氷結の滝

■ショートシナリオ


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月12日〜03月16日

リプレイ公開日:2005年03月20日

●オープニング

 春の足音が南の方では聞こえ始める頃。
 まだ山奥のこの里は雪に覆われている。
 しかしこの里もまた、春へ向けての記念すべき行事の為に人々が動き始めていた。
 この里の豊作を願う祭りは、雪の溶けきらないこの時期に行われる。
 山神が居ると信じられている里の裏の山にある滝。
 その滝が下から上まで一本の棒状に凍り付くこの時期にその祭りは行われるのだ。
 その氷結した滝の前で人々は舞い、宴を開く。
 今年の豊作を願い、保存していたものを捧げ酒を滝に垂らし祝うのだ。
 それは今も昔も変わらぬこの里の祭り。
 春に芽吹く木々の緑や山菜、そして畑に実る作物に想いを馳せながら冬の厳しさを乗り越え、生き抜いていく為の祭りだった。
 しかし今年はその祭りを行う事に不安を覚える事柄があった。
 山に山賊の一味が居座り、山に登ってくるものを攻撃しては盗みを働くというものだった。
 そういった輩が出てきても以前は全員でかかってなんとか退けていたのだが、今回の山賊は統制が成されていて一筋縄ではいかない様だった。
 数としては精鋭部隊5名に頭領という6人構成の様だと出会った者達は言っている。
 その者達を退治しないと、毎年行ってきた祭りを行う事が出来なくなってしまう。
 祭りを行う場所付近をねぐらにしている山賊達。
 もしその滝で祭りを行ったとしたら絶対に何か仕掛けてくるに決まっている。
 そこでなんとか出来ないものかと考えた人々は祭りの直前になって、腕の立つ人間を寄越して欲しいと、冒険者ギルドに依頼を行ったのだった。

●今回の参加者

 ea0260 藤浦 沙羅(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4412 水乃櫻 楷吏(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4453 辿樟院 瑞月(25歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6967 香 辰沙(29歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0479 露草 楓(20歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1362 セラフ・ヴァンガード(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1435 大田 伝衛門(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●村で
 一緒に付いてこようとする村人をやんわりと宥める露草楓(eb0479)。
「皆様、山や滝には近づかないで祭りの準備をお願いしますね」
 大丈夫だよー♪、と風月明日菜(ea8212)が笑顔で告げ、香辰沙(ea6967)も柔らかい笑みを湛え続ける。
「頑張って‥‥お祭り出来るよにしますよって、危のないとこに‥‥おってな」
「無事にお祭り出来るように、がんばらせてもらいますねっ」
 藤浦沙羅(ea0260)もそう告げて胸の前でぐっと拳を握った。セラフ・ヴァンガード(eb1362)もこくり、と頷き心配そうな村人達を見つめる。
 そこへ村人から服を借りた辿樟院瑞月(ea4453)が水乃櫻楷吏(ea4412)を連れて駆けてきた。
「どうですか、里の者らしく見えますか?」
 その場でくるりと回転して見せた瑞月に大田伝衛門(eb1435)が、なかなか様になっとるのう、と感心したように告げる。すると瑞月は嬉しそうに微笑んだ。
「そうですか。良かった」
 続けて、っくちゅ、と可愛らしいくしゃみをした瑞月を気遣って、楷吏が慌てて防寒着の懐に入れてやる。
「‥瑞月君、気ぃつけてなぁ。怪我なんぞしたら‥楷吏はん、錯乱してまうわ‥」
 その様子を見ていた辰沙が苦笑気味に告げる。瑞月と伝衛門と沙羅は囮の係だった。
「はい。辰沙さんもお気を付けて」
 微笑み合う二人の横で、楓が皆に告げる。
「昨日の今日でさほど変わっていないと思うのですけど‥‥」
 そう言って楓は簡単な隠れることが出来そうな場所を皆に示す。少しは役に立つだろうと辺りを偵察に行っていたのだ。
 それを頭に入れ、それぞれの持ち場に着く。
 村人を装った沙羅と瑞月と伝衛門の三人は荷車の中に武器を隠し、縄もしっかりと積む。辰沙はミミクリーで鷹に姿を変えると空高く舞い上がった。
 そのまま辰沙は滝の方へと羽ばたいていく。上空から山賊の姿を探すが、特に怪しい動きをする者は見つからなかった。
 ただ、滝の両脇にある崖の上に多くの足跡を発見した。辰沙は仲間の元へ戻るとそのことを報告する。上空からの攻撃に気をつけた方がよいと。
 囮役の三人は頷くと、先に滝壺の方へと足を向ける。再び鷹へと姿を変えた辰沙もその後を追う様に飛び立った。

