友達を捜して

■ショートシナリオ


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月14日〜11月19日

リプレイ公開日:2004年11月23日

●オープニング

「旦那様から綾女様の大切なご友人を助けて頂きたいのです」
 身なりの良い初老の男が冒険者ギルドにやってきた。まっすぐに番頭の元へとやってきて、軽い挨拶を交わし用件を述べた。
 男の身なりからしてそこそこのお代を頂けるのではないかと番頭は予想し、早速詳細を尋ねる。
「旦那様から助けて貰いたいとは、一体そのご友人とやらはどんな事をやらかしたんで?」
 はぁ、と溜息を吐いた男は言いにくそうにしていたが、もう一度溜息を吐き話し始めた。

「それがですね、そのご友人は真っ白な毛並みをした愛らしい猫なのです。名前を白と申します。その白の飼い主である‥‥いえ、ご友人の綾女様は数え年で6歳になりますが、3歳の頃からたいそう白の事を可愛がっておられて家の中で寝食を共にしている程でした。少々お体が弱い綾女様はなかなか外で遊ぶことが出来ず、白が唯一の遊び相手の様なもの。しかし先日、旦那様が誤って白の尻尾を踏んでしまったのです。痛かったのでしょう。白は飛び上がり旦那様の足を力の限り何度も引っ掻き傷を負わせてしまいました。旦那様は怒り心頭で白をその場で持っていた扇で酷く叩きつけました。それから白は何処に行ったのやら姿が見えません。綾女様は必死に探しておられましたが旦那様は、白など家に要らぬ、と。そして白のつけた傷がすぐに治れば良かったのですが、数日経つとその傷は化膿し始めてしまい大きく腫れ上がってしまったのです。今現在も歩くこともままならぬ程の痛みらしく、それが余計に旦那様の怒りをかっているようなのです。そして最終的には『白を見つけ次第遠くの山にでも捨ててこい。今後目の前を通ることのない様にしろ』と。綾女様が何度頼んでも旦那様はその言葉を撤回することはありませんでした」
 男はそこで一息吐くようにもう一度溜息を吐く。
「綾女様は悲しみの余り泣き暮らす日々。白は未だに家の敷地内にはいると思われますが見つけることは出来ません。傷を負っていなければ良いのですが‥‥。綾女様お一人ではどうすることも出来ないのでこちらに居られる方に、白を見つけ出し旦那様を説得して頂きたいのです。旦那様はとても頑固な方で、余程のことがなければご自分で仰った事を撤回されることはありません。どうにか良い手を考えて、綾女様に笑顔を取り戻して頂けないでしょうか」
 もちろん報酬は弾ませて頂きます、と布袋一杯の金を差し出す。
「白の好物は鰹を素干ししたものでございます。そういった白の好物など捕獲に必要な品に関しては綾女様から全て頼まれれば用意するようにと言われておりますので、なんなりとお申し付け下さい」
 よろしくお願いいたします、と男は頭を下げるが何か思いついたのか、ぱっ、と顔を上げた。
「あぁ、言い忘れておりました。お屋敷内にはあちこち隠し部屋がございますのでお気をつけ下さい。中には一度入ると内側からは抜け出せないという所もございますのでお一人では大変かもしれません。しかし出られないからといって破壊などは以ての外でございます。おやめ下さいませ。それと猫の鳴き声のようなものが家の中から聞こえた‥との話も聞こえてきておりますが定かではございません。あとですね、これが尤も重要なのですがこのことは旦那様には内密の話でございます。屋敷にお越しの際には申し訳ございませんが庭師や薬師など怪しまれぬような役に扮してお越し下さいませ」

