●リプレイ本文
●アイドル、やりませんか?
JR徳島駅の構内。直結している駅ビル・クレメントプラザや、バスターミナルを挟んで連立する徳島そごうと徳島名店街ビルがあるここは、昼下がりともなると多くの人出で賑わう。
「‥‥あ、あの、すみま、せん‥‥」
駅の構内を歩いていたカシム・ヴォルフィード(ea0424)は、辛うじて聞き取れる程度の小さい、おそらく自分を呼び止めたであろう声に振り返った。そこにはけぶるような長いプラチナブロンドの髪を湛え、紅い瞳の、線の細い小柄な少女が立っていた。
「はい、僕ですか?」
「‥‥い、いきなりですみません、けど‥‥アイドル、やりません、か‥‥?」
「は、はい!?」
「‥‥私達、あれに出場する‥‥のですが、一緒に『プリズムブレイクス』、という‥‥ユニットを組ん、で下さる方を‥‥探しているの、です‥‥」
そんな彼を後目に、少女は壁に貼ってある『“ミスとくしま”コンテスト』の告知ポスターを指差した。
体付き、肉付きは限りなく女性に近いし、無駄毛の類もない。今着ている服もジーンズにカジュアルシャツと、男性とも女性とも取れる服装だ。
おそらくこの少女は、自分を女性だと思って声を掛けたに違いない。カシムは内心溜息を付く。
「頑張ると、男としてこれはこれで問題がありそうなんだけど‥‥」
「‥‥え!? す、すみま‥‥」
「話くらいは聞くよ」
「は、はい! あ‥‥私、フローラ、フローラ・エリクセン‥‥って、いい、ます」
カシムの呟きに、少女はようやく彼が男性である事に気付いたのか、慌てて頭を深々と下げる。しかし、カシムは謝罪の言葉を最後まで言わせず、途中で遮るように話を聞くと申し出た。
少女、フローラ・エリクセン(ea0110)はその言葉を聞くと、花の蕾が綻び、咲くようにぱぁっと笑みを浮かべ、パートナーであり最愛の女性(ひと)でもあるシーン・オーサカ(ea3777)の待つ、徳島市内を流れる新町川に架かる両国橋近くのランジェリーショップへ案内した。
「シーン・オーサカや、ようしゅう頼むで」
フローラに紹介されたカシムへ、シーンは手を差し出す。彼は苦笑混じりに彼女の手を握り返した。シーンはピンクのブラとショーツが覗く、白いネグリジェ姿だった。
尚、このランジェリーショップは、プロデューサーの1人、真鏡名桃香Pのレッスンスタジオでもあった。
「‥‥常に見られている事を意識するのよ‥‥女は見られる事で美しくなるのだから‥‥」
桃香が説得する傍らで、フローラは黒い光沢を放つボディスーツへ着替えた。
桃香のレッスンは『見られる事』を意識する為に、昼間はランジェリーショップのランジェリーのモデルをし、街中ではボンテージで歩くという内容だ。
「僕が出るとしたら、“シムカ”って芸名を名乗った方がいいと思うんだ」
「‥‥それはあなたに任せるけど‥‥見られる事を意識する事で、美が磨かれるのは、男も女も同じよ‥‥」
「は、はい‥‥それは分かりました‥‥けどっ!」
桃香がカシムの背後から身体を寄せてきた。桃香も鈍い光沢を放つラバー素材のボンテージを着ており、カジュアルシャツ越しに彼女のふくよかな体付きがカシムに感じられる。
すると彼女の手がカシムの下腹部へ伸び、蠢き始める。
「‥‥ああ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥や、止めて‥‥下さい‥‥」
「‥‥ふ‥‥」
「あ、ああああ!」
桃香が微かに嗤うと、荒い息を吐いていたカシムが断末魔を上げる。そのままぐったりと桃香に身体を預けた。
「カシム‥‥色っぽくて綺麗や‥‥桃香Pはんの言うとおり、男でもこない綺麗になれるんやな‥‥」
「‥‥シーン、私達、も‥‥カシムさんの、ように‥‥綺麗になれる、でしょうか‥‥?」
その光景をシーンはうっとりと見ていた。隣ではフローラが息を荒くし、太股の付け根をこすり始めている。
「それはこの1ヶ月の頑張り次第やろ」
「あ! ‥‥ふあ‥‥シーンと一緒なら‥‥頑張れ、ます‥‥! ‥‥あう!!」
フローラの新雪のような頬に唇を落とし、その身体を掻き抱くシーン。彼女の腕の中で、フローラもまた絶叫を上げるのだった。
・開始時点での流行情報→1位:ビジュアル系/2位:ダンス系/3位:ボーカル系
●掘削して埋まってるね!
