囚われの姫君
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■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月24日〜12月29日
リプレイ公開日:2005年01月03日
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●オープニング
澄んだ夜空が天井付近にある窓から見て取れる。
淡い月明かりが小さな格子窓から溢れていた。
今日はよく冷える。
畳もひんやりとしていて、そこに座っているだけで床から寒さが這い上がってくるようだ。
布団にくるまった葵は白い息を吐きながら空を眺めていた。
ここに閉じこめられてから幾日がたったろうか。
こんな家に盗みに入るんじゃなかった、と後悔してももう遅い。
はぁ、と溜息を吐いてそのまま瞳を閉じる。
やけにこの家の主人が自分に絡んできて困る。でも我慢すれば良いことだ。放っておけばいい。
それよりも仲間達は無事に全員逃げられただろうか。
毎年皆で年越しをするのが楽しみだった。
子供達だけで行う賑やかな年越しを。
今年は一人でこの牢の中で行うことになりそうだ。
足を繋がれここから動くことの出来ない日々。
葵は籠の中の鳥だった。
「だーかーらー!俺と双子の葵を助け出して欲しいんだってば」
金はあるんだから、と少年は番頭の前に袋を投げる。
「金持ちの家に忍び込もうとしたら捕まって、俺らを逃がすために葵は捕まったの。にやついてたからきっと変なことされちゃうんだ、あの男に!」
「いや、だから‥‥待てって。そもそもお前らが盗みに入ったのが悪いんじゃないのか」
地団駄を踏んで悔しがる少年は番頭に掴みかかった。
「盗みに入ったのは俺らが悪いけど、何も盗ってないし、あいつらいっつも俺たちに酷いことするんだ。だから懲らしめてやろうと思って‥‥。でもちゃんと心を入れ直してそれ以後皆で真面目に働いてこの金作ったんだ。とにかく葵ってめちゃくちゃ可愛いから危ないんだって。女顔負けな綺麗な顔してっから‥‥間違って手出されたら‥‥どうしようどうしよう!」
最後の方は泣き落としだ。
番頭は今何か不適切な表現があったことに気づき動きを止める。
「えーっとだな‥‥お前の双子の性別は?」
「男だって。でも女より可愛いの。綺麗な格好して髪結い上げればどっかの姫さんみたいに。それにあの屋敷の主人どっちもいけるらしいって噂を聞いてるから急いでるんだってば。‥‥いつも皆で一緒に年越ししてたから‥‥一人いないのは凄く寂しいし‥‥それに嫌なんだ。葵一人ぼっちにしておくのは‥‥」
頼むから葵を助けて欲しい、と少年は頭を垂れた。
●リプレイ本文
●潜入
よし、と川に映る自分の姿を確認して雨宮零(ea9527)は問題の屋敷へとやってきた。
皆で立てた計画は陽動班と救出班に分かれるというもの。零は救出班が動きやすいようにと先に屋敷内に入り込もうという考えだ。
普段から華奢でよく異性に間違えられる零は女装をし、夕刻差し迫る頃を見計らいやってくると声色を使って門番へと話しかけた。
「あの‥」
「ん? どうした」
「こちらに一晩‥一晩泊めて頂けないかと」
「あんたの器量なら大丈夫かもな」
下から上まで舐めるように見た門番は向かい側の一人に、聞いてこい、と告げる。そして暫く待たされる間もその門番はじろじろと眺めていたが戻ってきた門番は、良いそうだ、と零を屋敷内へと迎え入れた。随分簡単に入れるものなんだな、と零は呑気な事を考えていたが屋敷内から視線が自分のことを追うのに気付いていなかった。
その頃、三月天音(ea2144)は偶然通りかかった様子で屋敷を見上げる。夜の侵入に備えて下見に来たのだ。天音は救出を担当する事になっていた。侵入経路と逃走経路を調査し一番良い経路を見出す。上手いことやれば無事に葵を助けて逃げおおせる事が出来そうだった。
早速その情報を元に皆で話し合おうと天音はそそくさとその場を立ち去った。
●月夜の晩に
