小さな笑顔
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■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月18日〜04月22日
リプレイ公開日:2005年04月26日
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●オープニング
南から押し寄せた亡者達に襲われた村に戻った春斗は、がらんと誰も居なくなったその荒れ果てた様子に立ち尽くす。
春になり、緑に溢れ花が咲き乱れるはずの村に色はない。
一緒に戻ってきた静矢とその妹の早智も辺りを見渡したまま立ち尽くした。
ぎゅっ、と静矢の腰の辺りの着物を掴んだ早智は呟く。
「ねぇ、もうここには住めないの?」
「いや‥‥住めるさ」
「本当?」
そう言いながら早智は静矢を見上げる。
静矢も小さく頷いて早智を安心させるように微笑んだ。
「大丈夫。今は避難してる村の人たちも戻ってくる。そうしたら前みたいに楽しく暮らせるよ、きっと」
うん、と頷いた早智は村の中へと足を踏み出す。
それを追って、静矢も春斗も村へと入った。
村の内部は予想以上に荒れ果てていた。
畑を眺めてみれば、育ち始めていた作物は根こそぎ消えてしまっていた。
きっと村人の居ない間に、動物たちが食べてしまったのだろう。
もう一度種を蒔き、全て一から始めなければならない。
その苦労を考え、春斗は小さな溜息を吐いた。
その時、早智が道ばたに生えた花を見つけ駆け寄る。
「見てみて! お花咲いてたよっ!」
綺麗、と早智が微笑んだ時、静矢は物陰から早智に飛びかかろうとする影を発見し駆けた。
「早智っ!」
ガリガリにやせ細った小柄な人間の姿をしたもの。
餓鬼だった。
早智を守って、静矢は餓鬼に噛みつかれる。
春斗に目で訴え、静矢は早智を突き飛ばした。
「静矢っ! こんのっ!」
「‥‥っ! 俺はいいから、早く! 早智を連れて逃げてくれ」
「そんな事言ったって‥‥」
「お兄ちゃんっ!」
「二人とも逃げろっ! このままじゃ全員やられるから」
「やだっ! だって‥‥」
ぐっ、と唇を噛みしめた春斗は早智を抱えて村から逃げ出した。
後ろは振り返らない。
静矢が命をかけて助けようとした早智を危険な目に合わす訳にはいかない。
ここで春斗が手を離したら、早智は間違いなく静矢の元へ向かうだろう。
「お兄ちゃんが、お兄ちゃんが‥‥!」
泣きじゃくる早智を抱えて、春斗は冒険者ギルドへと駆け込んだ。
●リプレイ本文
「餓鬼、か。やれやれ。京都は魑魅魍魎の巣なのか?」
ふぅ、と溜息混じりのセルジュ・リアンクール(ea9328)の声が響く。
「餓鬼‥かぁ‥」
気持ちの良くなさそうな状況かも‥、と神楽出流(eb1780)も、ちらり、と泣きじゃくっている早智と春斗を眺め溜息を吐いた。
御厨雪乃(eb1529)も子供達を連れて行くのには精神衛生上よろしくないと反対する。餓鬼は常時飢えに駆られて草の根まで食べると雪乃は認識している。残された静矢がどうなったかを想像すると、子供達を連れて行きたくないと思う雪乃の思いに皆賛同した。
しかしそれを嫌がるように春斗と早智は首を振る。一緒に行くと言うのだ。
「ああ〜もう、子供はピーピーうっせーなー」
がりがり、と頭を掻きながら拍手阿邪流(eb1798)が足下で泣きじゃくる二人を見下ろす。それをたしなめるように拍手阿義流(eb1795)の袖を引っ張った。
天道狛(ea6877)が落ち着かせるように早智の頭を撫でてやる。暫くすると漸く早智と春斗の涙が止まった。
「お、泣くだけ泣いたら少しはすっきりしただろ? 春斗っつったっけ? いい顔になったじゃねーか」
阿邪流がニッと笑みを浮かべ春斗の髪をくしゃくしゃと撫でながら、早智を眺め言う。
「早智だっけ?もうちょっとしたらいい女になるんじゃねーの?」
そんな言葉に早智は首を傾げてみせる。どうやら何を言われているかよく分かっていないらしい。