●山賊
「すっごく空が綺麗」
 沙羅が空を舞う辰沙を確認しつつ青い空を見上げて呟く。言われて振り仰いだ瑞月と伝衛門もその空の青さに目を細めた。
「本当に。吸い込まれそうな青空です」
「全くじゃな。こんなに天気が良くて山神様も喜んでいるじゃろう」
「早くお祭りしたいな」
 楽しみだね、と沙羅が二人に微笑む。
 辺りを警戒しながら進んでいた三人だが、今のところは何も不穏な動きは感じられない。
 穏やかな空気が漂っていた。
 危険を知らせる辰沙にも変化はない。何処かで鷹の視力を生かし辺りをしっかりと見ているに違いない。このまま何事もなく滝壺まで辿り着くのではないかと思った時だった。
 ちらり、と空を眺めると空を辰沙が旋回し始めていた。敵が現れる合図だ。その場所はあらかじめ村人に聞いていた山賊襲撃地点と一致していた。
 しかし本当に近づいてくるまでは迂闊な行動は出来ない。ただ気配を窺いながら囮の三人は歩き続けた。
 そして雪の中から現れた山賊達。三人を周りを取り囲んだのは四人だ。
 すかさず沙羅があたかも今気づき驚いたかの様に、きゃぁぁっ!!誰かぁぁっ!!、と辺りに響き渡る声をあげる。後方陣も辰沙の合図で気付いてはいるだろうが、これで確実に後方への合図は届いただろう。
「お主らが山賊か。何故このような事をするんじゃろうな。村人と共に暮らした方が楽なのではないか?」
「そんなのはどうでもいいんだ。荷物を頂こうか」
「話す気はないか」
「頭領に聞いてみな。俺たちに決定権はない‥‥さて、荷物を頂こうか」
 近寄る山賊達の内でなるべく遠くに位置する者を沙羅はウォーターボムで攻撃する。そのまま転倒する山賊。手から弓が落ちた。走ってくる人影を見た沙羅はそのまま荷車に積んでいた刀を取り出し、切り込んできた山賊の剣を防ぐ。
「ご無事ですかっ!」
 楷吏は一目散に瑞月の元へ向かい、自分の背に瑞月を隠し目の前に居た山賊を斬り付ける。
 オーラエリベイションをかけて駆けてきた明日菜は、起きあがりかけていた弓兵へと接近しそのままダブルアタックをしかけた。手負いの弓兵はそのまま崩れ落ちる。続けて明日菜はもう一人の弓兵へと近づいた。
「ボクの二つの二つ名は伊達じゃないよー!」
 弓兵が弓を射るよりも明日菜が懐に入る方が早かった。傷を負った弓兵と残った者達はきらりと崖の上が光ったのを見てそのまま一度退却する。
 それを丁度山賊の背後に回り込んでいた楓が道を塞いだ。脇をセラフが固める。
 楓とセラフがほぼ同時に駆けた。弓兵に低い姿勢で突っ込んだ楓は確かな手応えを感じる。
 セラフの剣を受けて傷を付けられた山賊は逃げるが、それを明日菜の剣に阻まれた。
 崖の上で鷹の姿の辰沙が戦っているのを見た楷吏は崖の上へと向かう。その後を沙羅と伝衛門も追った。


