【リアルロボット】地上絵のある土地で‥‥
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■ショートシナリオ
担当:恋思川幹
対応レベル:フリー
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
リプレイ公開日:2005年04月14日
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●オープニング
『General purpose Systematic Device』
通称・ディバイス。この世界の戦場を闊歩する、14m級の人型機動兵器である。
この世界とは?
未来の地球のようであるが、異種族が存在する世界。
かといって、未来のジ・アースという訳でもない世界。
第3の未来風空想世界である。
南米ペルー、ナスカ地方。地球連盟軍秘密実験基地。
「いよいよ、実戦運用も可能な機体のテストですな」
連盟軍の大佐はケージに格納されている実験機『コンドル2』の姿を見て、誇らしげに言った。
「実戦運用? それは皮肉ですかな? ブラックボックスが多すぎて、信頼性は現用主力のヤクトアゥゲに遠く及ばない。実戦などとても‥‥」
開発責任者のエルフの博士はかぶりをふる。
「マヤ文明の水晶ドクロ。そこから未知のエネルギーを取り出そうというなら、さもありましょう。ですが、強力な次世代ディバイスとなりえる」
「コンドル2は忌み子ですよ。ふん、科学とオカルトの混血など。信頼性の低い兵器など、強力であってもツメを誤るものだ」
『博士、それは私に対するあてこすりですか?』
通信ビューが開いて歳若い女性、いや少女パイロットが会話に割り込む。種族はハーフエルフである。
「ん? そうだな、兵器もパイロットも信頼できる者でなければな」
『HESは既に過去のものです。謂れのない誹謗はやめて下さい』
「ふん。そちらの準備は終わったかね? エルザ少尉」
『はい、完了しています。次の指示まで待機します』
ハーフエルフの少女パイロット、エルザが返事を返す。
「よろしい。では、実験を開始する」
「最終フェイズに移行します」
眼鏡をかけたシフールのオペレーターが報告する。
「よし、水晶ドクロのエネルギーを解放」
「了解。バイパス、開きます」
Beep! Beep!
「警報! 出力異常です!」
ポニーテールのシフールのオペレーターが声をあげる。
「実験中止! バイパス閉鎖、システムダウン!」
「博士、少しの異常事態などで‥‥」
「マヤの水晶ドクロのエネルギーはまったく未知の存在! 石橋叩いても慎重すぎることはありません!」
エルフの博士の指示に大佐が異を唱えるが、一蹴される。
「駄目です! 外部からの信号を拒絶しています!」
眼鏡シフールの報告。
「すべての回線を試せ! 非常回線12チャンネルまでの使用を許可する!」
「了解!」
「こちらコンドルベース。コンドル2、聞こえるか? 現在、外部からのコマンド入力が不通となっている。コクピットの緊急停止装置は作動するか?」
『こちら、コンドル2。こちらでも制御不能です。機体がコントロールを受けつけ‥‥うそ‥‥正規の機動手順通りに‥‥勝手に動いているなんて‥‥きゃっ!』
通信ウィンドウの向こうでエルザが悲鳴をあげた。
「どうした? コンドル2、コンドル2! エルザ少尉!」
『ドクロが‥‥ドクロがっ!! いやあぁぁ! 助け‥‥』
エルザの悲鳴が途中で途絶えた。
「通信途絶しました!」
「博士! コンドル2が動きはじめました!」
二人のシフールのオペレータが目まぐるしく報告する。
ケージの中を見やる。
コンドル2のゴーグル型のモノアイが紅く輝いた。
機体に異常があった場合、逸早く外部へ警戒を促がす為に搭載された、実験機特有の装備であったが、状況の異常さと併せて、まるでコンドル2が禍々しい遺志を宿したかのような不気味さを感じさせた。
「コンドル2、火器管制ロックを解除! 索敵フェイズがロックオンフェイズに移行‥‥目標は‥‥ひっ!?」
眼鏡シフールのオペレータが凍りついた。目標は自分達のいる、このコントロールベースなのである。
「言わんこっちゃない。だから、兵器は信頼性だと‥‥」
それがエルフの博士の最期の言葉となった。
