京都への旅路 - 密航者アリ -

■ショートシナリオ


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月19日〜03月23日

リプレイ公開日:2005年03月27日

●オープニング

「京都まで乗せてくれよ。何でも仕事するから」
「ダメだ、ダメだ。帰った帰った」
「あの、すみません。本当に僕達江戸から出たいんです。でも歩いて行ったら途中で変なのが出てきて、命からがらここまで‥‥」
 少女のような面立ちをした少年が縋るように船着き場で見張りをしている男に告げる。
「うるさいっ! 何度言われても無理だ」
「大きい船なんだから俺たち位平気だろっ」
「そういう問題じゃない。しっしっ」
 二人はその場から追い払われる。
「ケチーっ!」
 みてろよ、と精悍な顔立ちの方の少年は呟き、あかんべー、を見張りの男にして駆けだした。
 その後をもう一人の少年が追う。
「ちょっと、待ってってば、稟」
 先を行く少年の着物の裾を引っ張って、少年は肩で息をしながら立ち止まる。
「だらしないな、葵は」
 呆れたような口調だが、心配してるのだろう。背中をぽんぽん、と叩いてやりながら稟は言う。
「俺さ、考えたんだけど。あの樽の中に入っちまえば分かんないと思うんだ」
「でも‥‥」
「だって、俺たちこっから出ないと。京都は変なのうじゃうじゃいるって話だけどさ、ここよりはましだろ、きっと」
「そ‥‥そうかな‥‥‥」
「そうだって。だからあの樽ん中入るぞ」
 見張りの死角になっている位置に置いてある樽の中に身を隠す二人。
 あとはそれが船に積み上げられるのを待つだけだった。



「諸君! いま京都は大変な危機に陥っている! このことには家康公も心底、心を痛めておられるのだ‥‥いまこそ我らの志を無駄にはせず‥‥」
「ああ、あれですか‥‥何でも、京都へ向かう有意の者たちを集めているんだそうです」
 冒険者ギルドの一室で熱弁を振るう一人の武士。それを見ながら、冒険者ギルドの係のものはつぶやいた。
「あのお侍様‥‥何でも、清河八郎、って方らしいんですけどね。どうやら、京都の危機に、神皇様をお助けに参ろうと、そういう話らしいですよ?」
 後ろで続いている檄の声を背負いながら、係は興味を持った一同に声をかけると、資料を手にその続きをまくしたてる。
「先年、家康様が京都より戻られたのは、ただ江戸の町を妖狐に襲われた、という理由だけじゃないらしくてね。風の噂じゃ、京都でも妖怪どもが大きな顔をしてるらしいんだよねえ」
 そんな話を聞いている最中、清河の熱弁は一通り終わったようだった。改めて自分が人を集めていることを語り、一礼して去る武士に向けて、ギルドのものは愛想の拍手を送ったりしている。
「あっと、話がずれてましたね‥‥京都のほうも不穏で、新撰組や京都守護だけじゃ手が回らないってことだそうですね。そこで、江戸から力の余っている浪人者や冒険者を集めて、京都の警備にあたらせたり、あっちでできたばかりのギルドの仕事を任せてみようという話になったそうなんですよ」
 そこまで告げると、係ににこりと微笑んで、依頼の内容を指差した。
「‥‥一旗揚げようという気があるのなら、この話に一枚噛んで、ぜひ上洛してみてはいかがですかね?」


 そんな清河八郎の口上を聞いて集まった人々。
 もちろん、腕の立つ者ばかりだ。
 魑魅魍魎の蔓延る京都で自らの力を試したい者、胡散臭いがちょっと京都の様子を探ってみたい者など、その思惑は様々だったが、熱弁を振るっていた清河にすれば、どんな理由であれ京都へ向かってくれる人物が出てくればそれで良かった。
 集まった人々を満足そうに見つめた清河は集まった者達とは別に京都へと向かう。

 そして集まった者達の準備も整った。
 人々はあとは京都へ向かうのみ、と次々と船へと乗り込む。
 京都へは四日間の旅だ。
 ギルドが正常に機能していない程、京都は荒廃しているという。そこへ向かう道中、何があっても可笑しくはない。
 皆しっかりと万全の準備をして船に乗り込んでいる。
 乗り込み、思い思いの場所に腰を落ち着けた者達。
 やがて船はゆっくりと京都へと向かい出航した。