「巫女装束や和服、それは日本女性が着てしかるべき衣装なのですよ〜。和装の良さをもっと世に知らしめるべきなのですよ〜」
「あなたの言う通りだわ。あなた達とは上手くやって行けそうね」
「千弥、私達はあなたに師事を願うのですよ〜」
梅林寺愛(ea0927)と篠原美加(eb4179)は、JR徳島駅の北に広がる、徳島中央公園の中にある神社を訪れていた。ここはプロデューサーの1人、奈瑚千弥Pのレッスンスタジオでもある。
和装への熱い思いを語る愛は、黒と青紫を基調とした和服を纏い、髪を軽く結っている。早くも千弥と意気投合し、2人は同志として熱い握手を交わした。
「僕は千弥Pが着てるような巫女装束が着てみたいけど‥‥似合うかな?」
「あら? せっかく日本に生まれたのだから、自分から和装の似合う女性にならなくちゃ、ね」
美加はボーイッシュな外見を少し気にしているようだ。彼女は理工系の大学に通っており、今もノースリーブのシャツにつなぎの上着を腰に巻いた服装をしている。
千弥はウインクを1つ、美加の身体を採寸し始めると、彼女の体に合った巫女装束一式――白衣に緋袴、肌襦袢――を出してくる。
普段から和服を着ている愛は、着付けも手慣れたものだ。美加の背中を押して奥の部屋へと消えていった。
「下着は付けない方がいいって聞いたけど、そうなのかな?」
「巫女装束の場合、肌襦袢が下着の代わりになるのですよ〜」
先程の愛と千弥の熱い語りを聞いていた美加としては、和装の本格派を目指したいもの。愛に疑問をぶつけながら、しっかりした着こなしを身に付けてゆく。
「それにしても愛は‥‥和服の時だとあまり気付かないけど、スタイルいいよね」
「和服は体型を隠すのですよ〜。それに、美加も‥‥その‥‥胸は私より大きいのですよ〜」
小柄ながら豊満な愛の体付きに、しばし目を奪われる美加。女の子同士なのにドキドキしてしまうのは何故だろう。
愛も恥ずかしそうに顔を俯き、上目遣いに美加の豊かなバストを見る。特に彼女の場合、普段着が普段着なので、本人が意識していなくても否応にも胸の大きさが目立ってしまう。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ご、ごめん! ついマッサージしてみたくなっちゃって‥‥あは、あはは、あはははは‥‥こんな僕は掘削して埋まってるね!」
気が付くと、美加は愛の胸を後ろから鷲掴みにしていた。ついマッサージしてみたくなるような魔性の胸らしい。
美加は乾いた笑いを浮かべると、背中から掘削用ドリルを取り出して、けたたましい音を立てながら部屋の床板に穴を開け始める。
「ちょ、ちょっと、一体何の音なの!?」
「美加、床板に穴を開けて掘ってはダメなのですよ〜」
流石は理工系、ドリルも本格的だ!
千弥も音を聞き付けて駆け付け、愛と2人掛かりで、瞬く間に2m掘り進んだ美加を止めるのだった。
・1週目の流行情報→1位:ビジュアル系/2位:ボーカル系/3位:ダンス系
●フィソススパイラル!