●今回の参加者

 ea0262 茅峰 帰霜(47歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7237 安堂 嶺(29歳・♀・僧兵・ジャイアント・華仙教大国)
 ea8308 シアン・カカリ(23歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8339 ファータ・クロリス(30歳・♀・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●お先に
 依頼人から情報を仕入れた茅峰帰霜(ea0262)は植木職人に扮して綾女の家へとやってきた。依頼人が話を通してあったのか門番は、あぁ、と頷いてすんなり通してくれた。
 どうやら他の使用人は誰一人として帰霜達が潜入して白を捜しているとは知らされていないらしい。口の軽い輩から話が漏れるのを恐れたためだろう。
 庭で道具を取り出しながら植木の手入れをし始める。庭に、ぱつん、と枝を切る音が響いた。怪しまれないように気をつけながら庭を探索し、白の好物を庭のあちこちに仕掛けていく。
「おや、珍しいねぇ。あんた此処は初めてじゃないか?」
 大きな桶を持った女中が帰霜に親しげに声を掛けてくる。気さくな中年の女性だった。笑みを浮かべた帰霜はこれ幸いと女中に白の事を尋ねてみる。
「さっきどっかから猫の鳴き声が聞こえた気がしたんだが、この屋敷には猫がいるのかな」
「真っ白の猫が一匹。でもここ数日は見かけないから何処かに隠れてるのかもしれない。旦那様がお怒りになっているから‥っと。これは内緒。そういえば誰かが白の鳴き声が聞こえたって言ってたね。何処だったかね‥屋敷の中って言ってたか。でも隠し部屋に入ってしまえば分からないし」
「隠し部屋?」
 帰霜が首を傾げ尋ねると女中は一瞬、しまった、という表情を浮かべたが言い訳を考えるのが面倒になったのか話し出す。
「‥旦那様がものすごい心配性でいつ何時襲われても逃げ延びることが出来るようにってあちこちに隠し部屋をお作りになったんだよ。閉じこめられる類のもあるからね、気をつけないといけないんだよ」
 はぁ、と溜息を吐き出す女中。
「へぇ、それは用心深い旦那だな」
「まぁね。さぁて、仕事仕事」
 そう言うと女中は去っていき庭には帰霜一人が取り残される。
 うーん、と帰霜は腕組みをして空を仰ぎ見る。気持ちよいくらいの青空が広がっていた。冬が近づきつつあったが日差しは暖かく心地よい。帰霜は空の青さに目を細めた。

●お節介?
 安堂嶺(ea7237)は鉢を持って綾女の家の前へと立った。そして小さな声で念仏を唱え手にした鐘をちりん、と鳴らす。門番はいつものことだというように嶺が持っている鉢に紙に包んだ金をころん、と入れてやった。
 恭しく礼をした嶺が、御仏の心のままに、と門番に告げると、門番は溜息を吐く。何か?、と嶺が尋ねると門番は愚痴り始めた。
「あんた僧ならうちの旦那様の怪我が早く治ってくれるよう祈ってくれないか? そんなに深い傷でもないのに治らなくて困ってるんだ」
「それは大変だね。‥どうだろう、あたいの知り合いにいい薬師がいるんだけど呼んでこようか?」
「そりゃぁ助かるな。あぁ、俺の方も話は付けておくからその腕の良い薬師ってのを呼んでもらえるか?」
「まかせといて」
 嶺は笑みを浮かべると一度綾女の家を後にし、様子を窺っていたシアン・カカリ(ea8308)とファータ・クロリス(ea8339)に近づき話を合わせる。嶺はグットラックを全員にかけ、再び綾女の家を訪れた。
「連れてきたよ。そっちはどうだい?」
「あぁ、こっちも話は通しておいた。旦那様の傷をどうか治してやってくれよな」
「えぇ、全力を尽くさせて頂きます」
 シアンとファータは顔を見合わせ頷くと門番に軽く会釈をし、屋敷内に潜入することに成功する。嶺も付き添いだと屋敷内の入ることに成功した。シアンとファータは屋敷の主人の下へ、そして嶺は先に潜入している帰霜と落ち合う為庭へと向かった。

 嶺は庭で枝を切っている帰霜の後ろ姿を見つけた。庭を見て歩いている風を装い、嶺は帰霜へと近づく。そして辺りに人がいないのを確かめてから帰霜にもグットラックをかけた。
「無事に全員潜入したよ」
「そうか。こっちは庭に餌はあちこちばら蒔いてみたんだが反応なし。庭には居ないのかもしれない」
「そうなると白の居場所は家の中」
「女中の話でも家の中から聞こえたって話があるみたいだしそっちに仕掛けた方が確実かもしれない」
 その時、かたり、と屋敷の方で音がして二人がそちらに目をやると色白の少女が顔を覗かせていた。はっ、とした表情を浮かべた少女は隣に立つ依頼人に小声で何かを告げられるとすぐに表情を明るくする。そして二人にお辞儀をして微笑んだ。
「綾女‥‥様だろうな」
「そうだ。家の中で白が行きそうな場所を聞いて設置してみると良いかもしれない」
 嶺と帰霜は綾女と依頼人の元へと向かっていった。

