歩きたくなる径
|
■ショートシナリオ
担当:夕凪沙久夜
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月28日〜12月03日
リプレイ公開日:2004年12月07日
|
●オープニング
月がとても美しい晩だった。
16歳位の少女と付き人らしき50歳位の男が夜道を足早に歩いていた。
「爺や、すっかり遅くなってしまったわね。つきあわせて悪かったわ。ごめんなさい」
少女は男を振り返り申し訳なさそうに詫びる。
本当ならば日のある内に帰宅できるはずだったのだが、少女が茶屋で長話をしていたためにこのような時間になってしまったのだった。
「彩様、毎度このようなことでは困りますが今日はたまたまでございますし。それにとても楽しそうでしたから、私も止めるのがなんだか悪いような気がしましてお時間を告げなかったのです」
「ありがとう」
彩は柔らかい笑みを浮かべる。
それを爺は嬉しそうに眺めた。
最近ますます彩は美しくなり、あちこちから縁談が舞い込んできていた。
しかしそれに彩が頷かないのは嫁ぎ家に相手に縛られるのを良しとしないからだった。それと皆積極性に欠けるところが彩の気に入らないことの一つでもあった。煮え切らない、というものだろうか。自分と共に歩んでくれそうな人物は今まで誰一人としていなかった。飾りのように妻という立場に居ればよいというような雰囲気が文からもぷんぷんとしているのが気に入らなかったのだ。
「さぁ、早く家に帰りましょう」
彩が前を向き再び歩き始めた時、物陰から一人の男が現れ道を塞いだ。
見るからに怪しげな風体の男を見て爺は彩の前へと出た。
「何奴‥!」
「こんな別嬪さんが夜道を歩いているとはな。これはぜひうちの大将に見せてやりてぇなぁ‥うちの大将もなかなかの色男だからな。隣に並べたらなかなか良い感じだと思うけどなぁ」
下卑た笑いを浮かべた男は一歩ずつ二人に近づいてくる。
「彩様、お逃げ下さい」
「そりゃぁ、ちょーっと困るな。せっかく見つけた別嬪さん。そのまま逃がしてなるものかってね。大将が要らないって言ったらぜひともオレのお相手を頼みたいねぇ」
ぺろり、と唇を舐めた男は一気に間合いを詰める。そのまま爺に攻撃を加え、彩を奪い仲間の元へと戻るはずだった。
しかし男の攻撃は爺に当たることはなく、その体は宙を舞っていた。
男は一瞬何が起きたのか分からなかった。
男が間合いを詰めた瞬間、爺の前に出た彩が男の手を取り、その反動を使い男を投げ飛ばしたのだった。
細い彩にはその様な力は無いように思えた。
しかし男は現に宙を舞っている。
どん、と鈍い音と共に男は地に叩きつけられた。
そしてそのまま彩は男の鳩尾に鋭い一撃を加える。
「さぁ、行きますよ」
「彩様、お怪我は‥‥」
「怪我はありません。そうね‥‥あちらの方の方が大変じゃないかしら」
くすり、と微笑み彩は歩き出す。
護身術を習っていて良かったわ、と呟いて。
「しかし‥‥彩様、危のうございますからこういったことは‥‥」
「はいはい。分かってるわ。なるべく夜道は歩かないようにしましょうね」
そういう意味ではない、と爺は告げるが彩は笑って相手にしない。
そしてその日は無事に彩と爺は家に帰り着いたのだった。
その翌日。
彩の元に一通の文が届けられる。
文には品の良い匂いの香が焚きしめられていた。内容的には恋文である。自分と共に同じ径を生きてはくれないかという熱烈なものだった。
しかしこれを普通の恋文と取るか否か。
彩の下した答えは恋文ではないというものだった。
文面には一目惚れをしたこと等が綴られていたが、彩を奪いに行くというような事柄も綴られていた。
「私を奪いに? 私はモノではないわ」
爺や、と彩は爺を呼びつける。
「この文をどう取ります?」
「これは‥‥予告状の様なものでしょうか。この書いてあるままを取るならば、明日の夜、お嬢様を狙って賊がやってくるということでしょう。それにこの一目惚れの部分でございますが、昨夜の一件のことの様にも思えます」
「やっぱりそう思う? 私もそう思うの。でもこの方、私を奪うだなんて面白いわ。今まで居なかった類の人ね。ただ私の意志に関係なく連れて行かれるのは癪に障るし。私この方のこと全く知らないからお話しだけでもしてみたいけれど。でも家を襲撃されたのではお話しする余裕などないわね。一人ならばなんとかなるけれどやってくるのは一人ではなさそうだし。‥‥どなたか力になって下さる方は居ないかしら」
