後ろの正面だぁれ

■ショートシナリオ


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月22日〜11月27日

リプレイ公開日:2004年11月30日

●オープニング

 茜色に染まる空。
 子供達は輪になりしゃがみ込んだ一人の少女の周りをぐるぐると回る。
「かーごめかごめー」
 夕焼けに照らされ、子供達の影は地に長く伸びる。
「後ろの正面だあーれ」
「‥‥早苗ちゃん」
 少女が名を呼んで振り返ろうとした。
 その瞬間、すっ、と子供が入れ替わり早苗とは別の人物が少女の背後には立っていた。
「あれ‥‥?」
「鈍くさい奴だな、また当たらないのか」
「えっ‥‥」
「ほらさっさとしゃがめよ。もう一回だ」
 一人の少年が少女を突き飛ばすと少女は、ぺたり、と地面に崩れた。
「あたし‥‥帰るよ‥‥全然当てられないし‥‥」
「逃げるのかよ。一度でも良いから当ててみろよ」
 泣き出しそうな表情を浮かべた少女だったが、少年にそう言われ仕方なくもう一度しゃがみ込んだ。
 再び子供達の声が空に響く。
「かーごめかごめー」
 少年が周りの子供達に合図を送る。
 初めからこれは仕組まれていたこと。
 少女一人を残し、皆家に帰ってしまおうと。
 少女はそんなことも知らずにただしゃがみ込んでいる。
 ゆっくりと遠ざかる足音。声も段々と遠くなっていく。
 はっ、と少女が気づいた時には遅かった。
 振り返っても誰もいない。
 少女はそこに一人きりだった。
「何処に行ったのー?」
 声を張り上げても周りには誰もいない。
 木の陰に居ないかどうか、細い小道に誰か居ないか、少女は子供達を捜した。
 しかし少女は誰も見つけることは出来なかった。
 一人きり夕闇の中に残されてしまった少女は、ついに泣き出してしまう。
 そこへこっそり戻ってきたのは、少女を苛めていた少年だった。
 少女が泣いているのを見てしめしめとほくそ笑む。
 ここで少年が少女の前に出て行ったら良い印象を与えるだろう。
 少年は少女のことを好いていた。
 しかし素直になることが出来ず周りの子供達を使い、少女の心を捕らえようとしていたのだった。

 そして少年が一歩を踏み出そうとした時、少女に近づく影があった。
 辺りは薄暗く少年はその人物の顔を見ることは出来なかった。ただ、それは大柄な男のように見えた。
 その人物は何事か少女と言葉を交わし、それに対し少女は首を左右に振った。
 しかしその人物は少女の手を取り無理に引きずっていく。少女が一生懸命逃げようとしているのが見えた。
 少年は声を上げて助けを呼ぼうと思ったが、声は出ず足も竦んでしまい身動きが取れなかった。
 目の前で連れ去られる少女を前に何も出来ない自分。
 皆を帰したりせずに普通に遊んでいればこんな事は無かったのだ、多分。
 少年は自分の行動を責め、拳を強く握った。
 そして闇に溶けていく人影を見つめ、少年は必死にその影を追いかけ始めた。


■□■

「ま、そんな訳で少年がその連れ去ったらしい男の居場所を突き止めた。どうやらそいつは最近その町を騒がせていた誘拐犯らしい。他にも何人もの少女達が連れ去られている。その少女達を連れ戻して貰いたい」
 番頭は周りを見渡して更に続ける。
「少年の話では町はずれにある廃屋にその人物は戻っていったそうだ。すぐ近くに湖があり、人通りは少ない。山に向かう人ぐらいしかその辺は通らないという話だ。少年の話では連れ去った人物が中に入ったところまでしか見ていないとのことだが、近くまで寄っていって見たところ中から話してる何人かの男の声が聞こえたそうだ。十分に気をつけて向かって欲しい。それとそいつらを刺激して捕まってる少女達に危害を加えられては困る。慎重にな」
 健闘を祈る、と番頭は冒険者達に告げた。
 その時、番頭の背後で声が聞こえた。
「あの‥‥俺がそこまで案内するから‥」
 番頭の後ろから出てきたのは10歳くらいの少年だった。
「おまえ‥‥」
「俺が小夜を一人にしたから‥‥捕まっちまったんだ。だから‥‥俺、あいつに謝らねぇと‥。絶対足手まといにはならねぇから。案内したら近くの茂みでじっとしてるし。絶対あんな奴らに捕まったりしねぇよ‥‥」
 廃屋まで連れて行くから小夜を無事に助けてくれ、と少年は冒険者達に頭を下げた。

●今回の参加者

 ea4518 黄 由揮(37歳・♂・ファイター・ドワーフ・華仙教大国)
 ea5171 桐沢 相馬(41歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6419 マコト・ヴァンフェート(32歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea6945 灰原 鬼流(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7278 架神 ひじり(36歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea8233 橘 狛子(24歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea8545 ウィルマ・ハートマン(31歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)