「おはようございます♪ クレア・エルスハイマーですわ」
「摩瑠子殿、宜しくお願いする。そなたの腕、信じているぞ」
プロデューサーの1人、覇王摩瑠子Pのレッスンスタジオは、国道192号線から1本路地を入ったところにあるメイド喫茶だ。
クレア・エルスハイマー(ea2884)はたおやか且つ朗々と、フィソス・テギア(ea7431)は背筋を真っ直ぐに伸ばし、摩瑠子に挨拶する。
フィソスは一分の隙もないクールビューティーだが、白と黒のゴシック調のメイド服を着用し、違和感なく着こなしている。スカートの裾の長さは膝下に留め、脚には白のストッキングとガーターベルトの組み合わせで、過度の露出はしていない。半袖のパフスリーブの上着の上からエプロンドレスを付け、白銀の髪の頭頂よりやや前に純白のカチューシャをちょこんと標準装備。首にはシルバーのロザリオを提げ、靴は黒のローヒールとそのこだわりは半端ではない。
「え〜、今回は可愛い子を愛でるつもりだったのに、私もやらなきゃ駄目なの、まるちゃ〜ん?」
「次があったらアールマティ様にプロデューサーも出来るよう掛け合ってあげるから」
一方、青龍華(ea3665)はフレンドリーに話し掛けるが、彼女と摩瑠子は3年来の付き合いになる友達だ。服装もデニムのスカートにYシャツとネクタイと普段着だが、龍華はこの歳で厨房を任せられる程の料理人だ。
クレアは多言語話者で、外国語の塾で講師のアルバイトをしながら大学に通っている才女だ。今も講師の時に着ている白のカジュアルスーツ姿だ。
「次があれば、そうしてくれると助かるけど‥‥それもあるけどそうじゃなくて、候補の中で最年長だけど‥‥良いの?」
「くっ‥‥!!」
「まぁ、ミスとくしま候補は『14歳以上40歳未満の徳島県民』っていう規定があるけど、龍華もフィソスもクレアも、十分満たしてるでしょ?」
龍華が年齢の事を切り出すと、フィソスが項垂れる。実年齢では龍華の方が上だが、その落ち着いた雰囲気からフィソスの方が年上に見られがちだった。
摩瑠子はフォローするものの、フィソスのモチベーションはいきなり下がってしまう。
「レッスンの時は、やはりレオタード姿でしょうか?」
クレアは白のノースリーブのワンピースを用意してきていたが、摩瑠子は彼女に赤を基調とし、黒をアクセントとしたロリータ系の服を渡した。一見、クレアとロリータファッションはミスマッチに思えるが、黒のガーダーベルトとローヒールが彼女の妖艶さを引き出し、しっとりとした色気を醸し出している。
方や、龍華には黒ロリのドレスが渡されたが、彼女は袖を肩までばっさり切り裂いてしまう。
「龍華!? 何やってるの!?」
「摩瑠子やフィソスの趣味とは反しちゃうけど、私に合うのを考えるとこれが一番だと思うの」
摩瑠子とフィソスが止めに掛かるが、龍華はその手を止める事はなかった。更に膝下丈のスカートも膝上まで短くし、手には二の腕までの長さのロングスリーブを付け、足にはロングブーツを履いた。最後に束ねていた髪を解けば、龍華なりの黒ロリの萌えを追求したスタイルの完成だ。
「露出を高める事で、却って龍華さんの若さと健康美を活かした形になりましたね」
