星の贈り物 〜迷いの森の喫茶店〜
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■ショートシナリオ
担当:DOLLer
対応レベル:フリー
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
リプレイ公開日:2007年04月16日
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●オープニング
迷いの森はいつでも真夜中。だけど、決して真っ暗ではありません。いつもお月様が微笑みながら見守ってくれていますし、ナラの木にはフロクウさんの目がライトのようにチカチカ辺りを照らし、杉の木さんはぼんやりヒカリゴケで着飾ってお出迎え。果物は色鮮やかに甘ぁく光って、幻想的。それを蟻さんが忙しそうに運ぶものですから、真っ暗なところを探すのが難しいくらいです。
そんな森のど真ん中で、喫茶店『月の雫亭』はひっそり営業をしています。
大きな樫の木のうろ二つから、煌々灯りが漏れていて、その間にある大きな口に見えるのが入り口の扉です。ゆっくりあけると、扉から伸びたスズランが、チリリン、リリンとかわいらしい音を立てて皆さんの来訪を知らせます。
「やぁ、いらっしゃい。よく来たね」
長い金髪を一束にしたお兄さんが、にっこり微笑んでお迎えしてくれます。小さな石を二つくびれた姿のランプに放り込むと、火花がパチンと飛んで、あたりを明るく照らします。
何を頼もうかな。
店の天井を走る蔦からぶら下がるメニューを眺めて、あなたは考えます。
マジョラム、ヒソップ、ペパーミント。アップル、ヤムヤム、ベリーバラード。種類を眺めるだけで首が痛くなってしまいます。
「ああ、今日はね、お月様感謝デーなんだ。だから、今日のお茶はどれも月の雫が入るよ」
月の雫?
首をかしげるあなたに、窓際でお茶を飲んでいたタキシード姿のクマさんが声をかけます。
「まぁ、飲んでみたらわかる。お茶は語るものじゃない、香るものだよ」
「それもそうですね」
そういって、お兄さんは『お月様』と書かれたポットを取り出し、蓋を開けます。中からはとろとろ、ふんわり。お月様の子供みたいなものがあふれ出てきます。ころころしててなんだか卵の黄身みたい。
「ありゃ、なんだか暗いなぁ」
「それはあれだ。お月様に光が足りないからだ。いつも月明かりを受けてばっかりで、返していないだろう。ほら、ランプだって、たまに灯りや油を入れてやらないと、輝いてくれないだろう。それと同じだ」
クマさんの言葉にみんな目がぱちくりとします。
お月様にどうやって光を返すのでしょう? ライトで照らしてあげればいいの??
「星をね、作って集めて、空に浮かべるんですよ。お月様はその星から輝きをもらっているんですよ」
お兄さんはそう言いながら、『お星様』と書かれた空のポットをあなた達に渡します。
どうも贈り物をするのは、私たちのようです。
でも、星ってどうやって集めるの? どうやって浮かべるの?
ハテナマークが飛び交うあなた達に、クマさんもお兄さんもにっこり笑っています。
「コツが分かればすぐですよ。できれば、みんなで楽しめるくらいたくさんのお星様を集めてくださいね」
●リプレイ本文
●星の海。
南の海は星の海。青と碧の波間から、ほろりほろりと、音が鳴り、砂浜でお星様が眠っています。
「あら、こんなにもたくさん。おねむの時間ですのね」
エヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)さんは、目をぱちくりとさせながら、星さんが眠っている光景を見つめていました。だって、砂浜はそんな星さん達できらきら。海にもまだ星さん達がいるのか、やっぱりキラキラしています。ここに迷い込むまでは思いも寄らなかったことです。
星さんは砂のように小さくて、キラキラしているけど、まだ小さい。赤ちゃん星なのかも?
