何もかもが大きい世界

■ショートシナリオ


担当:姫野里美

対応レベル:フリー

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2005年09月14日

●オープニング

 平原と森、そして川。よくある田舎の風景が、そこには広がっていた。
 その中に、人知れず佇む一件の家。
 誰も住んでいないそこには、何故か沢山の猫達が住んでいる。
 君は、そこに迷い込んでしまった。
 ただし‥‥身長10cmくらいの小人になって。

 君ばかりではない。見回すと、知っている人や、そうでない人。何人かの人々が、やっぱり10cm程度のサイズになっている。どうやら、能力はそのままで、縮尺だけが15分の1程度に縮んでしまったようだ。
 幸いな事に、部屋の中には、猫達が一杯いるほかは、一通りの家具や、キッチン用品など、必要な道具が備えられている。装備品や持ち物も、奪われた形跡はなかった。ペットのサイズと、装備させている物は、そのままのサイズだったりするが。
 ただし、身長10cmの君から見ると、何もかもがでかい。
 椅子の足ですら、一抱えほどもある立派なものだ。
 おまけに、にゃんこ達は、君を動くオモチャと認識しているらしく、隙あらば捕まえようとする。まぁ、きちんと言い聞かせれば、お友達になってくれるかもしれないが。
 
 テーブルの上には、巨大な‥‥いや、普通の身長から見れば、普通のサイズだろう‥‥手紙。そこには、こう記されていた。

『君達の身長は、時間さえたてば、元に戻り、そしてその間、猫達を傷つけずに過ごせば、元の世界にも帰れる。それまでは、どうかこの何もかもが大きい世界を、楽しんで欲しい』

 何の因果か知らないが、小さくなった状況で、ただ安全に時を過ごせば良いようだ。太陽と月のマークが一周する間だけの時を。
 そう‥‥大きな大きな猫達と共に。

●今回の参加者

 ea1924 ウィル・ウィム(29歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea1931 メルヴィン・カーム(28歳・♂・ジプシー・人間・ビザンチン帝国)
 ea4744 以心 伝助(34歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8546 ノルディ・クスタリアス(23歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 気がつくと、自分達の世界は、まったく違うモノになっていた。
「何もかもが大きい世界‥‥ですか。確かに、アレもコレも大きくなってますねー‥‥」
 ウィル・ウィム(ea1924)が呟いた通り、その世界‥‥と言うか部屋では、調度品から猫、そしてペットのアークくんまで、ものすごく大きくなっていた。
「もとより、あっしより大きい物は、沢山あったっすけど‥‥、ここまで徹底して大きいのは初めてでやす」
 男性平均身長からはかなり低めの以心伝助(ea4744)くん。巨大な部屋を見回して、ぽかーんとしている。
「みゃー?」
 リビングらしきその部屋では、何匹もの猫達が、思い思いに過ごしていた。
「わぅ‥‥?」
 そんな中、不思議そうに首をかしげているわんこのアークの鼻っ面をなでなでしつつ、ウィルはどうするかを、一緒に小さくなっていた御仁に問う。
「さて、この時をどう過ごしましょうか? 長く会ってない友人も来ているようですが‥‥」
 その彼の問いに答えたのは、やっぱりちっちゃくなってしまったメルヴィン・カーム(ea1931)である。
「まぁ、小さくなってしまったものは仕方がないし‥‥。手紙には、時が経てば身長も元に戻るし、元の世界にも帰れるって書いてあるから、素直にこの状況を楽しんじゃえば良いと思うけどね」
 何だかわからないけど、とりあえず害はなさそうなので、そのままの姿で遊んでしまおうと言う魂胆のようだ。いや、その視線はすでに、大きな猫達に注がれている。
「世の中、不思議な事でいっぱいっすねぇ‥‥」
 伝助も、自分の3倍はある猫達を眺めて、そう言っていた。
「みゃー‥‥」
 で、そのにゃんこ。目の前で自分達を見上げている小さな人間‥‥いや、エルフもいるが‥‥をじーっと見つめていた。
「ねぇねぇ、さっきからあの猫達、こっち見てない?」
「そ、そのようです。何だか勘違いされているようですね‥‥」
 メルのセリフに、冷や汗を浮かべるウィル。4人が固まりながら、じりじりと右に移動すれば右に。左に移動すれば、左に。猫達は、まるで獲物を仕留める時の様に、抜き足差し足、忍び足。身体を低くして、狙いを定めている。
「と、とりあえず‥‥。にゃんこ‥‥じゃなかった。猫達に私達がオモチャでない事を、分かってもらうのが先決のようだな‥‥」
 ノルディ・クスタリアス(ea8546)が、後ろ頭に冷や汗を流しながら、そう言った。このままでは、食われないかもしれないが弄ばれてしまう可能性がある。普段の大きさならともかく、この状態では、その爪に大怪我を負わせられかねないと、冷静に分析している。
「それにしても‥‥何か増えてません?」
「ああ、1匹は私の所のシルクだ」
 最初、10匹程度だと思っていたウィルに、そう答えるノルディ嬢。どうやら、自前のペットが、猫達のお友達になってしまったようだ。
「さすがにあれは、噛み付かないっすよねぇ‥‥?」
「さ、さぁどうだか‥‥。そもそも、言葉が通じるかどうかわからんし‥‥」
 伝助が確かめるものの、彼女も愛猫シルクが、自分の言う事を聞いてくれるかは、はなはだ自信がなかった。
「とりあえず、まずはアークたちの目の前に立って、私が分かるかどうか、見てみましょう」
 まずは確かめる事が重要だ。そう思ったウィルは、とてとてと進み出ると、不思議そうな表情で周囲を眺めていた愛犬アークの目の前に立ってみた。
「アーク☆」
「わう‥‥?」
 名前を呼ばれたアーク、きょろきょろと周囲を見回し、その声の主を探している。
「こっちですよ、アーク☆」
 ウィルが大きく両手を振ってみせると、ようやくそれを認識したらしく、ひくひくと鼻を鳴らして、小さなご主人様の臭いをかいでいる。

