●リプレイ本文
●山登り
三日目の早朝。村に着いた一行は、よくおいでなすった、山に登る前に腹ごしらえをしていってくれ、と無理矢理家の中に引きずり込まれ朝食をご馳走になる。
そして期待を込めて握った昼の握り飯まで持たされて、村の男三人と共に5人は栗の木のある山へと登り始めたのだった。
しかしバーク・ダンロック(ea7871)だけは馬を村人に預け皆よりも先に出発する。栗の木は山道をまっすぐに上っていけば着くところで迷うことはないらしい。
「俺は先に行ってるからな。戦闘中、俺に近づくと怪我するぜ。気ぃつけなよ」
そんな言葉を残しバークはのしのしと山を登っていった。
「栗拾いか‥‥子供の頃はよく拾いに行ったものだが」
色づき始めた木々を見上げ雷山晃司朗(ea6402)が呟くと、一色翠(ea6639)が楽しそうに声を上げる。
「栗ご飯♪栗ご飯♪」
「安全に、いっぱい栗を拾えるように頑張って護衛をしましょう」
ラティール・エラティス(ea6463)は翠に微笑みかけながら村人の脇に立つと周りに視線を投げる。今のところ野生動物の気配もないようだ。
「それにしても、今回の顔ぶれはジャイアント族の方が多いですね。栗、そんなに多く拾えるのでしょうか‥‥良く食べそうな‥‥あ、失礼。失言ですね」
苦笑気味に水乃櫻楷吏(ea4412)が告げると、ラティールが笑いながら続ける。
「私を入れて巨人族の方が3人いますからね。山菜等取れたら少し頂いていきたいですね」
「奇遇だな。私も採れるようならアケビや木の実を採って帰りたいと思っていたところだ。ただ気候の関係で山の恵みが少ないとのことだから採るにしても2・3個くらいだろうか」
ラティールの意見に晃司朗も賛同する。
「美味しいご飯を食べると幸せな気持ちになれるの。だから一杯栗も拾って村人さん達が幸せな気持ちになれるといいね♪」
一行が楽しげな会話をしている間に山中は木々が鬱そうと生い茂り、見晴らしが悪くなる。
こうなってくると死角が出来やすく、隠れているものを発見しづらくなる。四人は村人を囲みつつ歩を進めた。
そしてかねてから打ち合わせていたとおり、それぞれが音を出しながら山道を進む。
楷吏と翠は狼の鳴き声を真似て、あおーん、と叫び歩いていく。それはまるでつがいの狼が互いの位置を確認しあっているかのように聞こえた。
晃司朗はわざと大声で村人達と会話をしながら周りに気を配る。これだけ大きな音を立てて歩いているのだから、動物たちの方から近寄ってくることはないだろうとは思ったが、念のため辺りを窺うことを忘れない。
ラティールは故郷のエジプトの歌を高らかに歌いながら道を進んだ。色づいた山に異国の歌が流れる。
大きな音を立てて進む一行。その前方を行くバークにも未だ変化はないようだ。獣が出たらオーラアルファーを喰らわしてやる、と言っていたから山が静かだということはまだ出会っては居ないのだろう。
しかしその時、大きな音が前方で響く。一斉に鳥が飛び立った。
「何か出たのでしょうか‥‥」
心配そうなラティールだったが、オーラアルファの巻き添えをくう訳にはいかないので暫くその場で様子を窺う。しかし二発目は無いようだった。
「急ぎましょう」
楷吏に促され、全員栗の木へと向かったのだった。
●栗の木の側で
鼻歌を歌いながらバークは一足先に山を登っていた。
途中から木々が鬱そうと多い茂る山の中に入っていったが、木々は美しく紅葉し美しかった。
「一人で見るのも勿体ねぇなぁ‥‥でも俺はオーラアルファー使い。共に戦う仲間や馬すら傷つける孤独な騎士だ、‥‥なんてな」
自分が言った言葉に笑いながらバークは先を急ぐ。
「まあ、戦闘以外で仲良くしてりゃいいんだし、連携して仲間の命を背負う苦労がない分、気が楽とも言えるぜ。第一、この腹と禿頭にシリアスは似合わねえってのな」
うんうん、と頷き背後を振り返る。まだ後続は追いついてこないようだった。
暫くするとバークは開けた場所に出た。しかし栗の木はまだ先にあるようだった。
「さてと、もう少しか」
バークが先に進もうとした時だった。
がさがさと前方にある茂みが動いたのは。バークは身構えるが出てきたのは野兎だった。
緊張を解いてバークは先に進むことにし歩き出した。
「全くお騒がせな野郎だな‥‥」
そう言ったのも束の間、前触れもなく前方から飛礫が飛んできてバークの額に当たった。
茂みの間だから見え隠れするのは褐色の皺の寄った肌。小鬼に違いない。
幸い辺りを確認すれば場所は開けているし、まだ頂上付近にある栗の木までは距離がある。
ここでオーラアルファを叩きつけても栗の木への被害はあるまい、とバークは迷わずオーラを爆発させた。
「この○○○野郎っ!」