「クレアに若さって言われるとな〜んか複雑だけど、私の意図する萌えは伝わったみたいね」
クレアの感想を聞いて、龍華は微苦笑しながらも満足げに頷く。
フィソスは何か言いだけだったが、摩瑠子がそれ以上言及せず、逆にデザインをより鮮麗させる言い出した事から、不承不承納得したようだ。
「また会ったな、プロフェッサー・ビックディッパー殿。お手並み拝見と行くか」
「では、これからマニアの萌え心を鷲掴みにしたアニメをマラソンで観るのですな。何が受けて、何が受けなかったか、自分の目で確かめ、そして萌えを開花させるのですな」
フィソスはプロデューサーの1人、プロフェッサー・ビックディッパーPのレッスンを受けに行った。
その週の事だ。
『今日のレッスンは休む』
「フィソスさんがレッスンを休むなんて珍しいですね」
「あちゃー、フィソス、初っ端からモチベーション下がりまくりだものねぇ」
摩瑠子の携帯電話に届いた一通のメール。それはフィソスからのレッスンを休む連絡だった。真面目なフィソスがレッスンを休むなどとは考えられなかったので、クレアは驚きを隠せない。だが、龍華はある程度予想出来たようだ。
「‥‥いやー、だって、何か裏の方で不穏な動きが毎回あるとかなんとか‥‥ん゛ー、良いの、徳島ってこれで良いの?」
既に前章で描かれているように、徳島では毎回、不穏な動きがある。龍華はそれを踏まえて、出向いても安全そうな千弥や服部舞Pのレッスンを受けていたのだ。
「とにかく、フィソスさんを探しましょう」
クレアの一言で、摩瑠子と龍華も手分けしてフィソスを探す事になった。
「‥‥何をやっているんだ私は‥‥」
半ば打ち捨てられた児童公園の、金属音を軋ませるブランコに乗りながら、フィソスは一人ごちた。手には摩瑠子にメールを送った携帯電話が握られている。
こんなはずではなかった。自分はミスとくしまの栄冠に輝き、徳島県中にメイド萌えを広めるのではなかったのか!?
しかし、仲間との会話でモチベーションが下がり、制服選びでモチベーションが下がり、期待外れのレッスンでモチベーションが下がり‥‥フィソスは今、後に『フィソススパイラル』と呼ばれる、モチベーションが一向に上がらない無限の悪夢に囚われていた。
「制服の事とか、レッスンの事とか、言いたい事があるのは分かるわ。でも、あなたも龍華もクレアも、ミスとくしまのステージではソロ、独りで戦うのよ? ステージに立てばライバルでしかないわ」
背中から掛かる摩瑠子の声にフィソス身体を竦めた。しかし、今は後ろめたさから振り返れない。
そうだ。龍華もクレアも、摩瑠子がプロデュースしているが、ユニットは組んでいない。フィソスがフィソススパイラルに陥っている間も、レッスンを重ねて技術を磨いているに違いない。
「そうか‥‥そうだな‥‥私は、私の道を行くだけだったな」
フィソスは手に持っていた携帯電話を力強く握りしめた。
「フィソスさん、摩瑠子P、スタジオへ帰りましょう。龍華さんが美味しい昼食を作って待っていますよ」
クレアが中型バイクに跨って迎えに来る。フィソスと摩瑠子は微笑み合うと、帰路に付いたのだった。
・2週目の流行→1位:ビジュアル系/2位:ダンス系/3位:ボーカル系
●ブースト時は思い出5個!
