我が道を行く
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■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月17日〜01月22日
リプレイ公開日:2005年01月26日
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●オープニング
「葵ー、ただいまー。やーっと抜け出せたぜ」
「‥‥二日もなんで帰ってこなかったの? 皆で作った稟の分のご飯無駄になったんだけど」
ぶすっ、とした表情で葵と呼ばれた少年は言う。
「俺は帰ってこようとしたんだけど、屋敷のおっさ‥‥いや、姫さんがなー‥‥」
「家に帰っても良いっていう話だったじゃない。それは嘘だったって事?」
しらねーよ、と稟は大きな溜息を吐いて葵の肩に頭を乗せる。
「あのさ、稟。帰ってきたなら家に戻ってれば? 僕、一応仕事中」
そう言って葵は持っていた花を見せる。
「んー‥‥じゃ、おわんの待ってるからさ」
笑うと稟と葵はよく似ている。双子なのだから当たり前といえば当たり前だが、普段は稟と葵は並んでいても双子だと気付かれない。稟の方は格好良い部類に入り、葵は少女と見間違う位の容姿をしていたからだった。
「んじゃ、稟‥全部これ買って」
「無理」
即答した稟の背後で野太い声が上がった。
「んまー! やっと見つけたわよ。なんで勝手に出て行っちゃうのかしら」
稟はびくりと身を振るわせおそるおそる振り返る。そこには二日間耐えた悪夢が待っていた。
「げっ‥‥おっさ‥‥じゃなくて香澄様」
稟の後ろに立っていたのは体格の良いがっちりとした女性だった。いや、女性の格好をした男が立っていた。びっくりするぐらい似合っていない。
「私に隠れてこんな子と会ってるだなんて許せないっ! 帰るわよ」
「いや、あの‥‥俺は家に‥‥」
「家? だから私の処に婿に来ればいいと言ってるでしょう」
葵は呆気にとられてそれを眺めるしかない。しかしとりあえず聞いておく事にした。しかし聞いた内容がまずかったようだ。
「稟‥‥今日のご飯は?」
「んまー! ご飯ですって? 何様のつもりなの? しかも気安く名前で!!!」
兄弟なのだから当たり前だ。しかし香澄は稟と葵が双子だとは全く気付いていないようだ。
もう絶対外には出しません、と野太い声を響かせた香澄はズルズルと稟の首根っこを掴み歩き出した。
引きずられていく稟の姿は哀れとしか言いようがない。
助けてくれ、と稟が葵に助けを求める。
葵は頷いて花を抱えたまま冒険者ギルドへと走った。
「‥‥という訳です。本当は同じ処で働きたかったんだけれど、僕の容姿が駄目だって。女ものの着物を着て花でも売ってこいって言われてしまって」
がっくりと項垂れた葵は番頭に事の次第を話す。
「それでその格好か」
確かに似合ってはいる。似合いすぎていて違和感が全くない。香澄が女と間違えるのも不思議はなかった。
「はい。稟は本当は屋敷内に住めと言われたみたいなんですけど、旦那様に通いでも良いって言われたって言ってたんです。だけど、仕事に行った日から帰ってこなくて。ずっと皆で待ってたんですけど。様子見にいっても中の事はよく分からなくて。そしたらさっきの有様。香澄という人物がえらく稟を気に入ってるみたいで離してくれないみたいです」
「で、どうしたいんだ?」
「稟は嫌がってるしさっきの話だと自由は無くなってしまうみたいだし。‥‥助け出して欲しいと思います。ただ、ここに居たら直ぐに見つかってしまって意味がないので、その後は何処か遠くに行きたいと思います」
どうせたいした荷物もないし、と葵は笑う。
そうか、と呟いて番頭は辺りを見渡した。
●リプレイ本文
●出発
「いやー、そこまで似合えば大したもんだよ。そのまま変装術磨けば忍者になれるかもねー、葵君」
けらけらと笑いながら葵の元に現れたのは柳川卓也(ea7148)だった。
「葵君ネ、私も双子ネ。半身の様な片方を捕られるのはとても不安ネ」
羽鈴(ea8531)はそんな葵に笑いかけながら、大丈夫、皆どこか秀でた冒険者ネ、と励ますように告げる。それに頷くのはゼラ・アンキセス(ea8922)とグザヴィエ・ペロー(ea9703)だ。
「でもどんなのが香澄さんが好きな『いい男』なのかな?」
卓也がそう尋ねると鈴が化粧道具を持ち出して葵の前へとやってきた。