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2495 丙 鞘継(26歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea5899 外橋 恒弥(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1362 セラフ・ヴァンガード(24歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 たった四日間とはいえ船で何かあったらいけないと大宗院透(ea0050)は船内を調べて回っていた。セラフ・ヴァンガード(eb1362)も船内を興味深そうに歩き回っている。船員達も動き回り、周りへの警戒を怠らないよう周りとこまめに連絡を取り合っていた。
 白河千里(ea0012)と天螺月律吏(ea0085)も、じっとしていては船酔いする一方だと甲板に出て外の風に当たっていた。既に千里の顔色は悪く表情は浮かない。
「ちー、やはり動力は人力なのだろうか?」
 律吏の問いに、どうだろうな、と千里は答えながら律吏に手を差し出した。何のつもりだ、と言いたげに律吏がその手を見返すと千里は言う。
「手ぐらい繋いだって良いではないか」
 その瞬間、千里の頭を容赦なく殴った律吏は先に立って歩き出した。その後を千里は追う。
 ちらり、とそんな二人を見送ったのは丙鞘継(ea2495)。しかしすぐに視線を近場にいた船員に戻すと京都の事について尋ねた。行くからには今から自分が向かう京都の情勢を把握しておきたかったのだ。
 船員はそんな鞘継の問いに面倒なそぶりを見せることなく答える。それを真剣に聞いている鞘継の元へ笑みを浮かべた外橋恒弥(ea5899)がやってきた。ひらり、と手を挙げて鞘継に近づくと恒弥は先ほどからずっと居たかのようにその話に混ざる。
 とにかく京都は江戸とは比較にならぬ程に荒れている事だけは船員の話から分かった。具体的にどうこうというのは船員も分からないらしい。ただ噂で村が物の怪によって滅ぼされたのなんだのとあちこちに広まっているようだった。船員は話終えると満足そうな表情で去っていく。残された二人。恒弥は今の話を反芻しているのか、ただ単に物思いに耽っているのか判別つかない鞘継を、引きずるように連れ、船内探検へと出かけたのだった。

 透は船底にある倉庫を見て回っていた。そこでふと気配を感じ足を止める。微かな物音が聞こえ、そちらへ足を向けた透は一つの樽の蓋を取った。するとその中には少年が一人入っているではないか。透は声を上げそうになる子供を静かにさせると事情を尋ねる。すると少年は小さな声で、葵、と呼ぶ。その声を聞いてもう一つの樽の蓋が開き線の細い少年が顔を覗かせた。
 二人は透に船に乗った事情を説明し始める。江戸で盗人をしていたこと。しかし改心して真面目に働きだしたのはよいが、今度は金持ちに捕まって監禁生活を余儀なくされたなど切々と語る二人。悪さをするつもりでこの船に乗り込んだわけではないことを告げると透は二人に元の場所に戻るように告げる。そしてなるべく見つからないようにと二人に知恵を付けてやった。
「バレたら、私の所へ来て下さい‥」
 それだけ告げると倉庫を後にする。扉を開けるとそこにセラフの姿を見つけたが、特に何を言う訳でもなくセラフが倉庫に消えるのを透は見送り、そのまま甲板へと出た。しかし特に何も見つからなかったのかセラフもすぐに甲板へ出てくると、美しく暮れゆく夕日を眺めていた。

 そろそろ食事の時間だという頃、船員達が騒ぎ立てる声が船内に響いた。
 人々は人だかりのしている場所へと集まり出す。
 透は先ほど見つけた少年達が見つかったかもしれないとその場に向かった。すると案の定、役人と船員に囲まれた少年達の姿が見える。少年達は人混みの中に透の姿を見つけ駆け寄ってきた。
「凛さん、葵さん、見つかるなんて修業が足りませんね‥」
 溜息混じりに二人に告げる透。
「こらっ! お前ら勝手に船に乗り込みやがって」
 それは少年達が船に乗せてくれるよう頼み込んでいた役人だった。自分の責任になるからなのか、顔を真っ赤にして怒鳴っている。
「だって、俺達どうしても江戸から出ないと駄目だったんだ」
「歩いていったら変なのに出くわすしで。命からがら戻ってきたんですけど、江戸にもいられないので仕方なく‥樽に忍び込んで‥」
 二人は項垂れて怒り狂う役人に謝る。
「謝って済む問題じゃないっ! 大体なぁ‥」
 永遠に続くような言葉を遮ったのは藤原雷太(ea0366)だった。
「そんなに子供相手にむきになる事もなかろう」
「是非はともかく、こんな子供二人にむきになって船から叩きだそうというのもいかがかと思いますが。怒る事ではないとは申しませんが、こんなところで放り出しこの子らに命の危難が訪れたとして、それは正当な報いとまで言えますまい」
 人の良さそうな笑みを湛えた雷太と真剣な表情の御神楽澄華(ea6526)が役人に告げると、少しは落ち着きを取り戻したのか役人が口を開く。
「むきになるとかそういう問題ではなく、こいつらが此処にいる事自体が問題なのだ。我々は遊びに行く訳ではない。それに今から向かう京都は江戸よりも危険な場所だ。そこへ小さい子供など連れて行くのは無謀とも言えるだろう。それにここで物の怪から攻撃を受けて、誰がこの子らを守る? そこまで面倒は見きれね」
 役人の意見は尤もだ。しかしもう既に乗り込んでしまった者を澄華の言う通り、川に放り出す訳にもいかないだろう。
「だからってまーさーかー、此処から放り投げぬよな?」
 人混みを掻き分けて、にまっと笑みを浮かべた千里と律吏が少年達の元へとやってくる。
「出航早々、しかも未来在る者に不幸が在っちゃ、幸先良くないな♪ 仮にも神皇様をお助けに向かう有意者の乗った船から子供を投げて‥など」
「船代を立て替えてやれば良いか? 子二人だから、大人一人分で充分だよな」
 笑顔で律吏も千里の言葉に続けてその様な事を告げる。しかし役人は首を左右に振った。
「別に金が欲しい訳ではない」
「それならば自分等が保護監督をするということではどうでござるか?」
 雷太の言葉に男は驚きの表情をしてみせる。それを援護するかのようにセラフと澄華の声が飛ぶ。
「役人としての努めにより、密航を見逃すことはできない。それは理解する。この子達は私の「連れ」ということにしてはどうかな? このジャパンは異国の地。慣れぬ異国での道行き、何かと不便もあろうかとこの子達に旅先案内を頼んだ‥それを私が申告し忘れていた、と。責は申告を忘れた私にある。申告し忘れの罰として、船の仕事を手伝いぐらいはするつもりだが‥」
「この子らの身柄を正規に船に乗った私達が引き受ける、ということで任せてはもらえないでしょうか。船旅は初めて、こちらとしても何かと手伝いがあった方が助かりますし。乗船客の“連れ”にまで文句をつける理由もない、と思いますが」
「見ず知らずのこの子達の安全をそなた等が保障するというのか?」
「船での安全だけでなく、京での身許引受人に推す。同乗者で最年長だし、職も安定しているし。江戸に彼らの家族があるなら、私が戻った時に説明もできよう」
 律吏が告げるとしばらく考え込んでいた役人だったが、いいだろう、と頷いた。此処にいるのは上洛する者達ばかりだ。人々を助けたいと思っている者達もいる中で、こんな幼い子供を放り出す訳にはいかない。人々の志気に関わるだろう。
「本当に? ありがとう!」
 子供達は笑顔で礼を述べると、手伝えることあれば何でもするよ、と今まで不安そうな表情を一変させる。そこでその変化に楽しそうに微笑んだ恒弥が凛と葵のことをがしっと後ろから抱え込みながら提案した。とりあえず交流を深めるためにも飯にしないかと。その提案に一同は乗ることにした。