黒木雷(ea9844)は、無難な職にありつけた、と庭を眺めながら考えていた。しかし見張りというものは曲者という客が来なければ暇な職だ。夜も更けてくると眠くて眠くて適わない。
今日も何事もなく過ぎそうで暇で仕方なくなってきた雷は、ふと自分が見張っている牢に目をやった。目に入ってきたのは布団の中から格子の外を眺めている美しい少年。雷は三度の飯より酒が好きだったが美形も同じ位好きだった。そして暇で仕方なかった雷はとんでもないことを思いつく。雷の手にあるのは牢の鍵。
「ふむ‥。着飾れば、太夫間違い無しだ‥。あの狒々ジジィに食わせてやるなど、勿体なさ過ぎる‥。その前に私が頂いてしまおう」
ニヤリと笑みを浮かべた雷は手にした鍵を使い牢の中へと侵入する。庭にいた警護の人々は門の方へと行ってしまっていて皆無だった。
がたん、と開いた扉に身を堅くする葵に雷は告げる。
「畏れる事はない。一つだけ、我が願いを聞き届けてくれればここから出してやろう‥」
「な、何? 出してくれるのはいいけど‥」
雷の背にある扉から逃げ出そうとする葵だったが、足には枷が付けられており逃げることは出来ない。雷はその部分を撫でさすり耳元で囁く。
「可哀想にな。こんなにされて。あいつらは、痛めつけるばかりで、慈しむと言う事を知らん‥」
そのままうなじに口付け、自分の膝の上に葵を軽々と抱えてしまう。冷たい牢の冷たさからは逃げられたが身の危険を感じ必死に逃げようとする葵だがそれは叶わない。声を上げようにも怯えて声すら出ないのだ。
「私が‥色には、女色と男色がある事を教授してやろう‥」
雷は激しく暴れるがその手をなんなく止め、雷は素早く葵の帯を外してしまう。格子から漏れる月明かりではだけた着物の間から見える葵の白い肌は浮き上がった。
「思った通りの綺麗な肌だ。かわいがりがいがある‥」
くすくすと笑い雷は愛おしげに葵の肌に口付けた。
●救出班
「泥棒を助けるのってのもぉ、変なカンジィ」
大宗院亞莉子(ea8484)は、うーん、と大きな伸びをしながら言う。それを黒で統一した服装の天音が、しっ、と人差し指を口元に当て黙らせる。
それをけひゃひゃと小さく笑ったトマス・ウェスト(ea8714)が痺れ薬を仕込んだ肉団子を塀の中へと投げた。亞莉子達が居たのは牢の裏側だった。そこには犬が居たが投げた肉団子を咀嚼している音が聞こえる。そして暫くするときゅうんと鳴きおとなしくなった。
「我が輩は陽動の方へと戻るからな〜。無事に助け出すが良い〜」
「言われなくてもするってカンジぃ」
天音は先に塀の内側へと飛び、亞莉子もその後を追った。
牢の裏から格子窓を眺めるが小さすぎて人が通れるようなものではない。やはり鍵のかかっている入り口からの脱出しかないようだ。庭の様子を窺うと庭には見張りが一人しか居ない。
その時、亞莉子が辺りを窺いながら歩いてくる零を見つけた。まだ見張りは気付いていない。これ幸いとばかりに亞莉子は人遁の術を使い見張りに変化するとその見張りが自分を見たのを確認し零を指差す。零に気付いた見張りはそちらへ行ってしまった。
「如何なされた」
「えっ‥あ‥ちょっと迷ってしまって‥」
零は遠くで、よろしくぅ、とばかりに手を振っている亞莉子を眺めながらなんとか男を留めておこうと会話を探す。お人好しにも程があるがその性格が今回は幸いしたようだ。
零が引き留めている間に天音と亞莉子は牢へと向かった。
●陽動班
トマスは陽動班に合流すると待っていたモードレッド・サージェイ(ea7310)と双子の片割れの稟と共に門へと向かう。
「なぁ、葵に会わせてくれよ」
「誰だ、そいつは」
鼻で笑って門番は三人を相手にしない。
「もう盗みなんてやらないから、葵を出してよ!」
「そうゆことで、葵君を出してやってくれないかね〜」
「ジャパンには義理と人情、というものを重んじる民族性があると聞きます。盗みに入ったこの子らにも罪はあるでしょう。しかし今は悔い改め、お屋敷の主様にもお詫びしたいとの事。どうか幼き無垢な魂をお救い頂けるよう、ご慈悲を」
ニッコリと営業スマイルを浮かべたモードレッドに胡散臭そうな視線を向ける門番。何者だ、と尋ねられモードレッドは宣教師だと告げた。確かに言われてみればそのような格好をしている。しかし胡散臭さは変わらないと庭にいた見張りを門番は呼ぶ。
