豊作を願って

■ショートシナリオ


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月15日〜06月18日

リプレイ公開日:2005年06月23日

●オープニング

「あの、すみません‥‥」
「って、何やってんだよ、葵ってば」
 後ろから思い切り小突かれて、一人の少女と見まごうような少年がギルド員の目の前に飛び出した。その後ろから、快活そうな少年が現れる。
 ニッ、と笑った少年は、なんだろう、と首を傾げるギルド員に話しかけた。
「とびきり楽しくて華やかな人達探してるんだけど居る?」
「楽しい人? 大道芸かなんかか?」
「稟、そんないきなり聞いても‥‥あの、僕達ある村にお世話になってるんですけど、亡者に襲われて若い人達怪我をしたりしていて思うように動けないんです。でも豊作を願ってのお祭りをしたいって言ってて‥‥僕達だけでも手伝おうと思ったけど限りがあるし‥‥それでこちらにお祭りを盛り上げてくれる方を探しに来たんです」
 葵、と呼ばれた美少年がギルド員に事の詳細を話す。稟、と呼ばれた少年はほんの少し頬を膨らませて、そういう事、と告げた。
「あぁ、もう田植えも始まってるか。それの祭りだな?」
「はい。巫女さんはいるので踊りは奉納出来るんですけど。結構他の村からも人が来るみたいなんです。だからその奉納が終わってから、力仕事というかやはりものを売ったり、食べ物を売ったり、音楽や何やらで盛り上げてくれる方も必要だと思って」
 それは僕達には無理だから、と葵は寂しそうに笑う。
「だからお願い出来ないかなって。あ、村長からお金は預かってきたんだ」
 ほいっ、と稟がギルド員に手渡す。
「別に何をして欲しいって村長は言ってなくて。ただ、祭りを盛り上げて欲しいって事だったから、何をしてもらっても良いと思うんだ。ほら、こんな時だからこそやっぱ笑顔って必要だと思うし。村長も訪れる人にも楽しんで貰いたいって言ってたから‥‥」
「お願い出来ませんか? 村の人達は余所者の僕たちにもとても優しくしてくれたんです」
 だからあの人達には笑ってて貰いたくて、と二人の少年は微笑んだ。

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea6435 白瀬 由樹(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6963 逢須 瑠璃(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7116 火澄 八尋(39歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1559 琴宮 葉月(41歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

天城 烈閃(ea0629

●リプレイ本文

 豪華絢爛な反物を抱えた八幡伊佐治(ea2614)を筆頭に、村の祭りを手伝う為にやってきた面々は村長に出迎えられた。
「世情は深刻だが、こういう時には皆で盛り上がるのが一番」
 天螺月律吏(ea0085)が告げると白河千里(ea0012)がそれに相槌を打つ。盛り上がるといいね、との楠木麻(ea8087)の言葉に村長は頷いた。
 必要であれば笛を奏でようという火澄八尋(ea7116)の言葉に続けて、逢須瑠璃(ea6963)も、奉納舞を巫女さんと一緒に、と告げる。
「皆さんに祝って貰ったら村も今年は豊作間違いないでしょうな」
 では準備を、と白瀬由樹(ea6435)が声をかける。琴宮葉月(eb1559)も頷き皆は明日の準備を開始した。

 麻は櫓を建てるべく土に穴を掘りそこに由樹と八尋が柱を建てていく。村長は櫓を建てれた事をたいそう喜んだ。瑠璃は巫女達と振りの合わせを行い、千里は『第一回!豊作祈願!繋ぎ草鞋競争』とでかでかと書かれた看板を制作中だ。律吏は明日の繋ぎ草鞋競争の宣伝をしてまわる。
 準備は進み、祭りへの期待が高まった。
 夜は村長宅でささやかながら酒が振る舞われる。その席で千里は気合いを入れていくぞ、と宣言し律吏に酒を勧めまくった。空にすると直ぐに注がれ、流石の律吏も千里を胡散臭そうに眺める。律吏が何か言おうとする所へ千里は口移しで酒を飲ませ、律吏に怒りの鉄拳を振るわれ撃沈した。皆は見て見ぬふりをし、伊佐治だけは楽しそうに千里の頬をつんつんと突いていた。


