豪華客船ゾンビツアー

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリー

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2006年04月14日

●オープニング

●取り残された僕ら
 キミ達は、事業や何やらで成功を収め、一生使いきれない程の財を成した。
 そこでキミ達は、仲間を募り、太平洋を一周する豪華客船での旅行をする事にした。
 船には宿泊施設やレストランは言うに及ばず、一ヶ月間丘に上がらずに生活できるだけの店や物資、さらにはプールやカジノ、劇場に映画館‥‥と言った、娯楽施設も整っている。
 ところが。
 出航して数日後、船に原因不明の病が流行ってしまった。健康体のキミ達は、隔離の為数箇所の部屋に集められ、日々を過ごしていた。
 そして、さらに何日か過ぎたあと、船が突然停止してしまった。不気味な沈黙の中、キミが恐る恐る扉を開けると。
「きしゃああああ!」
 そこにいたのは、従業員各位ではなく、体の腐りかけたゾンビ御一行様。部屋に備え付けられたモニターごしにカジノのステージを見てみれば、あちこちで唸ってた筈の病人が、全員ゾンビと化している。中には、身体をかじられた痕のある、スタッフ姿のゾンビがいる所を見ると、彼らは生きている人間を襲うようだ。しかも、かじられたら感染するらしい。
 そう。
 大海原の上と言う隔離された空間で、船と言う牢獄に捕らわれた彼らは、ありあまるゾンビから身を守り、脱出しなければならないようだった。
 有り余るお金なんか、役に立たないぞ。どうする?

●今回の参加者

 ea0029 沖田 光(27歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0258 ロソギヌス・ジブリーノレ(32歳・♀・レンジャー・人間・エジプト)
 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4675 ミカエル・クライム(28歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb0901 セラフィーナ・クラウディオス(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0990 イシュメイル・レクベル(22歳・♂・ファイター・人間・ビザンチン帝国)
 eb4410 富島 香織(27歳・♀・天界人・人間・天界(地球))

