氷の洞窟
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■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月15日〜01月20日
リプレイ公開日:2005年01月24日
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●オープニング
「弱虫ー。こんなとこも歩けないのかよ」
「だって‥‥そこ崩れそうだよ。ねぇってばー」
「だいじょーぶだって。この間だって平気だったろ」
でも‥‥、と柾人は踏み出そうとする足を止める。
「置いていくかんなっ」
そう言ってぐずる柾人を置いて先に進んでいってしまう数人の子供達。
「待ってよー」
一人その場に置いて行かれる方が心細くて柾人は子供達の後を追った。
そして漸く奥のお社までたどり着く。
「おっせーよ。ほら、平気だったろ」
「う‥‥うん」
頷くものの柾人は浮かない顔だ。
お前のだ、と放り投げられた饅頭を頬張りながら柾人は言う。
「ねぇ、もう今日でやめよう。なんかよくない感じがするんだ」
「本当にお前は心配性だなぁ」
親分格の少年が柾人を笑った。
その後子供達は洞窟から出ようと歩き始める。
「さっさと帰るぞー」
そうやって数人の子供達が橋を渡り、その後を柾人が続いて渡ろうとした時だった。
ゴロン、と崖下に何かが転がっていく音が聞こえた。
しかし柾人は一歩を踏み出してしまっていた。
柾人の足下が崩れる。宙に浮かぶ柾人の身体を後ろにいた二人の少年が必死に引きずりあげた。
爆音と共にあがる土煙。
そして三人の少年はずるずると身体を引きずって崩れ落ちた部分から必死に身体を遠ざける。
渡りきっていた子供達は我先にと出口へと走っていた。
一人振り返ったのは柾人に、平気だ、と言った少年。しかし土煙が上がっていて崩れ落ちた向こう側を少年は確認する事は出来なかった。
少年は小さく、ごめん、と呟くとそのまま助けを呼ぶために出口へと走っていった。
「早くしねぇと子供達が死んじまう!」
そう言って飛び込んできたのは一人の男だった。
とりあえず落ち着くようにと囲炉裏の側に連れて行き、番頭が話を聞く。
「実はうちの村のはずれに、氷が溶けねぇ洞窟があるんですよ。そこは夏でもひんやりとしていて、中に一晩居たら凍っちまうんじゃねぇかという位で」
「ちょっと涼むのには丁度良さそうだがな」
番頭が言うと男は頷く。
「へぇ。夏は長く保存したいものをそこに持って行っておくんですが、今の時期はそんなの外においておけばがっちがちに凍っちまいますからね。その洞窟も用無しなんですよ。わざわざ雪深い山ん中に行く奴もいねぇだろうし、ましてやこのくそ寒い中、わざわざ寒い洞窟になど行く奴は居ないだろうと思ってたんで柵もなんにもしてなかったんですよ。でも最近子供達が親に内緒でその洞窟で度胸試しをやり始めていたようで」
別に洞窟で度胸試しをしようが何も問題ないように思え、番頭は首を傾げる。
「別に良いんじゃねぇのか? 子供の頃にそういったこと、お前さんもやっただろう」
「それはやりましたが‥‥でもですね、秋からその洞窟は足場が悪くあちこち崩れてきているんで立ち入り禁止にしていたんです。それを子供達は知らなかったようで。大人が乗ったら崩れそうな部分が結構あったんですが、子供達は軽いから何事もなくそこを通って奥に行けたようなんです。それで一度全員無事に帰ってきたもんだから、またやろう、とそこを子供達は遊び場にしてしまったようで」
「‥‥落ちたのか?」
男は頷き、そして血の気の引いた顔を番頭に向けた。
「お願いします。どうやら三人ほど洞窟の中に閉じこめられてるようなんです。奥にある山神様を祭ったお社には夏から秋にかけておいておいた食料も少し残ってるし、毛布なんかも一応おいてあります。戻ってきた子供達の話ではお社の部分から戻る時に橋が壊れたと言ってるんです。私たちが行ってみた時には奥に続く橋も崩れ、途中の道も崩れてしまっていました」
溜息を吐いてから男は続ける。
「向こうに行くには洞窟内の崖を降りて凍ってしまっている川を渡りまた崖を登るしかありません。誰か‥子供達を助けてください」
自業自得とはいえ寒い洞窟の中で死なせるのは‥‥、と男は頭を下げる。
番頭は、早い救出が必要だな、と呟いて辺りを見渡した。
●リプレイ本文
●準備
「危険な場所に入った事は自業自得ですが、立入禁止をきちんと伝えていなかった大人にも責任はあるでしょう。けれど、何はともあれ今は一刻も早い救出を」
天霧那智(eb0468)がそう告げると、白翼寺涼哉(ea9502)も頷く。