 ぺろん。

「くぅん‥‥♪」
 同じ臭いがするので、ご主人様だと認めてくれたようだ。ぺろぺろとウィルを舐めてくれる。
「アークくんはちゃんと認識したみたいっすね」
 もしかしたら、良く分かっていないかもしれないが、そのまま嬉しそうに尻尾を振りたくり、腹を見せるアークくんを見て、伝助が『よかったよかった』と頷いている。
「臭いで分かったんだと思うよ。あ、じゃれてる」
 わうわうとのしかかってこようとするアークくんを見て、同じくわんこを飼っているメルがそう言った。
「こ、こらアーク。痛いですってばー☆」
「わん♪」
 が、いつもより背が小さいので、じゃれられる方もかなり命がけだ。下敷きになっては、アークが戸惑ったように身体をどけると言う行為を繰り返している。
「わたくしもやってみよう。シルク、シルちゃーん♪」
 普段はとても冷静な口調のノルディ、愛猫には猫なで声をあげている。
「にゃ‥‥?」
 反応はしているようだ。きょろきょろと声の主を探すシルク。
「ちちち‥‥」
 ノルディがそんな愛猫に向けて、呼び寄せるように舌を鳴らす。と、気付いたシルク、とことこと寄ってきて、小さく鳴ったご主人を見て‥‥固まった。
「にゃ‥‥?」
 軽く鳴いて、そのまま、じーっとノルディを見ていたシルク、やおら確かめるように前足を伸ばした。