「香澄様は稟君がお気に入りアル。葵君を稟君に似せれば‥」
そりゃいい、と皆乗り気で鈴が葵を化粧していく様を眺める。隣で屋敷の様子を探ってきた方が良いと話をしていた冴刃歌響(ea6872)と城嶋譲(ea5466)もその様子を窺う。
愛らしい葵の顔に少し精悍さが増す。こんな感じアルか?、と鈴が葵に尋ねると小さく頷く葵。
その時、そうだ、と譲が葵に告げる。
「稟さんを無事救出してもまた捕まってしまったら元も子もないでしょう。すぐに逃げられるよう準備をしていた方が良いのではないかと」
歌響もそれに同意する。葵は迷うことなく頷いた。
「衆道だろうが何であろうと他人様の趣味についてはとやかく言う気は無いが、もう少し分別をもって行動をしてもらいたいな‥いい歳しているだろうに大人が子供達に迷惑を掛けるとは」
今まで黙っていた 橘蒼司(ea8526)は、はぁ、と大きな溜息を吐く。まるでそれが合図であったかのように皆それぞれに行動を開始した。
ほっと溜息を吐いた葵だったが近づいてきた人物を見て身を堅くした。それに気付いた黒木雷(ea9844)は、そんなに怯えないでくれ、と葵に告げる。
「今日はただ、花を買いに来ただけだ。この間の詫びの代わりに横笛の一本でも送りたい所だが、生憎と懐が淋しくてな‥」
「花‥ですか?」
そう言って訝しげな表情で葵は雷に花を一輪差し出した。それを受け取ると雷は葵の手を取り口付ける。びくり、と葵の身体が跳ねた。
また買いに来ても良いか?、と尋ねる雷に葵は一瞬間をおいてから微かに頷く。雷の穏やかな笑みにもう酷い事はされないと思ったようだ。それを確認すると雷は本当にそのままギルドを後にした。
●香澄
問題の家付近を蒼司は一人探索していた。もちろん離れの位置や逃走経路の為もあったが、一番の目的は香澄達の評判を周辺の住民に聞き込むためだった。それとなく住民に尋ねてみると皆一様に告げた。その家の者はとても良い人物達であると。ただ香澄だけが変わっていると。
それを聞き蒼司は、屋敷の主人は普通のようだし、と面会を求めてみる事にする。渋られるかと思ったが簡単に主人は蒼司と会ってくれた。そして蒼司の尋ねた事柄について溜息を吐きながら語る。
「あれは昔から女の着物を着て着飾る事が好きで何を言ってもあの格好をやめようとはしないのです。これが私の生きる道、とでも言っておりましたかな。稟ですか‥稟にはとても申し訳ないと思ってますが、あれは気に入ったら最後離しませんから。決して甘やかして育てた訳ではありませんが、それ以上に我が強くて困ります。稟を一度逃がしてやったのですが自分で連れ帰ってきたようですな」
私にも止めれないのです、と主人は大きな溜息を吐いた。それを聞いて蒼司は主人へと告げる。
「近く何かしらの行動を起こしますが、こちらには被害を出さないように致しますので目を瞑って頂けないでしょうか」
「香澄の身に害が及んだりは‥‥あれでも一応大切な子ですから」
ご安心を、と蒼司が告げると、それならば、と主人は間接的な協力を承諾した。
歌響はゆっくりと日の暮れかけた香澄の家へと侵入する。離れの位置を見て脱出経路を脳裏に描く。障害物もさほど無い庭だ。上手く逃げ出せるかもしれないと歌響は考え再び夕闇に融けるかのようにその場を立ち去った。
潜入を開始する前、卓也は皆に少し待っていてくれと声を掛け影で人頓の術を使う。香澄好みの良い男へと変身した卓也は皆の元へと戻る。
「たっだいまー。じゃ、行こうか」
声色を使って話す卓也に皆、誰だこいつ、というような表情を向けていたが、俺だよ俺、と卓也の元の声で話すとほっとした顔を向けた。卓也はそんな皆の驚く瞬間が楽しくて大好きだった。
潜入するのは卓也と鈴とグザヴィエ。残りの者は用心棒を捕まえて逃走を助ける手はずになっていた。
他の者達は庭を目指したがグザヴィエだけは正門へ向かう。宴会に呼ばれた異国の踊り子だと告げると門番は訝しげにもう一人の門番に尋ねる。暫く首を捻っていた二人にグザヴィエは言う。
「あれ? お屋敷間違えちゃったかな? ジャパン語難しくて‥。せっかく来たんだから入れてよ。珍しい踊りを見せるよ?」
そう告げると門番達はグザヴィエを中へと入れてくれた。
庭に向かった者達は見張りの位置を確認する。庭からは死角になっていて乗り込んでも気付かれなさそうだった。そこで先に華麗に鈴と卓也が乗り込む。そして鈴は離れの方へと歩いていき給仕と思わせ中へと入り込み、卓也は堂々と香澄に宴に呼ばれたと告げた。卓也の顔を見て顔が香澄好みだと一人の見張りが言ったため、卓也は疑われることなく中へと入る事が出来た。