●リプレイ本文

 廊下にも客室にも、ゾンビがうろちょろしている。それを見て、セラフィーナ・クラウディオス(eb0901)はこう言った。
「あの人‥‥2〜3日前には、元気だったはず‥‥」
 彼女の台詞に、はっとした様子で、イシュメイル・レクベル(eb0990)が走りだす。別の部屋に隔離されていた筈の両親が、自分へと向かっていたから。
「待って! そっちに行かないで!」
「お父さんとお母さんがいるんだ、置いてけないよっ!」
 富島香織(eb4410)が止めたが、時は既に遅い。目の前で、ゾンビ達の群れに呑まれて行く少年。真っ青な顔をする彼女。寂しがっていたイシュメイルを、ずっと励ましていた身分としては、辛いものがある。せっかく、抽選で当たり、無料乗船できたと言うのに。
「負けません。私にも幸せになる権利くらいあるはずです!! ‥‥たぶん」
 油田を掘り当てて、手続きの為に母国へ帰る途中だったと言うロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)、明るくそう言う。そんな中、沖田光(ea0029)はブルーのマントを羽織りなおし、こう言った。
「大丈夫! 信じる心は力になるんだから!」
「艦長の言う通りよ。それに、この程度なら慣れてるし」
 ミカエル・クライム(ea4675)、意味ありげな表情を浮かべて、そう告げる。能力者達の間で、炎熱の女帝の二つ名を捧げられているのは、伊達じゃない。
「‥‥武器は確か、シグザウェルとMP5があったな」
 荷物の中から、がさごそとハンドガンとサブマシンガンを調達するクリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)。分解してあったAT銃を手早く組み立て、胸のホルダーに収める。アタッシュケースにも収まるコンパクトなMP5Kは、そのまま手に持つ事にした。
「こいつの切れ味を試すのもよさそうだ」
 リョウ・アスカ(ea6561)が、そう言って背中から出した布包み。それは、長さ2m弱はあるクレイモアだった。彼の家に伝わるものらしい。
「救命艇は、甲板の教会裏にあるようですね」
 一方、食料を確保していた沖田が、避難用地図を見て、そう言った。だが、エレベーターはゾンビ達に壊される可能性がある為、使えない。ここは香織が言う通り、エスカレーターを階段として利用するしかなさそうだ。
「なんだか私、ゲームが違う気がするんですが‥‥」
 ヒノキの棒と鍋の蓋を手に、布の服そのままのイシュメイルが、不安そうな表情を見せている。最前列で日本刀を手にした霧島小夜(ea8703)が「前に出ないほうが無難だな」と言っていた。
「準備はいい?」
 それぞれ武器を手にした一同を確かめ、沖田が扉に手をかける。
「囲まれないようにしないとな。合図したら、一斉に撃て」
 そこまで指示をした小夜、自嘲気味にこう呟いた。
「にしても、私はやけに冷静だな。ま、生き延びてから考えよう。さて‥‥行くぞ!」
 ばしんっと扉を蹴り開ける彼女。その向こうには、ぞろぞろとこちらへ歩み寄るゾンビ達。
「こう言う時の為の、力なんだからっ」
 ミカエルがそう言いざま、指を鳴らす。ぱちんと音がした刹那、ぼんっと爆発音がして、目の前のゾンビが数体、頭部を四散させた。彼女はパイロキネシスを使えるらしい。
「この廊下を進むのが、一番近いルートみたいですよ」
 マップを手にしていた香織が、そう言った。伊達にカウンセラーを目指しては居ない。こう言った場面にも、冷静だった。
「出来るだけ避けたかったんだが、無理そうだ‥‥な!」
 クリスがそう言いながら、MP5Kを乱射する。ある者は足を吹き飛ばされ、ある者は頭を砕かれ、ある者は胴体が粉々に分断され、廊下で次々と肉塊になった。
「きりがないわね‥‥」
 セラも、持ち出した薬品で、次々とゾンビを灰にしている。今の所、弾丸は充分にあるし、廊下のあちこちで、何故か拾えるので、あまり心配はしていないが。
「うわぁぁぁ。こないでぇぇぇ!」
 しかし、その間にロソギヌスが、鍋の蓋で防御しながら、ひのきの棒でゾンビを殴っているものの、パニクった神経では、まったくダメージを与えられない。
「落ち着いて! 大丈夫ですから!」
 安心させるように、そう言う香織嬢。その先から、乳白色をした光の矢が放たれ、ロソギヌスの周囲から、ゾンビを退けていた。逃げてみせる。そう自分に言い聞かせる彼女。
「そうですよね! 自分の運命は自分で切り開‥‥せ、戦略的撤退です〜〜」
 その姿に勇気付けられたロソギヌス、前にも増して、ぺっこんぽっこんとひのきの棒を振り回すが、運も実力もないので、あっさりと囲まれてしまう。
「どけ! はぁっ!」
 伸ばされた腕を、リョウが伝家の宝刀スヴェルヴェン・クレアを力任せに振り下ろし、切り落としていた。勢い、胴体までなぎ倒されるゾンビ。しかし、それでも彼らは止まらない。セラの話では、傷を負わされると、そこから感染するらしい。カウンター系の技は使えなさそうだった。