 たしっ。

「あ、殴られた」
 シルクとしては意図していなかったようだが、大きさが大きさなので、ノルディに思いっきり猫パンチとして当たってしまっている。
「痛っ! 痛いじゃないか、シルク!」
 頭にたんこぶを作った彼女が、わたわたと怒り出すと、シルクはますます戸惑った様子で、逃げ出してしまっている。
「シルクちゃん、パニクってるみたいっすね」
「そりゃあそうだろうねー。犬と違うし」
 傍で見物していた伝助とメル、その様子に、お腹を抱えて大笑い。
「いいですか、アーク。ちょっと外で遊んできなさいね。それから、猫達には、絶対に危害を加えないように」
 その間に。ウィルは鼻先を撫でていたアークのリードを外し、外へと放してみせた。
「わう‥‥?」
 本人(?)は、不思議そうに首をかしげていたが、きっと遊んで来て良いんだろうと思ったらしく、とことこと家の外にある縁側らしき所で、日向ぼっこを始めた。
「ホントにわかってんっすか?」
「た、たぶん」
 言葉が通じているかわからない伝助に、ウィルは自信なさそうだ。
「にゃー」
「猫さん達、こっちに近付いてきましたッすよー」
 そんな中、今度はでっかいにゃんこ達が、4人の方へにじり寄ってきた。
「お友達にはなりたいけど、じゃれ付かれたら困るなぁ。よし、ちょっと説得してみよう」
「にゃっ♪」
 メルがそう言って動いた瞬間、猫さん達が飛び掛ってきた。
「わわっ。僕はオモチャでもネズミでもないんだってばー」
 慌てて逃げ回りつつ、メルは自分のペットを呼び寄せる。
「コタロー、ちょっとこっちおいで」
「わう? わうう?」
 コタローくんも、ちっちゃくなってしまったご主人様に、戸惑ったように小首をかしげていたが、メルが「ほら、こっちこっち」と両腕を振り、臭いをかがせると、「くぅん♪」と、尻尾を振ってくれる。
「いいかい。猫を傷つけちゃダメだからね」
 そんなコタローの背中によじ登り、猫達と同じ視線になったメルは、その背中を軽く撫でながら、そう言い聞かせた。
「わう」
 こくんと頷いたコタローくん、動かないシルクちゃんにそっと近寄る。
「んにゃー‥‥」
 そのシルクは、まるでノルディを人形か何かの様に、大事に大事に抱っこ中。
「気に入られちゃったッスねぇ。さすがは飼い主ってところっすか?」
「い、いや確かにこれは気持ち良いんだけど‥‥。こ、これでは身動きが取れん‥‥」
 伝助に感想を求められ、ふかふかの毛に埋もれながら、そう答えるノルディ。
「ゴロゴロ‥‥」
「甘えてくれるのは嬉しいんだが、これでは痛いぞ‥‥」
 一方のシルクはと言えば、喉を鳴らしながら、彼女を舐めている。わんこと違って、舌がやすりの様にザラついているので、ノルディとしては複雑な感情だ。
「ほらほら、シルクちゃん。美味しいおやつだよー」
 そこへ、コタローの背中に乗ったメルが、同じ視線から保存食をシルクの前にぶら下げた。
「にゃ?」
 良いにおいを流すそれに、素早く反応したシルク。その意識が、メルに向いた瞬間、ノルディは人形状態から脱出していた。
「すまんな。礼を言う」
「いえ。どういたしまして」
 おやつ作戦は、シルクに関しては成功したようだ。
「でも、他のにゃんこは関心ない見たいっすよ」
「ああっ。どうしようっ」
 伝助の指摘に、コタローくんの上のメルは、頭を抱えた。見れば、シルク以外のにゃんこは、『そんなものいらないにゃ』とばかりに、臭いをかいだり、無関心に頭の後ろを掻いてたりする。
