恐怖の墓場
|
■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 39 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月17日〜08月20日
リプレイ公開日:2005年08月25日
|
●オープニング
「怖い話なんて今更だよね」
「ここ最近、こんなんばっかりだしなー」
子供達が河に石を投げながら話しているのは、夏によく行われていた肝試しについてだった。
例年通り今年も行おうと思ったのだが、よく考えてみれば日常的に妖怪・幽霊の類は現れており、改めて肝試しを行うのは馬鹿馬鹿しいと皆が思い始めていた。
「でも毎年恒例の肝試しやらないってのもな」
「そうだけど‥‥でも、もし本物が現れたらどうするの?」
「あの骸骨みたいなのとか?」
その時の恐怖を思い出したのか、一人の少女が泣き始める。空想よりも現実にあったことの方が怖いに決まっている。
「だ、大丈夫だって! きっと!」
「でも‥‥出てきたら困るよ。僕達じゃ太刀打ちできないし、それに本物か偽物かなんて咄嗟に判断だって出来ないじゃないか」
「そうだけど‥‥」
やっぱ無理だよ、と一人の子供が声を上げると、あちこちで賛同の声が上がり始める。
しかしやはり諦めきれない和斗が一つの提案を出した。
「なぁ、それじゃ大人と一緒に子供が組んでするってのは? 2・3回に分けてやったらいいだろ。そうだな、一緒に回る大人も父ちゃんたちだと頼りないから強いお侍さんとかに頼むんだ。そうしたら危険もきっと回避できるし、肝試しもしっかりと出来る」
「お化け役とかは?」
「それもお侍さん達にお願いする。一人で居て攻撃されても大丈夫じゃないと駄目だろ? 強い人なら平気だし」
自信たっぷりに告げる和斗。互いの顔を見合わせながら子供達は、そういうことなら、と頷いた。
「よしっ! 決まり! んじゃ、俺は爺ちゃんのとこいって許可貰ってくる!」
和斗は元気に村長である自分の祖父の元へと駆けていった。
●リプレイ本文
●
脅かし役として集まったのは、この日の為に無精髭まで伸ばし臨む結城友矩(ea2046)と、みすぼらしいマントを手に笑顔を浮かべている風月明日菜(ea8212)。そして、べべん、とご機嫌な様子で琵琶の音を響かせながらやってきた天道椋(eb2313)だった。
出発地点となる底なし沼に夕闇が迫る。
「皆怖がってくれると良いよねー♪」
「持ち場は事前に相談した通りでござる」
「とにかく、幽霊みたいに振舞えば良いんだよねー♪」
友矩の言葉に大きく頷いた明日菜。
「俺は始まる前に琵琶の弾き語りをして盛り上げてから配置に付くということで」
琵琶の伴奏付きで椋は笑みを浮かべている。
「やはり初めが大事でござる」
「泣いちゃうくらい怖いのをよろしくねー♪」
返事の代わりに椋は琵琶をかき鳴らした。
「では肝試しが終わったら落ちあうでござる」
風呂敷包みを持った友矩は持ち場である墓場へと向かう。それには二束三文で手に入れた着物にわざと刀で斬られたような傷を付けたものが入っている。持ち場に着いてから着替える予定なのだ。これを着て霞小太刀を差せば落ち武者の完成だ。
「それじゃ、張り切って驚かせるよー♪」
明日菜もひらひらと手を振りながら雑木林へと向かう。椋も持ち場へと向かった。
●
夕暮れ時の村で六人の子供達を前に太丹(eb0334)は挨拶をする。
「自分のことはフトシでいいっすよ〜」
「なぁ、兄ちゃん強いの?」
「肝試し怖い‥」
始まる前からびくついている楓は丹の服の裾を掴む。そんな楓に、自分が平気なのは実は秘密があるっすよ、と魔よけのお札を見せてやる。
「これがあると勇気が出てきて、お化けなんか怖くなくなるっす」
「ふーん、これがあると怖くないんだ」
