汝、創造者にしてそれを変える者。

■ショートシナリオ


担当:紺一詠

対応レベル:フリー

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

リプレイ公開日:2006年04月19日

●オープニング

 アルタード・ステーツ、「私」をそう呼ぶ声にいざなわれる。
 エメラルド・タブレットにエッチングされた懐かしくも恨めしい約束を実践せんと、
 サバイバル・ロッタリーは招かれぬ隣人、けれども、たしかだ、路地裏からはじめようか、スニーカーがずたぼろでも横がダメなら前へは行けるさ、ななめのネオンにまっすぐみちびかれる、闇においても光はいたずらに義理堅く、ありがたい。

 あなたには、親友が、ある。
 いいえ、看板の記載は個々できっとことなるのだろう、コンビニエンスストアの東と西みたいに。パートナー、同類項、来訪者、義兄弟、泥沼底なしの言語のなかでなにをひろいあげるかは自由で主観、たいしたこっちゃない、ここで今しばらく心にとどめておきたいことは、次のとおり、シンプルでイージーな正真正銘。
 人ではないもの、物ではなくモノ、あなたには属さぬ生命があなたのほんのちかくにあり、しかし、かたちのちがいなど10円チョコレートよりミニマムなことだからと、あなたたちはたいそうなかよくやってきた。
 種族・犬と河原を散歩したり、
 種族・猫と縁側でうとうとしたり、
 学校へ連れてけと命令した種族・ロック鳥にアメリカ合衆国までさらわれてみたり、
 ――どこか現実に欠けたところもあったけれど(最後のやつだけか?)、とにもかくにも、まぁね、妥協、あなたたちはたいらかに、南国ツアーのスナップの一枚みたいに、現代、現実をぬくぬくと生きてきた。電化に次ぐ情報化、砂漠化の世界、どうにも希望は日まぜにけずられていそうだが、あなたがえらんだ、あなたをえらんだ、モノ、がいるし、おいしいごはんもなんとか食べられるし、テレビコマーシャルの今日も満足にできないくだらなさをとても愛していたし、春風一番はとうにすぎたことだから、そう悪くもない。
 生きるのを崖下に投げ出すぐらい、悪くもない。
 むしろほんのちょっと守ったっていいかな、とか。チャンスのないこと前提にして、コットンごこちな夢見のなかで考えて、
 そう思っちゃったのをつけこまれのだろうか、ある日、モノはことばをつかってあなたへねがう。おはよう、おやすみ、そんな貧弱な語彙じゃあなく、立て板に水な奇々怪々の文法を手足の技で繰り出して、
「アルタード・ステーツ、助けてください」
 だいたいこんなふうなことを、云った。
 いったいなにを、たすけろってどんな、つかアルタード・ステーツって、はすぐさま証明される。
「ほら、窓を開けて」
 云われるがままにしてみれば、むらむらと黒雲、びかびかと雷電、遠くの宇宙から一つ目の惑星がランデブーをしにきたかと思った、街のいっとうにぎやかな方角がいままさに累卵の危機――たまごをかさねたようにあぶないって意味――ビルディングが崩れてゆくよ、フランスパンをナイフで切り離すように、人をつつんでいた鉄筋コンクリートがするりと滑落し、千々にくだけて、破片がまたぐしゃりと人をつぶす。
 呆然と、する。
 誰かが蹂躙をはかっている。あなたとあなたのモノが、ともに暮らしてゆく天地、人、を、ずたずたに切り刻んでいる。だからあなたのモノはめざめて、ことば、を用いてまで警告を、そして救済を求むる。あなたへ、たったひとり、語られない存在のあなたへ。
 モノ?
 ――‥‥その用法では、なんとなくおちつかない。では、新たな定義をば錆びた従来からひろおう、歴史の教科書をひらくのと同値にやっちゃうのは歴史にも失礼だとは思うが、しかたがない、誰も彼もが貝殻のように無知で無力だから、望まれたあなたをのぞいては。
 トーテム。
 あなたのとなりは、あなたに、そう紹介した。己はトーテムだ、と。
 そして、あなたは、アルタード・ステーツ。トーテムを繰るもの、者、モノ。トーテムがアルタード・ステーツにあたえる、魔法、鎧、多多、他他、身にまとう、ぬるい水にも似てそれらはとてもしっくり来る。トーテムはそうなるまえとちっとも変わらず、あいかわらず、こそばゆいねうれしいね、あなたのかたわらで。
 じゃあ、いっしょに出掛けよう。
 救うために。そして、掬うためにおがくずのような愛しい日常を、巣くうために根を張れ世界樹。

