温泉宿で運試し
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■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:01月27日〜01月31日
リプレイ公開日:2005年02月04日
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●オープニング
「これは依頼というのか‥‥いや、依頼って言うんだろうなぁ‥‥」
番頭が唸りつつも冒険者達に示したのは運試しの話だった。
「この温泉宿の名物でもある運試しらしいんだが‥‥温泉宿に隠されたお宝を探すらしい」
「なんだ、そんなの簡単じゃないのか?」
それがだなぁ、と首を捻りつつ番頭が言う。
「ここ数年は毎年脱落者ばかりでお宝に辿り着いた者が居ないそうだ。そこでそこの女将は考えたらしい。冒険者だったらどんな過酷な状況下でもお宝を探してくれるのではないかと」
そんなことするより簡単にすれば良いだけじゃないのか、とぶつぶつと呟く番頭。
まぁ、自分がやる訳ではないので敢えてそれ以上何も言わずに先を続ける。
「お宝を見つけた者には温泉宿無料宿泊が二週間ついてくるらしい。二週間といっても好きな時に泊まりに来て良いということだから束縛される訳ではないようだな。そこら辺は冒険者の身の上を考えてくれているのかもしれんが」
「で、その内容ってのはどういうんだ?」
「野を越え山超え谷超えて、というのは冗談でまずは雪深い温泉宿の回りにある一つの山を登り頂上まで行く。そしてそこにある木の枝にかけてある帯を取ってくるらしい。そしてその帯と引き換えに女将が鍵を渡してくれる。その鍵は地下道へと続く鍵でその地下道には以前閉じこめた小鬼が三匹いるそうだ。それを退治して奥の部屋にあるたくさんの宝箱の中から本物を取ってきて終了だな‥‥‥」
ふと番頭は思った。ただ単に女将は小鬼が退治したいだけではないのかと。別に帯など取りに行く必要などもないのではないかと。しかしそれが女将の小鬼へ挑ませる人物の選別なのだと考えればおかしな所もない。
「ちなみにこれは何人かで組んでの参加も良いそうだ。小鬼三匹を倒さなくてはならないしな。それともちろん何人かで組んだ場合、全員にその無料宿泊がついてくるようだぞ。これは結束してやったほうが楽かもしれないな」
「おいおい、一寸待てよ。結束も何も良いが、雪山を全員で駆け上るのか? そのうちの誰か一人、もしくは数人でも良いような気がするんだが」
その声に番頭は、おぉ、と声を上げ読み上げる。
「補足に書いてあったな。数人で臨む場合、雪山登山は自信のある者だけで良いそうだ。あぁ、それと。その時帰ってくる時間が早ければ早いほど、その日のもてなしの料理の数が増えるとも書いてあるな」
さぁ、やってみたいものはいるか、と番頭は聞き入る冒険者に声を掛けた。
●リプレイ本文
●団結
「閉じこめられているだけの小鬼を倒すのも気が引けるんだが、そうも言ってられないか‥因果な商売だよな、冒険者って。いや、このご時世どんな職業もそんなものかもしれんが。気の毒にな‥」
なんまんだぶ、と唱える橘真人(ea4556)の隣でほんのりと小さな笑みを浮かべた水葉さくら(ea5480)が呟く。
「お、温泉で宝探し‥ですか? なんだか楽しそうです‥ね‥」
「僕は温泉というものに行ったことがありません。銭湯とはどう違うのでしょうか?」
首を傾げながらも興味津々といった表情を浮かべているウェルナー・シドラドム(eb0342)。
「この依頼は普通の報酬なんかよりも、温泉二週間無料宿泊券の方がずっと魅力的ね。これはなんとしても成功させて手に入れないと!」
ぐっ、と拳を握った佐倉美春(eb0772)に同意するように何度も頷く拝峰黒音(ea9490)。それをたしなめるように隣で袖を引っ張る拝峰巫女乃(ea9491)。
「しかし、変わった事をする女将だな。まぁ温泉、それはいいものだしな」
以前入った温泉の事を思い出し、温泉へと思いを馳せるレイナス・フォルスティン(ea9885)の様子を見て、ウェルナーが、そうなんですか、と期待に満ちた眼差しを送る。