「あの‥足手まといになるかもしれないけど‥でも‥一緒に行きたい。アイツ置いて来ちゃったから‥迎えに行かないと」
春斗は目に涙を滲ませる。
分かっているのだ、静矢が助からない事を。それでも行かずにはいられないのだろう。
「それじゃ、僕がこの子達と一緒に行動するよ」
僕から離れちゃ駄目だよ?、と出流は屈み込んで早智と春斗と目線をあわせる。どうしても行きたいというその気持ちを汲み取って、出流は二人を守る事を告げた。
出流の言葉に、こくん、と素直に二人は頷く。
それを見て皆、仕方ない、という表情を浮かべる。駄目だ、と言って置いていってもきっと追いかけてくるに違いない。
それならば一緒に連れて行き目の届く範囲に置いておいた方が安全だろう、と黒畑緑太郎(eb1822)は告げた。
皆それに同意し、橘蒼司(ea8526)に、各自出立の用意を、と言われ各が村へと向かう用意をし始めた。
子供達を連れ、一行は村へと向かった。
先行して白鷹に化けた狛が村の偵察へと向かう。
出流は自分よりも年下という存在が嬉しいというのもあるのだろう。早智と春斗に声をかけながら進む。
辛い事を極力思い出させないよう楽しい事を話ながら。
村へ辿り着いた一行は中へと足を踏み入れる。
「鬼‥て、言うからには丑寅かなぁ〜?」
うーん、と出流が首を傾げながら告げる。そうかもしれませんね、と相槌をうつのは阿義流だ。
そんな村へと向かう皆に春斗は声をかける。
「あのっ‥! よろしくお願いします」
ぺこり、と春斗が頭を下げると早智も頭を下げる。その肩が小さく震えているのは早智にも分かっているのだろう。自分の兄が戻らない事が。
「わしたちがしっかり退治してきてやるべ」
雪乃が早智の頭を撫でてやる。
小さく頷いた早智を見て、雪乃は小さく微笑んだ。
その時、突然光が走った。
緑太郎が放ったムーンアローだ。
村に入った瞬間、いそいそと魔法が使えると餓鬼の場所を探すべく放ったのだった。
飛んだ光が向かったのはもちろん餓鬼の元で。
皆はその光を目で追う。
鋭い悲鳴が上がった。
そちらに向かう面々。狛も合流した。
足音が聞こえたからか、餓鬼の方から飛びかかってくる。
「私は黒の僧兵化けの狛!汝の魂冥府へ送ってあげましょう」
狛は皆の援護に回る。
出流はしっかりと背に春斗達を庇い、詠唱に入る。春斗と早智は以前の恐怖もあるのか怖さに目を瞑っていた。
「フッフッフッ‥‥攻撃魔法が使える‥」
怪しい言葉を呟きながら緑太郎も詠唱を始める。
その間にセルジュと雪乃と蒼司は前に出た。
「無益な殺生は好まぬが‥‥今回は致し方なし、か」
蒼司は霞刀で鮮やかに餓鬼に一太刀浴びせる。
セルジュは先ほどオーラパワーを付与した刀で体勢を崩した餓鬼に追撃をしかけた。
逃げるように詠唱をしている人物達に向かう餓鬼に気付いた狛は、させない!白虎変化!、と声を上げ白虎へと姿を変える。
そして餓鬼に向かって体当たりを喰らわした。
そのまま弾き飛ばされた餓鬼は雪乃と阿邪流に斬り付けられる。
そして止めとばかりに出流と緑太郎のムーンアローが炸裂した。
崩れ落ちた餓鬼の姿に、皆ほっと溜息を吐いた。
村のあちこちに無惨なまま放置されている遺体。
それらを蒼司たちは穴を掘り埋葬してやる。もちろん、餓鬼の遺体も含めてだ。
亡者に襲われた者も餓鬼に襲われた者もいるだろう。
村には遺体があちこちに散乱していた。
どの遺体が静矢のものか分からない。
しかし早智と春斗の話を合わせ、花の咲いていた場所へ雪乃達は静矢の残したものを探しに行く。
そこに遺体はなかった。
無惨なままに放置されていなくてほっとした反面、何も残っていない事に悲しみを覚える。
その時、雪乃は一つの櫛を発見した。
それを拾い上げ春斗へと見せる。すると春斗は声を上げた。
「これ、静矢が早智にやるって言ってた櫛だ」
静矢が残した一つのもの。
妹へと渡す予定だった櫛一つ。
「形見の品だな」
セルジュの言葉に雪乃は頷き、それを二人にしゃがみ込んで視線を合わせながら渡す。