エヴァーグリーンさん、みんなはエリさんと呼んでいますので、そう呼びましょう。エリさんは月の雫亭のお兄さんから貰った『お星様』と書かれた透明の瓶に赤ちゃん星を丁寧に入れていきます。
さらさら、りんらん、すーころりん
瓶に入れると瓶の底などに当たって、可愛らしい音を響かせます。
「お星様が歌っているのですね」
一緒に星集めに来た、リディエール・アンティロープ(eb5977)さんがその様子を見て、にこりと笑いました。そんなリディエールさんは、いつもは薬草を入れる為の籠に、たくさんの貝殻が集めていました。
「リディエールさん、それをどーするのです?」
「海で光る物といえば貝殻かと思いまして、これを細工したら星ができるのではないでしょうか」
そしてちょっと痛いかもしれないけれど、七色虹色に輝く貝殻を右手の指輪でこつん、と叩くと、お星様が3つ生まれました。
「わぁ、きれいですの。貝はお星様の揺りかごでしたのね」
「巻き貝なら、先が尖っているからそのまま星になるかもしれませんね」
大きい貝から、小さい貝まで、軽く叩くと次々星が生まれます。それをエリさんが次々に拾って瓶の中へ。あっという間に、透明の瓶は輝くお星様でいっぱい、少し傾けるだけで、ちりちり、ころころ、様々な音がします。
「これを空に浮かべれば、お月様もきっと喜ぶでしょう」
と、リディエールさんは言いながらも、実はちょっと心配。瓶に入っているのは、まだ赤ちゃん星ばかり、空にたどり着けても、流れ星になってしまわないかな、と。
「お空にはまだまだいーっぱいお星様がありますし、入れるスペースがあるでしょうか」
エリさんもやっぱり心配。
月の近くには確かに星は少なめですけれど、南の海辺はお星様が流れる天の川がよく見えます。たくさん星があるのも心配な話です。
おや?
ぼんやりと空を見上げていたエリさんとリディエールさんは揃って小首をかしげました。
「天の川、動きました?」
「動きましたよね」
まっすぐな川の流れが、少し曲がって。
あらあらあら、曲がったところからお星様が流れてきました。
「流れ星です」
目の輝きをそれこそお星様のようにして、エリさんが流れてくる星を見つめます。しかし、リディエールさんはそれどころではありません。
お星様は、まっすぐこっちに落ちてきているのですから!!
「あぶないっ」
エリさんを庇って、ぎゅっと目を閉じるリディエールさん。
だけど、お星様が落ちてくる凄い音はいっこうにせず、それどころか優しい歌声が聞こえてきます。
「♪お星様 私の腕にいらっしゃい
お空のビロード恋しいなら、ふかふかウールをご用意しましょ 」
恐る恐る目を開けてみると、シェアト・レフロージュ(ea3869)さんがウールを敷いた籠の中を持って歌っています。そしてその歌の通りに、落ちてきたお星様はみーんなその籠の中に吸い込まれていきます。といっても、落ちてきたお星様は凄い量なので、あっという間に塔か山みたいにうず高くなっていますけれど。
「大丈夫か‥‥?」
おとと、とよろめくシェアトさんに上から声がかかります。闇色の髪の毛と瞳をしているのはウリエル・セグンド(ea1662)さんです。愛馬のネグロにはその毛並みと同じ色の翼が生えて、空を優雅に飛び回っています。そしてその背にはキラキラお星様が尾を引いてついてきます。
「はい、たくさん連れてきていただいてありがとうございます」
そう答えるシェアトさんは降りてきたネグロとウリエルさんを少しばかり心配そうに、そして羨ましそうな目で見つめます。
「お空の旅はどうでした?」
「ああ、ネグロがうまく飛んでくれたから‥‥初めて空を飛んだのに大した物だ‥‥。ネグロも、それからあのお茶も。まだ体がふわふわする感じがする‥‥。羽馬(horse bean:ソラマメ)のお茶と言われるだけある‥‥」
そう言うと、ウリエルは優しくネグロに生えた翼を撫でてあげるのでした。
さて、お星様もたくさん集まってきました。
新しいお星様も入り交じって、彼らをもっともっと輝かせなくてはなりません。
「それでは戻りましょうか。よい、しょ‥‥」
シェアトさんは星の山になった箱を持ち上げますが、あっちよろよろ、こっちふらふら。星って意外と重たいのです。ふかふかの箱の中が羨ましくって、シェアトの飼い猫のイチゴちゃんが忍び込もうとするからさらに安定しません。
「皆さんの祈りがこもっている分、重くなっているのかもしれませんね」
リディエールさんは、そういうと、飴でできた網を広げてさぁ、どうぞ。と示しました。こぼれた星もこれなら安心。飴にくっついてこぼれることはありません。
●甘い一時(3時のおやつ)
「これは大忙しでござるなぁ」
月の雫亭では沖鷹又三郎(ea5928)さんを筆頭に料理作りで大忙し。だって、海辺から帰ってきたみんなが、たくさんのお客様のお星様を連れて帰ってきたものですから、それに見合うだけの料理を作らねばなりません。
でも、心なしか嬉しそうな顔をしているのは、お料理を食べてくれる人がたくさんいるから?
それとも優しい音色が流れているから?