やったぁ!、と丹からそれを奪うのは桜だった。それを奪われた丹はがくがくと震え出す。
「こ、こ、こら〜、か、かか、返すっす〜」
「兄ちゃん、そんなんで大丈夫なのかよ」
和斗と律はそんな丹を見て笑い出す。つられて笙と啓太も笑い出した。
少女二人が丹と魔よけのお札を巡って大騒ぎをしている間に、紅林三太夫(ea4630)は、よう、ちょっち来いや、と少年を呼んで尋ねた。
四人は三太夫に招かれるままに裏道へと向かう。
「ちょいと聞きてぇんだが。どっちの女の子と一緒に肝試ししたい」
「ぇ?」
三太夫は和斗の肩に手を回しこそこそと尋ねる。
四人は互いに顔を見合わせて唸った。
「楓かなぁ。直ぐ泣くし」
手繋いでてやんねーと、と律が笑う。それに同意するのはいつも連んでいる和斗。
「和斗達が楓と回るなら桜と回るか」
桜も恐がりなんだけどな、と悪戯な笑みを浮かべるのは啓太。こっちは驚かしてやろうと思っているらしい。笙が諫めるように啓太を見る。
「分かった。期待して待ってな」
ニッ、と笑った三太夫は子供達を解放し自分も皆の元へと向かう。
肝試しには丁度良い時間になっていた。
そのまま皆で出発地点となる底なし沼へと向かうと、待っていたのは琵琶の音を不気味に奏でた椋だった。
「肝試しの前に怪談でもどうですか?」
べんべん、と調子をとりながら椋は怪談話を聞かせ始める。椋のいつもの笑みは何処へ行ったのやら真剣な面持ちで恐ろしげに語る。
「ある所に廃屋がありそこには誰も住んでいませんでした。しかし夜になるとぽうっと部屋が明るくなるのです。旅人か誰かがその家を無断で使っているのだろうと初めは誰もが思いました。しかしその青白い灯りは揺れ動き宙を舞うのです。たまにそれはお侍の姿にも変わると言います。そしてゆっくりと人の手が届かぬような高さにまで昇ったそれは急激に下降し‥廃屋の様子を窺っていた者めがけ一気に飛んでくるのです」
びくり、と子供達の身体が強張る。子供達を見渡し椋は遠くを指差す。そちらへ視線を向ける面々。
「実はその廃屋はあちらの方角にあり今も人魂が飛んでいるのです。この話をしていることに気づいてるかもしれません。ゆらゆらと飛んで‥」
そこである一点を見つめた椋はそっと琵琶を引く手を止めスクロールを手にする。
「ほら‥そうこう言ってる間に辿り着いたみたいですよ。キミ達の後ろに‥」
急に大声をあげた椋。同時にシャドウバインディングを発動させる。子供達は一瞬恐怖に包まれた。しかし桜が笑い出し、立ち上がりその恐怖をぬぐい去ろうとする。しかしその足はその場に縫いつけられたように動かなかった。止めてよー、と桜は笑うが楓が半泣きで桜の袖を引っ張った。誰も居ない、と。一瞬にしてその場が桜と楓の上げた恐怖の叫びに包まれる。
その間に椋は持ち場に着く為にその場を後にする。混乱した子供達は急に消えてしまった椋自体を幽霊のように感じていた。
三太夫と丹はその混乱振りを楽しげに見つめながら、子供達に班分けを発表する。三太夫の振り分けた班は先ほどの希望を考慮したものだった。
●
まずは和斗と律と楓の組だった。引率は三太夫である。三太夫は口元に笑みを浮かべたまま、子供達の後を着いていく。
「ねぇねぇ、さっきの本当になんかいたんだよね」
すでに恐怖のどん底まで落ちたらしい楓が律に手を引かれながら言う。律は、平気だって、と笑みを浮かべた。でも、という楓の声を遮って和斗が、なんか聞こえる、と足を止める。風にのって聞こえるその音は気味が悪くて仕方がない。先ほどの椋の存在が本物の幽霊かもしれないと思っている子供達にはそれが幽霊の奏でる音に聞こえるのだった。底なし沼付近を四人は足早に駆け抜ける。三太夫はちらり、と木の上に居る椋を発見しニヤリと笑った。