 来たるべき危機に熱涙も凱歌すら世話できず、魔女のような非情さで死地へおくりだす、せめてものなぐさみに、代替の舌、声帯、で称号を。構成する。初めての呪文をてさぐる鼓動、賛美歌をとなえるようにね。

 汝、創造者にしてそれを変える者。

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3044 田之上 志乃(24歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea7394 風斬 乱(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8247 ショウゴ・クレナイ(33歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea8968 堀田 小鉄(26歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1182 フルーレ・フルフラット(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb1788 華宮 紅之(31歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●エスナ・ウォルターはおやすみで、
 日曜日は、お天道様の日。テレビのニュースで見かけたの、いちめんの花畑、けぶる夢心地に揺れていた。ありとあらゆるサンドイッチを、バスケットにつめてでかけてみたいな。
 けれども哀しいかな、来日してまもないエスナ・ウォルター(eb0752)は、この国のどこに花畑があるのかも知らないし、いっしょに行ってくれるおともだちも見つけていない。
 だからエスナは、お日様の日を、愛犬のむくげをくしけずる作業につとめて。でも、もちろん、いやいややってるんじゃないよ?
 エスナの、自宅。
 飛び出す絵本からほんとうに飛び出してきたようなそんなおうちは、おにわもやっぱりそんな具合。緑の芝にしどけなく――ってより、だらしなくでれっと――腹這いになる一歳半児、ボーダーコリーのラティ、にエスナはかしずき‥‥。
 とと。
 お庭のあちら公共のトラフィックスで、ひとりとひとり――ふたりでまとめるには、あんまりにもひとりとひとり、くっきりしすぎているのだ――スーツ姿の青年たちが、談笑しながら駅の方角にながれてゆく。
 知っている。平日、学園へ行こうとするがてら、ちょくちょくみかける人たちだ。彼女は出掛けられはしないけど制服を脱げるわけだが、社会人にはそうもいかない事情もあるのだろう。
 彼等のことを、ちょっとかっこいいかもしれない、と思ったことはあった。けれど、それは色恋やら艶事とはちっとちがって、うぅん、突き止めてしまえばおなじことなのかも。鳶色の髪をした燕のように軽快な少年の残像が、さぁっと、胸のあたたかいところで翼をたたむ。
「‥‥ケインくん‥‥元気かな‥‥」
 色付きのまやかし、春心地。エスナがぼんやりあたたかい記憶風に吹かれていると、裾をひっぱられる感覚。ラティだ。きらきらと「もっと♪」にあふれる瞳はエスナの胸底を射抜くようで、我知らず赤み差す頬をおさえながら、言い訳めいて。
「ラティ‥‥知ってる? おやすみの日に会社行くことをね‥‥ええと」
 エスナはそこで口をつぐみ、日本語はむずかしい、熟語などはいよいよもって。ええと、ええと、と口ごもるのを数度。
「そうだ。牛乳借金‥‥っていうんだって‥‥。牛乳を買うのに借金したくないから、おやすみの日もはたらく‥‥のかな‥‥?」
『惜しいっ。休日出勤だ、読みにすれば、一万歩くらいゆずって、ちょっと似てるけどね!』
 と、捲くし立てもせず、ラティはだしぬけにごろりと仰向けになり、おなかを梳いてほしいのだろう。白い毛をワタスゲの穂のようにくゆらせる。
「ラティ‥‥尻尾‥‥まだ終わってないのに‥‥」
 が、エスナはラティの云うがまま、あ、「まだ」云っちゃいないのか、ブラッシングの運動をもういちど、大好きな童話を語り継ぐように、やさしく、ゆっくりと。