「アテンション!」
眼鏡をかけた理知的な女性仕官がブリーフィングルームに入ってくる。
「諸君、緊急任務だ! ここでは状況のみを説明し、細かい作戦内容の検討については往路の輸送機内で行う!」
部隊の指揮官であるフロレンス大佐の緊迫した様子に、部隊員達も身を引き締める。
「ナスカにある我が軍の研究施設で事故が発生した」
フロレンスの言葉に隊員達の間に動揺が走る。
「そうだ。我が隊よりエルザ少尉の出向していた施設である。この基地で実験中の実験機コンドル2が暴走するという事故が発生した」
「コンピュータ・ウィルスか何かで?」
「原因は一切不明である。だが、判明している事実はあまり気持ちのいいものではない。暴走したコンドル2は基地守備の任務についていたスパイダー中隊と交戦、これを全滅させ、研究施設を完膚なきまでに破壊し尽した。事故当時、基地にいた人間の生存は一名を除いて、ほぼ絶望的である」
「一名を除いて?」
「事故当時、コンドル2に搭乗していたエルザ少尉の生死は現在に至るも不明である。現在もコクピットに閉じ込められていると思われる」
フロレンスはプロジェクタを起動して、ナスカ周辺の地図を出す。
「そして、コンドル2は現在、文化遺産であるナスカの地上絵方面へむけて進攻中である。ナスカ周辺は観光地であり、人口も少なくない。また、暴走したコンドル2に呼応するように同プロジェクトによって開発された実験機、コンドル0、コンドル1も暴走状態にある。こちらは実戦を想定した機体ではないが、全滅したスパイダー中隊のディバイスから武装を奪取、戦闘力を保持している。この2機には事故当時、搭乗員がいたという記録はない」
フロレンスはそこで溜息をついた。
「軍司令部はこの3機の破壊を決定した」
「それは‥‥」
再び隊員達の間に動揺が走る。
「そこで諸君らの任務である。私がエルザ少尉の救出作戦を上申し、これが許可された。目標が人口密集地域に侵入するまでの僅かな時間であるが、この間に目標を捕捉し、エルザ少尉を救出する。これが今回の作戦である。だが、制限時間を過ぎれば、友軍は航空攻撃によって目標を破壊するだろう。搭乗者の生死に関わらず‥‥だ」
フロレンス大佐は部下達を見回す。
「諸君らがこの困難な任務を遂行して、無事に戦友、エルザ少尉を助け出してくるのを待っている。本作戦名は『Nazca Line』とする。以上!」
●リプレイ本文
●
ナスカを目指す輸送機の一隊。そのカーゴには救出部隊のディバイスがすぐにでも空挺降下が可能な状態で搭載されている。
「先行して偵察するよ♪ カーゴのハッチを開けて」
愛機のコクピットで待機している鈴苺華(ea8896)特務曹長は輸送機のパイロットに連絡を入れる。
「はっ? まだ、早いのでは?」
「滑空と飛行補助装置を使えばいけるよ♪ ね、雨雀少佐、いいよね?」
苺華が隊長の秋月雨雀(ea2517)少佐にお伺いを立てる。
「駄目だ‥‥と言っても聞かないよな」
溜息をつく雨雀。
「この際だ、今ここで皆に言っておく。本作戦で隊長らしいことをするのは、これっきりだから、よおく聞け」
搭乗機のコクピットから輸送機の通信機能を経由して、隊員すべてに呼びかける。
「この隊に集まっているのは、いずれも一癖も二癖もあるヤツばかりだ」
「考課表を今さら気にしても仕方がないメンツ揃いですからねぇ。‥‥私もその1人ですけど‥‥」
がっくりとうなだれた声を出すのは、副官のリセット・マーベリック(ea7400)大尉である。
「まあ、リセット大尉の言うとおりだ。そういうわけで指揮をとるのは、まあ諦めた。命令は一つ! 各員、それぞれの最善を尽くして、無事にエルザ少尉を助け出し、命令違反の懲罰は生き残って受けろ! 誰も死ぬな!」
雨雀はそう言って部下を鼓舞する。
「了解! じゃあ、鈴苺華特務総長! UND-310bpa、先行して偵察するよ♪」
輸送機のカーゴハッチが開かれて、真っ赤なヤクトアゥゲが青空に滑り出てくる。苺華の愛機で、恐ろしく目立つ偵察機という不条理さで『苺色の流星』と呼ばれている。
「各種偵察機器始動。情報はリアルタイムで送信するよ。行ってくるね♪」
シフールは体格が小さい為、コクピット周辺のアビオニクスが充実させられる。偵察任務には適任なのである。
Booooo!!