辺りに凄まじいまでの音が響き渡り茂みの向こう側に居た小鬼を蹴散らす。衝撃で小鬼がひっくり返ったがすぐに起きあがると山の奥へと逃げていった。手傷を負わせたから暫くは出てこないかもしれない。その時バークが確認したのは2匹だった。
「まずは2匹か‥‥」
周りを見渡してみても近くに他の小鬼の姿は発見出来ない。これはもう居ないとして先を急いだ方が良いようだった。
「俺一人で蹴散らしちまったらそれはそれで可笑しいかもしれねぇな」
豪快に笑うとバークは栗の木を目指したのだった。
「音がしたのはこの辺だったか‥‥」
晃司朗が開けた場所でオーラアルファが使われた痕跡を発見し指し示す。
「もうバークさんは栗の木に着いてるかもしれませんね」
楷吏の言葉に皆が頷き足早に栗の木を目指す。
開けた場所を歩いて暫くいくと大きな栗の木が2本立っているのが見えるが、その木の下には辺りを窺っているバークが居た。
ヒラヒラと手を振りながら翠が声をかけると、バークが笑顔で応える。
「さっきの音は‥‥」
「小鬼が飛礫をぶつけてきたからな、ちょっと痛めつけてやったまで」
さてと、とバークはまた皆から離れ遠くで小鬼や動物がやってこないように見張ってくる、と歩いていってしまう。
「お気をつけてー!」
ラティールの声を背に受け、バークは再び山を下りていった。
「それじゃ村人さん達、栗拾い開始! まずは1本の木の周辺で栗拾ってくださいねー」
村人達は頷くともくもくと栗拾いを開始する。
そんな村人達を囲むように晃司朗と楷吏とラティールは栗の木を中心に三角の陣形を組み辺りを窺った。
木の隣では翠が待機し、やってくるであろう小鬼と動物たちに目を光らせる。
ラティールは中身を取り終わった栗のいがを自分の周りにたくさん集め始めた。牽制用の飛礫に使用しようというのだ。
「まだ来ないねー。来ない方がいいんだけど」
翠が呟いた時、晃司朗の声が呼ぶ。
「翠殿、後ろに!」
振り向き様姿勢を正すと背後の茂みから顔を出した小鬼に向けて矢を放つ。
ぎりぎりの所で交わされ小鬼の背後の木に突き刺さった。小鬼は小さな石を投げ攻撃を仕掛けてくる。翠は小鬼が振り上げた手を狙い矢を放った。それは見事に刺さり小鬼の苦しそうな声が響くが、小鬼はそのまま今度は晃司朗の方へと攻撃を開始する。しかしその攻撃は晃司朗まで届かない。六尺棒を手にした晃司朗が一振りすると傷ついた小鬼は何事か喚きながら茂みの中へと消えていった。
ラティールの方へも小鬼が近づいていた。しかしラティールは冷静に集めた栗のいがを小鬼に向けて投げ威嚇する。その攻撃をかいくぐって近づいてきた小鬼をラティールは駆け寄り勢いをつけたまま容赦なく殴りつける。見事にそれは決まり小鬼は遠くまで吹き飛んだ。
「なかなかやるな」
晃司朗はラティールの様子を眺め小さく笑う。するとラティールは恥ずかしそうに俯いた。
「はっ!」
楷吏へと歩み寄った小鬼は近くにあるものを何でも掴みそれを楷吏へとぶつける。しかし楷吏はそれをすいっと避けるとブラインドアタックで攻撃をした。その瞬間、楷吏の腹がぐーとなる。まだ昼を食べていないことに気がつく楷吏。しかし戦いの最中で食べる訳にはいかない。
一度退いた小鬼だったが再び楷吏へと向かってくるのを翠の矢が射抜き、手傷を負った小鬼は叫びながら山奥へと消えていった。遠くで様子を窺っていた他の2匹も小鬼が逃げ出したのを見てその後を追う。
「小鬼は逃げたようだな」
晃司朗の言葉に楷吏は頷き、村人達の様子を見る。
四人が戦っている間に大分栗を拾い、背の籠は一杯になっているようだった。そのまま二本目の栗の木へと移動し栗を拾う。その間に辺りを窺いながら翠が晃司朗の言っていたアケビを探して来ては村人の持っていた袋に詰めこむ。そして自分の放った矢も出来る限り回収をした。
栗を拾い終えるまでに山の幸も集めた一行はほくほくとしながら下山したのだった。
●栗ご飯
楽しげに炊き出しに加わったラティールは栗ご飯の作り方を教わり頷いている。本人はどうやら花嫁修業のつもりで臨んでいるようだ。たまに頬を赤らめつつちらりと晃司朗の方を眺めていたりする。
「ここ最近ラティール殿が私をちらちらと見ておられるようだが‥‥はて、何かあるのだろうか‥‥」
ラティールの視線に気づき首を傾げる乙女心には鈍い晃司朗。
喜んだ村人達は五人に出来たての栗ご飯を山のようによそってくれる。
皆その味に舌鼓を打ちつつ山の恵みである栗を堪能したのだった。
「やっぱ仕事の後のメシは格別だな!おかわりもらえるか?」
「私もお願いします」
楷吏とバークがおかわりを申し出る。村人達は気前よくどんどん食べてくれと漬け物なども差し出した。
「お兄さんやお姉さんみたいに大きくなれるよう沢山食べるの!」
そんな可愛らしい翠の言葉に皆が微笑み夜は更けていったのだった。