新調してみませんか?

■ショートシナリオ


担当:夕凪沙久夜

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2004年12月24日

●オープニング

「どーしても売ってしまいたいんだ。頼むっ」
 呉服商を営む男が様々な色鮮やかな反物を抱えて冒険者ギルドへとやってきた。
「ちょっと待っておくれよ。ここは‥‥」
「だから仕事だって言ってんだろうが。在庫が溢れてしまって困ってるから、こうして頼みに来たんだよ。誰か売るのを手伝ってくれないかと」
「そういうのは自分の店の奴ら使ってやればいいんじゃないのかい?」
 ふぅ、と溜息混じりに女が言うと男は言い返す。
「それが出来てりゃ在庫も残らねぇ。できねぇからこうして来てるんじゃないか」
「それもそうか」
「正月も近いことだし、客に新年迎えるのに着物を新調してみてはどうかとかなんとか言って買ってもらえたらありがたいんだが。なぁ、誰かいねぇかな」
 そうだねぇ、と辺りを見渡す女。
「まぁ、たくさんの奴らが集まってるところだからね。誰かは手伝ってくれるかもしれない」
「そうか。それはありがたい。よろしく頼む」
 ほっ、とした表情を浮かべた男は、忘れる所だった、と付け足す。
「店で働いて貰う間、店の方で着たい着物を用意させて貰う。それくらいはやらねぇとな。着たい着物の色とか教えてくれたら用意しておこう。それともちろん、食事は出させて貰うから安心してくれ」
「はいはい。それも付け加えておくよ」
 女は男の言葉に頷くと、冒険者達に男の持ってきた依頼を持ちかけたのだった。

●今回の参加者

 ea0648 陣内 晶(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea1966 物部 義護(35歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2011 浦部 椿(34歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea2088 一 一(30歳・♀・僧兵・パラ・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6429 レジーナ・レジール(19歳・♀・ウィザード・シフール・イスパニア王国)
 ea7136 火澄 真緋呂(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●準備
「必要だという品物はこちらで用意させて貰った。いやー、こうして集まって貰えて良かった良かった」
 集まった面々を見て店主は至極満足そうな笑みを浮かべる。
「いやはや、今度の仕事は在庫処分ですか。もう冒険者ってよりも何でも屋ですねぇ。ま、こっちの方が性に合ってる気もしますが」
 おっとりとした笑みを浮かべた陣内晶(ea0648)が告げると大きく頷くのは八幡伊佐治(ea2614)だ。
「ふと考えてみたら自分の能力が売り子の才能じゃないか、と気付いたのはこの依頼をみてからだったな」
 奥が深い、と伊佐治はうんうん、と頷いている。
「うちも商家の腕の見せ所やな、がんばるで」
 明るい笑顔を見せた一一(ea2088)は気合いを入れ店内を物色し始める。
 そんな中で獅子舞の面を手にしているのは浦部椿(ea2011)だ。その隣には従兄の物部義護(ea1966)が居たが椿の衣装を眺めて呟く。
「椿よ。お前、年末年始くらいは着飾ったらどうだ? 男物ではなく女物で、ほれ、此処の白地に椿の柄なぞ似合いそうではないか。何だったら、奢ってやらんでもない」
 晶はそこに横から口を挟む。
「ふむ…客寄せの為にも、ここは一つ女性陣の衣装はちょいとばかし色っぽくしてくれる様お願いしてみまsごほんごほん」
 語尾は咳き込みつつ晶の声は小さくなる。ちらっと向けられた椿や女性陣の視線が痛かったのかもしれない。いやいや、何でもありませんよ?、と言葉を濁し、晶はにっこりと何事もなかったかのように微笑んだ。
「私はこれで良い‥」
 椿が店主に用意して貰っていたのは上品な黒の直垂だった。
「余り俺と変わらんではないか」
 そう言う義護の直垂は蒲萄だった。
「いいんじゃないかな。それぞれ着たい着物を着ればいいと思うし」
 僕はこれだけどね、と火澄真緋呂(ea7136)は藍白地に薄雲鼠の細縞模様の着物を嬉しそうに手にしていた。その着物は裾には落ち着いた灰の彩り地に、ロウケツ染風の市松と葛の文様がついている。帯は青緑・金地に花紋・更紗柄の入った豪奢なものだった。
 一は春を思わせるような萌葱色の着物。伊佐治の着物は品のいい黒でそれがよく似合っている。
 外を回って来るという晶や月代憐慈(ea2630)は派手な羽織を羽織っており、遠目からでも十分目を惹く。これに椿の獅子舞姿と真緋呂の白っぽい色が加わり、更にそれは強まることだろう。
「それでは皆宜しく頼む。何か分からないことや困ったことがあったら言ってくれればいい」
 店主のその声で、皆自分の作業へと取りかかった。