「とりあえず、全員で結束して挑むって事でいいかしら? その方が楽で良いと思うけれど」
美春の言葉にミスティ・フェールディン(ea9758)も静かに頷く。
「‥‥依頼を遂行するだけです」
皆もその意見に賛同し、準備をすると問題の温泉へと向かった。
●宿
「さて、それでは宿で一献‥おや、その手はなんです、巫女乃?」
温泉に着いた途端、黒音が言った言葉に巫女乃は姉である黒音の手を掴んだ。
「姉さん、酒宴も結構ですがその前に仕事です。いいかげん冒険者の仕事の仕組みをご理解してください」
「分かってますからお放しなさい」
ちゃんと仕事はいたしますよ、と面倒くさそうに皆と共に女将の元へと向かう。
「この雪深い温泉宿までお越しくださいました」
おっとりとした女将が皆に挨拶をし、今回の運試しの説明を行う。
「ここ数年小鬼の為に皆様脱落なさいまして‥そこで皆様に来て頂いたのですが。その小鬼ですが、以前お客様に何度も悪さをしていたのをやっと閉じこめる事に成功したのです。ただその際に大切なものを地下道にしまい込んだままにしてしまいまして」
おっちょこちょいですね、と溜息を吐く女将にレイナスは首を振って告げる。
「いやいや、必ずや小鬼からその大切なものを奪い取ってきて見せよう」
「頼もしいお言葉。詳細はギルドの方に送った内容と同じでございます。よろしくお願いします」
一礼をした女将は、皆を一度邪魔な荷物を置いてくださいと大広間へと通した。
そこで雪山登山を行う人々は防寒具を身につける。
まるごとネズミーを着込んださくらとウェルナー。自分がそれを着込んだ姿を見ながら二人は恥ずかしそうに呟く。
「さ、最近の服は変わった外見をしているのですね‥かわいいですが」
「恥ずかしいですがこれしか防寒着がありませんからね‥」
その隣でミスティは甲冑などを全て取り、身軽な状態で臨むようだ。真人も美春も防寒着を着込み山を登る。
総勢五人での雪山登山だ。他の者はその者達を見送る。
こうして奇妙な運試しが始まったのだった。
●運試し
雪の壁を気にせず皆、山の頂上を目指す。道はしっかりと踏み固められており、足をとられる事は稀だったがそれでも用心に越した事はない。
一直線に頂上まで伸びる雪壁に囲まれた道。
いつまで経ってもたどり着けないようなそんな錯覚が起きる。
「と‥遠いですね」
息の上がってきたさくらがそう告げるが、美春が答える。
「大丈夫よ。ちゃんと確実に前へ進んでるから。ただちょっと‥雪壁に囲まれてるから変な気分になるわね」
美春の言葉に力を得て、皆いつまで続くか分からなく思える道を行く。
何度か強い風が吹き付けてよろけそうになるが、こらえて五人は上る。
そして漸く木が近づいてきた。
「もう少しだ」
真人の言葉は正しかった。木の枝に色鮮やかな帯がぶら下がっている。白銀の世界に煌めく色。
手を伸ばせばすぐ届く高さにぶら下げてある。それをウェルナーが手を伸ばして取った。
あとは女将の元へと向かうのみ。
上っていた時は辛く長く感じた道のりだったが、帰りは滑り降りる事も出来倍の早さで下に辿り着く事が出来た。
巫女乃達は皆を笑顔で迎える。女将も帯を取ってきた五人に満足そうな笑みを浮かべ、帯と引き換えに鍵を手渡した。
地下道へ向かう前に皆防具などをしっかりと身につけると地下道へと向かう。
真人が鍵を開け地下道への入り口を開く。皆、吸い込まれるようにその中へと入っていった。
中は暗く女将から渡された灯りがなければ何も見えない。それで辺りを照らしながら用心深く前へと進む。
「適当な死体があればすぐに動かして小鬼などすぐに‥」
「姉さんが死体を扱われるのは存じていますが、適当に死体が転がっている場所はそうそうありません。もういいですから、明り役をお願いします。小鬼はどこに潜んでいるか分かりませんから、しっかり照らしてください」
「え、ないのですか? まったく、姉に明り役などという雑事をおしつけるとは‥」
そんな緊張感の無い会話をしている姉妹の回りでミスティが辺りに気を配る。
その時、上の方で影が動いた。
それに気付いたミスティはミミクリーで腕を伸ばし振り下ろす。