「後生だから会わせてよ」
「駄目だ」
しっし、と払うような仕草をされモードレッドが目を細める。トマスがそれに気づきニヤリと笑いながら言った。
「ほらほら、早くしないと温厚な宣教師君が切れるぞ〜」
「そんな事はありません。ただこんなにも半身に会いたがっているこの子を救ってやって欲しいのだけなのです。双子はどこか繋がっていると聞きます。ですから‥」
その時庭の柵の方から、良い月夜だなぁと呑気な声が聞こえた。
どぶろく片手に酔っぱらいを演じてやってきたのはアグリット・バンデス(ea9789)だ。ぐびぐびと酒を煽りながら近寄ってきた見張りに絡み出す。
「酔っぱらいはさっさと帰れ」
「つれねぇなぁ。どうだ、あんたも一杯」
どぶろくを差し出し酒を勧めるが見張りは首を振る。なんだよー、とアグリッドは残念そうに溜息を吐いた。
ちらっと見張りの向こうに見えるのは天音達の姿だ。庭に居た4人の見張りは全部牢の回りから散っている。どうしたものか牢の前にいるはずの見張りも見あたらなかった。これはチャンスだ、とアグリッドは見張りを引きつけておくべく、いい話があるんだ、と手招きした。近寄ってきた見張りの首に手を掛け高い声音で告げる。自分でも気持ちが悪い、と思いながらその気がないのに捨て身の技だ。
「あーん可愛い子ねぇん、食べちゃいたい位☆」
アグリッドに捕獲された見張りが固まった。その騒ぎを見ていたモードレッド達は笑いを隠すのに必死だったが、上手い事こちらも引きつけておく事に成功する。
トマス達も亞莉子が零に最後の一人の見張りを押しつけたのを見ていたのだ。知らぬは当人達だけ。
●救出
天音は牢の鍵が開いている事に気づき首を傾げる。まさかもう主が来ているのではないかと。主がいるのならば見張りが席を外しても当然、と天音たちは慎重に扉を開ける。
するとあられもない姿の少年を組み伏せようとしている雷を発見した。それが主だと思ったがそれにしては若すぎるし服装も見張りと同じだ。
「無粋な真似を‥」
「無粋も何も怯えているのを見てはのう‥」
「暇だと思ったのにな」
一瞬出来た隙を見て亞莉子が素早く葵を救出する。雷は拳をあげるが亞莉子はなんなく避けた。天音は怯えた葵の服を直してやり頭を撫でる。葵の枷を落ちていた鍵で外してしまうと天音は葵を連れ出した。
「まぁ、狒々ジジィにくれてやるよりはマシか」
そう呟く雷にひらひらと手を振る亞莉子。
そして天音は葵を外に止めておいた馬に乗せ逃走した。
残っていた他の者達も馬の嘶きが聞こえたのを合図にそれぞれバラバラに散っていった。
落ちあう事になっていた場所に辿り着き、葵はありがとうと天音と亞莉子に告げる。
「泥棒ならぁ、ちゃんと脱出する時の事も考えないとねぇ。あとぉ、葵は変装が出来そうだからぁ、くの一向きかなぁ」
「忍者じゃないの?」
そんなツッコミを入れる葵だったが駆けてくる稟の姿を見て笑顔になる。
「稟!」
「一人残しておけるかよ」
無邪気に抱き合う双子を前に笑みを浮かべる面々。
「しかしガキも中々可愛いもんじゃねぇか。オレにも何時か出来るもんなのかね?‥って、何考えてんだ俺ぁ、相手もいねぇのによ!」
頭を掻くアグリッドだったが、皆に礼を述べる葵の言葉に照れたように笑う。
「姫殿を救出できて良かったですね」
こっそり裏から逃げ出てきた零も微笑む。
「でもなんだか呆気なかったな。もう少しあの状態だったらあいつら痛めつけてやろうと思ったのによ」
まぁいいか、と双子を眺めるモードレッド。
「私が捕まったら助けに来てくれるかなぁ?って愛があるんだから当たり前ってカンジぃ」
自分の旦那の事で一人惚気る亞莉子に皆苦笑するしかない。
「これからは真っ直ぐに頑張って生きるのじゃぞ」
天音は稟から受け取っていた報酬を受け取らずに年越しのお年玉と返してやる。
「でも‥」
立ち去る天音に葵は駆け寄って抱きついた。
「ありがとう」
葵は笑みを浮かべて稟の元へと戻ってくる。その手に天音から貰った袋はなかった。
葵の見せた最後の盗人の技だった。