「そう言う時は、猫の好物を差し出すんですよ。えーと、アークのご飯は‥‥っと。あれ?」
 そんな中、がさごそと荷物を探っていたウィルは、見慣れないものに、目を丸くする。
「どうしたんすか?」
「荷物の中にこんなものが‥‥」
 小瓶に入った木の実。オリーブにも似たそれの臭いに、猫達がぴくっと反応する。
「不思議なマタタビっすね。多分」
「どうしてこんな所に‥‥。よし、せっかくですから、試してみましょうか」
 まぁ、猫にマタタビと言うくらいだから、ガタイの大きくなった猫達にも効くだろうと目論み、ウィルはそのマタタビをぶちまけて見たのだが。
「にゃーーーーー!!!」
 臭いにつられた猫達が、どどっとよってくる。
「一杯寄ってきたっすー!」
 もみくちゃにされた伝助が、そう叫んだ。
「取り合いになっちゃうっすよ〜!」
「ど、どうしましょう。傷つけるわけにも行きませんし〜!」
 もまれているのは、ウィルも同じだ。コタローの上のメルは、どうして良いか分からず、おろおろと、右往左往。
「こ、こう言うときには、あっしにお任せッスよ!」
 そう言うと、伝助は草履のひもを締めなおした。そして、軽く助走をつけると、マタタビを1つ拾い上げ、そのままリビングへダッシュする。
「にゃにゃにゃーっ♪」
 臭いとスピードに釣られて、何匹かが追いかけて行った。
「ほらほら、順番だから喧嘩しないでー」
 その間に、ウィルがそう言って、猫達をなだめにかかる。と、その時だった。
『なんだよ。俺のほうが先だったんだぞー』
『ちょっとー、猫の掟に従いなさいよー』
 にゃーにゃーと鳴く猫の声に被るようにして、頭に響く、もう1つの声。
「あ、あれ?」
「気のせいでしょうか。猫達が人間の言葉を喋っているような‥‥」
 それは、猫達がみゃあみゃあと騒ぐ口元に、同調している。顔を見合わせるウィルとメル。
「試してみましょう」
 そう言うと、ウィルは指先をあさっての方向に向けて、猫達の前で、こう言い放った。
「あ、しふしふだ」
『え? どこにしふしふ?』
 いっせいに顔を指の方向へ向ける猫達。
「猫にもしふしふって通じるんですね」
「いや、この場合はそれが問題じゃないと思うけど」
 感心するウィルに、そう突っ込むメル。猫達は、きょろきょろと辺りを見回しながら、『いないニャー』『おかしいにゃー』とか言いあっている。やはり、言葉が通じているようだ。
『しふしふなんていないじゃん。ねぇねぇ、そこの小さい人間さん。マタタビ、もっとないの?』
『僕、食べられなかったんだけど』
 しふしふことシフールが居ない事に気付いた猫達、そう言いながら、ウィルに詰め寄ってくる。にゃーにゃーと鳴きながら。
『待ってー☆』
「うわぁ、こっちも何か喋ってるっすよー」
 リビングでは、伝助が、にゃんこに追いかけられて、パニくっている。猫に怪我をさせるわけにいかないので、全力疾走真剣勝負だ。
「あ!」
 だが、何もないリビングと言うわけにも行かず、体力の尽きた伝助、ちょっとした段差にけつまづいてすッ転んでしまう。
『捕まえたにゃ☆』
 そこへ、猫さんの前足が炸裂していた。
「う、動けないっす‥‥」
『あ、あれ‥‥? ご、ごめんにゃー‥‥』
 むぎゅっと潰された伝助が、ぴくぴくと痙攣しながら、そう訴えたのを耳にした猫さん、慌てて足をどけてくれるのだった。