「あいつらには待ってる奴がいっぱいいるんだ。俺に出来ることはしておこう」
そう言って血の色をした二連数珠を握りしめる涼哉の横で、天道狛(ea6877)が心配そうに見上げ呟いた。
「白翼寺殿、病み上がりの身体で無理はなさらないように‥」
小さく頷く涼哉の横で狩野柘榴(ea9460)が男に尋ねる。
「それでその子達の名前はなんていうのかな」
「柾人、明、晋介と申します」
頷く男を励ますように笑うのはハロウ・ウィン(ea8535)だった。
「きっと大丈夫だよ」
全力を尽くすよ、と笑う十六夜熾姫(ea9355)。少し離れた所から笑みを浮かべて見守るカリン・シュナウザー(ea8809)。
「さて、急ぐでござるよ」
音羽朧(ea5858)が声を掛けるとここで落ちあう事を約束し、皆寒さ対策のためやその他の用意をしにギルドを後にした。
●氷の洞窟
用意を終えた一行が向かった先は問題の洞窟の前だった。
村でハロウは洞窟内の地図をしっかりと入手してきていた。崖が崩れた場所には印を付けて貰っている。
そんなハロウは趣味で作っているジャック・オ・ランタンに火を入れた。
「それじゃ行きましょうか」
そう言ってハロウは先頭に立ち、洞窟内へと入っていく。
その後を皆続いていったが、あぁ、と振り返り那智が村人に告げる。
「出来れば火を熾し待っていてもらえると良いですね。子供達は冷え切っているでしょうから」
その言葉に頷いた村人達を確認してから、ランタンを手にし立ち止まった那智を待っていた柘榴の下へと駆け寄った。
ハロウを先頭に洞窟内を少し進むと、村人達が言っていたように道が崩れて反対側へと渡れないようになっていた。
「どう見てもあっちまで飛べる距離じゃないよね」
ひょい、と後方から背伸びをして崖を見た柘榴の言葉に皆頷く。
その時、人の声がして助けが来たのかと思ったのか、青ざめた表情の子供が一人岩の影から顔だけを覗かせている。その奥が社になっているのだろう。
それを見つけた熾姫は、救助に来たよ、と声を掛ける。
「もうすぐ助けるから我慢して」
そう励ましてやると少年は頷いて奥の方へと駆けていった。
「予定通り鷹になってあっちに行くわね」
狛がそう言うと鷹へと変身した。一足先に反対側へと向かう狛を見送って、他の者達は下へと降りるために準備を開始する。
持ち寄ったロープを編み上げ、しっかりと縄梯子を繋げる。
崖を安全に降りるために十分な長さになったのを見て、崖の付近にあった岩にしっかりと固定をするとそれを崖へと垂らす。
そしてハロウが一番初めに降り始めた。
「落ちたらちょっと洒落になりませんね‥」
そんな事を呟きながらカリンがロープの先にランタンを吊して下方を照らしている。
その間に熾姫と柘榴と朧と那智は念のために疾走の術をかけていた。用心に越した事はない。
強度も考えながら縄梯子を降り辺りを見渡す。
柘榴とハロウの持ったランタンが辺りを照らし出した。
崩れ落ちた崖の更なる落石はないようだが、あちこちに大きな岩が転がり凍り付いた川の氷にも穴を開けている。
その付近は強度が低いだろうとハロウは用心深くその凍っている川を眺めた。
那智は滑らないようにと更なる用心を重ね、余っていたロープを足に巻き付け滑り止めにする。
その横で、コンコン、と氷を叩いて厚さを測っていた熾姫が何かを思いついたように布を足に巻き付けた。
厚い部分を見つけ出し、そこを二・三人で渡り始める面々。
梯子を下りた順番に慎重に歩を進める中、熾姫だけは一人川を優雅に滑っていた。以前からやってみたかった事を試す良い機会だと思ったのだ。しかし止まる術を全く考えていなかった事に、はたと気付いた熾姫の顔は青ざめる。しかし後の祭り。滑り出した身体は急には止まれない。そのままの勢いで向こう側の岸まで滑り迫り来る壁に激突した。
大きな音が響き渡る。
それにぎょっとした人々が熾姫を見た。
「反響して崖崩れがまた起きたらどうするでござるか。慢心は禁物でござる」
そう朧に言われ熾姫は、ごめんなさい、と素直に謝罪をした。
大きな音が響いたものの、落石も起こらず危険はないようだった。皆、降りてきた狛に縄梯子の先を渡すと狛がしっかりと縄梯子を固定してくれるのを待った。
●変身
狛は反対側に辿り着くと縄梯子を支えられる場所を探す。
運良く崖の付近に縛り付けられる様な場所を発見する事が出来た。
それを確認すると狛は再び入り口付近へと飛ぶ。
そして皆が崖の下へと降りたのを確認し、一度変化を解き縄を解いた。
下でその縄梯子は回収され、反対側へと運ばれる。
狛は再び鷹へと変身し反対岸へと飛ぶと、運ばれた縄梯子の先にあるロープを銜え上空へと舞い上がる。崖に辿り着いた狛は虎へと変わると勢いよくその縄を引っ張り、縄梯子を引き上げた。
