ここ掘れワンワン

■ショートシナリオ&プロモート


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月24日〜11月29日

リプレイ公開日:2004年12月02日

●オープニング

「わわっ!どうしたの?」
 庭で遊んでいた子供達の足に突然まとわりつく子犬。
 それはいつの間にか村に住み着いた野良犬だったが、愛嬌が良かったために村人に歓迎されていた。
 毎日村の誰かが餌をやり、のんびりと過ごしている子犬。
 いつからかその子犬は『雪』と呼ばれるようになり、村の子供達とも仲良くなっていたのだった。
 その雪が執拗に子供達に付きまとい、まるで付いてこいというようなそぶりを見せる。
 子供達は首を傾げながらも雪が何処かに連れて行こうとしているのを感じ取り、重い腰を上げた。
 すると雪は嬉しそうに、わんっ、と一声あげると走り出した。
 そして何度も振り返り、子供達がちゃんと付いてきていることを確認する。
 付いてきているのを確認すると、雪は再び走り出した。
 それを何度も繰り返し、雪はある木の袂へと子供達を案内する。
「雪ー。ここがどうかしたの?」
 一人の子供が首を傾げながら、自分たちを連れてきた雪に尋ねる。
 すると雪は一声鳴き、その木の袂をがりがりと掘り出した。
「ちょっと‥‥雪何してるの?」
 その地面は固く雪が必死に掻いてもなかなか掘ることは出来ない。
「ねぇ、ここ掘りたいんじゃない?」
 他の子供がそう告げると、そうかもしれない、と近くの家の子供は頷き自分の家へと駆けていく。
 鍬を持ってこようというのだ。
 鍬と手に戻ってきた子供は雪をどかすと、力一杯地に鍬を突き立てた。
 ざくっ、と音がして少しだけ土を削り取ることが出来る。
「よーし、もう一回」
 何度も何度も鍬を振り下ろし、雪が掘り返そうとしていた場所を掘っていく。
 疲れると子供達は交代で鍬を振り下ろした。

「わんっ!」
 ある一定の場所まで掘り進めると雪が鳴いた。
 その時ちょうど鍬に何かが当たり、ごつっ、と鈍い音が響く。
「何? 今の‥‥」
 子供達は目の前に出来た穴をのぞき込んだ。
 するとそこには見たことのない箱が埋まっていた。
「なんだ、この箱‥‥」
 わくわくとしながら子供達はその箱を引き上げようとしたが、それはかなり重くて子供達の手では引き上げることは出来なかった。
「父ちゃん達呼んでくるしかないな‥‥」
 野良仕事をしていた両親を呼びに子供達が走っていくのを、雪は嬉しそうに眺めていた。


「これは‥‥言い伝えにある宝の箱じゃねぇか?」
「そうかもしれん。何処に埋まってるかわからねぇと言われたあの箱のことだろ?」
「でもよぉ、引き上げたはいいがこれの中に何が入ってるんだ?」
 引き上げた箱を前にし大人達は首を傾げる。
 昔からこの村には宝の箱と呼ばれるものが何処かに埋まっているらしいと言い伝えられていた。中身は『宝』ということしか分からず何が入っているのかまでは伝えられていない。
 それを今まで見つけた者はいなかったし、言い伝えが本当かどうかも分からなかったが目の前にある箱はかなりの年代物にみえる。
 箱を前にし言い伝えは嘘ではなかったのかもしれない、と村人達は思う。
 皆、その中身をすぐさま確かめたいと思っていたが、どのような構造になっているのかしっかりと施錠され開くことはない。
 木で出来た箱だった為壊して開けてしまうのも良かったが、中に入っているものが壊れやすいものだったらいけないとそれも出来ずにいた。箱の中には何かがぎっちりと詰まっていてどうやら隙間がないようなのだ。
「どうする? 中身は調べたいがこれじゃ開けられない。それにもし、この中に入ってるのが封印された鬼とかだったらどうする?」
「まさか。宝が鬼な訳あるめぇ‥‥」
「だが、そうじゃない、とも言えないな。言い伝えなんだから途中で意味合いが変わることだってある。しかも今まで誰も探し当てることの無かった宝だ。それを雪が見つけた‥‥」
「‥‥恩返しのつもりだろうか」
 村人は背後で尻尾を振ってご機嫌な雪を眺める。
 とても悪意があるようには見えなかった。

