洞窟からの生還
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■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月20日〜04月24日
リプレイ公開日:2005年04月29日
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●オープニング
一人の少年が冒険者ギルドの前に立っていた。
少年は裸足で、あちこちから血が出ている。
擦り剥けた膝や肘。煤けた頬。
そんな出で立ちの少年は、ごくり、と唾を飲み込むとギルドの中へと足を踏み入れた。
混み合うギルドの中をもみくちゃにされながら、それでも少年は進んでいく。
そして一人のあちこちに声をかけ仕切っているギルドの係員の服を掴みながら言った。
「助けて欲しいんだ」
「ん? どうした? なんだ、怪我してるじゃねぇか」
少年の怪我に気付いた係員が、おーい、と手を挙げ手当をしてやるように告げる。
「違うんだ。僕じゃなくて、村の皆を助けて欲しくて。ここに来たら助けてくれる人が居るってさっき聞いたから‥‥」
「なんだ、お前じゃないのか。でもその傷は放って置いたら不味いだろ。手当もしないとな」
係員は安心させるように言いながら、少年と視線を合わせる為にしゃがみ込む。
「‥‥で、村の皆を助けて欲しいって?」
「うん。あの骸骨みたいなお化けから逃げて僕達は洞窟に逃げ込んだんだけど、何日かそこに隠れてて‥‥でももうそろそろ大丈夫かと思って、その洞窟を出ようと言っていた直後に、土砂が崩れてきて洞窟の入り口が塞がれちゃって」
「お前も一緒にいたんだろ。なんで此処にいる?」
それは、と瞳に涙を一杯溜めた少年は続ける。
「ちょうど僕が通れそうな穴が開いてて、そこから僕だけ逃げろって言われて。子供は僕しか居なくて‥‥でも一人逃げるのが嫌で駄々をこねてたら無理矢理そこから押し出されて。皆、食料も尽きてきたって言ってたからあのまま死んじゃうつもりなんだ。せっかくあのお化けから助かったのに‥‥」
そこまで話して、少年は堪えきれなくなった涙をポロポロと零した。
「北に行けってお父ちゃんが言ったからここまで来たんだけど、僕知らなかった。こんな強そうな人が沢山居るところのこと。誰かに皆の事助けて貰いたいけどどうしよう、と思って助けて欲しい人が居るってこの町の人に聞いたら、ここの事を教えて貰って‥‥」
「そうかそうか。こんなボロボロになって此処まで来たか。よく此処まで来たな」
ぽんぽん、と係員は少年の頭を撫でてやりながら周りを見渡し、冒険者達に声をかけた。
●リプレイ本文
怪我の手当を終えた少年は集まった冒険者に囲まれ、戸惑うように顔を見上げた。
微笑みながら鷹神紫由莉(eb0524)が安心させるように告げる。
「まだ生きている方々がいるのなら救う為に全力を尽くしましょう」
「皆を救うのも、私達がこうして動く事も、全ては貴方の呼びかけと努力があったからこそ。よく、頑張りましたね。今度は私達が力を尽くす番です」
緋神一閥(ea9850)も微笑を浮かべながら少年の頭を撫でてやる。
「あ、ありがとうございます。僕、智といいます。皆さん、どうか村の人達を助けてください」
ぺこり、と頭を下げる智。
そんな智に桂照院花笛(ea7049)は尋ねた。
「洞窟の中には何人閉じこめられているのですか?」
「えっと、全部で‥9人です」
「ケガをした人やお年寄りは何人位いますか?」
紫由莉が更に詳しく尋ねる。救出する際にやはりこういった情報は不可欠だ。
「爺ちゃんと婆ちゃんは全部で3人。怪我はどこかしら皆してるけど、酷い怪我をしてるのは3人位だったと思います」
「そんじゃ、助けに行くか」
竜造寺大樹(ea9659)がポキポキと骨を鳴らしながら声をかける。
「そうだねぃ」
哉生孤丈(eb1067)が頷き、久駕狂征(eb1891)とキク・アイレポーク(eb1537)も同意した。
「出発するだよ」
イワーノ・ホルメル(ea8903)の言葉で動き出す。