「♪あなたにありがとうをたくさん伝えたくて」
シェアトさんの歌声が、すぐ隣から響いてきます。シェアトさんは吟遊詩人。料理人の沖鷹さんは厨房にこっそり忍び込んでくる歌声しか聞けませんけれど、今日はすぐそばで歌ってくれているのです。彼女だけではありません。
「♪花を一つずつ集めた 喜びの花 幸せの花 笑顔の花」
シリル・ロルカ(ec0177)さんもリュートをかきならしながら一緒になって歌っています。小気味の良いリズムが響いて、一弦ならすごとに、音符がぽん、ぽろんとこぼれ落ちてきます。それを沖鷹さんが作ったクッキーの生地で受け止めるのはラテリカ・ラートベル(ea1641)さんです。ラテリカさんもバードですから、こぼれ落ちる音符をうまくまとめて手の平に広げたクッキーの生地の中においでおいでするのもそれほど難しいことではありません。
少し、音が外れたり、余所から違う音が紛れ込んだりしても、ラテリカさんは二人が唄う歌のリズムにあわせて、やはりクッキーで包んでしまいます。
今日は音楽も大事な調味料。厨房にいるみんな揃って歌を唄いながらのお料理です。
「♪言葉じゃ伝えきれないくらいの気持ちを 花束にして」
エリさんも生地を作るお手伝い。ホットケーキの材料は、小麦粉、卵、砂糖に喜び。スフレの隠し味は明日への希望。音符に込められた気持ちを生地にとけ込ませましょう。
「わわ、跳ねたです!?」
と、あまりにも合唱に熱が入ってしまったのでしょうか。生地にとけ込んでも音符が飛び跳ねて出てきてしまいます。おかげでラテリカさんのお鼻にクリームがぺとりとついてしまいました。
「おや、少し元気になりすぎたでござるな。それでは少し、穏やかなものを入れるとよいでござろう」
沖鷹さんは小瓶を選んで取り出し、なおも跳ねる音符をキャッチしました。
しばらくはその中でまゆばいくらいに跳ねていた星ですが、やがてゆーらり、ゆらりと段々落ち着いてきました。
「すごいですの。どうやったのです?」
「ラベンダーの香りが入っているのでござる」
瓶の真ん中で揺れるお星様は遊び疲れた子供のよう。沖鷹さんはラテリカさんのお鼻に着いたクリームを取ってあげると、音の入ったお菓子達を竈の中に入れたのでした。
「随分と良い香りがしますね。待っているお星様達は香りだけで元気になっていますよ」
厨房に顔を現したのは、十野間空(eb2456)さんです。お星様と遊びたくてうずうずしている狼の希望(いのり)も一緒です。
空さんの言葉に誘われるようにして、シリカさんはクレセントリュートを持って広場の方に目を向けます。
広場はもう星でいっぱい。リディエールさんが用意した木の実は氷に包まれ、沖鷹さんの用意した飴も共々、ぼんやりの月明かりを受けると、輝きをたくさん生み出します。もう森の中は眩しい夜がやってきたといっても過言ではありません。ですけれどもシリカさんは少し寂しそうでした。
「まだ、暗いですね。万人を慰め、闇夜を癒す月を手助けするには、星達は小さく、そして弱い」
お星様達は厨房から流れ出てくる音だけでも、楽しそうにしています。
だけど、こんなに小さいお星様。夜空に浮かんでは心許ないのはシリカさんも空さんも同じ思いでした。
「そうですね‥‥『星に願いを』と言うように、人はしばしば星々に想いや願いを託します。様々な暖かい想いを祈りに変えて、夜空に星を集めてみましょうか」
静かに祈る様子を見て、シリカさんは穏やかに笑みを浮かべました。
「そうですね。夜闇を憂いた清き乙女の歌声が星となった‥‥。そんな昔語りがあったことを思い出しました」
シリカさんは星の広場に分け入り、平たくなめらかな、腰掛けるにはちょうど良い大きさの岩を見つけるとそこに腰掛けました。
「祈ることは重要なことです。その祈りに心と言葉と形を与えてあげることも、重要なことよ」
シリカさんはそういうと、クレセントリュートをつま弾き始めました。
「♪つめたくうららかな蒼穹のはて 水風輪の宿る空 白くまばゆい光と熱
真の空に顕現したせまし 玉髄の八雲のなかに 人は誘い行かん
かくあれかし かくあれかし」
高音の和音がひびきあって、お星様を強く凛とした音で振るわせます。
するとどうしたことでしょう。お星様は互いに震えています。互いに励ますように、お互いを照らし出すように。