「うにー、何か今回はどこかで会った事あるような人ばっかりいる気がするにゃー。気のせいかにゃ?」
「いや、王娘も気のせいではないと思うぞ」
「ほら、ミスとくしまに応募するには徳島県民でなければならないから、一応、みんなとどこかで会った事はあるはずだよ。後はデジャブというか、オールスターというか、今回はそんな感じなんだよ!」
いきなり楽屋オチから始まるユニット『うしゃねこ学園』の3人、チカ・ニシムラ(ea1128)と王娘(ea8989)、エル・サーディミスト(ea1743)。
「娘ちゃん、エルお姉ちゃんよろしくにゃ〜♪ うしゃねこ‥‥あたしと娘ちゃんが猫だから‥‥エルお姉ちゃんがうしゃにゃね♪」
「それで学園って‥‥何をすれば‥‥?」
「決まっているのである、スクールウェアである!!」
首を傾げるエルに、プロフェッサー・ビックディッパーが、セーラー服とブレザーを持って現れる。
ここはプロフェッサー・ビックディッパーPのレッスンスタジオ、JR徳島駅近くにあるネットカフェだ。
「こ、この歳でスクールウェアはちょっと‥‥出来れば学園でも、女教師を担当したいんだけど?」
エルは淡いロゼ色のカジュアルスーツにタイトなミニスカート、パンストとヒール履きの女教師を選んだ。
「ふむ、王娘はセーラー服の方がいいのだが。この下に服を着ていても、セーラー服なら脱ぎやすいからな」
「うみゅ、毎週いろんな衣装に着替えて、自分に合った制服を見付けるといいにゃ。ちなみにあたしは、服を着替えるとモチベーションが上がるのにゃ♪」
「うむ、どうやら王娘もそうらしい。着替えると、少しだけモチベーションが上がるな」
「ボクはあまり気にならないけど」
この3人、モチベーション管理は比較的楽なようだ。
「コンテストに参加するからには、やっぱりミスとくしまにならないとね!」
「うむ、そうだな。私は好きな歌でどこまで勝負できるか試してみたい(そして、何も出来ない自分を変える切っ掛けをつかみたい‥‥)」
3人とも最初からかなり高いモチベーションを維持している。檄を飛ばし合うと、先ずはプロフェッサー・ビックディッパーPのレッスンから開始するのだった。
「レッスンの方は順調ですか?」
「その‥‥体操着とにゃんにゃんセットを貸してくれないだろうか‥‥」
王娘はレッスンの合間を縫って、コマンダー・アールマティの元を訪れていた。アールマティは『審査委員長』という立場から、特定のミスとくしま候補に荷担する事はない。
とはいえ、王娘は制服を借りに来ただけであり、その理由を聞いた彼女は納得して、ネコミミと体操着(ブルマ仕様)を貸した。
「あー、やっぱり和服も可愛いなぁ〜」
「なら、和服にすれば良かったのに」
エルは千弥から神楽舞のレッスンを受けつつ、和服が目に付いて仕方ない様子。
後ろ髪を引かれつつ、レッスンが終わった後は時間を見て、かちどき橋の袂にある中洲市場を覗きに行く。この市場では取り立ての青果を始め、鮮魚や加工品といった徳島県下の特産品がほとんど揃う。
エルは常連であり、この日は青果店の店主が彼女にまだ土が付いている、瑞々しい白菜を渡した。するとエルは思わず店主に抱き付いてしまう。他にも取れ立て新鮮な野菜が並んでいる。
「ありがと! やっぱり、土弄ったり植物触ったりしてる方が性に合ってる気がするよー」
恍惚とした表情を浮かべながら、野菜や苗を1つ1つ手にとって品定めをしていくエル。彼女がミスとくしまに出場する事は既に知られており、行く先々で発破を掛けられ、お土産を持たされる。
自分を応援してくれる人がこんなにもいる‥‥エルにとってそれは励ましであり、良い思い出となった。この思いではコンテストの時強い武器になるはずだ。
そして迎えた『“ミスとくしま”コンテスト』前日――
「ダメだ! ダメだダメだダメだ!! 王娘はもっと良い声で唄いたいのに!!」
服部・舞Pのレッスンを3週間受け続けたにも関わらず、王娘は自分の声に納得しておらず、その焦りから荒れていた。
「舞のレッスンを受けたのだから、ちゃんと実力は付いているはずだけど‥‥こうなったら『エル先生のドキドキ補習』をやるしかないよ」
「うみゃ、どんなレッスンをするのかにゃ‥‥って、ふみ!?」
エルはチカが見ている目の前で、王娘に水を掛ける!
「ふにゃぁぁぁ〜、エルお姉ちゃん、冷たいよぉ」
すると今まで冷たい口調だった王娘が一転して、子供っぽいしゃべり方になる。説明しよう、王娘は水を被ると考え方や言動が子供っぽくなるのだ!
