捕らわれた魂

■ショートシナリオ


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月15日〜11月20日

リプレイ公開日:2004年11月25日

●オープニング

ここは狭くて‥ひとりぼっちは淋しいの‥‥
いえにかえりたい‥かえりたい‥
でも‥‥もう微かにしか分からない‥
忘れてしまった‥‥わたしのかえるところはどこだっけ‥‥
ずっと昔に住んでたいえ‥‥母様と一緒に住んでたあったかいいえ‥‥
それとも遠くに光る先にあるところ‥‥?
ここからは手を伸ばしても届かないけれど‥‥
‥‥わたしはどこに向かえばいい?



「俺は見たんだ。小鬼共が暗闇の中で光る球を投げ合ってるとこを」
 鼻息荒く冒険者ギルドへとやってきた男が大声で言う。
「遊んでたんだろ。人間に害与えないんだったら良いじゃねぇか」
「そりゃそうなんだけどよ。でもよ、なんだかか細い声で『たすけて‥』って言ってんのが聞こえたんだよ。その時はなんだか分からなくて怖くなって逃げたんだが、次の日の夜も同じように小鬼達が遊んでやがった。で、また昨日と同じ声だ。『たすけて‥苦しいの‥ここは狭くて‥ひとりぼっちは淋しいの‥‥』ときたもんだ。小鬼に誰か捕まってやがるのかもしれねぇと思って、俺は見つからねぇようにこっそり木の陰から小鬼達に近づいた。俺の一生分の勇気を使い果たした気にもなったがそんなことはおいておいてだ。近づいてみたらその声の主が誰だか分かったんだが、誰だと思う?」
 男は辺りを見渡し答えを告げる者を待つ。
「あー? あれか? やっぱりそこら辺のしげみで小鬼に捕まった子供が泣いてたのか?」
 近くにいた男の言葉に答えがはずれたことが嬉しかったのか笑顔で男は続ける。
「いーや。子供は子供だったが、小鬼達が投げてる両手で包み込めるくらいの大きさの球ん中に膝を抱えた5歳位の女の子が入ってたんだよ。ずいぶんと縮小されてやがるが見た目はそれくらいだ。ありゃ、きっと霊魂かなんかの類じゃねぇかと思うんだがな。捕らわれてあの球体が檻のようになっていて逃げれねぇんだろう。可哀想に。あんな小さい頃に死んで更にあんな所に閉じこめられちまって。不憫で仕方ねぇ。だからよ、誰かあの子を助けてやってくんねぇか?」
 俺に出来る限りの礼はさせてもらうつもりだ、と男は金の入った袋を机の上に上げた。
「金を見ず知らずの子供のために出すのか、あんたは」
「‥‥俺もあの位の娘を前に亡くしてるんだ。もしあれが俺の娘だったら、と考えただけで辛い。死んでからも捕らわれておてんとさんも見られねぇ暗い場所に居続けなけりゃならねぇなんてあんまりだ」
 よろしく頼む、と男は冒険者達に頭を下げた。

●今回の参加者

 ea0501 神楽 命(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5028 人見 梗(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7136 火澄 真緋呂(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7798 アミー・ノーミス(31歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8499 白 彌鷺(59歳・♀・僧侶・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●ギルドにて
 ざわめく冒険者ギルドで天風誠志郎(ea8191)が目にとめた依頼書の事を尋ねると、番頭は部屋の隅を指差す。そこには何人もの人が既に集まっており作戦を立てているようだ。懐寂しい誠志郎はこの依頼を逃してなるものかとそちらへと足を運ぶ。
「小さい女の子を泣かすなんて最低〜! そんな小鬼、ボクは許さないからね。おじさん任せといて?」
 ぐっ、と拳を握った火澄真緋呂(ea7136)が声を上げると他の者達もそれに賛同するが、依頼主の話は要領を得ずあやふやな点が多い。
「その光る球は以前も出たことがあったのかな?」
 と神楽命(ea0501)が首を傾げながら言えば、アミー・ノーミス(ea7798)も、その光る玉に入っているのは何なのだろう、と呟く。
「光る球が出たって話は聞いたことがねぇし中身もわからねぇ。ただ、俺の目には少女に見えたし小鬼達が投げて遊んでいるようにも見えた。でもこれは俺の考えだから本当かどうかなんてわからねぇけどな。第一幽霊に触れることが出来るなんて聞いたことねぇし」
 確かに、と人見梗(ea5028)は頷くが、助けて、という声を無視は出来ますまい…と告げ周りを見渡す。
「それはそうだ。できれば光る珠に封じられた少女の魂‥‥救ってやりたいものだ」
 誠志郎が話に割り込むとそれに相槌を打つのは白彌鷺(ea8499)だった。
「本当に。中に捕らわれているのが霊魂ならば解放して成仏させましょう」
「子供の魂を弄ぶのは許さないんだから」
 そう告げる楠木麻(ea8087)の言葉にその場にいた全員が頷いた。