●町中で
 人を集めるために晶と憐慈と椿と真緋呂は町へと繰り出す。
 椿が時期的にはまだ早すぎる獅子舞を踊り憐慈が声を張り上げる。
「さぁ、いらっしゃい、いらっしゃい!!正月前の着物の新調は江戸屋!!」
 その声に何事かと人々が集まり始めた。
「新しい着物で初詣!今年の運も末広がりだ!さぁ、買った買った!!」
「さぁ、皆さん江戸屋で着物を新調しませんか?」
 真緋呂も笑顔を振りまきながら集まる人々に声を掛ける。
 晶はにっこりと笑みを浮かべて鐘を鳴らし声を上げながら、椿の舞う獅子舞の伴奏を勤めていた。
 町を練り歩き一行は江戸屋へと向かう。
 人々もなんだか楽しそうな事をやっているようだ、とその後に着いてくる者もいた。
 真緋呂が歌を歌い、それに合わせて憐慈が舞う。
 その艶やかな様子に、回りに集まる人々も感嘆の声をあげた。
 椿は人々に近寄っていきながら、すいっと離れまた舞う。噛みつくという動作はしないまでもその舞は十分人目をひいていた。やはり少し時期的に早いその獅子舞も人々の心を揺れ動かす。新年への期待を抱かせるのかもしれない。
「さぁさぁ、江戸屋で買った買った!」
 人々の間に江戸屋の名前は浸透していく。
 真緋呂は沿道に集まるおじ様に、ぜひいらしてくださいね、と笑顔を向けてその場を立ち去った。

●店内で
「いやー、結構あるんやね」
 腕が鳴るわ、と一が気合いを入れて店内の反物を眺めた。
 店主からの許可をもらい、福袋もいくつか作ってみた。売れ筋の悪いもんに何か高いもんを一個だけ入れてそれをえさに売ればそれなりに売れるやろうし、という一の提案を喜んだのは店主の方だった。
 あとはこれを売りさばけば良いだけだった。
 そして早速一の元へと客はやってくる。一の目が光った。一は小袖を指差しながら女に近づく。
「これ、あんたのために作ったみたいにぴったりやね」
「え? そう?」
「ほんまぴったりやわ。これ買わな損するで。今が買いや」
 褒めちぎる一に乗せられて女は、どうしましょう、と悩み始める。
 そして悩んだ末にその小袖を買っていった。
「リカバーつけよと思ったけど‥‥」
 怪我をしている人物がやってくることなど滅多にない。ま、ええか、と一は福袋をあっという間に売りさばきほくほくした顔を浮かべた。

「こちらおいくら?」
 義護が品の良い笑みを浮かべて接客していると、背後から声をかけられた。
 振り返りそのお客の手にしている小袖の値段を述べると、少しだけ困ったような表情を浮かべる女。
「ちょっと‥高いわ」
「そちらのお色とてもよくお似合いだ。そうだな‥このくらいでは‥」
 先ほど店主から聞いていた元値より少し高めに言ってみると、女の表情は明るくなる。
「よろしいの?」
「そちらの小袖お似合いなので」
「ありがとう」
 礼を述べて去っていく女。そしてその様子を見ていた他の者達も義護に声をかけてくる。値引きをしてもらえると思ったのだろう。
 しかしそこは義護も心得ている。
 しっかりと元値を割らない程度で値段を調節しつつ、おまけなども付け加え順調に在庫をさばいていった。