 主人に会うことの出来たシアンとファータだったが、痛みのせいでか酷く機嫌の悪い主人に手を焼いていた。
「忌々しい猫のせいででこんな事になってしまった」
「‥お労しいことです。御主人様のお心が晴れるよう、私たちも全力を尽くさせて頂きます。ですからどうぞ傷をお見せ下さい」
 ファータの言葉に主人は渋々傷ついた足の臑を二人に見せた。傷ついていた右足は腫れあがり、ぱんぱんになっている。軽くシアンが触れただけでも痛みが伴うのか主人は顔をしかめた。
「もう少し優しく出来んのか」
「申し訳ない」
 そう言ってシアンはその傷の応急処置を施してみる。しかし応急処置位では治らない域にあるのか、主人の足の腫れは引かない。
「痛っ! おのれ、儂を殺す気か」
「滅相もございません。今のが駄目だというのならばこの薬をお飲み下さいませ。たちどころに傷が癒えるという薬でございます」
「そんなものがあるのなら初めからそっちを寄越せ。出し惜しみなどするでないっ」
 痛みが怒りの沸点へと直結しているようだ。シアンはリカバーポーションを主人に手渡し、一気に飲み干すよう告げる。主人は訝しげな視線を渡された壷に向けていたが、言われたとおり一気に飲み干した。
 するとみるみるうちに足の腫れが引いていく。
「まだ疵痕は残っていますが、後でこちらを飲めばもっと良くなることでしょう」
 リカバーポーションを渡し、痛みが消え主人から苛立ちが消えたことに気付いたファータは続けて主人の説得をし始める。
「伺う際にお嬢様をお見かけしましたが何か御心労でも?」
「あぁ、元から体が弱くてな」
「お優しい御主人はさぞかし娘さんが心配でしょう。なにやら鬱ぎこんで居られた様子。病は気からと申しますし、もし心当たりがおありでしたら仰って下さい。私も薬師の端くれ。お力になりたいと思います」
「鬱ぎ込んでる理由か‥心当たりが無い訳ではないが」
「このままではお嬢様は鬱ぎ込み心のお力が弱くなり倒れてしまうかも。その前に出来ることがあるのなら少しの可能性にかけてみるのもよろしいかと」
 自嘲気味に笑った主人はぼそりと告げる。
「綾女が大事にしている猫を儂が捨てろと言ったからだ。儂の足を傷つけた罰としてな」
「猫でございますか? では私共も探すお手伝いを。たかが猫一匹でお嬢様が元気におなりでしたら、御主人様とて願ってもない事ですね」
 微笑を浮かべたファータが言うと、主人は苦渋の色を浮かべる。
「綾女が‥このままだと倒れるというのはまことか?」
「えぇ、そう遠くない未来に」
 その言葉に主人は渋々と頷いた。
「よかろう。猫を捨てろというのは止めにする。ところで其方ら手伝うと申したな。それでは早速行方の分からなくなった白を綾女の元へ届けてやってくれ」
「承知致しました」
 ファータは柔らかな笑みを浮かべ、シアンは小さく頷くと白を探すため主人の部屋を後にした。

●居場所
 合流をした四人は先ほど嶺が仕掛けた罠を見て回ることにした。
 シアンだけは庭に下り、鯉の泳ぐ池を眺める。これは白を捕獲する際に使えるかもしれないと。池までの道のりに白の好物を置き鰹の素干しの道を造る。あとは白が外に出てきたら捕らえるだけだ。屋敷内で捕獲できればいいが、そうとも限らない。念には念をだ。
 嶺と帰霜とファータは鰹の素干しを持ちながら仕掛けた場所を見て回る。先ほどファータが気を利かせて主人から屋敷の見取り図を貰ってきていたのを参考に、隠し部屋を含め捜すがどこにも白の姿は見あたらなかった。
「何処に行ったんだろうね」
 嶺が首を傾げた時、近くからガリガリと扉を引っ掻く音が聞こえた。帰霜はファータが持つ見取り図に目をやる。音がしている所は隠し部屋になっていた。
「ここだな」
 帰霜がその隠し部屋の扉に手を掛ける。ファータはその背後で矢羽を持ち、嶺は出てきたところを捕まえようと身構えた。軽く押しただけでギィと壁が回転し隠し部屋の扉が開く。それと同時に白い物体が飛び出してきた。白は低く構えた嶺の頭を飛び越え、ファータの矢羽にも目を向けずに廊下を駆け抜けていく。
 三人はその後を追いかけた。白は廊下を駆け抜け庭へと飛び出していく。今まで暗闇の中に居たからか、太陽の強い日差しに白は目を瞑るがそれでも庭を駆け抜けた。匂いに釣られてかシアンが並べた鰹の上を駆けていく白。シアンはタイミングを合わせ池へとやってくる白の前にウォーターコントロールで水の壁を作り出し足を止める作戦をとる。白が目を開けた時には遅かった。水の壁にぶつかり止まる。ぎゃんっ、と悲痛な声が上がった。しかし白はすぐに向きを変え逃げる。今度こそ、と嶺が土に足を滑らせた白をトリッピングで転倒させる。そこへ網を投げたのは帰霜だった。爪が絡まり白は網から抜け出せない。
 そこへ綾女がやってきて、白、と声をかけると白は動きを止め綾女を見上げた。
「おかえり」
 絡まった網を取り除いてやり綾女が白を胸に抱く。白はそこが自分の居場所だというようにおとなしくなり喉を鳴らした。
 そんな様子を見て、猫を友と言える綾女さんが羨ましい‥、とファータは思う。自分には全く分からない気持ちだった。
「良かったな」
 そう告げた嶺に帰霜もシアンも頷く。帰霜がそっと白を撫でると嬉しそうに白は声を上げた。