●情報収集
 冬が近づいてきているこの季節。昼間は日差しのおかげで暖かいが、一度日が落ちてしまえば足下から冷えが這い上ってくる。冷たい月が皆を照らしていた。その冷えから逃れるように木々を集めそれを燃やし暖を取りつつ、七人は光る球について話し出す。
「明日の昼前にはその村に着くんだよね。夜まで少し時間があるし村の人にも聞いてみた方が良いよね」
「そうですね。周りの村のことまで分かると良いんですけれど」
 命の提案を受け梗も続ける。
「光の玉については僕の伝承知識でも分からなかったし。でも普通は幽霊って触れないんだよね。もしかしたらただ浮かんでるだけだったりしないかな?」
 うーん、と宙を見上げながら麻が告げる。ふむ、と誠志郎は考え込むが、その可能性が無い訳ではないな、と言い面倒見の良い彌鷺が取り分けた飯を受け取った。火を見つめながらアミーも言葉を漏らす。
「エレメンタルフェアリーならば友達になりたいところだけど。‥何にせよ救い出してあげたい」
「もっちろん! その為に僕達は此処まで来たんだから」
 ご飯食べて力蓄えよう、と真緋呂がぱくぱくと食べ始める。和やかな雰囲気が皆の間に広がった。食べ終わると誠志郎が見張り役を申し出、女性陣には寝るように告げる。女性陣は早朝に見張り役を変わることを告げ、皆すぐに安らかな寝息を立て始めたのだった。

 村に着くと依頼人宅へ荷物を置き、早速手分けして情報収集に走る。野良仕事の手を休め、皆話をしてくれるがこれといて目立った収穫はない。
「そう、女の子が最近亡くなったとかそういう話は‥‥」
「うちの村じゃねぇな。五歳くらいの娘っこだろ?」
 他の村だろうな、と村人が言うのを聞いてがっくりと肩を落とす命。分かったことと言えばこの村で5歳位の少女はここ最近死んでいないということだけだった。その子はどこから来たんだろう、と呟いて青い空を仰ぎ見た。
 その頃、梗も聞き込みを行っていた。こちらは光る球についての話を聞くことが出来た。依頼人の付近の住人の話では光る球に触れようとした小鬼の手がそのまま球を通り抜けたというのだ。
「触れてはいなかった‥ということですか?」
「あぁ。ありゃ光る球が気になって小鬼達が群がってるだけじゃねぇかな」
「そうですか。ありがとうございました」

 梗は村人に一礼し皆と合流する。そして今聞いてきたことを告げると皆が、うーん、と唸った。
「小鬼達から球を取り上げるってのは難しいかもしれんな」
「どちらにせよ、その光る球の中の人物が逝くべき道を失ってるのは変わりありません。それに小鬼の無知故の興味本位にしては性質が悪すぎます」
 誠志郎の言葉に彌鷺が告げる。彌鷺の言うことは尤もだった。
「そうだよねっ。その子を助けるって僕達決めたんだから頑張らないと」
 ニッコリと笑みを浮かべる真緋呂に命も頷く。
 皆はそれから夜に向けて各自の担当を確かめ合うと依頼人が用意してくれた早めの夕飯に手を付けたのだった。