「王娘‥‥ごめん!」
「ふぁぁ!? エルお姉ちゃん!? やぁ、はぅ〜、ん! くふぅ! ひゃぁ!」
「あんなところを触って、こんなところを撫でて‥‥うにゃ〜‥‥」
「も、もっと喉からじゃなく、お腹の底から声を出すんだよ」
「そ、そんな事言っても‥‥あはぁ! あん! 王娘、こんな気持ち良い感じ‥‥初めて、で‥‥んぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
チカが顔を真っ赤にして、でも目が離せない中、王娘はエルの胸の中で顎を反り上げて絶叫した。今まで感じた事のない気持ち良さがもたらした、エルの言う、まさに心の底からの叫び声だった。
・3週目の流行→1位:ボーカル系/2位:ビジュアル系/3位:ダンス系
●営業:ミーティング
プロデューサーの1人、服部・舞Pのレッスンスタジオは、国道192号線沿いにあるファミレスだ。
「ステージ衣装はデ○デコの制服で行きたいと思っています」
「デコ○コの制服ですか‥‥悪くはありませんが、知名度という点ではどうしても低くなってしまいますね」
自己紹介を終えた琴宮茜(ea2722)は、舞とのミーティングの中で、ステージ衣装について希望を切り出していた。
○コデコは北関東にあるハンバーグレストランで、知名度という点ではマイナーにならざるを得ない。その制服は、濃紺を基調とし、白のチェックのワンピースに黒のデニム地のスリムパンツ、黒のスニーカーというデザインだ。
「茜さんでしたらア○ナミ○ーズやコ○スの制服も似合いますし、今着ている馬○道の制服もステージ映えしますよ」
茜は和装を嗜んでおり、しかし、千弥と被らないよう○車道の制服を着ている。ファミレスの制服に造詣が深い舞が太鼓判を捺してくれたのだから、茜としても嬉しい限りだ。
「確かにデコデ○の制服は思いっきりマイナーです。だからこそ、知らない人が見れば既存の制服以上にインパクトを与えられるのではないでしょうか?」
「なるほど、逆転の発想ですね」
「それに、デ○デコの制服はスカートの下にデニムのスリムパンツを履きますから、ステージ上で多少アクロバティックな動きをしても気になりません」
「それで『mayfly〜かげろう〜』はアップテンポのロックなのですね。そこまでお考えでしたら、デコ○コの制服と、この曲調で行きましょう。バックバンドは私の方で用意しますので、後はレッスンに専念して下さい」
畳み掛ける茜の考えに舞は賛同すると、必要な手続きは全て彼女が行った。
その間、茜は舞のファミレスでウェイトレスのアルバイトをした。接客はとにかく元気な声を出す事が第一。その結果、1週間後には以前より声量が付いていた。
・4週目の流行→1位:ボーカル系/2位:ビジュアル系/3位:ダンス系
●ミスとくしまの栄冠は誰の手に!?
徳島県文化の森総合公園内に設置された特設ステージ前には、“ミスとくしま”候補達のステージを見ようと、多くの徳島県民が詰め掛け、満員札止め状態だ。
このステージは徳島ローカルテレビで徳島県全域に中継され、即日、県民投票が行われる。
最初を飾るのは『Sanctuary』のフィソス(ビジュアル:7/ボーカル:4/ダンス:3)だ。
「会場のご主人様方、私の歌をお聴き下さい。精一杯歌わせて戴きます」
♪貴方になら 許してもいい
踏み込んで 私の聖域
ずっと守り抜いてきた 信じぬこと
これからも永遠に‥‥そう思っていた
けれど貴方が舞い降りた
貴方は私の心を溶かしてくれた
貴方になら 犯されてもいい
壊して 私の聖域
ずっと拒んできた 愛されること
これからも永遠に‥‥そう思っていた
だけど貴方が現れた
貴方は私の心を包んでくれた
貴方となら 創れるはず
私達の 永遠の聖域♪
こだわりのメイド服姿で深々と挨拶をして、『永遠の聖域』歌い始める。
次に、愛と美加(ダンス:10(+2)/ボーカル:9(+2)/ビジュアル:0(+2))がステージへ上がる。
愛は薄桃色の、美加は薄紫色の、それぞれ蝶に見立てたデザインの巫女装束を纏い、「ここまで来たんだから頑張ろうね!」とハイタッチして『爛漫の華』を歌い始める。
♪諸行無常の世に在り
散り逝く宿命に抗い
仄かな毒に冒されて
何処(いづこ)へと消え果ぬ‥‥
風に攫われ 水に呑まれ 土に埋もれても
華よ 爛漫へといざや 往かん?