「それならば‥‥」
爺は冒険者ギルドなるもののことを彩に話す。
「あら、それはとても頼もしい。早速お願い致しましょう」
彩はニッコリと微笑んだ。
●リプレイ本文
●屋敷へ
昼間のうちに各自屋敷内へと入る手はずになっていた。
朝一番にその屋敷の門をくぐったのは奉公人の格好をしてやってきた紅林三太夫(ea4630)である。
「百地です。よろしくお願いします」
新しく住み込みで働くことになったと門番に告げ、中へと入る。
中に入り購入してきた鳴子などを出していると、そこへファータ・クロリス(ea8339)がやってきた。
「おはようございます。鳴子の設置は私が」
三太夫は屋敷の内外を見回り、敵の侵入経路を検討するつもりでいたので鳴子はファータへと託し自分は見回りに行くことにする。
「よろしく頼む」
そういうと三太夫は軽く辺りを見渡し、身軽にも素早く屋根に飛び乗ると探索に向かった。
ファータは三太夫から預かった鳴子と自分で準備した鳴子を、家を取り巻く垣根に沿って設置し始める。なかなか根気のいる作業だったがこれをやっておけば敵の侵入の際、いち早く危険を察知することが出来る。ファータはもくもくと鳴子を設置し続けた。
しかし屋敷は広い。鳴子の数が足りなかったと思っていた時、やってきたファルケ・ツァーン(ea8811)とハロウ・ウィン(ea8535)がファータに鳴子を差し出す。
「鳴子足りた?」
「俺の分もある。これを合わせたら足りるだろう」
「そうですね。使わせて頂きます」
ファータは鳴子を受け取った。
「僕はちょっと屋敷内を偵察してくるね。把握しておかないとちょっと大変そうだから」
あと打ち合わせもあるし、とハロウは言って笑顔を浮かべる。
「はい、鳴子は私にお任せ下さい」
それじゃ行ってくるね、とハロウは庭園の方へと掛けていった。ファルケは鳴子を持ってファータの反対側へと向かう。
「俺はあっちから鳴子を張ってくる。その方が早く終わるだろう」
「お願いします」
反対側をファルケに任せ、ファータは再び鳴子を設置する作業に没頭した。その後には縄を各所に取り付ける作業が残っている。まだ日は高い。用意をするには十分すぎる位だった。
その頃、彩の元を訪れていたのは白彌鷺(ea8499)だ。彌鷺は彩に話を持ちかける。
「お見合いの席を設けては如何でしょう」
「お見合い?それはまたどういう‥‥」
「えぇ、お見合いと申しましても普通のお見合いでは御座いません。一目惚れした男が女に近づく時、猪突猛進になりがちです。奪うの言は時に不安を抱える事があります。ご自身で一度『お相手』して相手を観るのが良いでしょう」
そういうことですか、と彩はにこりと笑みを浮かべる。
その隣で爺が、おやめ下さい、と必死に申し立てるが彩は聞く耳を持たない。
「なかなか面白そうですね」
縋るように彩を止める爺の声が哀しく響いた。
庭園を探索しながらハロウは回りの木々達に声を掛けて回る。園芸が好きで、やはりこうして自分の育てている植物には自然と話しかけてしまう傾向がある。
「今日の夜は手を貸してくれると嬉しいな」
よろしくね、と声を掛けて回り屋敷内の間取りを頭に入れる。
庭の木々達が味方をしてくれれば、敵に勝てるような気がしていた。
夕方近くになってやってきたのは桐沢相馬(ea5171)である。そのまま屋敷内の偵察をし、自分の位置を確認する。
おおかたの範囲を見渡し、目の良い相馬はいち早く敵を発見できるよう皆の目の代わりをすることになっていた。
ばらけて配置に付く方法をとったのだが、心配なのは正面突撃で分散配置を各個撃破されることだった。ばらけてきてくれることを祈りつつも、もし正面突撃してくるような人物であれば依頼人には好感触なのではないかとも思う。
しかしそれも暗くなれば分かること。
相馬は、さてどうなるか、とニヒルな笑みを浮かべた。
●侵入
薄暗くなり、屋敷の門はがっちりと閉められる。裏口も閉められ入り口という入り口はふさがれた。
屋敷を背に庭の真ん中で相馬は目をこらす。屋根の上には相馬と背中合わせになるように外から死角になる位置で三太夫が身を潜め辺りを窺っている。