 数分後。
『つまり、おみゃー達は、何だか知らないけど、ちっちゃくなった人間で、ミャー達と遊びたいニャ?』
 ずらっと並んだ猫さん達の中で、ボス猫と思しきでっかいトラ猫さんが、そう聞いてくる。
「そうだ。なんとかならんかな? 同じ猫仲間として」
 猫飼っているノルディの申し出に、猫達はぼそぼそと何やら話し始める。
『どうするにゃ?』
『ニャーは構わないニャ』
『遊んでくれたら、マタタビもっとくれるかもしれないニャ』
 にゃーにゃーみゃーみゃー。狭い額を寄せ集めて、あーだこーだと相談中。
「猫会議してる‥‥」
 くすっと、吹き出してしまうメル。それから1時間後。
『決まったニャ。せっかくだから一緒に遊ぶニャ』
「ありがとうございます」
 ボス猫がそう言って、体を寄せてくれる。礼を言って、その前足に抱きつくウィル。
「よし、シルク。おいで」
『この人には、いつもおいしいご飯を貰ってるのよねー』
 ノルディのところには、シルクがゴロゴロと喉を鳴らしながら、すり寄っていた。今度は舌は出さず、頬を摺り寄せるようにして、甘えてくれる。
「くすぐったいぞ。シルク」
『ご主人様ぁ☆』
 そんな主従の2人(?)の様子を、微笑ましく見ていた伝助、ふにゃあとあくびをこいていた、先ほどのにゃんこに、こう申し出る。
「どなたかあっしに、肉球を〜」
 どうやら、あのでっかい猫さんの肉球を、ぷにぷにしたくてうずうずしているようだ。
『えー、どうしようか』
『あれ、腰が砕けるしねぇ』
 猫さんは、ちょっと渋っている模様。
「嫌がるのは、無理にさせない方が良いと思うが」
「うう、さぞかし押しがいがあると思ったッスのに‥‥」
 尻尾をマフラーのよーにしていたノルディに言われ、残念そうに肩を落とす伝助。と、その様子を見た猫さん、仕方がなさそうに寝そべってくれる。
『しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ』
「わーい」
 右足を差し出し、身を任せてくれるにゃんこさんに、飛びつく伝助。
「ふかふかっす。ぷにぷにっすー。幸せっす〜」
 お腹の毛に埋もれながら、思う存分肉球を押しまくる彼。頭の隅っこで、猫さんが力の抜けた声を発しているが、まぁこの際気にしないでおこう。
「しかし、頭が痛いのは、どうしてっすかねぇ‥‥」
「伝助。頭を鷹が後ろにいるが、いいのか?」
 幸せな気分に浸る伝助に、ノルディが苦笑しながらそう言った。見れば、ペットの鷹さんが、つまらなそうに御主人の頭を突付いている。
「あの、シルク。背中‥‥乗せて貰えないか?」
 そのノルディ。ひとしきり前足のふかふかを堪能した後、シルクにそう囁いていた。
『ええ、構わないわよ。よいしょ』
 シルクちゃん、自ら彼女を咥えて、背中に乗せてくれる。
「いいなぁ。あれ」
「くぅん?」
 同じ様にわんこに乗っていたメルが、うらやましそうにそう言うと、足元のコタロー、何か不満なのかと言いたげに、ご主人様を見上げている。
「あっ、別にコタローが悪いわけじゃないんだよ」
「アークに遊びに行ってもらってて良かったですね」
 慌ててなでなでとわんこをなだめるメルの姿に、愛犬を遊びに行かせていたウィルは、ほっとしたようにそう呟いて、にゃんこに埋もれるのだった。