●白河千里と月代憐慈と紅・彰吾が牛乳絞り(←まちがい)に出掛けようとしたところへ、フルーレ・フルフラットが進攻を、
「なんで日曜の朝から同僚といっしょに駅まで歩かなくちゃいけないんだか」
「いいじゃないか、いっしょになっちゃったもんは」
 さて、その近所の「ちょっとかっこいい」かもしれない、お兄さんたち。
 牛乳借金にでかけるのにやたらと陽気な白河千里(ea0012)「だって、きっと、こういう地道な努力がサラリーマンの未来をつくるんだ!」、こちらは世間一般的にはむしろ適切、しんねりむっつりとした月代憐慈(ea2630)、むっつりのあとにナチュラルに欲惚け系の三文字付け足したヤツ、先生怒らないから手を挙げなさい。はい。
 朝である。
 悠久のいとなみにとってはただの花色、冷やっこさ、閑か、区切りや切っ掛けでしかないそれは、ただなかのものたちにとって様々のはじまりを連れてくる。
「少々早いが、心の友よ、誕生日プレゼントだ」
 去年もどこかでネクタイをプレゼントされたような――と、あるはずのない四月一日の幸福を思うともなし、憐慈の視角へぐいと、千里から、二輪差しがわりこまれる。今年「も」どうやらネクタイらしい。
「黒字に白文字で『侍』ってなかなかクールだろ? もうひとつあるぞ、スミレ地にドラ○もん、どちらでも好きなほうを選べ」
「いらん」
 即答、憐慈がぱちりと檜扇でつむぐ冷風よりも先回りで。
 しゅん、とうなだれる千里は傍目から眺むればいたましくもあったが、憐慈の炯眼は千里よりおぞけをともなった含みを酌みあげる。千里はふたたびバッグをあさると、質も嵩も先ほどの以上、ひたすらに青、なかなか重そうな、どうやってその狭い容れ物のなかにしまっておいたんだ的物質をとりあげる。
「親友のためだ、涙を呑んでゆずろう。これは俺のためにとっておいた、青だぬきの着ぐるみ寝間着だ。模様じゃ我慢しきれずそのものになりたいとは、おまえもけっこう業突張りだな!」
「いりません」
 憐慈にだって、拒否権はある。無常のふるまいは法律によって保証される。
 同様に、千里にも抗弁の権利はあるのだ。信じられない、といったおもむきで、人より色のうすい瞳をぱちくりさせて、おどろき桃の木山椒の木、
「遠慮するな、月代ほどよく似合う男はいない。よっ、みすたーぶるーたぬきろぼっと!」
 ちかり、と、千里は時のまたたきをかいまみる。
 我に返れば、千里、ネクタイとパジャマをたいせつに胸のあいだにたいせつに抱えながら、正気にもどれば、道路のはしっこ、よくある忘年会の末期のようにさかさになっている。
「月代、今、おまえ――眼鏡が光らなかったか!?」
「まさか。白河が勝手に転んだんだろう?」
「そうかなぁ‥‥?」
 千里に手を貸しながら、憐慈はあまったがわの、こっちが本命の、扇をたずさえる手で眼鏡――ロイド眼鏡とゆうやつか?を、おしあげる。レムと同色、都会の闇色にスーツとコートも合わすなぞ小技の効いたスタイルだが、千里にいわせりゃ、あんな厚ぼったい恰好をしてるからいつまでも春が来ないのだ、パステルがよく似合うのに。
 千里が埃をふりはらいながら起き上がるのとほぼおなじ頃合い。
「先輩たち、おはよーございまーす!」
 ショウゴ・クレナイ(ea8247)、じゃないのよ今日だけは紅彰吾ってことで、てってってっ、と小走りで千里と憐慈にちかづくのを憐慈、待ち受ける。
 彰吾は悪いヤツではない、というのがもっぱらの世評――「あの人ぉいい人すぎてぇ」と女子高生なら指摘するだろう、ウィトゲンシュタインならば「語り得ぬものについては沈黙しなければならない」と眼をそむけたろう、要するに、それより先へはすすみがたい。
 積極性にとぼしいのだ。流されるように生きてきた、毒の尾をうふりめぐらす蠍とて砂嵐の濁流のまえにはひとたまりもないのに――牙も爪もたずさえぬ彰吾は、あるのはひよわな意志だけの、だからなおさら――時代の汐になぶられっぱなしの二十数年。平凡な生まれ、平凡な育ち、成人を数センチ超えた今となっても、思春期へとどかぬ少年少女のようなおもざしは少々非凡ではあったが、それがいったいなにを生み出すというのだ? 生産をになうのは手と足である。
 憐慈、運命押しやるように、ロイド眼鏡をふたたびくいっとあげる。
「電車に乗り遅れるぞ」
「すいません。出しなに、レリィにからまれっちゃって」
「レリィ?」
「僕の飼い犬です。真っ白くて、甘えたがりで。いったん乗っかられると、なかなかふりはらえないんですよ」
「それって、あれか?」
「ん?」