 一行は、何とか客室から廊下を抜け、エントランスホールへとたどり着いていた。
「壊されてやがる‥‥」
 非常用通信室を見て、そう言うクリス。緊急連絡用無線は、使い物にはなりそうにない。
「はぁっ」
 小夜が、階段の上から現れたゾンビ達に踊りかかるようにして、日本刀を袈裟懸けに振り下ろす。それでもなお向かってくるゾンビ達を、香織がムーンアローで牽制し、不満をこぼしていたクリスが、拾った手榴弾を、ゾンビの群れに放り投げる。どぉぉぉぉんっ! と、派手に爆発音が上がり、雑魚ゾンビが吹き飛んだ。
「雑魚だけはなさそうだな‥‥」
 そんな彼らに、リョウが剣を握りなおしながら、警告する。吹き上がる煙の向こうから現れた、二体のゾンビ。
「ゲートキーパー‥‥?」
 明らかに死んでから付けられた焦げ痕と、矢の突き刺さった痕を持つ、年配の男女を見て、ミカエルが疑問を口にする。
「‥‥父と母だ」
 冷静に答えているリョウ。しかし、握り締めた剣が、穏やかではない事を告げている。
「だが、今はまごう事なきゾンビ‥‥。ならば、いっそひとおもいに!」
 宝剣を、腰の辺りで両手持ちした彼は、迷いを見せずに、階段を駆け上がった。かなりの重量があるはずのそれを、その勢いのまま、まず母へとつきたてる。返す刀で、斜め上から、今度は父へと振り下ろしていた。
「‥‥こんな、別れ方など‥‥」
 握り締めた拳に落ちる、涙。
「せめて、ご両親の為に祈りを‥‥」
 フローラ・タナー(ea1060)が、胸元からロザリオを出して、安らかに眠れるよう祈る。その刹那、天空から光が降り注ぎ、再び死者の葬列に加わった者達を浄化してくれた。自分の両親が、天国への階段を昇って行ったのを見て取り、リョウは少しだけ安心した表情を見せる。
 だが。
「お前‥‥生きてたのか!?」
 階段を上ったそこにいたのは、両親を従えたまま微笑むイシュメイルの姿だった。いぶかしむリョウの目の前で、彼は自分の腕をぶち切って見せる。通りで、両親が一撃で死んだわけだ‥‥と、納得するリョウ。と、彼はそれこそ死者の目で、小夜ににじり寄る。
「噛まれて‥‥たまるか!」
 幸いな事に、あまり動きは早くない。感染してなるものかと、刀で振り払う小夜。その切っ先が、イシュメイルをかすめ、軽くない傷を負わせるが、彼はまったく動じていなかった。
「平気なの‥‥?」
 ミカエルがそう尋ねると、彼は目の前で傷を撫でる。と、その傷跡が綺麗さっぱり消えていた。その様子を見て、彼女は意を決したようにこう告げる。
「‥‥先に行って。あたしが此処で食い止めてるから」
 そんな事は出来ない。そう言いたげな香織。だが、ミカエルは自信たっぷりにこう言って見せた。
「大丈夫、すぐに追いつくから、ね」
 これ以上、犠牲者を出すわけには行かない。そう判断したリョウは、イシュメイルを無理やり退かすように、宝剣を力の限り振り下ろす。その隙に、ミカエルが煙幕を張り、仲間達を逃がしていた。
「化け物になってる‥‥」
 だが、煙が収まった後、イシュメイルの姿は、両親ゾンビを取り込み、不気味な姿へと変化していた。顔だけは、以前の少年そのままの姿。指を異様に伸ばし、その爪はナイフの様に鋭い。周囲に浮かぶは、フォークやモップ。
「上等ね!」
 だが、ミカエルがぱちりと指を鳴らすと、浮かんだ調度品の数々を、炎で包んだ。次いで‥‥階段も。
「Burn it up. Its Showtime!」
 炎熱の女帝の、炎のショーが始まった。だが、その後ミカエルを見たものは、誰もいなかったそうである‥‥。

「燃やした方が早いと思うけど、この状態では、無理かも知れないわね‥‥」
 ゾンビに囲まれ、白衣を着たままのセラがそう言った。と、その言葉を聞いて、沖田艦長は、マントから大降りの書物を取り出す。
「僕が道を作ります! ゾンビごとき、この死霊秘宝の叡知があれば!」
 親の遺産で買いあさった古代の魔道書を、パラパラとめくると、これだ! と言わんばかりにして、ゾンビ達を炎に包み込んだ。焼け焦げた後に道が出来る。
「今だ、駆け抜け‥‥って、危ない‥‥!」
 だが、燃えきらなかったゾンビが起き上がり、手を引かれていたフローラに襲いかかる。
「く‥‥っ!」
 ざしゅっと肉を斬る音がしたのは、彼女ではなく、議長の方。白の上着を血で染めながら、なお彼は持っていたショットガンで、ゾンビ達を抑えている。
「私の事は構うな! 走れ! フローラッ!」
 彼が叩き込んだのは、フロアの先にあった小部屋だ。
「死に損ないが‥‥死に直せっ!」
 入ったそこにも、数体のゾンビ。だがそれは、小夜が一刀の元に切り捨てる。
「そんな! ここを開けて! ギル! お願い!!」
 ばたんと閉じた扉の外側で、議長が何やら叫ぶ声と、ショットガンの音。そして静寂。
「なんでこんな事に‥‥」
 パタンとへたり込むフローラの横で、同じ様に座りこんだ香織がそう呟く。
「無事でいて、ギル‥‥」
 誓いの指輪にそっと口付けるフローラの脳裏には、誓いを交わしたときの光景がよぎっているのだろう。家族となった者を心配するフローラの姿を見て、沖田艦長は励ますようにこう言った。
「皆、自分の力を信じて! だって僕達は、このアトランティスで共に戦った仲間なんだから! そして、ここで出遭ったのも、運命なんだ!」
 ちなみに、アトランティスと言うのは、この船の名前だ。
「そうですね。みなさん、無事逃げ切って、ディナーをどこかで食べませんか? もちろん、ギルバードさんも一緒に」
 自分がここで落ち込んでは、皆の心が折れてしまう。沖田艦長の言葉に、そう思った香織は、そうフローラに声をかける。
「はい‥‥。ありがとうございます。どうか神よ‥‥。我らをお守り下さい‥‥」
 心配された彼女、そう言って天へと祈る。それは、部屋にたどり着いた者達に、力を分けてくれた。
「ここから、上に出られそうです」
 また、扉の外が騒がしくなってきたのを見て、セラがダクトのはしごを指差す。ゾンビ達に囲まれないうちに、そのはしごを上った一行がたどり着いたのは、先日フローラ達が挙式した教会だ。
「強そうな奴がいるな‥‥」
 小夜がそう言った。見れば、まるで参列者のように、ひと回り大きなゾンビ達が並んでいる。ホールを兼ねたその向こう側には、階段があり、それを下れば、救命艇へとたどり着ける‥‥筈だ。
「嘘‥‥!」
 ゾンビ達に囲まれた中、ゆっくりと歩み出てきた‥‥フロアボスを見て、フローラが悲鳴じみた声を上げる。その姿は、先ほど行方不明になった筈のギルだったから。
「急所に一撃できれば、私にも勝機が‥‥あれ? 急所ってどこですかねえ?」
 のんきにそう言っているロソギヌス。だが、ギルはそうは行かない。変形した腕は、神を冒涜するかのような十字の剣となり、彼は慌てて逃げ惑う事になる。元は軍属だったとかで、そこらのゾンビ達とは、桁違いなのだろう。
 と、もはや生ける屍と化した夫を魔の辺りにしたフローラは。
「この場は、私が。後から追いかけます」
 ロザリオを握り締め、強い決心を見せる視線。刺し違えてでも、夫を止める気なのだろう。その思いを知った仲間達は、多くを語らず、先を急ぐのだった。