●光る球
 依頼人に教えられた通りに歩いていくと、森に入って直ぐの所に広場のようになっている所があった。
 そこには空に浮かぶ光る球体と、それに群がっている小鬼の姿がある。
 梗と真緋呂は気付かれないようにそっと反対側へと回り込んだ。小鬼達は光る球体に夢中になっていて二人に気付く様子はない。
 二人は反対側に向かう途中、低い位置にロープを張り巡らせる。小鬼が脇から逃げ出さないようにとのことからだった。きっと今から起こる事に小鬼達は慌てふためくに違いない。それを見越しての策だった。
 残る五人は二人が反対側に辿り着いたのを確認してから用心深く小鬼達に近づいていく。
 一番最後に歩を進めるのはアミーだった。そして戦いの合図と小鬼の目くらましも兼ねて、アミーはダズリングアーマーを発動させる。正面にいるのは小鬼達、少しはずれた所に仲間が立っていた。羽織ったマントでそちらへの光を遮断する。
 小鬼達は何が起きたのか分からなかったのか、一瞬間をおいてから叫び声を上げる。
 目を押さえながら闇雲に逃げ出した小鬼達に命はブラインドアタックで攻撃を仕掛けた。続けて二打目を喰らわし小鬼は地に伏せる。
 彌鷺は光る球体の側に立つ小鬼に向けてホーリーを放つ。その衝撃で小鬼はそのまま崩れた。
「大地の志士、楠木麻‥‥見参!!」
 声高らかに宣言し、麻はアミーが鞭で取り押さえた小鬼にストーンを喰らわせる。足下から石化していき小鬼が完全に石になってしまうと麻は、石になって反省してなさい!、と一瞥しアミーと共に光る球へと向かった。
 小鬼は目を覆いながら刀を構える誠志郎の元へとやってくる。誠志郎はそのまま小鬼を斬り付けるが、まだ目をやられているのか闇雲に手を振り上げる小鬼からステップを踏み後方へと飛ぶ。そしてそのままカウンターアタックをしかけ小鬼の首をとった。
 反対側に潜んでいた梗と真緋呂も戦いに参戦する。
 真緋呂が睨んでいたとおり、小鬼達は闇雲に走り出し木の間に張られたロープに引っかかり転倒した。
 そこを狙い真緋呂は素早く刀を突きつける。
「そんなに慌てて帰らなくてもさ、ボク達とも遊んで行ってよ‥ね? 女の子泣かすような、命を玩ぶような悪い子は‥お仕置きっ!」
 梗も真緋呂とは反対側に走り逃げ出そうとした小鬼を発見しバーニングソードで斬り付けた。目がくらんでいてはその攻撃を避けることも出来ない。なんとか気配で急所ははずしたのか、小鬼は梗のいる場所あたりをめがけて攻撃をしかけた。しかしそれは宙を掻いただけで梗まで届かない。梗の刀身がが小鬼に突き刺さった。

 一番気になる光る球だったが、梗が仕入れてきた情報はどうやら当たりだったようだ。
 アミーと麻が何度もその球体を手にしようと手を伸ばすが、いっこうに掴める気配はない。
 それどころか二人の手を避けるかのように、その球体は宙を舞った。
「全然捕まえられない。触れないんだ、これは」
 麻の言葉を聞きつけ、それぞれ小鬼を倒した面々が光る球体の元へと集まってくる。
 皆で宙を見上げるが依頼人が言っていたように球体の中には5歳くらいに見える小さな子供が入っていた。
「もう大丈夫だよ。名前は何て言うのかな、ボク達の声聞こえる?」
「あなた、エレメンタルフェアリー?」
 真緋呂とアミーが優しくその小さな少女に尋ねる。ぴくり、と反応を示すところから考えると一応声は届いているようだ。
「どこから来たのか覚えてはおらぬか?」
 梗の問いかけに少女は小さくだが首を左右に振った。
「行き場を見失いましたか?」
 彌鷺の言葉に少女は顔を上げ頷いた。

『かえりたいの‥‥でもここがどこだか分からないの‥‥わたし‥‥何処に行けばいいの? ねぇ、しってる?』

 少女は行き場を失い膝を抱え蹲っていた。
 自らを殻に閉じこめるように、小さく小さく丸まって。
 そしてただ漂っていたのだ、暗闇の中を。

「それならば道を照らしてあげましょう」
「僕、ちゃんと無事にたどり着けるように祈っててあげるよ」
 手を合わせる彌鷺と、笑顔を浮かべる真緋呂。
「そうですね、祈ることでここから旅立てるのならば」
「それだけで大丈夫? ちゃんと行く場所の灯りは見える?」
 梗と命も少女が無事に行くべき所へたどり着けるように祈りを捧げる。
「あなたの世界にお帰りなさい」
 触れられないけれど、とアミーは少女へと手を伸ばし笑顔を浮かべた。
「‥‥バイバイ」
 麻もヒラヒラと少女に手を振りその姿を見つめる。
「進むべき道が照らされるよう」
 誠志郎も少女が成仏できるように手を合わせる。

『あの光をたどっていけばいい? わたし‥‥母様のところへいける?』

 あ、と声を上げて少女の光る球が弾ける。

『母様が‥‥』

 少女は小さく呟くと、皆を振り返りお辞儀をする。

『ありがとう‥‥』

 その呟きは闇に溶け、静寂が辺りに満ちる。
 その場に居た全員が少女が空の月に向かって飛んでいくのを見た。
 こうしてずっと長い間道に迷い蹲っていた少女は、やっと穏やかな時を迎えられるのだった。