 彰吾は背なになにかをあてられたような気がして、重みのない、温みもない、けれどたしかにそこにあるつかみきれない透明なもの――そら、いつも家庭にかえると、真っ先に、嘘だ、誇りあるウルフはいつも待ち人の側、飛び込んできたりはしない――雪白の毛皮の下から、金色の瞳が視界にあるものを焦がすように睥睨すれば、遠吠えよりもたしかに周囲を萎縮させる。
 それは彰吾も他ならず、ってよりはむしろ他になったのは、憐慈と千里。部外者。
「な、なんで、レリィがここに?」
『弁当を忘れていったろう。わざわざ届けに来てやったのに、その言い種はなんだ』
「そんなの、どうにでもなるよ」
『俺はおまえのために動いたわけではない。せっかく母親が丹誠込めてつくった弁当を、そんなのとはいったい何様のつもりだ? だいいち社会人になってまもないおまえには、外食なぞ贅沢なことを抜かしている余裕はあるのか?』
「うぅっ」
 レリィの低音は、こんこんと絶え間ない清水のようにわきいずり、沈着と正論とをそこここへ沈める。千里は感心して、ふぅむ、と息をならした。
「甘えたがりには、みえないけどなぁ?」
「‥‥いや、そのまえに」
 ――‥‥犬がしゃべってるほうが、大問題じゃないか?
 ありえないことをありえないことだと認識する、憐慈の切れ味するどい思慮分別によって、その数歩手前に常識は断ち切られる。
 少女の身の丈よりはずっと大きい、重剣クレイモア――だが、天下を爆砕するには絶対的に量が足りないはずのそれ、が、文明と文化をいっしゅんのうちに歴史以前の粉塵にかえす。
 それは、破壊、破壊、破壊、破壊、合わせたてのひらにおさまる破壊の群体、数の多さでの勝負ではなく、破壊という単語をいくら労しても足りないくらいに、一度きりの、絶大な破壊。
 駅舎は見慣れた時代調ではなく、モノクロの航空写真でみかけたような瓦礫のかたまりへ瞬間的に転ずる。
「ファーストデストロイ成功ッスよー!」
 黄金色の髪を翼のごとくはためかせて、見た目だけならば勝利の女神ニケのようにもみえる、フルーレ・フルフラット(eb1182)、実体はそんな甘いものではない。そのかたわらには、ほ乳類ネコ目イヌ科、品種はボーダーコリーというまことにめずらしい(え?)友を。
「ふっふっふ、人がゴミの様ッス♪」
 あ、いけね、と、ぼやきの口調でひとりごとを添えて、
「ごめんっス、今のなしッスー」
 クレノ様には最新の流行を追えって云われてたんスよ、誰も訊いちゃあいないことを高らかに主張、はいTake2。
「『人がゴミのようだなんて思ってないんだからねっ。ほんとよっ!? で、でも、あんたたちがそれだけ云うんだったら、ちょ、ちょっとぐらい人類ほろぼしたげたっていいわよ!』ッスー♪」
 ――‥‥。
 千里たちは、見ちゃいけないもの、聞いちゃいけないもの、に同時に遭遇したような、しかも逃げられない!
「なぁ。あれはツンデレと認めていいものだろうか?」
「つ、ツンデ‥‥」
 なぜか彰吾、名字もあらたか頬を真っ赤にふくれさす、彼はいったいなにを思いついたのだろう? 大多数の気持ちを、レリィ、代弁したりしない、彼は大衆に迎合したりなどしない。
『よいのか、このままで』
「え‥‥?」
『なにもしなくていいのか?』
 金色の瞳、が、そこに。ある。
 ――‥‥彰吾を見つめて、彰吾も見つめ返し、いざや決断のとき来たれり、と思ったらば、音声が、天からのさずかりものだったらまだおさまりついたんだろうけど、音声の来場所はとても近かった。噪音かと思うぐらいに。
 千里だもん。
「安心しろ、紅、月代! 俺がどうにかする。実は、俺‥‥」
 じゃららららら(ドラムロール)、
「俺、実は、正義の味方予備軍だったんだ! 二つ名は『二十二世紀から来た不思議なポケット』!」
 すまん、こんなオチで悪かった。憐慈、ひくりとこめかみを引きつらせながら、
「‥‥その青いの。もしかしなくても、裏の仕事着だろう?」
 すると、彰吾も、
「僕、知ってます。このまえ社員食堂で頼まれもしないのに行列の整理をして、「最後尾はここです」の告知をかかげていた青い人、あれって先輩だったんですね!」
 憐慈は内心しきりに転職を検討しだしていた、そんなものの存在をゆるす会社にいつまでも在籍していることに少なからぬ不安をおぼえたので。
 ロイド眼鏡をあげるように、オールバックに整えた前髪をなでつける、
「‥‥まったく、くれのんも冗談のようなことばかりされるものだ。存在自体が冗談のようなものだが」
 転職先がすでに決まっているからこそ、憐慈の退社の意は、鋼よりも硬い。