●崖の上
 辰沙は皆に合図をしてから、上空から辺りを見渡す。
 すると先ほど足跡があった場所に二人の人影が現れた。一人は弓を持っている。
 上空から狙う魂胆なのか。それともう一人は貫禄が違う。それが頭領なのだろう。
 仲間に狙いを定めている弓兵を見て、辰沙は背後に回り込み、急降下しながら鷹爪で深く抉るように腕を攻撃する。一度ではなく何度も。頭領も刀を振るうがそれを上手くかわして辰沙は二人に攻撃を試みた。
 先に弓兵の腕を傷付けていたのが良かったのか、上空からの攻撃に二人は為す術がない。その間に下の状況を見た頭領はきらりと太陽光を反射させ、下にいる手下に合図をする。しかしその時には既に遅かった。手下達は囲まれ捕らえられてしまう。
 舌打ちをした頭領は、深い傷を負い動けなくなった弓兵をそのままに辰沙へと攻撃を開始した。
 そこへ上での騒ぎを見た楷吏と瑞月と伝衛門と沙羅がやってくる。
「あんたが頭領か!」
 説得を試みるが頭領は聞く耳を持たない。
「…里のお人に迷惑かけたら、あきまへんえ…?」
 鷹の姿から元に戻った辰沙が頭領に告げる。
 そこで辰沙がブラックホーリーを放ち頭領にダメージを与え、弱った所に沙羅が攻撃を加えた。
 ぐあっ、と低い声をあげて頭領はのびてしまう。動きが止まった所で楷吏と伝衛門がその頭領を縛り上げた。

●祭り
 こうして無事に村の祭りは開催される事になった。
 祭りが出来るという知らせを受けると、村人達は既に用意してあったものをいそいそと滝の前へと並べ始める。
 冬のこの時期だとは思えないほど、色とりどりのものが並び近くで焚かれた松明の明かりが柔らかく辺りを照らし出していた。
 村娘による山神に捧げる舞いを眺めながら、伝衛門は杯を傾ける。
 その隣には縛り上げられた山賊の姿。
 こってりと山賊に説教をした伝衛門は満足そうだ。
 山賊の頭領は実はこの村の出で、昔苛められた事を根に持って山賊なんてものをやっていたらしい。いつも崖の上から眺めていたのは、顔でばれてしまうからということだった。随分と小さい心の持ち主だと伝衛門は笑い飛ばす。
 沙羅は酒が飲めない為、辺りを楽しそうに眺めていたが、周りに寄ってきた同年代の娘達に誘われ、一曲披露する事にする。
 愛らしい声が滝壺に響き渡り、気持ちよさそうに謳うその姿に皆が見惚れた。
 明日菜はすっかり村娘達の間に溶け込み、一緒に会話を楽しみながら食事をしていた。笑顔が輝き、先ほどまで真剣な表情で戦っていたのとはまるで違う顔を見る事が出来る。
 セラフと楓は楽しげにその様子を見つめ、互いに顔を見合わせ微笑んだ。
「人々のために役に立つことが出来るのって、嬉しいですね」
 楓の言葉にセラフは頷き、酒を片手に人々の笑顔を見つめていた。
 先ほどまで祭りの準備を手伝っていた瑞月だったが、やっと落ち着いたようでほっとした表情を見せている。
 そんな瑞月を心配そうに見ているのはやはり楷吏だ。心配性も此処まで来ると素晴らしい。
 瑞月はそんな楷吏を誘い、自分の笛の音と楷吏の琵琶の音で場を盛り上げようと提案する。
 楷吏が瑞月の言葉を断るはずもなかった。その音に合わせ、辰沙が舞いを披露する。
 美しい音と艶やかな舞いに人々は釘付けになった。
 松明の明かりが揺らぎ美しさに磨きをかける。
 舞い終えると辰沙が、楷吏を舞いに誘う。しかしかたくなにそれを拒む楷吏。
「…楷吏はん…うちと一緒に舞うんは、お嫌どすか?」
「踊ってくれないの‥?」
 そんな言葉と共に辰沙と瑞月に瞳うるうる攻撃をされれば、楷吏は折れるしかない。
「‥‥‥わかりました」
 頷いた楷吏を伝衛門が冷やかす。沙羅も、頑張ってくださいね、と声をかけ楓とセラフも楽しげに笑う。
 同い年の子供に囲まれた明日菜と周りの子供建ちも手を叩いてはやし立てた。
「頑張るんだよー♪」
「皆様の笑顔こそが…春の温もり、みたいやねぇ」
 皆の笑顔を見ていた辰沙の言葉通り、まだ雪の積もるこの村にも笑顔という花が咲き春がやってきたようだった。