各が準備を済ませ、少年の案内に従って洞窟へと向かう。
途中、狂征と一閥が少年を交代で馬に乗せてやっていた。
馬に荷台を引かせる一閥と孤丈。途中の村で材木を入手する大樹。
村の周りを紫由莉は探索してみるが、特に亡者達の気配は無いようだった。
食料もギルドから多めに貰い、村人達に振る舞う余裕もある。準備は万端だった。
洞窟の前に辿り着いた面々は、すぐさま相談していた通りの配置につく。
亡者の攻撃に備える為見張りをする者、洞窟内へ入る準備をする者、土砂を掻き出す為に穴掘りの準備をする者。
まずは中に入る者が動いた。
イワーノは智にスコップをひとつと明かりをつけた提灯を持たせ、先に中の人々に知らせに行くよう告げる。
智は頷いて自分が出てきた穴から中へと入っていった。
それを確認し、イワーノと狂征がウォールホールで土砂に穴を開ける。縦に長めの穴が開いたのを見て、イワーノと狂征と花笛が中へと入った。狂征は孤丈から手当用にと受け取ったリカバーポーションを手にしていた。
中へ入ると奥の方から智が駆けてくる。
智の案内で村人の待つ場所へと向かった。
少年から聞いていた通り、洞窟内はかなりの広さがあり、奥の方に皆固まっていた。
「皆様、ご無事で‥仏のご加護の賜物ですわ」
花笛がぐったりとしている人に駆け寄り声をかけると、力なく青年は笑った。あぁ、助けに来てくれるとは、と呟いて。
リカバーをその青年にかけてやり、花笛は呼吸が穏やかになったのを確認し、しっかりと襷をかけ、他の者の元へと向かう。
花笛はその後もかいがいしく村人の看病を続けた。
狂征もリカバーポーションを使い、寝たきりの人物に声をかける。
「さ、これを飲んで」
促されるままに口を付ける女性はそれを飲み、ほっとした溜息を漏らした。
体中にあった傷が癒えていく。
同じように狂征はもう一人の青年にもリカバーポーションを与えてやった。
イワーノは、担いできた食料を広げ皆に分け与える。
「少しずつな。ちっとしかねぇけんど、よく噛んで食ってくんろ」
ありがとうございます、と何度も頭を下げて村人達はその食料と水を手に取る。
何日かぶりに見た食料と水だった。
もうこのまま死ぬばかりだと覚悟していた村人達は、それらを見て涙する者もいる。そんな人々に狂征は声をかけた。
「皆さん、今から入り口を塞いでいる土砂を取り除く作業を開始します。危険ですので、作業が終わるまでこちらで皆さん待機してください。ここならば、土砂が崩れても平気でしょうから」
村人達はその言葉に大きく頷く。
人々に生きる希望が再び芽生えたようだった。
その頃、外ではウォールホールが消えたのを確認し、土砂を取り除く作業が開始されていた。
大樹は村から持ってきた材木を使い、少年が出てきた穴に記の棒を束にして置き、穴が塞がらないように確保しておく。
後はもう掘るのみだ。
「オラオラオラッ」
声を上げて、大樹は穴を掘り始める。
掻き出した土砂を一閥は荷台に積み、邪魔にならない場所に退ける。
その横で孤丈が鼻歌交じりに穴を掘る。鼻歌交じりなのにもかかわらず、随分と力の入った取り除きっぷりだ。
「お父ちゃんの為なら、エ〜ンヤコ〜リャ♪っと‥だねぃ」
崩れる危険はなさそうだったが、土砂の壁は厚い。穴を掘っては補強して、落盤の危険に備えながら大樹と孤丈は穴を掘る。
なかなか根気のいる作業だった。
大樹の気合いの入った声が響き渡る中、もくもくと一閥は土砂運び、孤丈は相変わらず鼻歌交じりに穴を掘り続けていた。
少し離れて見張りに立っていた紫由莉は、辺りをぐるりと見渡す。
今のところは何も寄ってくる気配はない。
このまま何事もなく救出作業が終わればよいと紫由莉は思う。
目に見えるのは亡者によって荒らされた土地。
しかしこの傷もすぐに癒え、新たな緑を作り出すだろうとそれをぼんやりと眺めた。
そこへイワーノから紫由莉に声がかけられる。脳裏に直接響く声。
「えぇ、今のところは変わりありませんわ。そちらはどうですか?」
『こっちは重傷者もいねぇから大丈夫だ。皆、腹に納めるもんも納めたら安心したんだべ』