 当日、神社の境内にある神楽殿で奉納舞は行われた。
 巫女達と共に瑠璃が舞を披露し奉納する。八尋が笛を奏でそこへ音が次々と重なっていく。緩やかに扇の流れる様や視線、ぴんと伸びた指先が見る者に感嘆の溜息を吐かせる。祭りを楽しもうと集まってきた人々は舞台に釘付けになっていた。
 舞が奉納されると、やってきた人々を逃さない内に千里と律吏と伊佐治の三人は仲間集めを開始した。他の人々はそれぞれ祭りが円滑に運ぶようにと、人々の誘導などに回る。由樹は既に酔っぱらった人物を上手く宥めながら人々に害を及ばさないようにと動き回った。

「出たい者は居ないか?」
 律吏の声に反応する者は多数居たがなかなか手を挙げるまでは至らない。出たいけれど、と語尾を濁す女の手には子供が抱かれていた。丁度そこを通りがかった麻が笑顔でその女に告げる。
「子供は私が預かるよ」
 任せて、と麻が言うと女は暫く躊躇した後、お願いします、と子供を麻に手渡した。そうして律吏は女性ばかりの組を作った。
 千里は足の速い者と村一番の美人を仲間へ引き入れる。勝ちに行くと決めている千里は裏工作に余念がない。村一番の美人は対伊佐治用。これはいける、と千里は笑みを隠せない。しかも自分の手元には律吏から貰った韋駄天の草履があるのだ。悪く思うなよ、とこっそりと自分のものだけそれに変えておく事を忘れない。
 伊佐治は村の若くて可愛い女の子に声をかけ、体力持久力に優れていそうな者に声をかけて貰い仲間にしていた。自分の仲間になれば可愛い子の声援付きという餌で釣る。勝てば村での知名度は上がり、女からももてるだろうと踏んだ筋肉達磨な兄貴達が伊佐治の組に入る。
 人数の揃ったそれぞれの組。
 繋ぎ草鞋競争出発地、と書かれた場所へと向かう。その横には櫓があり、その上には村長と八尋が座っており双子も一緒だった。八尋が実況中継を行い村長と双子が解説を行うというのだ。なかなか面白い趣向といえよう。
 伊佐治から千里は面を受け取り、律吏はこれが似合う、どれつけてやろう♪、と付けてやる。般若の面だった。ごごごっ、と律吏の怒りのオーラが見えるようだ。追い打ちをかけるように、普段と余り変わらんぞ、と言ったもんだから、千里は律吏に殴られ競争の始まる前から体力を失った。
 伊佐治はひょっとこの面を、律吏は般若の面を、千里はおかめの面を後ろ頭に被ると所定の位置に着いた。周りから黄色い声援と野太い声援が飛ぶ。伊佐治は仲間にグットラックをかけてから位置についた。
「ではこれより、第一回繋ぎ草鞋競争を開始する。位置について‥はじめっ!」
 その声で三組は走り出した。
「開始早々、おかめ組が可笑しいようだ。随分ともたついているな」
「本当じゃな。団体行動がなっていない」
 千里だけが先走り後ろから付いてくる者達がその足に追いつかないのだ。その時漸く気付く千里。自分だけ早くても先になど進めぬ事に。しかしそのまま行くしかない。戦略が仇と出た千里は追い上げてきた伊佐治に軽く抜かれてしまう。苦労して千里は先へと進んだ。
 軽快に先を行くは律吏達だった。女だけの般若組はさっさと次の地点へと到達する。しかしそこが律吏にとっての難問だった。出された問題を前に考え込んでしまう。
 知力問題と称した村長によるとんち問題だった。考え込んでしまった律吏の横でやっと追いついてきた伊佐治と千里が箱の中に手を突っ込み問題を掴み取る。ぱっと眺めた伊佐治はその答えが分かったのか、近くで答えを手に待機していた葵へ答えを告げ、当たり、との返答と共に耳元で、虎の真似をして皆が分かったら先へ進めます、と告げられる。がぉー、と虎の真似をし観衆からその答えが返ってくると伊佐治はその場を後にした。その後ぴょんぴょこ兎の真似をした千里も先に行く。
 残された律吏は必死だ。たくさん問題を作りすぎてしまった村長の意向で一度引いて答えを告げ間違ったら新たに問題を引かなくてはならないという規制を付けられた為、律吏は何度も引いていた。このままでは負けてしまうと、簡単なのが当たるようにと願いを込め律吏は問題を引く。
 そして律吏が答えを告げると葵が頷いた。当たり、と。
 律吏が最後に引いたのは本当に簡単な『鴉が十羽とまっていた。猟師が矢で一羽を打ち落としたがそこに残っている鴉は一体何羽?』というものだった。答えは『とまっていない』だ。
 律吏はその後、気合いで狼の真似をし一発で答えを観衆に当てさせ二人の後を追う。大分時間を取られてしまったが次は体力勝負だ。それには自信があった。
「現在ひょっとこ組が首位に立っているようだ。次は仏像運びか。今更ながら社に仏像‥まあ神仏混合も有り難みがあって良かろう」
 なむなむと手を合わせる八尋を双子も真似した。その頃、由樹は見回りをしつつ観衆と一緒になり競技を楽しんでいた。皆、競技に夢中なのか暴れている輩は居ない。
 先を行く伊佐治と千里。千里は韋駄天の草履のせいでズタボロだったが、疲れて速度の落ちた伊佐治に追いついた。そこで伊佐治対策の美女の誘惑発動。突然の村一番の美女からの求愛に伊佐治も思わず足を止めそうになる。しかし遠くで聞こえる黄色い声援に我に返った。
「ちーたんや、その手には乗らないよ」
「うむ、残念」
 余り残念そうに聞こえない口調で千里はそのまま追い抜きにかかる。しかし筋肉達磨のかけ声と伊佐治の根性で先に社へと続く階段へ到達した。草鞋を脱ぎ捨て少しでも先に進もうと伊佐治は駆ける。祭りらしく衣装を着せたり鉢巻きを巻かれた仏像は兄貴達にお任せだ。その後を仏像を抱えた千里達が行く。千里は懐から油を取り出しすぐ目の前を行く伊佐治の足下へと投げつけた。ずるりとこけそうになる所を筋肉達磨が支え上へと押し上げる。並んだ千里に、卑怯だなぁ、と伊佐治が告げるとそれを笑い飛ばす千里。伊佐治は今の仕返しとばかりに、首筋に息を吹きかけて骨抜きにする。うっ、と首筋を押さえた千里の足が止まった。
 伊佐治は千里との距離を広げる。
 そこへ遅れていた律吏が追いつき、猛烈な追い上げを開始した。二人とは違い仏像もない。階段を駆け上がるだけだ。油の零れている場所を避け、腰砕けの千里を追い抜き律吏は伊佐治の後ろに付く。女性ばかりの般若組は表情は穏やかだったが気迫は般若そのものだった。そして精神力だけで走っていた伊佐治だが結局一位の座を譲ってしまう。優勝は般若組だった。