 ひとしきり遊んだ後。
「そう言えば、あっし達もお腹がすいたっすねぇ」
 ぐきゅるるるーと、盛大に栄養補給を要求する腹を抱えながら、そう言う伝助。
「そう言えばそうですね。よし、せっかくですから、この家の中を少し探検してみましょうか。猫さん、案内してくれますか?」
『僕達が出入りしている所だけでよければ、構わないニャ』
 ウィルのセリフに、猫さんはそう言って、台所まで案内してくれる。
「ふふ。何だか大冒険をしている気分ですね」
 しかし、猫の通り抜ける所なので、明かりがついていない場合も多く、また基本的には家具やテーブルの隙間が通行路だ。ホーリーライトを唱えながら、ちょっぴりどきどきしているウィル。
「なんだろう、これ」
 彼らが案内したのは、変な紐のついた、大きな白い箱の前だった。
『僕達がごはんにしているものにゃ。あの中に入ってるニャ』
 猫さんの説明によれば、重い扉の向こうに、様々な食材が入っているらしい。
「うわ、冷たい〜」
「何だかヘンな箱ですね」
 全員と、そしてコタローや猫達の力を使って、うんしょうんしょとこじ開けた中からは、まるで冬の最中かと思えるほどの冷たい空気が流れてきた。
「でも、美味しそうな物も入ってるよ。わー、これまで冷えてる」
 メルが、コタローを踏み台にしてよじ登り、中の様子を伝えてくれる。箱には、その冷えた空気に囲まれるようにして、棚が三つ。その1つに、冷えた鍋と、黄色い色のシチューが入っていた。
「大きすぎて持ち運べませんね。ちょっとづつ持って行かないと」
 普段なら、どうって事のない大きさの鍋だったが、今の彼らでは、ちょっとした小屋くらいはある。
「どれどれ、お味見を‥‥。うわ、辛いシチューだ〜」
 鍋によじ登り、指をつっこんだ伝助くん、まるで辛子か山葵をたっぷりと入れた様な味に、顔をしかめている。
「こっちにも何かあるぞ」
 その奇妙な箱に並ぶようにして、白い丸みを帯びた蓋付きの鍋が、軽く湯気を噴いていた。やっぱり、変な黒い紐がついている。力を込め、注意してあけると、中にはたきたてのお米が入っていた。
「妙なおひつっすねぇ。へっついもないっすし」
 伝助、形には見覚えがないが、おそらくご飯を入れるものだろうと検討を付け、そんな事を言っている。
「この中には、お魚が焼けてしまってあるみたいだよー」
 メルがそう報告してくれる。別の場所にあった小さな編棚には、焼けたお魚がしまってあった様だ。何故か、その下には、ドロドロした油がたまっていていたが、魚には影響ない模様。
「食事には事欠かないみたいだね。ランチにしようよ」
 食べられるものを確保した一行は、メルの提案で、お腹を満たす事にした。
『僕達にもお裾分けして欲しいニャー』
「はいはい」
 むろん、猫達も一緒である。
「御馳走様」
「お腹一杯です」
 程なくして、その辛いが美味しいシチューと、変なおひつに入っていたご飯、小さい編棚にしまわれていたお魚は、4人と猫達のお腹を、しっかりと満たしていた。
「すごいボリュームだよね。いつもだったら、一口で食べ終わっちゃうのにね」
「小さいと言うのは、案外経済的かも知れやせん」
 シチューもご飯も、そしてお魚も、あまり影響ないくらいに残っている。もし、住人が帰って来ても、遜色ない位に。
「そう言えば、紙の目って、こんなに荒かったンすねぇ」
「みたいだね。でも、あの手紙を書いたのは、誰なんだろう?」
 ランチ会場となったテーブルには、書置きの手紙。その材質をしげしげと眺めた伝助に、メルは怪訝そうにそう言った。何故、自分たちの体が小さくなってしまったのか。その疑問が、頭の隅に引っかかっていたのだ。
「猫さん達、何か知りません?」
『僕達は何も知らないニャー。でも、前にはなかったものが、奥の部屋にあったニャー』
 彼の問いに、猫達は首をかしげた。その代わり、奥の部屋にあると言う、『見慣れないもの』へ案内してくれる。
「なんだか細工物‥‥みたいですね」
「どっかでこれと同じモノを見たような気がするんだけど‥‥どこでしたっけ‥‥」
 それは、太陽と月の描かれた、奇妙な細工物だった。カチカチと音を立てながら、丸いオブジェのようなものが、少しっづつ動いている。
「何か書いてありますよ」
 ウィルが、その下に設置された絵図面を見て、そう言った。
「これ、地図だね。世界地図。あれ? こっちにはランダムって書いてある‥‥」
 古い地図の横には、数字が刻まれており、『4』と書かれている。その下には、英語で『ランダム』と記されていた。
「何かの実験器具みたいですね、これ」
「なるほど、どうやら僕達は、どこかの錬金術師か誰かの、実験対象として、ランダムに選ばれたって事か」
 見慣れないオブジェを見て、ウィルとメルは、自分たちに起こった現象を、そう位置づけたようだ。
「危害を加える気はない。大人しく協力して欲しいと言う事だろうな」
「確かに、そのまま放置してったら、大事な実験機器が壊されてしまうかもしれないっすからねぇ」
 後からついてきた伝助とノルディも、納得した表情を見せる。もし、書置きがなければ、じゃれてきた猫達に、必殺技が叩きつけられたり、魔法で部屋のあちこちを壊されてしまうかもしれない。この家の主は、ソレを嫌がったのだろう。
「謎が解けたところで、今度は外に出てみませんか?」
 家の中を、あらかた探検し終えたウィルは、一行を外へと促した。
「猫さん達も来ませんか?」
『良いよー。なんだか、時間制限つきみたいだから、つきあってあげるー』
 もちろん、猫さん達も一緒である。快くOKしてくれるボス猫以下10匹だった。

