【黄泉の兵】祠に忍び寄る者達

■ショートシナリオ


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 97 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月22日〜03月25日

リプレイ公開日:2005年03月30日

●オープニング

 一つ立つ灯火の灯りだけが照らす、陰陽寮の一室。
 その薄闇の中で、奇妙な文様の描かれた占い板を前にして、静かに念じる男が一人。
 ややあってその瞳を静かに開けると、男は流れるように立ち上がって部屋の外へと歩み出る。
「どうされました?」
「ただ、よくなき卦が出ただけよ‥‥」
 男は廊下で待っていた配下のものと、陰陽寮の廊下を歩みながら、鋭く瞳を細めて答えを返した。
「よくなき卦で、ございますか?」
「昨今の妖どもの暴れよう‥‥江戸での月道探しに現を抜かしている場合ではないということかな。京都守護と検非違使に急ぎ通達せよ」
 ぱちりと扇子を閉じながら、ジャパンの精霊魔法技術を統べる陰陽寮の長、陰陽頭・安倍晴明は、矢継ぎ早に伝令に言伝を伝える。
「京都見廻組と新撰組、だけでは足りぬだろう。やはり‥‥」
 晴明は思案に暮れながらも、陰陽寮に残り資料を捜索すべく、書庫へと消えた。

「京の都の南に向かうこと」
 ‥‥それが、京都冒険者ギルドにて布告された依頼であった。
 その依頼人は陰陽寮、京都見廻組、新撰組と多岐に渡るが、全て、同じ場所に向かえとの内容は共通している。
「何でも、陰陽寮に託宣が下ったそうだ」
 そう告げるのは冒険者ギルドの係員。まだ開いても間もないギルドゆえ、一度にやってきた依頼を整理するのにてんてこ舞いという様相だった。
「陰陽寮の頭、安倍晴明様の占いによれば、南から災いと穢れがやって来るんだと。物騒な話だが、あのお方の話じゃあ、無碍に嘘とも思えねえし、京の南で怪骨やら死人憑きやら、妖怪が群れてやがったという噂も入ってきてる。
 ‥‥それに、京都見廻組や新撰組も動いてる。陰陽寮の力添えもあって出来たギルドとしちゃ、動かんわけにはいかんのよ‥‥ぜひ、力を貸してくれや?」

 そう頼まれては、京へやってきたばかりで旅の疲れの取れていない身体であっても承諾するしかない。
 それに京の南の方の村などが心配でもあった。
 妖怪が群れているという噂。一概に嘘とも言えない。火のない所に煙は立たないのだから。
 戦闘に慣れている冒険者であればなんとかなるかもしれないが、村人がその状況で無事である事の方が不思議だ。
 よし行こう、と冒険者達が立ち上がろうとした時、突然男が一人飛び込んできた。

「死人憑きが‥‥! わしの村の者達を皆喰ってしもた‥‥!」
 ほぅら来やがった、という表情をしたギルドの係員はその男に水を差しだし飲むように勧める。
 男は一気にそれを飲み干すと事の次第を話し出した。
「どなたかに知らせへんと‥‥と思って、まだ喰われてへん馬に飛び乗って此処までやってきた。夜明け前やった。突然あいつらはやってきて、村の人達を襲い始め‥‥耳を塞ぎたくなるような声が響き渡ったが為す術もなかった。わしの娘もまだ村に居る。娘を‥‥村の人達を‥‥」
「死人憑きか‥‥何体位見えた? それと助けるのも良いが、もうちょっと詳しい情報はねぇのかい?」
 皆は何処に隠れてる、とギルドの係員が尋ねると男は地面に落ちていた棒で村の図を描き始めた。
「ここが村の入り口でわしが逃げてきた場所。皆は山神さまの祠に逃げ込んで震えとるはず」
 それはここだと村の入り口から少しはずれた場所を指し示す。
「死人憑きは‥‥ぱっと見ただけやったが、六体ほど村の中を徘徊して皆を捜しとった。見つかるのも時間の問題だと‥‥多分、村の入り口から行ったら死人憑きに一発で見つかると思うて。そやけども、この祠の方へと続く山道が村の入り口よりはずれた部分にある。もし、まだ死人憑き達が皆を見つけていなければ、少しは楽に助け出せるかもしれへん。この山道を行けば祠の裏側に辿り着く‥‥あとは神さんを信じるしか‥‥」
 初めはもっと死人憑きが居たのかもしれん、何処にいってしもたのか‥‥、と男は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ俯いた。
「‥‥‥ということだ。早速で悪いが頼んだぜ」
 ギルドの係員は今までの話を聞いていた者達に声をかけた。