しかしそれから飛び退いた影はそのまま闇に消えた。
「出てきましたね」
ウェルナーが殺気を窺いながら歩を進める。
しかしそれ以後小鬼が現れる気配はない。
「なんで出てこないのかしら‥」
美春が首を傾げさくらが、ステインエアーワードを使ってみましょうか?、と声をかけた時だった。
何もないと思っていた場所から石が飛んでくる。そこから小鬼が三体顔を覗かせていた。
それを避けながら巫女乃がコアギュレイトで小鬼一体の身体を呪縛する。
一体が動けなくなったのを知ると小鬼達は一斉に飛びかかってきた。
それを避けたウェルナーが一撃を食らわせる。そのまま飛び退いた小鬼を真人が切り裂いた。
その血がミスティの目に映る。途端、狂化状態に陥ったミスティは倒れた小鬼の身体を楽しそうに不適な笑みを浮かべ突き刺した。
それは止まる事を知らない。ただ無防備な骸を突き刺す行為。
目の端にそれが映ったが、美春は目の前に迫る小鬼を攻撃し動きを封じる。それをレイナスがとどめを刺した。
先ほど動きを封じられた小鬼は巫女乃のホーリーで壁に酷く打ち付けられ倒されている。
まだ床に倒れた小鬼を刺し続けているミスティを皆は眺めるが、止めようと思って止まるものではないと先に宝箱を選んでしまおうと進む事にした。
見渡す限りの宝箱の山。しかし一つを除いては全て偽物だという。
「宝箱は‥全部この場で点検していいんだよな? 初見で当たればいいことがある、なあ‥まさかな‥そんな子供騙し‥」
そんな事を言いながらも真人はそわそわと辺りを見渡し宝箱を眺める。
「おやおや、これが宝箱ですか。さ、巫女乃、どんどん運びますよ」
無謀な事を言う姉に巫女乃は大きな溜息を吐く。
「姉さん、宝箱を独り占めするおつもりなら断固として止めますが、そもそもどんどん運ぶとのは無理だと思います」
「え、運べない?‥まったく、貴方は何のために馬を飼っているのですか?」
「私が馬を飼っているのは少なくとも宝箱を運搬させるためではありません。さ、馬鹿な事を仰ってないで本物を探してください」
不服そうに本物の宝箱を探そうとする黒音。
「勘で選んでいくしか無いわよね? まあ、これが運試しってことなんだろうし」
そう呟いて美春は一つの宝箱を手にする。
真人も真剣な表情で宝箱を見つめていたが、隅すぎない隅あたりに置かれている宝箱を手にする。
皆それぞれに宝箱を手に取り開けた。その頃にはミスティも合流している。
開けると中にはごろごろとした石が入っている。そんな中、巫女乃が手にした宝箱を取り返そうとしている黒音の持つ箱からひらりと一枚の紙が落ちた。
それを美春が拾い上げる。
「あの人から貰ったかんざしと大切な文‥だそうよ」
言われて中を覗けば確かに美しい細工の施されたかんざしと一通の文が入っている。
「これが‥女将さんの宝物‥素敵です‥」
うっとりとその宝物を見つめるさくら。
「これで依頼完了です」
そうして皆、無事に宝を持ち帰った。
●宴会
「ありがとうございました。大切にしまったのが仇になってしまって。こうして再び眺める事が出来るのも皆様のおかげ。お約束通り二週間分の無料宿泊権を皆様に。私顔を覚えるのは得意ですの。ですから好きな時にお越しくださいませ。歓迎致します」
幸せそうな女将の顔を見て皆頬を綻ばす。
そして用意された宴会会場に用意された数々の料理に舌鼓を打つ。さくらが神酒『鬼毒酒』を差し出した頃には風呂に入りに行ったものが多く飲む人物は居なかった。
用意された宴会会場でへべれけになっている黒音を解放するように寄り添う巫女乃は、自分がもう一人いれば良いのにと溜息を吐く。
温泉はいくつかあり、そのうちの一つに入っていたミスティはやっと和らいだ表情を見せ温泉の温かさを心地よく感じていた。
さくらも温泉に浸かり、いつか、お兄様とも一緒に来てみたいです‥ね‥、と小さく呟いて頬を赤らめる。
レイナスとウェルナーと真人は温泉で雪見風呂を満喫していた。真人は持ってきた酒をぐいっと飲み干す。
「温泉って良いですね」
「そうだろう?」
初めての温泉に浸かるウェルナー。そして温泉を勧めたレイナスは得意げだ。
やっぱりいいわねー、と露天風呂に浸かる美春は空を見上げる。星が美しく煌めいていた。