バーニアを吹かして、苺華機は輸送機を引き離していった。
●
「‥‥システム、オールグリーン。全兵装アクティヴ。‥‥出力、クルーズ‥‥ミリタリー‥‥マックス‥‥往くか」
夜十字信人(ea3094)軍曹が機体の状態が万全であるのを確認すると、彼のヤクトアゥゲは輸送機のカーゴから放り出された。陽の光にノーマル仕様の青を基調としたカラーリングの機体が輝く。
モニターで周囲の様子を確認する味方も同様に自由落下に身を任せている。
「うわああ、この感覚なれないーっ」
ヴァレス・デュノフガリオ(ea0186)伍長が叫ぶ。急速な落下は擬似的な無重量状態を作り出す。その際に生じる感覚のことを言っているのであろう。
「ヴァレス伍長、降下集合ポイントからあまりずれないで下さいね」
リセットが声をかける。
「‥‥ま、なんとかなるでしょ♪」
そう言いながら、ヴァレスは愛機であるV型ヤクトアゥゲの姿勢制御に勤しんでいる。黒と紅を基調とした彼の愛機は、それなりに見事なスカイダイビングを披露している。
「こちらロット少尉、先行して降下ポイントの確保、着陸時の援護に向かう」
形式不明のヤクトアゥゲを駆るロット・グレナム(ea0923)技術少尉が申し出る。形式不明であるのは、ロット自身が開発した様々な特殊兵装が日々付け替えられていて、定まった形式番号がつけられないからである。
「こちら緑朗曹長。同じく先行する」
同じく申し出た黒畑緑朗(ea6426)が駆るのは、黒いカラーリングに「死神」のパーソナルエンブレムを持つDB型ヤクトアゥゲである。
ロットと緑朗の機体は不完全ながら飛行能力を付加されているディバイスであり、他のディバイスよりも速やかな降下とその後の作戦展開が可能であった。
「パラシュート展開高度!」
飛行能力を持たないディバイスはパラシュートを使って減速を行う。
巨大なパラシュートが空に花開いた。
「こちら緑朗曹長、状況は制御下にあり。ようこそ、ナスカの地へ。歓迎する」
ほんの僅かな時間を先行しただけの緑朗がそんな冗談を言う。
「ナスカ‥‥‥‥‥パラシュート切り離し! バーニア噴射!」
ナスカという言葉に何か思い入れがあるのであろうか? 鷹杜紗綾(eb0660)がポツリと呟いた。だが、感慨に耽る間もなく、やるべきことは幾らでもある。地表間際でパラシュートを切り離すとバーニアを全開に吹かしてヤクトアゥゲをゆっくりと大地に下ろす。
「全機着陸を確認しました」
「苺華特務曹長とのデータリンクは?」
「健在です。会敵予想、180秒後です」
雨雀とリセットが状況を確認しあう。
「エルザ、必ずミッション成功させて助けるからね、生きててよ!」
サラ・ヴォルケイトス(eb0993)少尉は、エルザ少尉とは同期の仲で、また親友でもあった。ミッションに対する意気込みも強い。
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「あっ‥‥飛行機雲ですわ」
軍用車輌の荷台に乗ったシャクティ・シッダールタ(ea5989)が、はるか高空を見上げて声をあげた。
「こんな時に‥‥いったいどこのですかしら?」
衛生兵仕様のウォースーツ・オウルマンを身につけたまま、小首を傾げるシャクティ。厳しいウォースーツにしては微笑ましい仕草である。
「おそらく空軍の爆撃機でしょう」
車輌の運転手が答えた。
「‥‥あれがですの? ‥‥タイムリミットを守れなければ、あの爆撃機が‥‥いえ、そんなこと! わたくしは部隊の皆を信じますわ」
暗い予感が走ったのをシャクティは首を振って否定した。
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「気をつけて、敵は3機で連携を整えているよ!」
苺色のヤクトアゥゲが頭上を通りぬけざまに、警戒を促がした。
データを収集しながらコンドル達を引き付けていた苺華が、他の仲間達と再会したのである。
「まったくほとほと厄介な敵です。胃が痛い‥‥」
苺華の報告を聞き、リセットが神経性胃炎に顔をしかめる。
「苺華特務軍曹のデータとリンク、生体センサー起動‥‥‥‥捜査中‥‥ノイズが酷くて特定に時間がかかりそうだ」
ロットの特殊兵装がエルザの無事を確認しようとしている。
「機体の識別は出来てるんだ。生きてると信じて、コンドル2は動きを止める方向で行こうぜ ヴァレスが軽くそう言った。
「少尉‥‥必ず助ける‥‥!