引きずり巻き付けられる岩まで持ってくると器用にとがった岩に輪になった部分を引っ掛ける。そして変化を解きしっかりとずれないように固定すると皆に合図をした。
皆は降りた時と同様に慎重に崖を登り始める。
狛は一足先に子供達の元へと向かった。
先ほど子供が顔を覗かせた道を狛は進む。子供達は蝋燭の薄暗い灯りの中で身を寄せ合って固まっていた。
「怪我はない? 助けに来たからもう大丈夫よ」
声を掛けてやると途端に泣き始める子供達。よぽど怖かったのだろう。
「こんなに冷たくなって。‥こっちに来なさい。今暖めて上げるから」
狛は、怖がらなくて大丈夫よ、と言ってから狼の姿へと変身する。大きく目を見開いた子供達だったが横たわって尻尾を揺らしている狛に害はないと思ったのか、毛布を手にいそいそと集まった。
「あったかい‥」
子供達は漸く笑みを浮かべたのだった。
●救出
崖を登り終えた面々は先ほど狛が進んだ道を行く。
社の前に狼に変身した狛に寄り添う三人の子供達の姿を発見した。
「柾人君に明君に晋介君かな?」
柘榴の問いに頷く三人。
涼哉は着ていた半纏を脱ぎ子供達にかけてやると、軽く手首を掴んで脈を取り手を温める。特に怪我をしているような部分も見あたらなかった。涼哉は社の隅の方から汚い毛布を見つけ、それに火を付ける。
「僕に手伝える事ある‥かな?」
ハロウの問いかけに涼哉は一緒に社に置かれていた保存食を使い簡単に暖かいものを作る用意を手伝って欲しいと告げ、子供達に食べさせてやる。柘榴の持参した甘酒も振る舞われた。
「さて、行くか。お前らのダチが外で待ってるぞ」
食べ終えた子供達に涼哉が告げると、ゆらりと立ち上がる子供達。柾人は自分の足で歩けそうだったが、一番幼い晋介はよたよたと心許ない歩き方をしている。それを見かねた朧が声を掛けた。
「拙者の背に捕まるでござる」
大柄な朧に初めはびくびくしていた晋介だったが、ありがとう、と笑顔を浮かべると朧にしっかりとしがみつく。落ちないように那智が毛布を掛けた上からロープで固定してやった。
柘榴と那智が他二人にも尋ねてみるが、二人は平気だと先に降りていく朧の後を追った。ふらふらとしている部分があるので涼哉が手を引いてやり安全な道を歩かせる。
縄梯子までやってきた二人だったが、下の方が見えなくて怖くなったのか足が止まる。
「登り下りの間だけ目を瞑っててください」
その間だけ背負いますから、と那智が申し出て柘榴もそれに続く。二人をしっかりと固定すると那智と柘榴は崖を下り始めた。一番最後をランタンで辺りを照らしていたカリンが降りる。下で待っていた熾姫がランタンを受け取りカリンが降りてくるのを待つ。
熾姫は崖を登らず、仲間が渡った事で凍った川に罅が入るなどの危険な兆候が出ていないかを入念に調べていたのだった。
狛が再び縄梯子を対岸で引っ張り上げ、皆が登り始めた。
熾姫は皆が無事に登り終わるのを待ってから登る。
そうして皆無事に氷の洞窟から脱出した。
●笑顔
「本当に無事で良かったね」
柘榴が心配そうに中を窺っていた子供達と助け出した子供達を見遣りながら告げる。すると待っていた子供達は複雑そうな表情を浮かべ俯いた。柘榴の笑顔がずきずきと心に刺さる。助かって嬉しかったのだがそれと共に罪悪感も心の中に生まれる。
「ほら、お友達は無事ですよ。心配だったら自分の目で確かめ言葉をかけてあげなさい」
那智は見守る子供にそっと声を掛けて見守る。同じ過ちを繰り返さなければそれで良いと。
「無事に帰ってこれた。これも天運でござる」
晴れ晴れとした表情を浮かべ子供達を見つめる朧。それはとても頼もしく見え晋介はその笑顔を見上げ微笑んだ。
「これに懲りたと思うなら、危険な場所には行かない方が良いと思うよ」
ハロウの言葉にカリンも頷きニコニコと微笑んでいる。狛も近くにいた明の頭を撫でた。
「あの洞窟に行きたきゃあ、自分の足で居て自分の足で帰ってきな」
涼哉の言葉に子供達は首を左右に振る。涼哉は、お前らの想いが菩薩に行き届いたって事か、と胸の内で思った。空を見上げ紫煙を燻らせ、空に手を翳した涼哉は、人を暖めるのは人の手か、と呟く。
「これで許してあげる!」
笑顔を浮かべながらぐりぐりと首謀者の少年のこめかみに拳を当ててぐりぐりとする梅干しの刑をかける熾姫。溜まらず逃げ出す子供の様子に皆が笑顔を浮かべる。
「恐怖に囚われても目を逸らさず、助けを求めても良いから決して負けずに道を切り開いていこうね」
それが本当の度胸試し、氷の洞窟を抜ける冒険の意味になると思うんだ、と呟いた柘榴の言葉に柾人は小さく頷いた。