「とりあえず、この箱の中身を傷つけねぇように開けねぇとな」
「そうだな。なぁ、言い伝えでは鍵も村の何処かにあるって話だったよなぁ。確か『遠ざかってく水面の月の陰る場所‥‥」だったか?しかしこれじゃぁ、何が何だかなぁ」
「村にある沼のどっかだってことは分かるけどよぉ‥‥」
「‥‥誰かに知恵を借りることにするか?」
 その提案に村人達は頷いた。

●今回の参加者

 ea3503 鬼丸 太郎(31歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ea4412 水乃櫻 楷吏(39歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea4453 辿樟院 瑞月(25歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea7830 楼 春珂(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8526 橘 蒼司(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea8650 本多 風露(32歳・♀・鎧騎士・人間・ジャパン)
 ea8689 小野 織部(47歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8714 トマス・ウェスト(43歳・♂・僧侶・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●村へ
「ありがとうございます」
 村から迎えにやってきた男が皆に礼をし笑顔を浮かべる。
「我が輩のことは”ドクター”と呼びたまえ〜」
 トマス・ウェスト(ea8714)が、けひゃひゃひゃ、と笑いながら村人に言う。。
「皆さんに捜して頂けることになって大変心強く思います」
 よろしくお願い致します、と男が深々とお辞儀をするのに対し、辿樟院瑞月(ea4453)が、顔を上げてください、と優しく声をかけた。
「中身がどんなものなのか分かりませんが、無事に鍵を見つけ、箱を開けられるといいですね」
 瑞月の付き人である楼春珂(ea7830)が頷くと、その言葉に更に頷くのは水乃櫻楷吏(ea4412)だ。
「鬼が出るか蛇が出るか、何が出るのか楽しみな所であるな」
 橘蒼司(ea8526)もやはり中身が気になるようだ。世の中で謎とされるものはやはり人々の心をときめかせる。
「鍵の在処は村の中にある沼が怪しいでしょうね」
 お茶を啜りながら本多風露(ea8650)が呟くと鬼丸太郎(ea3503)はそれに賛同し、小野織部(ea8689)も小さく頷いた。
 皆が茶を飲み終わる頃、男が促す。
「ではそろそろ出立致しましょうか。今回は村の為に来て頂くので村長が皆様をお持てなしするとのことです」
「それはありがたい」
 皆はその心遣いに感謝し、村に向かったのだった。

●鍵探索
 男が言ったとおり、村に着くと皆村長の家に招待され遅い昼食をご馳走になる。
 その時、村長は掘りだされた箱を皆に見せた。
「重くて重くて。本当に何が入っているのやら」
「思ったより大きくはないんですね」
 素直な瑞月の言葉に村長は笑う。
「宝をなんとしてでも手に入れたいから開けたいという訳ではなくて、せっかく雪が儂たちにもたらしてくれたものだから中を見てみたい、というのが本当の所」
 大分大げさにお話ししておりましたが、と村長は苦笑した。
「ところでその雪という犬は‥‥」
 蒼司が縁側から庭を眺めつつ告げると、丁度庭に子供達が掛けてくるのが見えた。子供達の前を一直線に掛けてくる真っ白な犬。
「雪ー! 待てってばーっ!」
「あれがそうです。いつの間にやら村に住み着いて、もう今年で何年になりますか」
「本当に仲がよろしいんですね」
 微笑んで風露が告げると村人達は嬉しそうに頷いた。ここまで可愛がられている野良犬はまず普通は居ないだろう。いや、もう既に村人にとって野良ではないのかもしれない。
 そうこうしているうちに夕刻になり、皆鍵の探索の準備をし始めた。