「怪しい実験機‥‥俺の悪運を上回れるか?」
信人と緑朗が白兵武器を携えて真っ先に吶喊する。
紅く輝くゴーグルを煌めかせるコンドル0、1、2の3機。
コンドル達の銃口が二人のヤクトアゥゲに向けられる。
BEEEEM!!
PapPaPaPa!!
だが、銃口を向けたコンドル2の足元をビームがな薙ぎ払い、無数の弾がコンドル0と1に浴びせかけられる。
「もう一撃! 足元を狙う!」
サラが再び、ビームライフルを打ち込む。威力の大きいビームライフルで足元を狙うことで、敵の足止め加えて、間接的に足へのダメージを狙ったものである。
「さあ、こちらを狙ってきなさい!」
アサルトライフルを乱射して、0、1の注意を引き付けるリセット。
Pow! Pow!
Papapapa!!
コンドル2が速射式ビームライフルで、コンドル1がアサルトライフルでの反撃を加える。サラ機を掠めたビームは機体の装甲を削り、リセット機もばら撒かれる弾丸すべてを回避するには至らないが、いずれも致命傷は避けている。
「もらった! 援護に気をとられ過ぎだ!」
リセットの援護の隙に飛行補助バーニアでコンドル1に肉薄した緑朗機がソードで斬りかかる。
BOM!!
緑朗機にミサイルが命中し、攻撃がそれる。
コンドル0のミサイルランチャーから放たれたものである。
「ちぃっ! 暴走した機械に連携が取れるのか?」
GAAAAN!!
一方のコンドル2に肉薄した信人機のソードは、コンドル2が左手に装備したソードとぶつかり合って、大きな火花を散らしていた。
「くっ、思い切った攻撃が‥‥」
エルザが生きているかもしれない‥‥いや、生きていると信じている信人は、エルザの身の安全を思うと思い切った攻撃に踏み切れない。
「信人軍曹! 援護するよ!」
紗綾機が駆けつけてコンドル2の背後に回りこみ、その脚部や腕部への攻撃を試みる。だが、背後からの攻撃にも関わらずコンドル2は機敏な動きでそれを回避する。
「この動き‥‥本当にただ暴走しているだけなの?」
サラはコンドル2の俊敏な機動に驚愕する。
「何がはいってるか知らないけど‥‥機体そのものを壊しさえすれば!」
機体を止めて、エルザも助けられる。サラは威力の大きいビームライフルをハードポイントに固定すると、アサルトライフルを使用した近接射撃の為に距離を詰めていく。
「機体のベース性能はさすがに向こうが上か!?」
コンドル0へ射撃攻撃を仕掛けるヴァレス機であったが、決定打になる命中弾が与えられない。
実戦を想定していないはずのコンドル0、1でさえ、その基本的な運動性能は高い。だが、不可解なのはただの暴走状態でそれが有効に引き出されているということである。
「だが、こちらだって一般機とは違うんだよ、一般機とは‥‥!!」
UND-310L、格闘戦用の特殊兵装と指揮官用機能が付加された機体は、雨雀の機体である。
BiBiBiBi!!
通電式ワイヤーでコンドル1を絡めとると、電流を流しこむ。だが‥‥
Beep! Beep!
「逆流!? うわああああぁっ!!」
未知のエネルギーを動力源とする実験機であるだけに、余剰エネルギーの放出機構には技術が注ぎ込まれていた。その機構が雨雀機の電流を逆流させたのである。
白煙をあげて、雨雀機はその場に各坐した。
「俺はやはり死神なのか!?」
緑朗は歯軋りした。
「ウジャク隊長ーっ!! こんなの‥‥これ以上、友達も仲間も‥‥失うのはもう沢山!!」
戦場に涙は禁物である。だが、紗綾は自分の瞳から溢れ出すものを抑えることが出来なかった。
「その紅い瞳‥‥あたしの前から消えちゃえーっ!」
紗綾機の強烈な一撃がコンドル2の頭部を吹き飛ばす。
「やった!? ‥‥くっ、まだ動くんだ!」
サラは一瞬、コンドル2の活動停止を期待したが、メインカメラをやられただけではディバイスは停止しない。
ZQUUUUUUN!!