ゼラは侵入前にかんざしをしっかりと握り平静と保とうとする。狂歌も出来るだけ起こさないように努力する、と誓いながら。
二人が中に入ったのを見て譲と歌響、蒼司とゼラも庭へと侵入する。そしてわざと物音を立てて見張りを誘き寄せた。ゼラの立てた物音に反応しやってきた見張りを蒼司と歌響で気絶させ譲が動けないように捕縛する。がっちり猿轡までさせた。宴会の賑やかな音が響く庭。見張りの近くまで寄っても気付かれない為、わざと近場まで寄っていき音を鳴らす。初めの者と同様がっちりと締め上げられ人目につかない所に転がされる。最後の一人も大欠伸をしているところを皆に取り押さえられ雁字搦めにされた。
中では賑やかな唄や踊りが披露されており、それを眺めている香澄の隣には稟が辟易した様子でお酌をする姿があった。そこへやってきたのは雷だ。用心棒として香澄の家へ侵入していた雷だったが、護衛対象の香澄が葵とよく似た少年に酌をさせてるのを見て、不憫な‥、と小さく呟き側へと近寄る。
「僭越だが、私の杯を受けてはくれないか? 姫」
その言葉に目を輝かせた香澄だったが雷と稟を眺め、ちょっと甘いわね、と余計に稟にべったりになってしまう。
雷は言葉を詰まらせるが、隣に立った卓也が香澄に声をかけると香澄は、あら、と微笑んだ。
「酒の量が足りないんじゃないか? どれ、俺が注いでやろう」
香澄と稟の間に座り込み香澄に酒を勧めると注がれるままに香澄は酒を飲み干していく。
客達に酒を振る舞っていた鈴だったが、漸く香澄の元へやってきて声を掛けた。
「お姉さんはどんな化粧を使ってるネ。手直しするだけでもっと綺麗になるネ」
そう言われちらっと隣の卓也と稟を見る。本当?、と尋ねる香澄に鈴は大きく頷く。私が化粧してあげるネ、と。しかしそこは乙女心が許さなかったようだ。綺麗になりたいのは山々だが殿方の前での化粧など言語道断。今は良いと断られてしまう。
そんな香澄の前にグザヴィエが現れ踊り出す。その姿に香澄は、ほう、と溜息を吐いた。
「香澄様、一緒にどうですか? 前からジャパンの美しい女性と一緒に踊ってみたいと思ってたんです‥」
内心で、うへー!そんなわけないダロ!と毒づきながらもグザヴィエは笑顔を浮かべている。
酒も入って自分も身体を動かしたくなったのか香澄は差し出された手を取った。
香澄をぐるぐると回し一気に酔いが回るようにし向ける。
その隙に卓也が稟を連れ出そうとしたが、同じ事を考えていた雷が一足先に稟を連れて庭へと飛び出した。
後を追う鈴。香澄も回る目の端に稟が連れ出されたのを見ていた。グザヴィエの手を振り払い追いかけようとするが酒が回って真っ直ぐには歩けない。
「あー、香澄ちゃん。一つ言い忘れてた事あったわ」
そういって卓也が美女に変身する。
「女装やるならコレぐらい完璧にこなさないとねぇ。似合わない女装は犯罪物だし、冒涜だよ。これからはもっと精進しなよー」
大声で笑いながら卓也もその後を追った。悔しそうに唇を噛みしめる香澄を置いて、グザヴィエも何事もなかったかのようにその場を後にした。
●逃亡
雷は稟に、さっさと家に戻れ。そうだな‥美人の兄弟がいたら紹介してくれよ、と告げる。葵はやらねー、と言われ雷は動きを止めた。
追いついた鈴達に囲まれるが稟が、助けてくれたんだ、と言うと雷はバツが悪そうな表情で稟を置いて立ち去る。見張りの人物達も全部取り押さえられていては身動きが取れない。香澄から助け出すということは出来たのだ。
背後で香澄が怒鳴る声が聞こえてくる。しかし蒼司が手回ししたおかげでそれ以上追っ手がやってくる事はなかった。
皆、悠々とその場を逃げだし葵の元へと稟を届ける。
「さぁ、早く出た方が良い」
譲が葵へ告げる。
「本当にありがとうございました」
「一人たんねーけどありがとな」
稟も笑顔で皆に挨拶をする。一人足りないの言葉に葵は首を傾げて思いついたように呟いた。
「あ、お花‥もう売ってあげられないや。御礼も言えてないし」
哀しそうな表情を浮かべる葵。また何処かで会えたらお花売ってあげようと呟いて。
「もう香澄ちゃんみたいなのに捕まるなよ。我が道を行くのも結構だけど回り巻き込んじゃ駄目だよな。‥とまぁ、我が道行ってるのは香澄ちゃんだけじゃなくて、俺もなんだよね」
卓也の笑い声が響く中、二人は南へと向かって歩き出した。
二人は二人の道を行く。皆、それぞれの想いを抱いて。