「沼を捜索したいので御座るが、沼にはどのように行ったら良いで御座るか?」
 太郎は村人に沼の場所を尋ねる。丁寧に村人はいくつかある沼の場所を教えてくれたが、ついでにご案内致しましょうかと言う。それを太郎はありがたく思う。とんでもない方向音痴なのだ。場所を知っているとはいえ見当違いの方向に歩いていってしまう可能性もある。
「お願い致す。それと誠にすまぬが、沼の捜索に必用なのでざるを貸してはもらえないで御座るか?」
 村人はこれまた親切にざるを太郎に手渡し、他にも何かったら何でも言って下さい、と言いながら太郎を沼まで案内してくれた。
 こちらはドクターことトマス。沼に向かう途中、村人に、沼には島があるのだろうか〜、と尋ねる。
 しかし村人は首を左右に振りそんなものはないと言う。トマスは幾分がっかりした様子で沼へと向かうが、沼の畔には様々な草が生えており、トマスはめげることなく目標をそれに変え薬草採取に励むことにしたのだった。トマスの目指す所は薬品による死者蘇生。ジャパ〜ンにはジャパ〜ンの知恵・知識がある。それを元に我が輩の研究が進むと良いのだが、とトマスは気合い新たに臨む。
 暫くすると子供達がトマスの隣にやってきて、これは薬草なんだ、と色々なものを指し示す。これがジャパー〜ンの昔ながらの知恵であるか〜、とトマスは嬉しそうに薬草を摘むのだった。
 蒼司はというと街の話を興味津々に聞いてくる子供達と一緒に戯れていた。雪と仲良くなるためにはまず子供達との信頼を結ぶのが一番だと。蒼司から聞いたことの無い様な話を聞き、子供達は大きな盛り上がりを見せる。雪もそんな子供達の周りをぐるぐると回り、そしてやがて蒼司にも悪戯な部分を見せるようになった。遊んでくれ、と蒼司の着物をくいっ、と銜え引っ張る。それからは子供達を巻き込んで追いかけっこが始まった。

 月が東の空に上り、闇を照らしながら天の中央へとやってくる。村で一番大きいとされる沼の周りに焚き火をする村人達。これから沼に入ろうとする者達の為にとの配慮だった。
 月が空に昇った時、一番始めに村の中にある沼の前に立っていたのは織部だった。織部の見たところ、沼はたくさんあるがどれもさほど大きくはない。月の軌道を考えてもそこを通っていく間に落ちる影などたくさんありすぎて解らなかった。しかしここは探すしかないだろう、と織部は地道に月を見上げ影を探し鍵の在処を探した。