「静矢のあんちゃんが死んだのはお前さん達のせいじゃねぇべ。誰かが犠牲になるちゅう必然で、偶然あんちゃんだったんだべな‥。あんちゃんは二人が無事で嬉しいはずだべ。だから、自分を責めたりしちゃなんね。此処へ来るまでに悔やんだろ? それで十分だべさ。それに二人して塞ぎ込んでたら安心して浄土に行けねぇだよ」
泣き出した春斗と早智の頭を撫でてやる。
「哀しい時ゃとことん泣くがええだよ。だども、そん後は誇ってやんだよ。強くて優しいあんちゃんが居たんだってさぁ。そんで、あんちゃんの分も生きて幸せになるだよ。‥えぇな?」
哀しそうな微笑を浮かべる雪乃の手は温かく二人の心に触れる。
阿義流はそんな二人を見つめながら、側に生えていた花を持ってきていた鉢に移し替えていた。
「まったく兄貴もお人好しだな」
呆れたように呟きながらも阿邪流は阿義流を手伝い、一緒にその花を植え替えるのを手伝う。
ぽんぽん、と土を叩き移し替えると阿義流が早智に鉢を渡す。
「村に戻れたときに株分けできたらいいですね」
柔らかな笑顔を添えて。
阿邪流も笑みを浮かべながら、鉢を落としたりするんじゃねーぞ、と声をかけた。
早智は泣き笑いの笑顔でそれを受け取ると頷く。
「いつか、たくさんの花が咲く村にしましょう」
「このお花好きなの。だから‥たくさん咲くように私頑張る」
えぇ、と阿義流は早智に笑いかけた。
セルジュはまだ涙を見せている春斗に告げる。
「友を見捨てた、とは思うな。早智を連れて逃げたお前の判断は正しかった。お前たちを行かせた静矢の判断もな。亡き人の代わりに、お前が早智を守れ。春斗。そして、いずれ、お前たちの力で失った村を復興させればいい。それが、一番の弔いになるはずだ」
その言葉に大きく春斗は涙を、ぐっ、と拭い頷く。そしてしっかりとセルジュを見上げた。
それを嬉しそうにセルジュは見つめる。
そこへ狛がやってきて二人に自分と一緒に来ないかと誘いをかけた。
これからの二人の事を考え、もしよければ、と。
しかし二人は首を左右に振る。
村の皆と共にまたこの村を復興させる為に、他の者達と一緒にいるのだと。
「そう。でも何か困ったことがあったら京の八幡町14番を尋ねてきなさい。私が力に成ってあげるから」
優しくそう告げると報酬として渡された金を春斗の手に握らせる。
驚く春斗はそれを返そうとするが、狛は首を振る。
「受け取れないわこのお金は早智ちゃんのために大事に使いなさい」
「春斗殿と早智殿に静矢殿の分まで一生懸命生きて欲しい。これは二人で使ってもらいたい」
そこへ遺体を埋葬し黙祷し終えた蒼司がやってきて、狛と同じように二人に報奨金を手渡した。
「でも‥こんなに‥受け取れない」
「それならば、こう考えればよいだろう。私から二人への依頼だ。困難に立ち向かい、これからも一生懸命に生きて欲しい」
そしてこれがその報奨金だ、と蒼司は告げた。
暫く考え込んでいた、春斗だったがそれを受け取る。
「ありがとう。大切に使うから。そして一生懸命生きるから」
ふっ、と相好を崩す蒼司。
「何か困った事があれば尋ねてきてくれれば、少しは力になれるだろう」
「うんっ!」
力強く応える春斗に満足そうに狛と蒼司は頷いた。
村人達が避難している場所へ春斗と早智を送り届ける一行。
少しは心が晴れたからだろうか。
出流に懐いた春斗と早智は楽しそうに声をあげて笑っている。
雪乃は楽しそうに笑う早智を見て小さく呟く。
早智さにゃ、も一人頼れるあんちゃんが居るし、きっと大丈夫だべ 、と。
そうですね、と狛も力強くこれからも生きて行くであろう二人を見つめた。
緑太郎は村人達に会うと、亡者は倒しました。村はもう安全です、と早速先ほど見てきた村の風水について語り出す。
「立て直すなら、社はこちらに、蔵はあちらにした方がいいでしょう。水難の卦が出ているので、洪水対策はしっかりした方が良さそうです」
それを村人達は真剣に聞いていた。これから村を立て直すのに、こういった助言は有り難いことだった。
そんな村人達の様子を眺め、不穏な世情であろうと幸せになって欲しい、と蒼司は願う。
村にほんの少し遅い春がやってきたようだった。