●風斬乱がテレビに見入っていると、堀田小鉄と田之上志乃が生放送絶賛出演中。
 四角四面の盤上遊戯な一室で、個人事務所、仮想現実、質量も奥行きもともなわない矮小な映像に惚けよう。
 ――‥‥切り離されてゆくのだ、重ねて、累ねて。
 人類が背中をあずけたコンクリートも、手足の代替の大型機械も、ただの前座ショー。少女が(二十歳って少女っていっていいんだろうか、という、疑問はあるだろうけど「気にするやつからデストロイッスー♪」だそうで)あどけなく笑う様子は花をみて微笑むがごとく、花冠の計画に心うばわれるがごとく、けれども知っているでしょう、素材を摘むのは生命を捩じ切るのと同値なのです、彼女がクレイモアをふるうたびに倒潰が上積みされる。
『行くッスよ、アレクサンドル。軒並み根こそぎにデストロイッス!!』
『主‥‥ずっと気になっていたのだが‥‥やはりこういうのは魔法少女とは定義されないのではあるまいか』
『そんなの云わなければ、きっと誰も気付かないッスよ。あ、テロップさん。放送のときはきちんと「超力魔法少女ふるふるフルちゃん♪」と書いてほしいッス♪』
 いいかげん見飽きた。風斬乱(ea7394)――職業は政治家――はリモコンをとりあげると、チャンネルを切り替える。個性があると喜ぶべきことか、日本は一律ではなかった。先ほどまでのノリとはまったく異なる、どうやらローカルな情報バラエティ、いくらかチープなスタジオからすべるように中継がつながる、外界。
『きょうのわんこ&へびぽっぽ&ろばたん。崩壊真っ最中の××県△△市からおおくりします』
 おなじ場所じゃんっ。
 そんなニッチな番組、誰がみるのだろう――って、ここに。
 乱はこのコーナーがそれほど嫌いではない。動物が嫌いではないからだ、しかも、この番組に出てくる動物は、人間もひっくるめて一切が砂糖からこしらえたように善良で、そんなところがひそかに好き好き。ほんとうに、ひそかに、だけどね?
『まずは、わんこ。今日はアルタード・ステーツの田之上志乃(ea3044)さんの飼っていらっしゃる、トーテムの権兵衛ちゃんです』
『ふぇ? おらたち散歩に来ただけだよ、なー権兵衛? ひさしぶりに晴れて気持ちがええべなぁ?』
『だ・か・ら! ここへ来る途中いっしょうけんめい説明したでしょう、あなたは伝説の勇者のアルタード・ステーツで、あたしはそのトーテムだって。どうして分かってくれないのよぅ』
『つまり、散歩がてらにちょっくら悪いもんぶったおしとけば、ええだけだべ?』
『そういうことよ。だ・か・ら。こんなとこで立ち止まってる場合じゃないのにーっ』
『権兵衛ちゃんは、勇ましい名前をしてらっしゃるけど、女の子なんですね?』
『この子のネーミングセンスがないからよ、あたしだって花子とか緑子とか、かわいい名前のほうがよかったわ』
『はじめて逢ったときはかっこいい男の子だと思っただしなぁ。だいいち、そんときにこういうふうに喋ってくれたらば、おらかて、まちがえなくてすんだべ?』
『だ・か・ら。これは世界の危機における、特別処置なのっ。なのになんだって、みんな、そんなに危機感に欠けているのーっ』
 ――‥‥花子も緑子も、そうとうにネーミングセンスが欠けている。
 乱はすなおにそう考えて、が、画面では小柄も小柄、抱きつかれた柴犬と大きさはそうたがわぬ少女がいかにも愉しそうに、おまけに気持ちのいいてきぱきとした仕草で世話しているのをみていると、そんなのどうでもよくなってくる。そばかすを散らして、寒くもないのに頬をひたひたと燃えさせる少女、志乃、「分かっただ。ブラッシングをしてほしいだべ、すねてるだか? ほーれ、ちゃんともってきただよ」と、いつかの(※同日です)のエスナのように、ゆらゆらと。
『だ・か・ら、こんなことしてる場合じゃないのにーっ』
 だが、哀しいかなトーテムの宿命、尻尾がばたばたばた。お客さんかゆいとこございませんかー? はーい、もうちょっと下をおねがいしまーす。
『では、次。堀田小鉄(ea8968)さんちの、にょろすくんくんとどんちゃんさんです』
『おおー。テレビですねー。みなさん見てますかー? 小鉄はとっても元気ですー。にょろすけくんやどんちゃんもとっても元気ですー。はい、御挨拶ー』
 とん、画面は切り替わる。まごうことなき、蛇、するりとビジョンにくびったけで、
『にょろすけくんくんってなんだ、俺はにょろすけだ! や、これだってほんとは認めたわけじゃねぇけどな! こてっちゃんだから許してやってんだ、だからにょろすけくん以外は何が何でも却下だ!』
『おちつきなさいな、にょろすけくん』
 と割ってはいったのはうさぎうま、驢馬たん、とっておきのお洋服のとっておきのボタンのように粛々とした黒い瞳、しぱしぱさせる。
『そんな恥ずかしい姿を、こてっちゃんのご家族にみられたらどうされるんです?』
『おめぇも少しは怒れよ、なんてったって「どんちゃんちゃん」だぞ?』
『僕はこてっちゃんを支えるのが役目ですからね。こんなところでムダな体力は消費してられないのです』
『‥‥まぁ、そりゃそうだな。ってゆうか、こんなところでまったりしているヒマはねぇ。行くぜ、こてっちゃん!』
 行くぜ、と号令をかけたのは蛇のにょろすけだったが、実際の行動にうつしたのは驢馬のどんちゃん、首をぐいんとうなだれたかと思えば、掬うように小鉄をもちあげて、返す刀?で尻尾をぱしりとやればそれを合図にからみつくにょろすけ、準備オーライ、ブレーメンの音楽隊のようにそつなく一体をこなした
『うわぁ。せっかくのテレビ、もうちょっと出ていたかったですがー‥‥。正義のためならしかたがないですねー、がんばってきますー』
『がんばるだべー、心から応援してるべさ』
『じゃなくって、あたしたちも行くのよ。志乃!』
『それでは皆様、また来週ーっ♪』
 ――‥‥俺も、もうすこし見ていたかった。
 が、乱はそんなことは当然口にせず、わずらわしげに首をふるだけ。動物をあつかった番組をみているときはいつもそうだけど、自分もなにやら手許に置いておきたくなる。
「‥‥一匹ぐらいなら、いいかもしれん」
 めずらしく。
 めずらしく本音を口にした乱、ぽろりと、めずらしく油断があった。いつもの彼ならば気付かないわけがないのだ、その殺気に、そいつは乱を殺しにきたわけではないが、殺気と寸分たがわぬなにかが罅入らせる、彼の財産である事務所全体へ。
『待ってたぜー!』
 乱の事務所は二階にある。ベランダをもたぬ硝子の窓をぶちやぶり、ホームランスピードで突入してくる純白のユニコーン、硝子ってけっこう高価よね、を気にせず、それらの破片を踏みしだき、乱へ近付いてくる。慌てず、騒がず、パニくらず。乱は氷の言語を投げる。
「貴様は一匹ではなく、もはや一頭だろう」
『細かいこと云うんじゃねぇ! 女はもっとおおらかにかまえるものだ』
「‥‥おんな?」
『さぁ行こうぜ、ピリオドの彼方へ! 俺たちの明日へ、世界がお前を呼んでいる‥‥さぁ、急げ、俺にまたがりな、股は百八十度にひらきっぱなしでよろしく!』
 やたらに角を主張する。おまけに、鼻血付き。ほら、ここで突かせてくれ! どこをだよ、やぁん、そんなこととてもとても。
 ――ところで、乱は政治家である。
 政治家はわりと無法者である、え、そう?
 だから、日本刀なんかもきっちり、べつにトーテムなんかに頼らなくっても、完備していたりして。一筋の迷いもなく抜きはなつ。殺気の居所が、交代した。