「おやすみ‥ですか?」
『もうちょっとしたら起こすけどもな』
苦笑しながら紫由莉は告げる。
「休息は必要ですわ。それでは引き続き見張っておりますから」
『あぁ、よろしくなぁー』
そこでイワーノとの会話は途切れた。
キクは一人作業が長引いた時の為に、対骸骨戦士対策に周囲の木々の間にロープを張っていた。
何事もやってみなければ分からない。単純な仕掛けでも引っかかったら少しの足止めは出来る。
周りに注意を払いつつ作業を進めたが、今のところ変わった所はない。
順調に救出作業が進めばよいが、とキクは小さな溜息を吐いた。
未だに聞こえる大樹の気合いの入った声。
それが一瞬止む。
「お、穴が開いたか?」
「もうちょっとだねぃ」
孤丈もそこを覗き込み、穴を広げるべくその箇所を掘り始めた。
反対側からもイワーノ達が掘り進めており、ちらりと中を窺う事が出来る。
「もうちょっとで開通ですね」
狂征が内側から声をかけると穴を掘る作業を手伝う一閥が、そうですね、と告げる。
「仕事だから仕方ないんだけど‥花笛殿にはスコップよりも綺麗な花の方が似合っているんだねぃ」
「まぁ。褒めても何も出ませんわよ」
花笛がくすくすと笑いながら、よいしょ、と土砂を削る。
人が一人位は通れる位の大きさの穴が開いた時だった。
耳に呼子笛の音が響いたのは。
途中で作業を中断し、花笛はたった今開いたばかりの穴を通って外へと飛び出してくる。
バーニングソードを孤丈の武器に付与し、一閥は洞窟を背に刀を構える。
イワーノと智は村人達の元へと向かい、すぐさま逃げれるように支度をするよう告げた。慌てて村人達は荷物を抱え、イワーノの後に続く。
狂征も外へと出て一閥と大樹と共に洞窟の入り口を守る。
すでに花笛と孤丈は紫由莉の元へと向かっていた。
村人達は一人ずつ穴を通り、久しぶりに太陽の光を浴び目を細める。しかしそこで止まる訳にはいかない。
大樹達に守られながら、村人達は安全な場所へと移動する。
遠くで戦う音が聞こえ、ちっ、と舌打ちをする大樹。
「チッ‥‥お荷物がなけれりゃ、喜んでドンパチに加わったものをっ!」
悔しそうに呟くが、大樹はしっかりと村人達を誘導し、来る途中に調べておいた場所へと向かった。
途中、死人付きが一体現れるが一閥によって葬られる。
「我が焔は、汝らが弔いの炎。その虚ろな魂魄を、清め祓え 葬送の炎舞!」
そうして村人達は洞窟から逃げ切ったのだった。
紫由莉が見つけたのは歩いてくる死人憑き5体だった。
駆けつけたキクがディストロイを放ち、死人憑きの足を止めた。しっかりと小面は付けている。
「黄泉比良坂を戻らんとする者達の試練を邪魔立てするなっ」
その間に紫由莉が間合いを詰め、刀を振るった。
手に重い感触がかかるがそのまま薙ぎ払う。
そこへ到着した花笛と孤丈が参戦する。
「敵さん来ちゃったんだねぃ‥‥やれやれ、野暮だねぃ」
一瞬面倒くさそうな表情を浮かべた孤丈だったが、すぐに大斧を振るい死人憑きに向かう。
「野暮言う奴は、逝っちまいな!」
死人憑きには勿体ない位の一撃を与える孤丈。そこへ花笛のピュアリファイが飛ぶ。
「‥‥‥散!」
凛とした花笛の声が響き、死人憑きは跡形もなく消えさる。
うまく連携を取りながら四人は死人憑きを粉砕した。
村はもう安全だと、村人達を送り届けた面々は、笑みを漏らす人々を見て頬を緩める。
「お父ちゃん‥‥」
「よぉ、助けてくれたな。本当に‥強い子だ」
泣き笑いで智は父親にしっかりと抱きつく。一人きりで京の都まで助けを求めに行った少年の思いが通じたのか、洞窟内に残された人々は皆無事だった。
「よかったねぃ」
そんな少年の様子に笑みを浮かべて孤丈は呟いたが、その顔がほんの少し曇る。
「何か最近物騒な事が多いねぃ‥何かの前触れなのかねぃ」
「どうでしょう‥‥確かに不穏な空気は漂ってますね」
丁度隣にいた一閥もそう告げ、村人達を眺めた。
しかし再会を素直に喜び幸せそうな表情を浮かべた村人達の姿は、そんな空気も消し去ってしまうようだった。
それをまだ眺めていても良いかもしれない、と皆その光景に目を細めた。