 淀みなく実況中継を行っていた八尋。そんな八尋にも声援が飛ぶ。白熱した戦いに村長もかなり熱くなっていた。
「優勝、般若組。女性達の熱き戦いが素晴らしかった」
 観衆がどよめく。まさか女性だけの組が勝つとは思っていなかったのだろう。しかも産後直後の女もいたのだ。戻ってきた者達に拍手が送られる。勝っても負けても楽しい企画には代わりがなかった。勝った者達には村長から、煌びやかな反物と使用した連草鞋に第一回優勝者と名入れたものが送られた。反物は村で使うと良い、と一緒に組んだ仲間へと律吏は渡す。女性達はたいそう喜んだ。
 ぐったりとした様子の麻が子供を渡しにやってくる。優勝し機嫌の良い女は麻に礼を述べつつ子供を受け取った。
「‥『子守り』とは『戦い』と見つけたり」
 溜息と共に吐き出された言葉に傍にいた葉月が笑った。そんな葉月と瑠璃の元へは先ほどの競技で擦り剥いただのなんだのと男達が群がっている。
「あらあら?大丈夫?見てあげるけど、仮病は、駄目よ?」
 意味深な笑みで瑠璃が、特別なやり方がいいの? ‥暗くなったら、考えてあげてもいいわ、等と言うものだから余計に男達は燃え上がる。
 辺りには笑顔が溢れていた。八尋はそんな笑顔を見ながら思う。この人々の笑顔が耐えぬよう‥氷雪の志士として哀しみを滅すと誓おう‥と。

 負けた千里は村の嫁入り前の女性を集めて礼儀作法の指南中。別嬪さんに囲まれて極楽♪、と思ったのは最初だけで、若さ故か人の話を全く聞かず終わりが見えない。その横で伊佐治がにやりと笑いながら怪我人の手当をしてやっていた。
 祭りの後片付けを終えた律吏が、指南を終えぐったりとしている千里の頬を冷やした手拭で拭ってやりながら、お疲れ様、と告げる。
 ふと見上げた空は何処までも青かった。