分いいものじゃない‥‥終わったら風呂に入らないとなあ‥‥」
全身に大量の腐汁を浴びながら、雨雀が不満げな表情を浮かべて愚痴をこぼす。
事前にライトニングアーマーをかけていたため、それほどダメージは食らっているわけではないが、精神的にかなり辛いものがある。
「とにかく早く知らせないと‥‥」
戦闘馬に乗って亡者を蹴散らし、麻が京都のある方角を睨む。
敵の戦力を見ながら伝える事もなくここで死ぬ訳にはいかない。後ろを見せる事になっても、生きて京都に戻らなくては。
もし殺されて、そして黄泉の軍勢の列に並ぶような事があっては最悪だ。
「その様子では何かトラブルがあったようですね」
麻達が予定とは違う行動を取ったため、山王牙(ea1774)が魔剣『トデス・スクリー』を振るう。
「‥‥すみません。詳しい話はまた後で‥‥」
牙にむかって頭を下げ、ショウゴがスレイを走らせる。
それと同時に亡者達が一斉に飛び掛り、スレイの身体に牙を立てた。
「気にするな。困った時はお互い様さ」
山城国金房を使って亡者達を突き刺し、虎魔慶牙(ea7767)がニヤリと笑う。
亡者達は唸り声を上げて攻撃を仕掛けてくるが、慶牙は決して躊躇する事なく次々と敵を倒していく。
「それにしても、これほどまでの軍勢とは‥‥」
数え切れないほどの亡者に驚き、神有鳥春歌(ea1257)が汗を流す。
京都に向う軍勢は亡者の全てではない。今も大和の各地では亡者が村々を襲っていた。それを食い止めることが出来るかは大和の依頼に参加している冒険者次第である。
「それにしても‥‥物凄い臭いだな。こんな奴らと戦ったら、しばらく臭いが取れなくなりそうだ」
道返の石が入っている袋を握り、マナウス・ドラッケン(ea0021)が亡者を睨む。
亡者達はフラフラと頭を揺らし、マナウス達めがけて日本刀を振り下ろす
「やれやれ、何とも面倒な仕事だな」
面倒くさそうな表情を浮かべ、ウィルマ・ハートマン(ea8545)が亡者を狙ってショートボウを撃ち込んだ。
「さて、黄泉人のお手並み拝見といこうか」
ショウゴ達が見えなくなった事を確認し、慶牙が雄たけびを上げて亡者の群れを突き刺した。
慶牙の放った一撃は確実に亡者の頭を捉え、地面にどす黒い花を咲かしていく。
「何とか間に合ってくれるといいんだが‥‥」
ショートボウを構えて亡者達を牽制し、マナウスがショウゴ達の身を案じる。
途中で命を落とす事は無いと信じたいが、ここは敵地である。何が起こるか分からない。
「森ならば罠が仕掛けてあるんだが‥‥、亡者達もそれほど愚かではないか」
一瞬、黄泉の軍勢を森まで引きつけようと思ったが、即席の罠で簡単に騙されるほど愚かな敵ではないと思ったため、ウィルマがその場に留まり亡者達を倒していく。
「それよりも黄泉将軍を見つけねば‥‥。何処かで亡者達の指揮をしているはずですから‥‥」
すぐさまスマッシュボンバーを放ち、牙が亡者の群れに飛び込んだ。
「ジャパンの魔物がどれだけの腕なのか‥‥見させてもらうぞ」
道返の石を発動させて自分達に有利なように結界を張り、マナウスが牙の後に続いて亡者の群れの中を進んでいく。
「せめて黄泉将軍に一撃でも与える事が出来れば‥‥」
アイスチャクラムを放ち、春歌が黄泉将軍を探して辺りを睨む。
気のせいか亡者達が道を開け、春歌達を誘導しているようだ。
「‥‥囲まれているな。奴等も決してアホじゃない。これは‥‥罠だっ!」
黄泉将軍の仕掛けた罠に気づき、ウィルマが仲間達に警告する。
「だからって手ぶらじゃ帰れねぇ! 黄泉将軍てなぁ、どいつだい!?」
ミドルシールドを使って亡者達の攻撃を受け止め、慶牙がわざと大声を出して黄泉将軍を挑発した。
軍勢を指揮する黄泉将軍は戦闘馬に乗っており、慶牙達を始末するため、亡者達に命令を下す。
「‥‥黄泉将軍。その実力、試させて貰う」
慶牙と連携を組みながら、牙が黄泉将軍に攻撃を仕掛ける。
しかし、亡者の数が多過ぎて、黄泉将軍の傍にすら近づけない。
「王様気取りか、ムカつく野郎だ」
陰鬱な笑みを浮かべ、ウィルマが黄泉将軍を黙って睨む。
黄泉将軍は馬の上からウィルマ達を見下し、かかって来いと言わんばかりにニヤリと笑う。
「無茶はするな! それこそ敵の思う壺だ!」
オフシフトを使って亡者の攻撃を避け、マナウスがその場で大声を上げる。
「‥‥退くぞ。生きていればチャンスがある」
まわりの状況を確認し、ウィルマが言葉を吐き捨てた。
「‥‥畜生。黄泉将軍が目の前にいるって言うのに‥‥退却か」
悔しそうな表情を浮かべ、慶牙が拳を握る。
次第に亡者達がまわりを取り囲んできたため、ここで退却しなければ命はない。
「次に会う時は必ず黄泉将軍を倒しましょう。例えどんな事があろうとも‥‥」
慶牙の肩を優しく叩き、春歌がコクンと頷いた。
悔しい気持ちは一緒だが、ここで犬死するわけには行かない。
例えどんなに悔しくとも、春歌達は退かねばならない状況だった。
圧倒的な力を持つ亡者達に対抗する手段を考えるために‥‥。