「月も上がったことですし、そろそろ沼の捜索をはじめましょうか」
 そう瑞月が言ったのは村で一番大きな沼の前だった。村長の話でも歌が詠まれるとしたらそこのことだろうということだったからだ。
「春珂殿、十分に気をつけてください。いくら潜りが得意とはいえ沼の底には何があるか解りませんので」
 楷吏が心配そうに告げるが、春珂はその声を遮って言う。
「それでは早速‥」
「そうですね、行きましょう」
 風露はロープを近くの木に結びつけるとそれをたぐりながら沼へと入る。そして、とぷん、と沼の中へと潜っていった。
 春珂は男達がいるというのにもかかわらず、恥じらうことなく着ていた着物を脱いでしまう。
 それを真っ正面から見てしまった楷吏。普段は滅多に感情を表情に出すことはなかったが余りの事に動揺し、声をうわずらせながら言葉を紡ぐ。
「‥は、春珂殿! こんな所で脱ぎだしては回りに男性がたくさん‥ってま、待ってください!あー!」
 春珂は楷吏の言葉などどうでも良いのか鎖帷子一つになると沼へと勢いよく飛び込んだ。その際に楷吏の目に入るのは春珂のヒップライン。見事なまでの体つきの良さに楷吏の目は釘付け。それは脳裏に焼き付いた。そして一気に頭に血が上ったのか鼻血を吹き出しぐらりと倒れる。
「春珂が心配です‥早く戻ってきてくれると良いのですが‥」
 楷吏は無惨にも目の前で心配そうに沼を見つめている瑞月も道連れに沼へと落ちた。
 激しい水音が辺りに響く。
 ちょうど瑞月達の隣の多少浅瀬になっている場所で、月を見上げながら影になりそうな部分を探していた太郎も驚き顔を上げる。
 太郎に見えたのは大きな水柱のみ。
 そして続けてジャバジャバともがく瑞月の姿が水面に現れる。
 気付いた太郎と風露が助けに向かおうとするが、それよりも早く大きな水音に気付いた春珂が瑞月を抱え、陸へとあがった。
 春珂の顔は真っ青だ。目には涙まで浮かんでいる。
「いつも申し上げていますが‥足下にお気を付け下さい‥瑞月様」
「ありがとう、春珂」
 村人も集まってきて早く火に当たれと声を掛けてくる。
 やっと浮かんできた楷吏は、ぷはっ、と息を吐き陸の上にいる瑞月と春珂を見上げる。
「瑞月様、申し訳ございません‥」
 がっくりと項垂れる楷吏に呆れた表情で春珂は言った。
「‥楷吏殿は何をしているのですか‥‥ご自分で上がってくださいね」
 とどめを刺された楷吏は、言葉を紡ぐことなく無言で陸へと上がった。それでも瑞月に防寒服を貸し、早く火の側で暖めるように告げる所は流石だ。っくちゅ、と可愛らしいくしゃみをした瑞月は楷吏の言葉に素直に従うが、春珂は瑞月のことばかり気に掛けて楷吏の方を見向きもしない。
 そこへやってきたのは雪を連れた蒼司だ。どうやら雪がある場所へと呼んでいるようだった。
「今から雪が呼ぶ所を探しに行くが‥」
 どうする?、と尋ねられた太郎達は皆それに付いていくことにする。
 湖のほとりで薬草をたっぷりと採取したトマスも、月を辿って皆の元へ辿り着いた織部も合流した。
 蒼司が鍵のある場所だと感じたのは月が沼に映り終える所。しかしそれは季節によって誤差が生じるはずだった。大体のあたりを付けたもののそれは確かではない。しかし今は雪がいる。雪が、ここを掘れ、と言わんばかりにガリガリと引っ掻くのは先ほど太郎が探していた付近だった。
「おぉ、そこで御座るか」
 太郎と織部も混ざりその場所を掘り始める。村人達は期待に満ちあふれた瞳で皆を眺めていた。
 そしてついにがりっ、と何かをかすった音が響く。
 織部が取り出したのは小さな箱だった。軽く振ってみると音が鳴る。鍵はかかっておらずすぐに開いた。するとそこから出てきたのは予想通り鍵だった。
 風露が箱の中からそれを取り出し村長に手渡す。
 ありがとうございます、と呟き村長が震える手で鍵穴に差し込むとそれはぴたりとはまり、軽く回しただけで鍵はあっさりと開いた。
「開いたぞ!」
 おぉっ、というどよめきが人々の間に広がるが、それを手で沈めると村長が慎重に箱を開く。皆緊張し武器に手を掛けた。
 しかしその中には鬼などではなくまるでそこに月の光が集められたかのような金色の物体が収まっていた。金だった。
「おぉ、やはり宝は本当だったか‥」
 村長が宝の箱に向かって拝む。
 小さな笑みを浮かべて蒼司が、これからも雪を大事にな、と告げると村長は大きく頷いた。
「さぁ、皆で飲み直しましょう。今夜はどうぞゆっくりとお休み下さい」
 村長の声で皆が賑やかに騒ぎ出す。宝をもたらした雪は満足げに村長の後ろを歩いていった。
 村長達と先に歩き出したトマスが皆を振り返って告げる。
「名酒『うわばみ殺し』がある。一緒に飲まんかね〜」
 その声に残された者達も笑みを浮かべ歩き出したのだった。