●様々な意味で黒幕かもしれない華宮紅之(eb1788)、クレノパトラ女王(義務教育じゃないので、突っ込みたくない人はおいてゆきます)、通称くれのん。
「フルーレはよくやっているようだな‥‥」
 視聴率が存在するからには、この世、同一の番組を見ているものはひとりだとはかぎらなくって、乱のとおなじ模様をうつしだすテレビを据えるその部屋は、いかにもあやしげー、照明はまっかな蝋燭だけで、しかし数だけはふんだんに贅沢にしきつめる、まるで魔女の部屋?
 否、女王様部屋だ! ある意味、変わらんが。
 あっちの世界not天国(別の意味では、たしかに天国)とここはしきりをへだててしっかりとさかいめが、それは地図上のような都合の線形ではなく、あきらかに現世とこちらを分かつもの、異世界をつくりあげる結界、故に出番が半分を超えてラストに迫るいままでなかった。おい。
「‥‥しかし、まだまだだ。アルタード・ステーツ――変性意識状態人――略して変人、略さなくともやっぱり変人、どものまえには苦戦することだろう」
 ですね、アカ・フン総統? と振り返るそこには、また、しきり。暗幕がゆらり、ゆらり、と、彼女の言葉に応えるようにひらつく。
『ウン、ソウダネー』
 なんかすげえ声高いっすけど、棒読みっすけど。
 女王様は――彼女はうすく笑いをきざす、唇のひずみが灯りをうけて真っ赤にぬられる。扇のおとす影はうすめるでなく、表情の鮮烈をいっそう際だたせ‥‥って天晴れ扇子かよ!
 クレノパトラ、くれのん女王、と書くと、いきなりファンシーになるのだが、なんか夢のクレ○ン王国みたい(それはネタ的にやばいところが多い)、身なりはどっちかとゆうとパンキーだ。極限まで切り込んだチャイナドレス、錐をしこんだようなピンヒール、そして天晴れ扇子。すばらしい。
「私も行ってサポートをしてやらねばならんようだ。物資もちょうど届いたところだ、青色○号で元気づけてやることとしよう‥‥」
 あれは回復アイテムではない、武器だ、それが証拠に投げつけたら確実にダメージ喰らうぞ。常人は。うまくやりゃあひとりぐらい殺せるぜ?
「しかし、フルーレのやつ‥‥」
 沈黙をたっぷりと溜めて、くれのん、
「デレるのがはやい。あれほどためが大事、といっておいたろうに。ツンとデレは九対一の配合でよいのだ、と、やはりまだまだ教育が必要だな‥‥」
 まちがいなくこの人がすべての黒幕ですねー?