●今回の参加者

 ea3159 ミーア・ミィア(25歳・♀・僧侶・シフール・インドゥーラ国)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea9560 相麻 刀舟(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb1529 御厨 雪乃(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb1530 鷺宮 吹雪(44歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1565 伊庭 馨(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●出発
 安心させるような笑みを浮かべ伊庭馨(eb1565)が男に尋ねる。
「まずはあなたのお名前を聞かせて頂けますか? そして娘さんの名前と年格好を」
 祠を開ける時、名を言えば安心するでしょうから、と馨が告げると男は頷いて言った。
「わしは源三と言います。娘は幸世と言いまして、まだ5才になったばかり。肩ぐらいまでの髪を上の方で結わえとります」
 御厨雪乃(eb1529)はそんながっくりと膝をついた男に近寄ると肩に手をかけ告げる。
「信じて待ってて欲しいだよ。そうだ、何か何時も持っているものがあれば貸して欲しいだ。いきなり現れたりしたらそれこそ死人憑きだと思われるだよ」
 その言葉に男は傷薬の入った貝を取り出し、雪乃に手渡す。
「いつも娘が転んで怪我をする度に塗ってやっていました。どうぞこれを‥」
「確かに預かっただよ」
 微笑んで男からそれを預かった雪乃はしっかりとしまい込んだ。
「何かとご迷惑かけますが宜しくお願いします」
 相麻刀舟(ea9560)は明るく告げるとその場にいた面々に握手を求める。
「わたくしこそよろしゅうね。さて、久しぶりの実戦となってますが‥‥腕は何処まで鈍っとる事でしょう」
 京の不穏を感じ取った鷺宮吹雪(eb1530)は実に17年ぶりに前線に戻る事にしたのだった。二児の母となった吹雪は自分の腕が死人憑きに負けてしまう程衰えていない事を祈る。
 ふわりと頭上を舞うミーア・ミィア(ea3159)に熱い抱擁を交わそうと試みていた百目鬼女華姫(ea8616)だったが、力任せにしては潰れてしまうとミーアを捕まえるのを断念する。可愛いもの大好きで仕方ない女華姫は残念そうにしながらもミーアの動きを目で追う。
「ぼちぼち行きますか」
 刀舟の言葉に頷いた、少々‥いや、女性としてはかなり筋肉質な女華姫は気合いを入れるように皆に声をかける。
「さ〜て、張り切っていくわよ〜」
 その声で皆はいそいそと準備に取りかかった。


●村へ
 バラバラになってはまずいと、皆は固まって問題の村を目指す。
 そして途中まで乗ってきていた馬も、村の近くで先に京へと戻した。
「守る荷物増やす事もないべ。‥‥気をつけて戻るだよ」
 雪乃はぽん、と馬の背を軽く叩いて呟く。自分の愛馬、梅月を危険にさらす事もない。無事に京に辿り着く事を願いながら先を急いだ。
 やがて村の入り口が見える。
 あの中にまだ死人憑きが彷徨っているのだろうか。それとももう既に祠の方へと向かってしまっているのか。
 皆は源三に教えられた通り、脇にある祠へと続く道を進む。道といってもまるでそこは獣道だ。そこに道があると言われなければ分からない。
 一行は死人憑きが辺りに潜んでいない事を確認しつつ、山を登った。
 日は出ていないものの、ここ数日天候が崩れていなかったことも幸いし足場はしっかりとしていた。それがせめてもの救いか。
 そんなに大きな山ではなかったが急斜面になっており、もし雨などで足場が悪かったらもっと大変だったに違いない。こんなにも急な斜面だからこそ、普段は使われていなかったのだろう。