命儚きものと 知っていながら
散り際さえも 美しく飾ろうと
小さな胸に 覚悟を秘めて
香り麗しく 咲き誇れ―‥‥♪
美加は踊りに専念し、愛が最初は静かに、徐々に高らかに歌う。
後半に入ると、予め集め、袖口に仕込んでおいた桜を始めとする春の花の花弁を、愛自身や美加の巫女装束の中から舞い散らせる。
ところが途中、誤って美加の装束の奥へ入ってしまう。
「今取ってあげるのですよー。えっと‥‥このコリコリしたのかな?」
「そこは違ぅ‥‥あふ‥‥んん‥‥」
「あ、こっちなのですよ〜」
「ひ、人前でこんなはしたない姿を見せるなんて‥‥こんな僕は掘削して埋まってるよ!」
愛に他意はなかったが、美加は恥ずかしさから削岩用ドリルを取り出すと、ステージに穴を開けて埋まってしまい、2人は棄権となった。
ステージが応急処置されると、黒ロリのドレスを身に纏った龍華(ボーカル:6/ビジュアル:6/ダンス:3)が姿を現す。
♪何も自分には無いって そんな風に思うことは無い?
それは自分に自信が無いだけよ
そんな弱気と悲しい思いが 心に浮かんで消えて
君の心をきつく苦しめ続けるの
悲しみや辛さで 心が挫けたって
絶対最後は立ち上がれ それが生きてるってことさ
ほら周りを見てみれば 夢や希望で満ち溢れてるの
自分で見なかっただけなの 気付けば何処にだってあるわ
それに気付ければ 貴方はもう大丈夫
弱気も全部吹き飛ぶわ 心に光差し込むぐらいにね
『no discourage』は明るめの曲調で、後半に入ると更に明るく強くなった。
茜(ボーカル:9/ビジュアル:3/ダンス:3)はデ○デコの制服に身を包み、舞が指揮する同じくデコ○コの制服に身を包んだバックバンドを引き連れての登場だ。
♪mayfly 影を縫い
mayfly 闇を漂う
虚ろな眼差し空を仰ぐ
思いは何もなき闇夜を行き交う
先の見えない草原
ただその場を彷徨い続けてる
私は蜉蝣
光も見えないまま
何処かに行くアテもなく
mayfly 時を縫い
mayfly 風を漂う
虚ろな仕草で空を指差し
ココロは何もなき闇夜を飛び交う
何のために私はいる
何の為に私は動いているか
答えは見出せぬ
答えが何なのか
何処かと求めて飛び立つ
mayfly 人を縫い
mayfly 町を漂う
虚ろな眼差し空を仰ぐ
答えは知らないまま波を行き交う
mayflyその答えは自分の心の中にあるのに
それを見出せないまま人知れず消え去る
陽炎の様に‥‥♪
♪待ちわびたあなたからのメール だけど内容はちょっと素っ気ない
だけど、それでも私は嬉しいわ だって今はこれが精一杯なんですもの
あなたは今何をしているの この距離がもどかしい
あぁ、羽を生やしてあなたの胸へ飛び込みたい
待っててね私の大切な人 必ずそこに帰るから!