「幸い今宵は満月、かがり火を焚かずとも賊を容易く見つけられるはず」
小さな呟きは闇に溶ける。
偵察をしながらハロウは庭に、ファータは裏門辺りを巡回していた。
彩と爺を守るのはファルケと彌鷺である。
夜の静けさが屋敷内を包み込んでいたが、からん、と何処かで音がした。
三太夫の場所から垣根を越えてこようとする人物が見えた。
呼子を吹き、三太夫は味方に警告を発し素早く弓矢での狙撃を開始した。
狙いを定め賊に矢を放つ。
当たった賊はそのまま地面へと落ち、痛みに蹲っている。
三太夫は一射ごとに位置を変え、反撃に備える。相手も矢を放ってくるが三太夫の動きの方が早かった。
矢を放ち賊を打ち落としては場所を変える。
その間に庭先からも侵入者があった。
ハロウは呼子を吹いて庭からも侵入者があったことを皆に知らせる。
草木が多い茂っている場所ではハロウの方が優位だった。プランコントロールを使い侵入した敵の足を絡め取る。
そこへファータも駆けつけ矢で援護した。
敵は何人も張られた縄に引っかかり転倒し、ファータの思うつぼである。
背後からハロウを襲った敵も草に足を絡め取られ転倒した。しかしその時木々の護りが間に合わずハロウを剣が掠る。
相馬も負傷した敵を縄で縛り上げた。
敵の侵入が呼子で知らされると、彌鷺は彩に『護身術』の修行をする時の格好に着替えるように告げる。
楽しそうにそれに頷くと、彩は着替え爺とファルケと彌鷺と共に離れにある道場へと向かった。
そこならば、もし彩の元まで侵入されたとしても守りやすい。
ファルケは此処まではやってくることがないだろうと思いつつも、辺りを用心深く窺っていた。
魔法など使う気はさらさらない。
詠唱中に攻撃されてはしようがないし、得意の格闘技で戦おうと思っていた。
庭では侵入した全ての敵が縄で縛られ放置されている。
しかし頭領と思われる人物が見あたらない。
「どこにいる?」
三太夫が目をこらしてもやはり何処にも見あたらない。
しかし、裏口の方から降りたった一つの影が離れに向かうのを見つける。
ファータが矢を放つがそこまでは届かない。
慌てて追いかける四人。
がたん、と音がして道場の戸が開かれた。
「あら、いらっしゃいませ」
にっこりと笑みを浮かべて彩がやってきた人物に声を掛ける。
正面から一人道場へとやってくるのは潔いと思われたが、ファルケと彌鷺が彩と爺の前へと立ちふさがる。
「こんばんは」
優男が彩と同じように笑みを浮かべ呑気に挨拶をしてくる。
しかし目はファルケへと向けられていた。
どちらからともなく動き、素早く間合いを詰める。
ファルケの繰り出す拳を受け、頭領と思われる人物がそれを上手く流しファルケへと蹴りを入れる。
ファルケの方も慣れたものでそれを難なくかわすと、同じように蹴りを入れた。
しかし同等のレベルなのかなかなか決着が付かない。
そこへ彌鷺が声を掛けた。
「お二方ともお止め下さい。そこのお方。彩さまとお相手してみてはどうでしょう」
彌鷺の声に二人の動きが止まる。
「それはどういう意味かな?」
笑みを浮かべた頭領が彩に視線を移しつつ尋ねた。
「そのままの意味で御座います」
「私とお手合わせを」
彩はつい、と前へ出て手を差し出した。
しかし頭領は柔らかく笑うとそれを拒否した。
「どう考えても私の方が強い。それに惚れている人に手を挙げるのは性に合わない」
「嘘ばかり」
「手加減するのが嫌なだけでしょう?」
その言葉に頭領は笑い出した。
「よくおわかりだ。手を抜くということが出来ぬのですよ。でも私は貴方に手は挙げたくない。だから拒否するまで」
「面白いお方」
ころころと彩も笑い出す。
どうやら二人とも気は合うようだ。
その様子を見ていたファルケは、どうやら済んだようだしな、と道場を後にする。
慌ててやってきた四人とすれ違ったがそのまま振り返らずに去っていった。
道場へと飛び込んできた四人は笑い合う彩と頭領を見て呆気にとられる。
「何が‥どうしたんだろう」
「上手くいった‥ということでしょうか」
「ま、そういうことだろうな。佳い女に会えた、それで十分さ。幾百万の人間の中で奇跡みたいなもんだからな」
気障な言葉を放ち相馬はその様子を見守る。
「私貴方のことが気に入りました。文もそうですけれど‥なかなか面白いお方」
「私もそう思いますよ」
お嬢様ぁ、と悲痛な爺の声が響く中、彩と頭領は笑い合った。