 そして女性客が取り囲むのは伊佐治だ。
 さりげなく向ける誘惑の笑みで、女性達のここぞという部分を褒めそして商品を差し出す。
「帯留めが素敵ですね」
「え? そうかしら‥‥でも新しいのも欲しいと思ってるんだけど‥‥」
「それでしたらこちらなんて如何ですか? その帯にこちらの色も合うと思いますよ」
「あら、本当」
 上手い、上手すぎる。女性客が放っておくはずがない。しかも伊佐治は化粧直しまでしてやっているのだから余計だ。綺麗な着物に綺麗な化粧。女達は誰もが美しくなることを望んでいる。
 そして極めつけのように、その新しい着物で初詣なんていいと思うなぁ、等と笑顔で言われたら勧められたものを買ってしまいたくなるだろう。小物から小袖まで伊佐治は面白いように売りさばく事が出来た。

 その頃、店の外では晶が傘回しをして客の足を止めていた。
「あけましておめでとうございますー‥半月ばかり早いですけどね」
 しかし今日はいつもより多く回っております、と晶が言うとおり傘の上を升が数個カラカラと上手い具合に回っていく。
 拍手が沸き起こり晶もまんざらでもなさそうだ。
 升の他に玉を加え、更に傘を回す速度を速める。
 時にゆっくりにし、落ちそうに見せかけておいてすぐに持ち直すと華麗な升の踊りが傘の上で行われる。
 しかしそういう時に限って、ぽろり、と一つ升が落ちてしまい、それを拾おうとすると全てのものが傘から落ちてしまい失敗するということをわざとしてみせる晶。観客の笑いを誘うというのも計算の内だ。本当に失敗した時も誤魔化せるということも計算には入っていたのだが。
 そんな晶の反対側で椿も獅子舞を披露していた。店頭で年始に行われる芸が行われていることもあり、客はどんどん集まってくる。しかしやはり女性客の方が多いようだった。年始に綺麗な着物を着たいと思うのは女性の方が強いのかもしれない。
 集まってきた客は憐慈と真緋呂の声に導かれるように店内へと次々と入っていった。

 迷っている客の隣で憐慈が、パシン、と扇子を閉じ帯を指す。
「こっちが合ってるようだな」
「え?」
 これとこれで迷っていたのだろう、と憐慈が尋ねると女は頷いた。
「色合いも雰囲気もあんたにはこっちが似合ってると思う」
 営業スマイルを浮かべていた憐慈だったが、女の方はその笑顔に頬を染めながら憐慈が指した帯を手に取りそれを購入していった。
 迷っている初老の男性にも上手い具合に取り入り、小袖を買って貰う。
 町中での呼び込みもそつなくこなしていたが、店内でも良い働きをしていた。
 そんな憐慈の隣では真緋呂が元気に接客をしている。
「素敵なお父様って自慢♪」
「そうかい?」
「とっても。そんな自慢のお父様が小袖なんかを買ってきてくれたら嬉しいな」
 極上の笑みを浮かべる真緋呂。
 その笑顔に男は自分の娘でも見たのだろうか。
「新しいお着物でお正月‥女の子だったら嬉しくて、お父様大好きって思っちゃうv」
「そうか‥よし! この小袖を貰おう」
「ありがとうございます」
 真緋呂の標的は自分と同じくらいの娘さんがいたり、奥さんがいそうな男性だった。
 男親の心を擽るような事を言っては小袖を購入して貰う。
 別に嘘は吐いていないし、新しい着物を買って貰えば誰だって嬉しいだろう。
「よーし、次は僕が着てる葛の文様も『繁栄』を意味する縁起の良い文様だからお勧めしちゃおう」
 ぐっ、と拳を握って次のおじ様へと近寄る。
 真緋呂も男性客からの売り上げをしっかりと伸ばしていた。


 最後の客を送り出す真緋呂の声が店内に響いた。
「ありがとうごさいました。どうぞ良い御年を」
 最後まで元気な真緋呂の声に皆笑顔になる。
 皆様に幸ありますようにと願いを込め外まで見送りをする、心のこもった真緋呂の挨拶だったからに他ならない。
「本当に助かったよ。こんなにすごい売れ行きとは思わなかった。またこういったことがあったら頼みたいもんだ」
 店主は笑顔を浮かべ、皆にも幸ありますよう、と告げ頭を下げた。