 そして。
「わぁ‥‥」
「すごい広く見えますねぇ‥‥」
 身長10cmから見る空は、普段の空よりも、ずっとずっと高く広く突き抜けていた。
「普段、何気なく見ているものが、こんなに大きいなんて、ちょっと新鮮っすね〜」
 それだけではない。周囲に生えている草や、低木も、今日に限っては、とてもとても大きく見える。そう、草にぶら下がって遊べるほどに。
「池?」
『ただの水溜りだニャ。昨日、雨振ったから』
 葉を滑り降りる水滴は、軽くジャンプして、近くの水溜りへ。それすらも、今日だけはまるで池の様に見えてしまう。
「水溜りでこんな大きさだと‥‥。池とかあったら、湖になっちゃいますねぇ」
『池ならあるニャよ。お魚が一杯いるニャ』
 そう言うウィルに、ボス猫はそう言った。彼の案内で、一行は猫達がお魚調達先にしていると言う池へと向かう。
「魚も大きいっす〜」
「普段は、普通に食卓に出そうなのに‥‥」
 泳ぎ回る鮒。銀色の身体は、普段は気にも止めない大きさのはずが、まるで巨大魚かモンスターのようにさえ見えてしまう。感動したように、目をきらめかす4人。
 ひとしきり外で遊び、その光景を目に焼き付ける彼ら。普段は足元に潜む命や風景が、とてもとても大きく感じられる、新鮮な光景を。
 そして。
『あっ、そろそろ時間だにゃ』
 陽がくれかけた頃、猫がそんな事を言い出した。
「時間?」
『夕焼け空が暗くなる前に、お家に帰らないといけないんだにゃ』
 メルが尋ねると、ボス猫はそう答えてくれる。
「帰らないと、何かあるんですか?」
『んー、考えた事にゃい‥‥』
 ウィルが問うと、猫さん達は小首を傾げてしまう。猫なので、それを確かめるような知識は持ち合わせていないのだろう。
「じゃあ、ちょっとそのまま残ってみようかな」
 好奇心旺盛なメル。星空を眺めたい気持ちもあって、そう言い出す。
『僕達は帰るにゃよ。気をつけるにゃ』
「わかりました。心配してくれてありがとうございます」
 ウィルも、彼に付き合ってくれるらしい。そうして、空が紅から紺に染まる頃、異変は起こった。
「わう?」
 不安そうに尻尾が垂れている愛犬を、ウィルが側に招き寄せる。
「アーク、君は側にいなさい」
「コタローも」
 不安を感じたのは、彼ばかりではなく、メルの愛犬ものようだ。
 そして。
「これは‥‥。そうか、そう言う事か‥‥」
 最初に気付いたのはノルディだった。紺に変わった空は、次いで虹色に変わり、めまぐるしく変化する石鹸液のような色となる。いや、空だけではない。森や、池、目の前の光景全てが、まるで絵の具をぐちゃぐちゃにするように、混ざって行く‥‥。
 その混ぜられた世界に、巻き込まれる4人。痛いとか気持ち悪いとか、そう言った感覚はない。
「お別れ、言えませんでしたね」
「突然だったし、しょうがないよ」
 ウィルが少し残念そうに言うと、メルもちょっと寂しそうな声で同意する。
「また、会えると良いっすねぇ‥‥」
「そうだね。また会えるよ‥‥」
「いずれ、機会があれば会えるだろうな‥‥」
「約束ですよ‥‥」
 ひと時、大きな猫達とじゃれあった四人は、再会を願いながら、時空の流れに身を委ねるのだった‥‥。