 そして、甲板にたどり着いた彼らは、現実を目の当たりにする事になった。
「止まったのは、アレが原因だったんだ‥‥」
 沖田艦長の視界には、本来あるはずのない所にある、陸地と神殿が映っている。
「誰かが降ろさなきゃいけないみたいだな」
 クリスがそう言った。見れば、救命艇はクレーンに吊り下げられており、誰かが操作しなければ、海へ出られない仕様になっていた。
「わかった。だったら僕がやる」
 沖田艦長が申し出る。祖父の名に賭けても、乗客を見捨てるわけには行かない。そう、艦長としての責任感を覗かせる彼。
「そうはさせないよ」
 くすくすと笑いながら、その前に立ちふさがった者が居た。なんと、ロソギヌスである。
「気づいたんだ。僕の不幸を、皆にもお裾分けしてあげれば良いってね。一緒に死のうよ!」
 彼がそう言った瞬間、細身の体から、奇妙な翼が生える。そう。既に彼は死者の1人だったのだ。隔離されるその前から。
「行って! 艦長は艦と運命を共にする!」
 そんな中、沖田はクレーンを動かしていた。ロソギヌスがそんな彼をひきづり下ろそうと、生やした爪を使って、しがみつく。そこへ、セラが隠し持っていた薬品ビンを投げつけた。空気に触れると発火するように調合されたそれは、あっという間に燃え上がる。
「こ、こんなオチは認めませ‥‥」
 衝撃で、船の外に投げ出されたロソギヌスは、そのまま海へと沈んで行く。刹那、船のあちこちから、炎が巻きあがる。その炎は、教会に残っていたフローラの周囲にも、燃え広がっていた。
「これで‥‥。でももう‥‥動けない‥‥」」
 ゾンビと化したギルを倒し、崩れる彼女。あたりを染める浄化の炎は、他のゾンビ達のみならず、夫も天へ還して行く‥‥。
「心配しないで下さい。私も御供しますから‥‥」
 力なく微笑んで、そう言うフローラ。と、ギルは彼女を横向きに抱き起こし、こう告げる。
『死なせるわけには行かない。それに、腹の子まで、道連れにするわけにはいかないだろう?』
「ギル‥‥知って‥‥」
 彼の言葉に、はっと顔を上げたフローラは、反射的に腹を押さえていた。
『元気な子を産んでくれ。愛する我が妻、フローラ』
 最後にそう言って。光に紛れていくギル。残されたのは、誓いの指輪。名前の入ったそれを、フローラの手に残したまま、豪華客船アトランティス号は、数多きゾンビと共に、海の藻屑と消えるのだった‥‥。