●リプレイ本文

●囮捜査開始
「こんな感じで良いのか確認して欲しいんだわ」
 町にいる子供達と同じような服装に着替えてきた橘狛子(ea8233)が皆の前でくるりと回転してみせる。これから囮になる狛子は普段着慣れない着物を纏い少々戸惑い気味だ。
「うん、大丈夫だと思うわよ」
 マコト・ヴァンフェート(ea6419)の言葉に架神ひじり(ea7278)も賛同し少年も頷く。
「それならいいんだわ」
 その言葉に満足げに頷いた狛子は、無事にみんな救い出せるようにちょちょいっと頑張っちゃうんだわ!!、と笑みを浮かべる。
 狛子の用意が出来た所で皆、少年の案内で誘拐犯の潜む廃屋へと向かった。

 道中、永遠と桐沢相馬(ea5171)に諭される少年。
「小僧、叱って欲しい殴って欲しそうだな?うつけめ、後悔はそんなに簡単に消えなどしない。考えてみろ、浚ったのが山鬼なら『皆何処?』と捜し歩く死霊を成仏させなければならない所だ。子供達を安心させるのは俺達にはできない。お前がやるんだ。それが兵法それが分担というものだ。勝手に飛び込んで勝手に死ぬな。無事告白して謝るまで罪は消えんぞ?」
 小さく少年は頷く。
「確実にあわせてやる。後悔はする為にこそある‥」
 そう締めた相馬の隣で黄由揮(ea4518)が呟いた。
「誘拐している者達はどうせどこかに少女達を売り飛ばそうとする輩だろう。見張りを置いている時点で確実だな」
「ハ、下衆と宗教は何処に行っても性質が悪い」
 由揮の言葉に続けてウィルマ・ハートマン(ea8545)が呆れたように告げる。
「そういう者が居るからこそ仕事はあるのだろうな」
 一番後ろを歩いてくる灰原鬼流(ea6945)が言うと少年が、ぴたり、と足を止めた。
「あれがそうなんだ‥」
 少年の指の先には一件のそれなりに広い廃屋があった。
 ぐっ、と少年が拳を握りしめたのに気付いた楠木麻(ea8087)は安心させるような笑みを浮かべ少年に告げた。
「後は任せて」
 少年はその言葉を信じ頷く。マコトも少年に微笑みかける。
「大丈夫!マコトさん達がちゃんと助け出すから…だから約束通りじっとしてて頂戴ね」
 指きりげんまん嘘ついたら…雷撃落とすわよ?、となんだか物騒な言葉を添えるマコトに少年は怖くなったのか何度も頷き少し離れた茂みへと隠れた。ウィルマも少年と同じ茂みに隠れ、廃屋の様子を窺う。そして様子を窺いながらもかなり反省している風の少年に追い打ちを掛けるように説教をしていた。そして言葉を返そうとするのを、黙れガキが。話しかけられた時以外口を開くな、分かったか、と一喝する。しょんぼりと少年は俯いた。
 その間に由揮が辺りを探索し、湖に浮いている舟を繋ぐ結び目を簡単には解けないようがっちりと結び直す。これで万が一誘拐犯に逃げられても時間稼ぎが出来る。
 マコトも近くの茂みに身を隠しブレスセンサーで廃屋の中の大体の様子を探ってみる。
 大人の人数は約5人、子供は7名程で入り口から遠い方に人数が固まっている。それが少女達であることは間違いないだろう。少女達の周りに二人、入り口付近に二人、入り口からさらに右側にある格子窓から外を眺めている人物が一人。
 大体の位置はその様な感じになっているようだった。それを皆に伝えると早速狛子が囮として捕まるために歩き出す。しかし途中で振り返ると、‥みんな!きちんと助けに来るのよ!、と念を押す。頷く面々を確認するとわざと格子窓から辺りを窺っている男に見えるように歩いていく狛子。きょろきょろと辺りを見渡しながら歩く姿に、男は目を光らせた。
 狛子が廃屋の前を通りかかった時だった、見張りをしていた男とは別の人物が入り口から出てきて狛子に声を掛ける。こんな所にくるなんて道に迷ったのかい、暖まっていったらどうだいと優しく声を掛けられ狛子は初めは嫌がるそぶりを見せた。しかし男の口から『菓子』の一言が出るととたんに笑顔になり男に促されるままに廃屋の中に入っていく。しかし途中まで入ると振り返り、かんざしを落とした、と廃屋から少し出てきて茂みに隠れている鬼流に向けて口の動きで中の様子を伝える。鬼流はそれを皆に伝えるがマコトの探知と中の様子はぴたりと一致していたようだ。
 そしてかんざしを拾い上げた狛子はそのまま逃げられないように小脇に抱えられ、今度こそ中へと連れ込まれた。

