湯けむりと小鬼と美人女将
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■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月28日〜01月02日
リプレイ公開日:2005年01月06日
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●オープニング
人里離れた山奥の小さな温泉宿で働いているのですが‥‥、と冒険者ギルドにやってきたのは初老の男だった。
年の瀬迫るこの時期になんだろうと思い番頭が尋ねてみると、男はゆっくりと話し出す。
「へぇ、それがですね。足腰の冷えに効くと結構な数のお客様にお越し頂いていたのですが、当宿の目玉でもある天然の露天風呂。こちらに小鬼が出るようになりまして。途端に客足が途絶え閑古鳥が鳴く始末。年末年始は稼ぎ時だというのにこの状況。うちの美人女将が途方に暮れておりまして。自分が囮になっても良いからどなたか退治して下さる方は居ないか、とお嘆きなのでこちらに伺ったのですが‥‥」
如何でしょうか、と男は番頭に尋ねる。
「この時期だからなぁ‥‥」
うーん、と唸る番頭に男は思い出したように告げた。
「あぁ、そうでございました。宿の方なのですが、先ほど申しましたとおり部屋が空いておりますので小鬼を退治して頂いた後は、皆様ご自由にお使いくださいとのことでした。一年の疲れを温泉に入り流して頂きたいと。それとこちらで年越しの席を設けさせて頂きたいと女将が」
暮れから元旦にかけての依頼になってしまい大変申し訳ないですし、と男は溜息を吐きつつ言う。
「まぁ、温泉に入りながら初日の出ってのもまた乙かもしれねぇが。で、その小鬼だが一体どんな悪さを?」
「露天風呂に入ってる無防備な状態を狙って、固く握った雪玉を投げてきたり雪のない頃ですと泥玉、石などとにかく様々なものを投げては怪我をさせるのです。頭に石が当たり倒れた方も多数いて‥‥。本当に困りました。お客様の話を合わせると全部で大体6体くらいでしょうか。そうそう。これを見て下さい。この瘤、先日露天風呂で小鬼に雪玉をぶつけられた時に出来たものです」
「こりゃ痛そうだ。‥‥雪玉ってことはもう雪が大分積もってるんだな」
「へぇ。まだ積もり始めたばかりですので、そんなに足をとられることもないと思いますが」
「そうか。今からあたってみるが人が集まるといいな」
「へぇ。よろしくお願い致します」
男は深々と頭を下げた。
●リプレイ本文
●温泉宿
依頼を受けた者達は雪の積もった道を歩いていた。
ここまでやってくる間に、おおまかな作戦は立ててきていた。
交代で囮役をすることや見張りをする事。見張りをする場所などは露天風呂付近を見なければ分からないだろうという事で保留にしてある。
「皆さん、こちらです」
男の案内で宿へとやってきた面々は、男の言葉に違わない美人女将に出迎えられた。
「皆さん、雪の中足を運んで頂きありがとうございます。そんなに積もってはおりませんけれど、慣れぬ雪道にお疲れになったでしょう。どうぞこちらでお休みくださいませ」
そう言って女将が皆を案内したのは囲炉裏のある広間だった。
「今お茶をお持ち致しますから暖まってお待ちください」
軽く会釈をして女将と男は出て行く。
イワーノ・ホルメル(ea8903)は普通の家よりも高い天井を見上げた。
「高ぇなぁ」
「それに宿の規模も大きい」
それに頷くのは時羅亮(ea4870)だ。寒さでかじかんだ手を暖めながら緋神一閥(ea9850)も頷く。
「宿がこの大きさなら風呂も大きいんだろうな」
レイナス・フォルスティン(ea9885)が部屋を見渡しながら言うと紀勢鳳(ea9848)が溜息を吐く。
「こんな宿に6匹の小鬼とは‥‥せっかくの良い宿が困ったことですね」
ラティエル・ノースフィールド(ea3810)とグロリア・ヒューム(ea8729)も囲炉裏で暖まりながら部屋を眺めていた。
一人囲炉裏から少し離れた所に座っているのはステラ・シアフィールド(ea9191)だ。
そんなステラに声を掛け、もっと近くに行くように女将は告げながら皆にお茶を振る舞った。
その女将に囮は自分たちがやる事を告げると、女将は眉をひそめる。
「でも‥‥皆さんが怪我されるのも‥‥」
「怪我をする前に退治してしまえばいいだよ」
イワーノが言うと皆が頷く。それに女将は不安げな表情を見せながらも承諾したのだった。
●囮
一組目は一閥と亮、二組目は鳳とイワーノ、三組目はレイナス、四組目はラティエルとグロリア、そして最後はステラという当初決めていた囮の組み分けで行う事にした。
案内された岩風呂の垣根は思っていたよりも穴が多いようだった。小鬼達が楽に入ってこれるのも無理はない。
まずは一閥と亮が囮として湯に浸かる。他の者達はそれぞれの持ち場へと向かっていった。
ダガーを隠し持った亮と一閥。さっさと湯船に浸かった亮の後から、髪を女性のように結い上げ、遠目からは異性ともとれるような出で立ちをした一閥が続く。体つきまでは遠目からでも分かるが、湯に肩まで浸かってしまえば分からない。
暫く小鬼が来るのを待っていたが、一向に出てくる気配はない。
仕方なく次の班へと交代する。