輝きがどんどん増していきます。喫茶店からもできあがったクッキーなどのお菓子から星が生まれ、ラテリカさんが込めていた音符の元気良さ同様に跳ねるようにして広場に集合です。
「この温かな光に包まれた星達が、皆に希望を与えますように」
ね、希望(いのり)。と、空さんは輝く星の広場を見入る雪狼さんを撫でるのでした。
●願いを夜空に
星の輝きは満ちました。
「さあ、それじゃ行ってくるよ‥‥」
「気をつけてくださいね。落ちても大丈夫なようにクッション用意してますからっ」
再び空に向かうウリエルさんは、星の案内人です。お空の向こう側までお星様を連れて行くのですから、とても高いところに行ってしまいます。シェアトさんはクッションを両手一杯に抱えてウリエルさんをお見送り。
「それじゃ、いくですの」
ラテリカさんが、木の枝をいっぱいにしならせて、その枝葉に、空さんが一つ一つ祈りながら、風船をつないだ籠にお星様を載せていきます。
「お星様、空へ行ってらっしゃいです!!!」
その合い言葉と共にラテリカさんが手を離します。勢いよくお星様は空へ飛び立ち、ウリエルさんがネグロに跨ってそれを追いかけます。いくつかの星は勢いからこぼれ落ちて大地へと落ちますが、ほとんどは勢いよく大空へと旅立ちました。
「春を告げる風さん。強く!」
エリさんの言葉と共に春の強い風がざぁっと、森の葉を揺らします。お星様はその風に乗って更に高く高く昇っていきます。
「ああ、大丈夫でしょうか‥‥」
強い風でウリエルさん大丈夫かしら。とおろおろするシェアトさんに沖鷹さんが微笑みかけます。
「信じることでござる。ウリエル殿とネグロ殿の絆を、拙者達の気持ちが繋がっていることも」
でも、だけど。不安がぬぐえません。
気弱な顔を見せるシェアトさんに、リディエールさんが、ほら、と指さしてくれました。
見上げてみると。みんなで作ったお菓子の星がお空で輝いて、中にこもっていた音符が我慢できずに飛び出してきました。夜空一杯に音が降り注いできます。波の音、風の音が混じっているのはエリさんやリディエールさんが取ってきた星砂や貝殻に音符が触れるからでしょうか。
たくさんの音が森一杯に降り注ぎます。
「♪あなたにありがとうをたくさん伝えたくて
花を一つずつ集めた 喜びの花 幸せの花 笑顔の花
言葉じゃ伝えきれないくらいの気持ちを 花束にして
あなたにプレゼントするよ ありがとうって」
森全体が奏でます。
「♪夜闇にさびしさたくさんあったけど
あなたは光浴びせてくれた 優しい光 安らぐ光 静かな光
言葉じゃ伝えきれないくらいの気持ちを 星に込めて
あなたにプレゼントするよ ありがとうって」
「みんなの歌声聞こえるか‥‥?」
空を駆けるウリエルさんは深い森から響く歌声を耳にしながら、お星様達を夜空に導いてあげました。途中、天の川で手を振る男女や空をぐるりと走る動物たちを見やりながら、お星様を空のビロードに縫い止めていきます。針と糸はリディエールさんが全部のお星様用に用意してくれていたので、縫い止めるのはそれほど時間のかかることではありませんでした。
「お月様‥‥これで元気になってくれるといいな‥‥」
遠くで煌々と輝くお月様を眩しそうにウリエルさんは見つめると、ゆっくり手を振る皆の元に降りていくのでした。
●
空に舞い上がれなかったお星様はシェアトさんが摘んだお花にのせて、海から旅立っていきます。海の果てはきっとあのビロードに繋がっているでしょう。その時には水の女神様がきっとお手伝いをしてくれるはず。
「月が、明るくなりました」
喫茶店のお兄さんは眩しそうに空を眺めました。
「ありがとうございます。きっとお月様とても喜んでいますよ。月の雫もずっとコクのある味になっていることでしょう。さぁ、それではお茶にしましょうか」
今日は夜空と海を眺めてのティーパーティー。
デザートには飴で包んだ木の実と、丸ごとシャーベット。それからお菓子をどうぞ。
お茶はどんな味がするのでしょう。味も香りも全部違うけれど、一緒なのはみんな幸せそうな顔をしていることと。水面を傾ける度にオルゴールのようにみんなの耳を癒してくれます。
こんころりん
こんころりン。
おやすみなさい 良い朝を。
こんころりん
こんころりン。
夜になったら、また来てね
こんころりん
こん ころ りン‥‥