浮気してたら、許しませんからね! 私はあなたが一番なんだから♪
黒ロリ姿のクレア(ビジュアル:10/ダンス:3/ボーカル:1)は、カルメンのように情熱的且つ扇情的な激しい踊りで観客を引き込み、POPな曲調で、今は離れている恋人への想いを情熱的に唄った。
『プリズムブレイクス』(ダンス:6(+3)/ボーカル:5(+3)/ビジュアル:4(+3))の3人がステージに現れると、一際大きい歓声が湧き起こる。
シーンは、体型がはっきり出るへそ出しルックにミニスカ、ロンググローブにロングブーツと、黒騎士を意識した薄手の皮の衣装だ。
フローラは、白の薄手の肩紐キャミソールにガーター網ストッキング、ローレグの紐ショーツなランジェリー姿で、その上から白のマントを身に付け、シーンと対比するような白騎士の衣装だ。
そしてシムカは、上半身を覆うボディスーツにレザーのミニスカ、紺のマントを羽織った魔法使いの出で立ちだ。
♪世が闇に沈もうと 宇宙(そら)より悲しみが降り続こうと
自分を諦めないで 想いを決して忘れないで
前へと歩みゆく力が 光を綴り続ける
会いたい―――――
この言葉届けられずとも 抱きあたためる
あなたが微笑み絶やさぬ為に ココロの全て捧げます
このあたたかさは 確かだから♪
シーンがソプラノを、シムカがアルトを担当し、フローラは2人の歌声に合わせてダンスを披露する。
途中で、フローラが2人を攻撃から庇ったり、シムカが敵の攻撃を受けて倒れ、シーンが彼にマントを掛けて下がらせ、怒りを露わに止めを刺す、といった大きな魔物と戦っているかのような寸劇も入り、観客を大いに沸かした。
トリを務めるのは、『うしゃねこ学園』(ビジュアル:6(+3)/ボーカル:5(+3)/ダンス:3(+3))の3人だ。
ライトに立つチカは、ネコミミにチョコレート色のブレザー。
レフトに立つ王娘は、ネコミミに白を基調とし、赤いリボンのセーラー服。スカートは紺でちょっと膝上の丈に白のソックス履きだ。
センターに立つエルは、女教師のスタイルの上に白衣を羽織り、ウサミミを付けている。
「それじゃあ元気に行くにゃ〜♪ お兄ちゃんお姉ちゃん達、見ててにゃ〜♪」
♪「孤独に沈んだ時も」
「一人寂しい時も」
「私はいつもここにいる」
「悩み迷う日も」
「一人落ち込む日も」
「私はいつも傍にいる」
「大丈夫!」
「どんな時でも」
「なんとかなるさ」
「「「カラ元気でもいいじゃない
余裕のフリして行こうよ
生まれて死ぬまで
笑ったもの勝ちだよ♪」」」♪
チカの掛け声と共にエルから歌い始め、チカ、王娘とワンフレーズずつ紡いでゆく。
ラストパート前になると、チカはブレザーを、王娘はセーラー服を一気に脱ぎ捨て、それぞれその下に着ているスクール水着、ブルマ姿になる。しかもチカは旧スク水、王娘は体操着をブルマの中に入れてお尻のラインを食い込み気味にし、脱ぎ捨てた瞬間、頬を赤らめて恥じらいながらもブルマに指を入れて直す仕草も加えるというこだわりようだ!
「応援してくれる中洲市場の人達の為にも、ボクは負けられないよ!」
ここでエルが思い出を発動! 3人は心を1つに合唱する。
県民投票の結果、茜と『Sanctuary』、『うしゃねこ学園』が同一一位という接戦となった。
フレッシュさが考慮され、ミスとくしまには茜が選ばれた。次点が『Sanctuary』、『うしゃねこ学園』、龍華と続く。
『プリズムブレイクス』とクレアは、男性票を奪い合う混戦状態だったという。
愛と美加は残念ながら棄権扱いだ。掘削には注意しよう。