 透は調理場を借りて簡単な料理を作り皆に手料理を振舞う。
 それらを頬張りながら、役人、船員を交え皆は雷太の笛の音に耳を傾けた。船旅が無事であるよう、海神に祈りながら笛を奏でる雷太。緩やかに奏でられた音は人々の胸に染み込んでいく。
 その後を継ぐのは恒弥の三味線だ。楽しげにその音を奏でる恒弥に人々の心も安らぐ。
 そんな中、透とセラフと澄華を交え双六をして楽しんでいた凛と葵は、きりの良い所で千里と律吏と共に甲板へ誘われ外に出た。夜風に当たりながら星を眺める。
 そこで、さてここで問題です、と悪戯な笑みを浮かべた千里が三人を見渡す。北はどーっちだ?、と笑いながら答えを待つ。しかし答えが出てこないのを見て北極星を指差しながら言う。
「正解は‥あっちだ」
 それらについて講釈するのを凛と葵は興味深く頷きながら聞いていたが、くしゃみを連発する葵を連れて凛は中へと戻る。
「春と言えど、流石に海の上は冷える。律吏‥ほら体が冷えるぞ」
 千里は自分の羽織っていた着物を肩に掛けてやりながらそのまま肩を抱く。
「気苦労掛けてすまん‥律吏、有難う」
 何も言わず律吏はそっと瞳を閉じた。

 ふらり、と席を立った鞘継の後を追うのは恒弥だ。
 夜風に当たりながら波打つ瀬を眺め、義妹を探すべく江戸に出てきて、連れ戻せぬまま京都へ行くのは志半ばで帰るようで心苦しいが‥義妹のことは義兄に任せれば問題あるまい、と自分を納得させる。成すべき事を成したら江戸に戻るつもりではいたが、それがいつになるかは皆目見当もつかない。
「恒弥‥同居してる友人と言い訳する彼女はどうした?」
 追ってきた気配に気づいていた鞘継が振り返りながら告げると、余裕の笑みを浮かべた恒弥は鞘継の隣へとやってきた。
「比叡山にはまだ帰りたくないみたいだし‥それに鞘くん一人で行かせるのは可哀想だし。俺って優しーい」
 へらっと笑うその姿に鞘継は小さく笑う。友にだけ見せる表情だろうか。
「てゆか、義妹探しとかってヤツはもーいいの?」
「あぁ‥」
 そっか、と告げた恒弥は空を見上げる。それにつられるように鞘継も空を見上げた。

 京へ着くまでの日々を凛と葵は澄華と友に馬の手入れをしたり、セラフと友に船仕事を手伝ったりしていた。二人は過去にあったことを話、次第に皆と打ち解けていった。京に着くというとき、透が隣に立った凛と葵に言う。
「”京都”では、”今日と”昨日では全く別物になっています‥」
 皆無事に過ごせるといいですね、と葵が告げ凛が頷いた。

●ピンナップ

天螺月 律吏(ea0085


PCツインピンナップ
Illusted by チエ