●救出活動
 外の様子を窺っている男は一人。しかも小さな格子窓からだ。いくら普段人が来ることがないとはいえ、一人しか見張りがいないというのもまた呆れた話である。
 ふわぁぁぁと欠伸をして暇そうな男。これなら子供でも見つかることなく容易に近づくことが出来たに違いない。
 皆は先に計画していたとおり、それぞれの位置に着く。
 ひじりとマコト、ウィルマ、由揮は前方を。鬼流と麻と相馬は後方へ。
 各自が位置に着いたのを確認するとひじりがファイヤーボムを、マコトがライトニングサンダーボルトを廃屋の入り口付近の屋根に向けて放つ。突然上がった破壊音に男達が何事かと慌てふためく声が聞こえた。入り口から二人の男が様子を見に出てきた所を、ウィルマと由揮の矢が襲う。咄嗟に避けたが腕や足に矢は突き刺さった。
「この距離を撃ち抜くから、狙撃は芸術なんだ」
 得意げなウィルマ。
 その間にひじりは刀を手に向かってきた敵に笑みを向ける。
「佐々木流「燕返し」の恐怖をとくと心に刻むが良い」
 そう告げ、見事なスマッシュを決めるひじり。
 もう一人も向かってきたがマコトのストームで吹き返され、止まった所を由揮の矢が捕らえた。

 裏口では麻が壁にウォールホールで壁に穴を開け中に突入する。続けて素早く鬼流も相馬も中へ入る。
 くぐり抜けた麻は、不意打ちで見張りをしていた男にストーンをかける。石になって反省してなさい、と足下から固まり始める男を放置し、少女達の近くにいた男と戦闘している二人の元へと向かう。
 鋭い攻撃を繰り返す鬼流の背後から麻は、武士道とは卑劣な行為を嫌うもの、とストーンをかけた。
 相馬も相手の斬り込みに対し、うまく攻めながら相手を追いつめていく。
 苦し紛れに男が近くにいた少女を人質に取るが、その背後から縄抜けで自由の身となっていた狛子が、そんなことはさせないんだわ、と少女を救い出した。
「残念だったな」
 相馬は呟き、男にとどめを刺した。

●後ろの正面だぁれ
 少女達の安全を確保すると、辺りにほっとした雰囲気が漂う。
 捕まえた男達を質問攻めにしているのはウィルマだった。
「だから‥‥」
「グズの家系を断たれたくなきゃさっさと答えろ!」
「は‥はいぃぃぃっ」
 情け容赦ない物言いに男達は仕方なくことの詳細を話し始める。
 やはり少女達を売り払い金を貰う予定だったようだ。

 その頃、ひじりに手招きされ、隠れていた少年は慌てて駆け寄ってきた。
「少年、好きな女の子をいじめたくなる気持ちは分からぬでもないがやはり男は弱き者を守らねばならぬのじゃ。素直な心で謝れば少女もきっと許してくれるはずじゃ。男の気概を見せるが良い」
 笑顔でそう告げられ少年は励まされる。
「鋼の心を持て、お前にはその価値がある」
 ぽん、と相馬に軽く肩を叩かれ少年は頷く。
 そして助け出された少女の中から小夜を見つけ声を掛けた。
「小夜‥‥」
 小さく呟かれた声を聞きつけたウィルマが遠くから少年に声を張り上げる。
「ふざけるな!大声出せ!貴様男か!」
 びくっ、と肩を震わせた少年はもう一度大きな声で小夜の名前を呼ぶ。
「小夜! 俺‥‥俺が悪かった」
 深々と小夜に頭を下げた少年を不思議そうに見つめる小夜。
「えっと‥‥九郎ちゃん‥?」
「俺がやったんだ。お前の気を引きたくて‥それで皆を家に帰したんだ。そんなことしなけりゃお前捕まらなかったし‥‥だから‥‥‥」
 くすり、と小さく笑った小夜は九郎に背を向ける。

「かーごめかごめー」
 小夜が小さく歌い出す。
 九郎は何がなんだか分からない。
 突然歌い出した小夜の肩に手を置こうとしたのを麻に止められた。
「後ろの正面だぁれ」
 小夜が、九郎ちゃん、と呟いて振り返る。
 満面の笑みを浮かべて。
「これで良い? わたしやっと当てられた?」
 九郎は勢いよく頷く。
「助けに来てくれたんだよね。ありがとう」
 その言葉に情けなくも九郎は泣き出した。
 ごめんな、ごめんな、と呟いて。
「‥ふふ、若いっていいわねー」
 マコトは笑いながら九郎の頭を撫でる。
「ちゃんと約束守れた少年には、マコトさんが良いものをあげましょう♪」
 密かに採取しておいた南天の一枝を小夜に渡す。
「小夜ちゃんにお守り。ジャパンでは『難を転ず』という意味があるんでしょ?それにこの赤い実…簪みたいで可愛いじゃない」
 ね?、とウィンクをしたマコトに少女は、ありがとう、と笑みを零した。
「一件落着といったところじゃのう」
 よかったよかった、とひじりと麻は頷く。
 そしてその場にいた人物達がその微笑ましい光景に小さな笑みを浮かべたのだった。