 そこを登り切った一向に、先行して死人憑きの様子を探っていたミーアが戻ってきて告げる。
「祠には辿り着いてないけどすぐそこまで来てるわ」
 ミーアの言う通り、村から続く階段の方に嫌な者が見えて。
 村の方から祠へと向かう人影があったのだ。計6体。
 源三が言っていた死人憑きの数と同じだった。
「どうやら全員で大歓迎してくれるようね」
 女華姫が告げ、皆戦闘態勢に入る。
 魔法を使う者は後ろに下がり、それを援護する形で前に出る者達。
 まだ十分に死人憑きとの距離はある。しかし死人憑きは半分に分かれ半分が祠の方へと動き出した。
 それに気付いたミーアが慌ててその祠から死人憑きの興味を削ぐべく、死人憑きの周りを飛び回る。ミーアを捕らえようと伸びる手。それを上手くかいくぐりミーアは少しずつ祠から死人憑きを遠ざける。
「ミーアさんっ」
 声を聞きミーアは素早く死人憑き達から離れる。
 馨のプラントコントロールで蔦で足を絡め取られる死人憑き達。
「我が稲妻!!漆黒の稲妻と知れ!!」
 刀舟のライトニングサンダーボルトが飛ぶ。ミーアはその間に祠の上に降り立ち既に詠唱を始めていた。
 一方、近づいてきた死人憑き達に斬りかかるのは女華姫達だ。
 流石に女華姫は戦い慣れているのか交わし方も上手い。死人憑きを翻弄し、確実に仕留める。
 死人憑きの爪が雪乃を襲うがそれを交わし上手い具合に両足を斬った。そのまま地面に落ちる死人憑きは、足を切られてもなお前へと進もうとする。
 鳴弦の弓を使った吹雪は矢を放ち死人使いと対峙する。地を這う死人憑きに的確に打ち込まれるその矢。戦いから退いていた空白の時があるとは思えない。
 馨も無事にプラントコントロールで足止め出来たのを確認し、自らも前に出て死人憑きと向かい合っていた。
「安らかなる眠りを妨げられ、生者を襲わねばならぬその身‥‥何者に操られしか推し量れませんが、今一度、土に還ってお眠り下さい」
 すっと瞳を閉じたのも一瞬。馨は死人憑きに一太刀を浴びせた。
 ミーアもホーリーを放ち、次々と死人憑きを地へと還す。
 刀舟は足をとられている死人憑きへ駆け寄り、そのままざっくりと切り伏せた。


●祠の中
 死人憑きを全員地へと還した皆は、祠へと向かう。
 雪乃が声を上げた。
「源三さんの依頼で助けに来ただ。皆ぶじけー?」
「幸世さんは居ますか?」
 馨も声をかける。
 すると内側から恐る恐る扉がほんの少しだけ開かれる。そして外を窺う瞳。
「幸世さんだべか? これ預かってきただよ」
 そう言って雪乃は頷いた幸世へ源三から借りてきた傷薬を手渡した。
「これ‥‥」
 それを見た幸世は目の前にいる人物達が死人憑きではないと確信したようだ。
 扉を開いて皆に告げる。
「助かったよ!」
 そしてよほど怖かったのか大声で泣き始める。
「皆さん、もう大丈夫ですよ」
 刀舟も声をかけると村人達はその祠から不安そうな表情を浮かべながらも出てきた。
「こちらで全員ですか?」
 へぇ、と頷く最年長と思われる男。
「必ずお助けしますから、もう少し頑張って下さいね」
 励ますように笑った馨の笑顔を見て、村人達もほんの少しだけほっとした表情を浮かべる。
「さぁ、とっととここから立ち去るわよ。まだあいつらが居なくなったわけじゃないんだから」
 女華姫が告げると、皆大きく頷く。
 泣いていた幸世を抱きしめてやりながら安心させるように背を叩いていた吹雪は幸世に尋ねる。
「大丈夫? さぁ、お父はんの元へ向かいましょう」
 頷く幸世の手を取って吹雪も歩き出した。


●帰り道
 歩きながら何度も振り返る幸世。
「もう‥‥村には戻れないのかな」
「そんな事無いわよ」
 ぱちり、と片目を瞑って見せた女華姫が幸世に言う。
「必ず村に戻ってこれる日が来ると思うわ。あたしも京都がどうにかなってしまわないように頑張るしね」
 だからあなたも強く心を持ちなさい、と女華姫は笑った。
 その笑顔がとても心強く思え、幸世は頷く。
「また戻ってこれるだろうか‥‥そう思っていれば‥‥」
「そうですよ。大丈夫進み続ける限り、道は開いていくもの」
 馨は小さい子を抱きかかえて笑う。辛い時こそ笑って、そして前へと進む力を得る。
「どうせなら金目のものでも貰ってくれば良かったです」
 冗談めかしてそんなことを刀舟が告げると、村人は死人憑きのものでも拾ってくれば良かったんでねぇか、と笑う。
「‥‥怖い事言わないでください」
 苦笑気味に刀舟が手をヒラヒラと振る。

 周りを警戒して進むが、どうやら追ってくるものは居ないようだった。
 しかし安全な場所に来たといえども、魑魅魍魎のはびこるこの場所で本当に安全な場所など見つかりはしない。
「もうここら辺まで来れば大丈夫だべ」
 雪乃が皆を見渡して告げる。
 全員いるのを確認して一行は、とりあえず、ほっと溜息を吐いた。
 空を見上げ吹雪は思う。
 これから勘と腕を取り戻さないといけませんね、それも早く‥‥と。
 馨が死者へ向けて花を風に飛ばし黙祷を捧げる。
「野の花が天の道行く灯りとなりますように」
 空高く舞い上がっていく花びら。それをミーアも見上げ一緒に黙祷を捧げる。
 しかし、未だ京都の空は灰色に曇り不安げな色を湛えていた。