●おまちどぅ、やっと戦闘だ。まいていくぜ!
「何故おまえが裏切るんだ。何の為にだ――地に墜ちたか月代」
「おまえのせいだ」
 憐慈は冷徹に云いきった。
 その肩に銀星、鷹、一羽、地の果てまでも肯定するかのようにうやうやしく首を縦に振る。だが、たいていの肯定にともなう慈悲は申し訳許りもこもっておらず――悲しく地上をつくばう生物どもを見下げ果てた、苛烈な瞳。
 憐慈はつづける、感情をうしなったマシンボイス。
「もしも、おまえが、」
 みすたーぶるーたぬきろぼっと、と、さえ呼ばなければ――あのとき俺は覚醒した。そして内なる衝動も自覚した、俺はずっとこうしたかったのだ、と。
「‥‥運命は哀しいな」
 そのきっかけはほんとうに哀しいな。千里は愕然とする。まさか、俺の業だったなんて!
「だが、俺は不思議なポケットとして、出せる技をすべて出し尽くして、おまえを倒してみせる!」
 来たれ、正義の使徒! と、千里が片手をさしだしてたしかに来るのだ。約束だから。かっと、蜥蜴、井守でもなく家守でもなくただの蜥蜴、千里はそいつの尾っぽを握ってふりまわし、解!一煌刀 江月! 来たれ、動物保護団体! じゃなく、千里の身をくるむスーツはまたたくのうちに変ずる、
「‥‥なんだ、あれは」
「あ、クレノ様、おひさしぶりっすー♪」
「どうしておまえは戦わんのだ」
「だって、だってー。相手してくれないッスよー、男同士の決着を邪魔するなってー」
 びぃ、と、フルーレはくれのんに抱きつく、ふたりのはざまにはクレイモア、状況を徹底的に外から解説するとクレイモアが押し付けられるかたちで、あ、いたたたたたた。
「‥‥重い。痛い」
『へい、べいびぃ。そんなに悲しむことはないぜ、俺様が戦ってやるからなー!』
 くれのんは、アルタード・ステーツたちを変人呼ばわりした。
 が、アルタード・ステーツとはそんな甘い任務ではない、補助であるサポートのトーテムたちもまた変性意識体としてのシンクロ能力によって――ぶっちゃけ、こいつらも、変。
 特に、某ユニコーン、白鴎とか泡を吹いて、
『これこそ俺が待ち望んでいたシチュエーション! 愛する人を守りながら、他の女性陣も回収する、そしてむかえるベストエンディングはハーレムエンド調教済み! フラグはばっちし押し倒してきたぜ!』
「‥‥気にしないでくれ、こいつは俺がやる」
「うむ、そのほうがよいようだ」
 なわけで、乱、アルタード・ステーツとしてのはじめての任務は、十八禁のやりすぎ、馬だけどバグ(虫)、を一頭この世から除去することになった。
「‥‥あいかわらず、我々は、ヒマだな」
「どうするッスー?」
「青色○号がもったいないから‥‥中身をこのへんに捨てて、青壜を分別せず、燃えるゴミに出すというのはどうだろう?」
「了解ッス、ふるふるいっきまーす!」
「待てぇ!ですー、そんなことはさせませんー」
 ざ、と、砂煙たちあげながら、とうとう、やっと、ヒーローらしいあの人が登場か!?
 けれど、青。
 青いのである。
『どうだ、俺たちの主人のかっこよさに見ほれたか!』
 にょろすけくん威張っていうけれど、や、だからその青って、青狸の青。
「どんちゃんとにょろすけくんが勇者服を選んでくれたんですー。なんでもこのまえ街角でこういうヒーローさんを見かけたそうですー、ヒーローさんってほんとうにいるんですねー、僕も今度はサインをほしいですー」
 すぐそばにいるけど、教えないほうがよいだろう。のちのちのためには。
 どんちゃんに騎乗の小鉄、む、と、手刀をはすにかまえて、と、それを音頭にしたようにいっせいに練気が彼を――全方向にすきがない、どこからぼけてもつっこんでくるだろう奥義の型(←そっちかよ)。
「ゆけ‥‥ふるふる」
「OKッス♪」
『止めたければ止めるが良い、勇者達よ。ただし――止められるものならばな!』
「ああぁ、自分の科白をアレクサンドルがとったッス、やりなおしを要求するッスー!」
『え? ‥‥いや、そんなヒマは』
「分かりましたー、僕、入場からやりなおしてきましょうかー?」
 付き合っちゃうのかよ、小鉄。
 どんちゃん、止めてやれ――ってしたがっちゃうのかよっ。否、これも作戦のうち。
「いっきまーすー!」
 馬は――つか、驢馬だけど――突進する動物である、にょろすけくんがふるふるからめて、小鉄ちゃんはそっからどーんと飛び出せ! 光たなびく――流星の軌跡!
「ふぁいと、おー!」
『‥‥いや、こてっちゃん。ほんとうはそこ、俺がつっこむはずだったんじゃあ』
「えーなんですー?」 ←聞いてない
「にゃああ!」
 よそ見したすき、はねとばされたフルーレ。唯一の手駒を失ったくれのん、
「おのれ!」
 と、くれのん、とうとう本領発揮か? 駄菓子菓子!
「云いたいところだが、黒幕昇進検定に待ったがかかっているようだっ‥‥覚えていろ!」
「検定ー?」
『こてっちゃん、つまりあの人は落ちこぼれなんですよ』
『やーい、やーい。連続三十回試験を受け続けってほんとうかよー?』
「おぉー、テストですかー。僕はまだ生まれてから一度も赤点とったことがないので、なんだかうらやましいですー」
「おぼえておけ(素)(図星)」
 かくして、世界は守られたのである!
 ぶらっぼー。すぱしーぼ。‥‥へ、ようやっとやってきた、柴犬と少女の連れ立ち。
『ほらぁ、云ったじゃない。遅すぎたのよ』
「だども、おら、あんまり野蛮なのいやだっぺ。それよかぁ、権兵衛とちょっとだけでも話せたのがうれしいだべなぁ」
『しかたないわね、週一の骨付きお肉で手をうったげるわ』
「でぶるべ?」
『がーん』