鳳とイワーノは先に女将に用意しておいてもらった小道具を持参で風呂へとやってくる。
女将にお銚子の中に水を入れておいて貰い、そのお銚子とお猪口をたらいにいれて雪見酒を愉しむかのように二人は湯へと浸かる。
「イワーノさんも一献いかがですか?」
「注がせて悪いだなぁ」
お猪口を手にしたイワーノが鳳に注いで貰いそれを一気に飲み干す。
「良い飲みっぷりですね」
「そんなこたぁねぇだよ。紀勢どんに俺ぁも注いでやるべな」
そう言って鳳にお銚子を傾けて注ぐ。中身はただの水だが、遠目には分からない。それに湯に浸かっていれば血色も良くなり、酔っぱらっているようにも見えるだろう。
それを狙っていたのだが、小鬼はそれに食らいついてきた。
遠くから飛んでくる雪玉。
それをぎりぎりのところで交わした二人。鳳は隠していたダガーを手にし小鬼を牽制する。
その間に待ち伏せをしていた者達も集まり、遠方から雪玉を投げていた小鬼もじわじわと追いつめられてきていた。
脱衣所付近を見張っていたステラは魔法を遠方にいた小鬼へと放つ。その後ろには皆の戦況を見守っているラティエルが。怪我をした者のために待機していた。
雪で作ったかまくらに潜んでいた亮は外側にいた小鬼にダブルアタックをしかけ、確実に相手の戦力を削っていく。一閥は口笛で他の皆に戦闘中である合図を送り、それから小鬼へと向き直る。
「‥‥分別の付かぬ輩とはいえ、悪戯が過ぎますよ」
お仕置きです、と見る者に恐怖を与える壮絶な笑みを浮かべた一閥は小鬼へと刀を振り下ろした。
レイナスは口笛の音を聞き慌てて一閥達の処へと合流する。そこにはもう既に3匹の小鬼が居て、二人とも戦闘中だった。
そのままレイナスはロングソードでまとわりつこうとする小鬼を薙ぎ払う。
そうして三人は悪戯をしかけようとする小鬼を容赦なくたたきのめした。
小鬼がやってくるまで隠れていたグロリアはステラの放った魔法が弾けた辺りに向かって駆ける。そこには転倒し必死に逃げようとしている小鬼が居た。
「残念ね。私はゆっくりと年越し愉しみたいのよ」
おとなしくしてなさい、とグロリアは小鬼の頭を殴った。
その頃、岩風呂の中に逃げ込んでこようとする小鬼を牽制している鳳の背後からイワーノが小鬼へと近づく。
そしてローリンググラビティーを小鬼にしかけた。
その時には鳳は既に後方へと飛んでいる。
高く舞い上がった小鬼が見事湯船の中に落下する。
ぷかーぷかーと浮かぶ小鬼の頭を鳳がたらいで強打した。
●宴会
小鬼を無事に退治し終えた皆は女将の用意した宴の席へと招かれていた。
見事なまでの料理に皆舌鼓を打つ。
「当宿にはたくさんの温泉がございます。本日は皆様だけでございます。貸し切りですので、お好きな湯殿へとお入りくださいませ」
一人一つずつ位は十分入れるとの事だった。
グロリアは目の前の食べ物を嬉しそうに食べながら、のんびりとした時間を過ごしていた。
亮は宴会の席でははしゃぐ皆の様子を眺め笑みを浮かべている。鳳の奏でる篠笛の音色が宴会の席に響き渡る。
笛の演奏を終えると一寸した踊りまで披露してみせる鳳。どこか色っぽいその仕草。サービス精神旺盛だ。
一閥は皆の世話を焼きながらも宴会の席を愉しんでいた。
そして女将の隣で悠々と酒を飲んでいるのはレイナスだ。レイナスにとって初めてのジャパンでの年越しはそれなりに良いものであったようだ。
年越しの瞬間は皆それぞれで、宴会を愉しむ者、温泉を愉しむ者に別れた。
早い内に宴会を抜け出して温泉に入っていたラティエルは、ほうぅっと溜息を吐く。
「来る年も‥‥皆さんが、幸せになれますように‥‥」
そんな祈りを込めて年を越す。
イワーノも仕事を終えてひとっ風呂浴びようと小鬼を倒した岩風呂へとやってきていた。
「俺ぁ、ロシア〜で一番♪ 岩好きと言われ〜た男ぉ♪」
そんな歌を歌いながらイワーノは大好きな岩を眺める。形の良い岩を配置しているのを見て、ロシアにはない芸術だとほくほく顔だった。
他の温泉にはステラが入っており、初めての露天風呂を堪能していた。
「初めて入りましたが、気持ちが良いものですね。心が温かくなります」
その小さな呟きは雪の舞う夜空へと消えていく。
そして先ほどまで皆の世話を焼いていた一閥だったが、年越しの瞬間は家に残してきた家族に思いを馳せながら、大好きな温泉での雪見酒だ。お猪口を傾け見る空に、妻の姿を思い浮かべる。
「‥‥毎年、新年は家族の元でしたが‥‥。依頼とはいえ、妻に後で臍を曲げられそうですね」
苦笑しながらもその胸の中は妻への愛おしさで一杯だった。
亮も女将から教えられた露天風呂へと来ており、遠くで聞こえる除夜の鐘の音を聞きながら暖かな湯に浸かり疲れを癒していた。
この露天風呂は日の出をみるのにも最高の場所なのだそうだ。
しかしずっと入っている訳にも行かない。そこで日の出をよく見れる部屋をあてがってもらい、そこから亮は初日の出を眺めようと心に決めていた。
綺麗な初日の出が見れたらそれは良い一年になるに違いない、と。
幸せの溜息を吐き出した亮はそっと瞳を閉じた。
「さぁ、女将。まだまだいけるだろう」
先ほどから女将を独占状態のレイナス。呆れた様子で見つめるグロリアの視線もなんのそのだ。
「まだ平気ですか?」
「あぁ、まだまだいけるな。初めてのジャパンでの年越しだしな」
幹事役を引き受けたレイナスは女将と和やかな会話をしつつ年を越したのだった。