強烈な一筋の閃光がコンドル1を包み込んだ。
ロット機の荷電粒子砲である。雨雀機に絡ませられたワイヤーに動きが鈍っていたコンドル1に回避する術はなかった。
「これで隊長の仇は討ったぞ。そして、朗報だ‥‥。これで隊長も報われる!」
生体センサーでエルザの生死を確認していたロットの戦線復帰と「朗報」という言葉。
「少尉は生きているんだな?」
普段はクールに決めている信人が内に秘めた激情を顕わにしている。それはエルザに対する恋心があるからであろう。
「ああ、エルザ少尉を助け出すことが‥‥隊長への弔いだ! コンドル0も手早く片付けるぞ」
「よし、コンドル2を押さえ込む!」
信人が言う。
「機体を動きを鈍くしてからのほうがいいんじゃ?」
「完全に破壊するまで、勝ったとは思うな。だが、少尉がいる以上、完全に破壊など出来ない。なら、救出は早いほうがいい!」
サラの提案に対し、信人が答える。
「押さえつけたら、あたしが飛び移って救出するね!」
紗綾が志願する。
「わかった、援護するからエルザをお願いするよ!」
サラはコンドル2の膝を狙った精密射撃を試みる。先ほどから何度となく攻撃を当てている箇所であった為、蓄積されていたダメージも小さくはなかった。
Zooooon!!
サラ機の射撃をきっかけに、足がもつれさせるようにコンドル2が膝をついた。
「今だっ!」
信人機はコンドル2に接近すると、自機の重量を押し付けるようにして押さえ込む。
「長くは持たないぞ! 紗綾上等兵!」
紗綾は接近するコクピットハッチを開いた。
「‥‥ゴク‥‥ううん、迷うな!」
14m級の巨体の胸部にあるコクピットであれば、その高さはビルの数階に匹敵する。だが、一瞬、躊躇しただけでコンドル2に向かって‥‥飛んだ。
「緊急脱出用の‥‥装置を‥‥!」
必死にコンドル2にしがみ付きながら、設計上コクピットハッチのそばにあるはずの緊急脱出装置のスイッチを目指す。だが‥‥、
「‥‥ひしゃげて‥‥スイッチのカバーが開かない!」
それでも紗綾は諦めない。腰に携帯していた友人の形見のダガーを歪んだカバーの隙間に差し込み、梃子の原理でこじ開けようとする。
「お願い‥‥助けて!」
紗綾は祈った。
PAAN! GASYU!
緊急脱出装置が作動し、コクピットのシートが機体の外、空高く打ち上げられた。
「紗綾上等兵!」
射出時の爆風に飛ばされた紗綾をサラ機のマニュピレーターが受け止める。
「もう人質はいないよ! みんなの仇!!」
そして、もう一方の手に換装していたビームライフルを至近距離からコンドル2に撃ち込んだのである。
●
「‥‥イジェクトシートのパラシュートが!?」
信人が声をあげた。射出されたシートのパラシュートが開いていなかった。このままではエルザはシート諸共、地面に叩きつけられてしまう。
「エルザーーっ!!」
信人の叫びが上がった時、青空に苺の星が流れた。
「ナイスキャッチだね♪」
苺華機がマニュピレーターにやさしく、だがしっかりとエルザを受け止めていた。
「データリンクするよ。みんなにエルザ少尉の様子を、僕の機体のすべてのセンサーを使って転送するね♪ 少尉は無事だよ!」
苺華機から転送されるエルザの無事な様子に、隊員一同は安堵の表情を浮かべる。
コンドル0は既に撃墜されていた。
「ひっく‥‥うぇ‥‥えええん〜‥‥エルザ〜‥‥よかったよ〜‥‥本当によかったよ〜‥‥」
サラにいたっては人目も憚らずに泣きじゃくっている。
「状況終了。救出作戦は成功せり。‥‥これで隊長も無事だったなら、言うことはなかったのですが‥‥」
エルザの無事に安堵したのも束の間。副官として司令部への作戦終了の報告を済ませたリセットが沈痛な面持ちになる。
「エルザ少尉が無事だったんだ。隊長もあの空の向こうで笑っているさ」
ロットは空をまぶしそうに見上げた。飛行機雲が一筋、ぐるりと弧を描いていた。
貴い犠牲であった。
「隊長さんを勝手に殺しては行けませんわ」
感傷に浸る面々に水を注すものがいた。
いつの間にか戦場に到達していたシャクティのオウルマンが雨雀をコクピットから助け出していた。
「全身に軽い火傷を負っていますが、命に別状はありませんわね」
シャクティは手早く診察を済ませ、救急用リペアキットを並べていきます。
「これで全員帰還ですわ。皆さん、お疲れ様でした」