「はい‥‥ラティ‥‥。おしまい」
 ぽんぽん、と、エスナはラティの体をはたく。
『はーい、今日もありがとー。って、僕らなんにもしてないよっ!? わああん、ちゃんと正義の味方したかったのにーっ』
「‥‥お花畑‥‥いっしょに行ってくれる?」
『必殺技やりたかったよーぅ。‥‥うんっ、ずっといっしょに遊ぼうね☆(ころっ)』
 エスナ、にっこりと愛犬と微笑みあい、さぁここらで物語は役割を終えようとしようか、けれどもそのまえにもうひとくさり。彼の話をしよう、エスナの自宅前を夢遊病のように過ぎようとする彼のことを。
 紅彰吾は、
『いいのか、弁当を作ってくれた家族を――見捨ててよいのか?』
 崩壊する世界を見たときから、あぁ、まさに欠片に沈もうとする彼の家庭へかけだしていた、わけのわからん先輩たちなぞもう知らん。
 彰吾が哮れば、レリィは応える。
 それはアルタード・ステーツとしてはほんのささやかな奇跡の実行、だけども、彼のせいいっぱい。フロストウルフを黒として取り込む彼の一閃は、名剣デルよ、切り裂く、つぶす!
『よくやったな‥‥俺もしばらくは眠っていられる』
「わぁ‥‥すごい。ってきゃあぁ!」
 いや、あなたもやろうと思えばすごかったんだって、とおしえるまえに、エスナは目を閉じる。彰吾すっぱー、酸っぱいじゃなく、すっぱだか。真っ赤になってしゃがみこむ――そろそろお昼頃、雑踏は悪夢から覚めてもどってくる。

 ところで、
「あの‥‥いくつかの戦い、決着ついてないんですが?」
 また来週! エイプリルフールよ、永遠なれ!