雑木林にさしかかる頃には、ぎゅうっ、と律の服を掴み楓は目を瞑って着いていく。先頭を行く和斗が足を止めた。何かが触れたらしい。気のせいだと思い歩き出すが、ふらふらと目の前を蠢く何か。パラのマントを被った明日菜なのだが、姿が消えた状態なので人間だとは気付かれない。消えたかと思うとまた子供達の目の前を何かが横切る。マントが翻るたび、そこからちらりと明日菜の格好が見えそれが幽霊のようだった。
「おい、和斗それ‥」
「えっ、律ちゃん、何かいるの?」
「いいから行くぞっ!」
四人は揺らめく何かから逃げ出した。よたよたと追いかけてくるそれは次第に見えなくなった。肩で息を吐きながら墓地までやってきた四人。次に何が起きるか分かっている三太夫は笑みを張り付かせたままだ。しかし恐怖に怯える子供達はそれに気付く事もない。
墓場に入って暫くすると四人の足が止まった。もし、そこのお方達、と呼び止められたのだ。そして瞳が大きく見開かれる。墓石の向こうで淡い光に照らされたぼろを纏った侍の姿が見えたからだ。顔は下から照らされている為見えないが、オーラパワーを発動した友矩だった。刀を構えたその姿は先ほどの椋の怪談話を彷彿させ子供達は回れ右をしてそのまま底なし沼まで逃げ帰る。途中、行きと同じ幽霊に出会った気もしたがそれどころではなかった。三太夫は楽しそうにそんな子供達の恐怖に戦いた顔を眺めていた。
●
次は笙と啓太と桜、丹の番である。
「よし、さくっと行くぞ」
啓太は、後ろから見ててやるよ、と桜と笙を先に歩かせた。機会があれば後ろから脅かすつもりなのだ。
底なし沼付近を歩いていると何処からともなく琵琶の音が響いてくる。先ほどの恐怖が甦るのか叫びながら桜はそこら辺のものをぶんぶんと投げ始めた。ごっ、と鈍い音が響くと血塗れの椋が木の上から落ちてくる。ぼろの袈裟をまとった椋は傷みに耐えつつむくりと起きあがると子供達を追いかけ始めた。そして桜にコンフュージョンをかけてやる。
「ぎゃ〜っす!」
子供と一緒に丹は叫ぶとその場から逃げ出す。桜は足が張り付いて動けない。あわよくば脅かそうと思っていた啓太だったがそれどころではない。桜の手を引いて啓太は一目散に逃げ出した。
椋を振り切った四人は雑木林へと辿り着いた。そんな中丹は、じ、実は精吸いってお化けに殺されかけたことがあるっす‥、と自分の体験談を語り始める。それに興味があるのか子供達は耳を傾けた。どんなお化けなのか、と子供達が尋ねると、実体がなくて、こっちの攻撃が効かないお化けっすよ、と丹は答える。そこへふらりと近寄ってきた明日菜に話に夢中な子供達は気付かない。叫び声が上がらず明日菜は首を傾げながら更に近づく。視界は覆われているのでよろよろ歩いていると躓いて転んでしまった。しかし声は押さえる。転んだ拍子に伸びた手が誰かの足首を掴むと桜の声が上がった。先ほど足が縫いつけられたのを思い出したのか半狂乱だ。足元を見れば手だけが桜の足を掴んでいるように見える。意識を失いかけた桜を丹は横抱きにし、四人はその場を後にした。
墓場に入った時には少し落ち着いた桜。にこやかに先ほどの恐怖体験の続き話す丹だったが、動きを止めた子供達と共に足を止めた。誰かに呼び止められたのだ。桜は傍にいた啓太にしがみついている。ぼうっと浮かび上がる落ち武者の姿。勝ち気な桜も此処に来て震えが止まらなくなってしまう。
「魔よけのお札効果ないじゃない」
そう言って泣き始める桜。とりあえず逃げるっす、と丹は子供達を率いて底なし沼まで逃げ帰った。
●
ぐったりとした表情の子供達の元へ、脅かし役の面々も集まってきた。血塗れのままの椋や落ち武者姿の友矩を見て再び叫ぶ子供達。しかし普通の人間だと分かるとほっとした表情を浮かべた。
「今までで一番怖かった肝試しだった‥」
「それはよかったー♪」
にっこりと可愛らしく笑った明日菜は恥ずかしい姿を見せむくれている桜の頭を撫でてやる。
「あぁ、そうっす。さっきの続きっすが、何故か藁人形なんかも携帯してるっす」
じゃーん、と見せる丹に桜が半泣きで魔よけのお札を投げつけた。